ジュニアクランバトル開始のためのスクール。構成員は、フラナガンスクール卒業予定者の一部と、アナハイム月面支社の強化人間チーム“ガールズ”。
その様子を『リアリティショー』として配信しているグラナダの株式会社捨て猫同盟のN・ロック氏は、講師として、アムロ、マチュ、ニャアンらを招きます。
さらに、強化面メンバーとして、ムラサメ研究所の強化人間アン、ドゥー、トロワ、フォウも集合。
一方で、架空戦記の作者として人気となったカンチャナは、ララァやヴァーニとともに、新作「シャイの逆襲」のプロモのためグラナダ尋ねていました。
時系列は少し遡ることになる。
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「ヤンさんからメッセージが届いてる。」
アムロが、自分のタブレットを操作しながら言った。
「ニューヤークの……フリードルフ卿?
なんだか偉い人の結婚記念パーティに、ウォンさんと一緒に招かれたそうだ。」
「前にシャアさんが招待されたっていってたやつかな。
そっか。でも奇術師さんは、たしかネオ香港のウォン・リーさんの親戚でしょ?」
マチュが応えた。
「そろそろ、いろんな機会に、偉い人たちに名前を売ってやりたいんじゃないかな。」
「ヤンさんはそんなことを考えてないと思うよ……」
「しょうがないよ。こればっかりは」
マチュは湯上りのバスローブ。
アムロは、ゆったりとしたルームウェアのままである。
つまり、傍から見ると同棲中のカップルのようなのだが、この2人はそういう関係ではなかった。
彼らを「ジュニアクランバトルスクール」講師として招いた株式会社捨て猫同盟のN・ロック氏は少なくとも渋ちんでなかった。
かなり居心地のいいコンドミニアムに、アムロ、マチュ、ニャアンの部屋をそれぞれ用意し、食事は館内のレストランならミールクーポン使用可、クリーニングサービスもついている。
マチュとニャアンは、時間さえあれば、アムロの部屋に入り浸っていた。
というより、アムロが『これは寝室以外はプライベートはないな』と諦める程であった。
「ヤンさんはそんなことは望んでないと思う……」
アムロが繰り返すように呟いた。
「でも結果的に、そうなってるじゃない。」
マチュは、バスローブの襟元を直しながら言った。
「もともと知る人ぞ知る名参謀だったんでしょ?
軍の縮小で辞めたけど、このまえの
『ア・バオア・クー仮想シミュレーション』
でまた注目されてるみたいだよ?」
「確かにね。」
アムロは頷いた。
「ソロモンをア・バオア・クーにぶつけてしまうなんて、なかなか考えつかないよ。
ヤン『提督』がいたら、連邦はジオンに勝ってたかもしれない。」
「プラス『白い悪魔』が、モビルスーツパイロットとして連邦軍にいたら、ね。」
マチュは、ドライヤーを手に取った。
赤い髪が熱風に吹き上がった。
「やめてくれ。ぼくは戦争のときにはまだ15だよ。いくらなんでも兵隊に引っ張られることはないはずだ。」
「そこはフロドの『機動戦士ガンダム~行きて帰りし物語』よ、天パ。」
マチュは、ドライヤーをアムロに手渡した。
もともとショートカットなので、乾かすのにそれほど手間がかかる訳でもないのに、そうしないと損のようにアムロを使う。
アムロは仕方なく、マチュの髪を軽くかき混ぜながら、ドライヤーをあててやった。
「……功を焦ったスキニーが、勝手に攻撃を始めてしまって、したかなく天パがガンダムに乗るんだよ。」
マチュが言った「スキニー」は、ネオ香港でクワトロの元で働いているジーンさんの小説内での名前だ。
ジーンさんとはわりと話の合うアムロは、『フロド』の物語のなかであまり、いい役回りでない人達が気の毒でならない。
ジーンさんもデニムさん(小説の中ではワイドバギー曹長)もアムロ(小説の中ではアレム)が撃破してしまうのだ。
同じく、シャリア・ブルさんをモデルにしたと思われる木星帰りのニュータイプは、キケロガを大型化したようなモビルスーツ『ブラウ・ブロ』でアレムに挑むも、いろいろと含みを持たせながらも、けっこうあっさりとアレムのガンダムに撃墜されてしまう。
そのほか。
いま、どこかのコロニーで市長をしているマッシュさんも。
個人的な面識はないにしろ、ジオン軍のトップであるマ・クベ中将も。
アレムは落としまくっているのだ。
殺戮マシーンか!
と、彼は嘆きたくもなる。
「いくらなんでもモビルスーツに乗ったばかりの子どもがそんな戦果を挙げられるはずがないよ……」
「ムリ」
マチュが、ジトメでアムロを見上げた。
「天パは『白い悪魔』だもん。読んだひとは『ああ、やっぱり』と思うだけだよ……ってガンダムが言ってる。」
ドアが開いた。
黒髪を伸ばした少女は、マチュとアムロを見て、むすっと膨れた。
「いいなあ。わたしもそれやって欲しい」
マチュの好意はさすがに感じているアムロだが、ニャアンの気持ちについてはよく分からない。一応、アムロに懐いてはくれているようなのだが、なんとなくマチュに対抗上、そうしているような気もするのだ。
「髪を乾かすには、まず髪が濡れてないとね。」
珍しくまっとうなことを言うマチュに、ニャアンの足はバスルームに向かったが……
「そろそろ支度をしないと、『シャイの逆襲』の先行上映会に間に合わなくなるよ!」
アムロがニャアンを止めた。
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あまりにも記憶に新しい。
そして、史上最大の犠牲者を出した「ジオン独立戦争」。
それをネタに創作を行うことは、かなり早い時期から実は始まっていた。
ただ、その多くがかなり荒唐無稽。
いいところなく破れた地球連邦の鬱憤ばらしのようなものだ。有り得ないトンデモ技術で作られた戦艦やモビルスーツが、大活躍。ジオン帝国を蹴散らすというストーリーが多かったが、それなりにアースノイドには人気を博し、映像化されたものも少なくない。
超合金と太陽炉を備えた「ガンダムZ」がジオンのモビルビーストと戦う物語りや、外宇宙から飛来した「覇道エンジン」を装備した中世の戦艦が復活してジオンを打倒するという作品は特に人気があった。
だが『フロド』の作品は、まったく違っていた。
ほとんどの登場人物が、そのモデルを特定出来るというその作風に、疑問を投げかけるものは多かったが、続編で、地球連邦軍が、地球至上主義者と宇宙移民雄和派に分かれて争う様は、実際に起こったティターンズの横暴や、対抗するように登場したエゥーゴの台頭。そしてペズンでの反乱を目の当たりにした人々は、ある種の預言者を見るように、『フロド』を持て囃し始めたのだ。
その『フロド』の最新作。『逆襲のシャイ』が本編に先駆けて、映像化。
公開される。
これまでの、ジオンをひたすら悪者にした架空戦記とは事なり、ただの一点。
『シャアのガンダム強奪がうまく行かなかったら』
これだけで、バタフライ効果のごとくIF世界をつむぎ出したこと。
そして、その世界が緻密な整合性を持っていたことは、宇宙移民にまで高く評価されたのだ。
『フロド』は実名はもちろん、年齢、性別、居住地、すべてが謎のままである。そのフロドが、今回、会場に現れファンとの一問一答に応じてくれる────というのは、あるいは『シャイの逆襲』の上映以上に、みなの心を踊らせるものであったのかもしれない。
先行上映会の会場は、音楽イベントによく使われるホールである。
キャパは2,000と言ったところだろうか。いまのフロドの勢いならば、スタジアムを使ってもよいくらいだったのだろうが、警備等の問題で、このサイズにしたのだ。
当然、チケットはプレミアムになった。
史実に反して『地球連邦軍が勝った』あとの物語りである。
ジオン独立戦争(小説内では『一年戦争』)に勝利した地球連邦だが、地球至上主義にの過激派台頭により、連邦軍は、ふたつに割れての争い。さらに地球圏に帰還した小惑星アクシズが、疲弊した連邦に戦いを挑む。
そして、その掉尾に位置づけられるのが、今回先行上映される最新作『機動戦士ガンダム 逆襲のシャイ』だった。小説版よりも映像化が先行しており、くわしい内容はわからない。
ただ、ネオ・ジオンの総帥となったシャイが!地球に対して小惑星を落とそうとするのを、アレム・ロイが阻止する────そんな話だという断片は流出している。
さすがに地球からグラナダまで、気軽に足を伸ばせるアースノイドは限られていたが、月面都市だけでもチケット獲得は、大変なものとなった。
N・ロックも『フロド』のファンクラブのVIP会員となり、特別枠で申し込みをし、かろうじて、チケットを手に入れたクチだ。
自らが、イベントや映像企画のプロデューサーを務める彼も、この『つい先日の戦争を題材にした仮想戦記』という危ない分野は、まだ手を出していなかったので、とくにコネも使えなかったのだ。
なので、会場の入口で、見慣れた顔を見かけたときは少々驚いた。
「おおっ! アムロくんっ!」
彼がクランバトルスクールの講師として招いた青年は、ああ、N・ロックさん、と言って頭を下げた。
傍らにいるのは、同じく講師を務めるクランバトルパイロット「狂犬」マチュと「病み猫神」ニャアンだ。
「きみも『シャイの逆襲』の先行上映会に?」
「はい、そうです。」
チケットは、特に転売についての規制のないグラナダでは、とんでもない価格につり上がっていた。
N・ロック自身は、ファンクラブの会員ということで、なんとか手に入ったが、普通に手に入れようと思ったら、たぶん月収程度のチケット代はかかる。
それで、得られる権利は、ほんの数日間早く、『シャイの逆襲』を見ることが出来るだけ。
謎の作家『フロド』も来場し、ファンとの間に質問コーナーも設けられていたが、N・ロックはそれはあまり期待していない。
おそらく、顔は見せないだろうし、質問も予め用意されたものだけだろう。
『フロド』にとって、実名を知られしまうことは、百害あって一利なし、だった。
そこら辺はイベント主催者のほうでうまくやるだろう。
「よくチケットが手に入ったね。」
「招待されたんです。」
マチュが答えた。
なるほど。
N・ロックは理解した。
フロドの作風からして、モデルになった人物からのクレームがもっとも厄介だ。
ならば、先回りしてアレム・ロイのモデルであるアムロを取り込んでしまうのは上策だ。
「きみがフロドのファンとは知らなかったよ。
ほら、このシリーズはモデルがいて、なんと言うか……きみもその一人だろう?」
アムロは、嫌な顔をした。
「……ぼくはあんなにキリングマシーンじゃありませんよ!」
「……って天パは言うんだけどもね……」
マチュは不満そうに言った。
「クラバの戦いっぷりを見てるわたしなんかは、むしろ最初の『機動戦士ガンダム~行きて帰りし物語』の序盤のもたもた感が不満なくらいで。
スキニーとワイドバギーのザク2機を無力化するのにあんなに手間取ったり、有り得ないっ!!
……ってガンダムが言っている。」
入り口で、チケットを提示した時、チェックインインのブザーが赤く光り、係員があわてて、すっ飛んできた。
「……失礼ですが、アムロさんですか?」
「違う……は通らないんでしょうね。」
「すいませんが、控え室まで。フロド先生がお話ししたいそうです。」
アムロは困ったように、マチュたちを見た。
すずい、とN・ロックは前に出た。
「なんだって! そりゃありがたい。ぜひ一緒に……」
「お連れの方がマチュさんとニャアンさんだったらお連れするように言われています。」
お忘れの方もいらっしゃるかと思いますが、仮面作家フロドの正体はララァの侍女カンチャナです。あの館に火をつけて燃やしちゃった子です。