熟練のパイロットの意地、独立戦争を戦い抜いた男たちの誇りが燃える焔となってアムロとニャアンの前に立ちはだかった。
次回機動戦士ガンダム。
「クランバトル」
きみは生き延びることができるか。
「……ハクジだ。」
エグザべ・オリベは呆然と、モニターを見つめている。
吹き抜けの店内には、巨大なモニターが鎮座していた。
客はそれを観戦しながら、酒を呑み、同じ趣味の仲間たちと盛り上がれる。
そういうコンセプトの店だった。
ソドンのクルーたちは、交代でネオホンコンを満喫している。
エグザべとコモリもその例外ではない。
シャリア・ブルを含めて3名で行動することが、公私共に多い彼らであったが、
“緊急時にパイロット不在はまずい”
というラシット艦長の意見を取り入れて。シャリア・ブルはソドンに残っている。
ジオンに対する反発は、終戦後五年たっても厳しい。
地球連邦軍内部にティターンズなる過激派が存在するのは、一部の人々から熱狂的な支持をうけているからだろう。
反面。
地球とコロニー間の貿易は再開されている。
人的な交流もあり、物資も行き交う。
エグザべも、コモリも私服であった。
コモリが短いスカートで脚線美を強調したがるのは、制服のときと一緒である。
「ああ、ハクジ。」
と、だけコモリは返した。
彼女自身はクラバには直接興味は無い。
だが、彼女たちが追いかけている「白い悪魔」。その戦闘をライブで見ることが出来るのだ。
単に「白い悪魔」がニュータイプの可能性がある凄腕のパイロットだ、というだけではない。
イオマグヌッソ事変に遭遇したコモリも、向こう側からやってきたモビルスーツを見ている。
あらためて目の当たりにした「テム工廠」の「ガンダム」はそれに酷似していた。
「あれをもともとV作戦の指導者だったテム・レイが作り出したっていうの?」
技術や情報分析が専門のコモリは、その異形の「ガンダム」に恐怖心はない。
「見たところ、本来のガンダムの簡易再生産バージョンって感じ?
もし、あの形状でゲルググ並の性能ならたぶんコスパはいいわ。
あの機体が強いっていうより、きっとパイロットが普通じゃないんだわ。」
「なんであのドムがハクジを持ってるんだ!?」
ハクジはもともとビームサーベルと盾に仕込まれた機雷が主兵装のギャンの攻撃力と機動力を補うための槍条の追加兵装だった。
その見かけ通り、先端からビームの穂を展開できるのは当然。ビームガンや高速の実体弾を発射できるレールガンも備わっている。
さらには推進装置としての役目もある。
「よくみて! ハクジよリは一回り小型よ! 」
「たしかに…地上用に改修したハクジⅡだ。
テストを兼ねて地上に下ろす話は聞いてたけど、なぜあいつが持ってるんだ!!」
店の観客は盛り上がっている。
巨大な槍を構えたドムは、往年の騎士を思わせる。
「……きっとトリントン基地がテストのために貸し出したのよ。」
「なんで、それがクラバなんだ。」
「何でって言ったって。」
神妙な面持ちで、コモリは答えた。
「クラバってそういうものだから。」
キョトンとしたようにエグザべは、コモリを見返した。
そう言えばそうだ。
クランバトルはたんなるモビルスーツの格闘ショーではない。
実験機や試作機のテストの場所。さらには最近は自作の装備やモビルスーツを売り込むための見本市にもなっている。
エグザべは、呆然と問い返した。
「コモリ少尉。つまりいま目の前に見えてるものは当たり前の光景で、ぼくが慌ててるほうがおかしいのか?」
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アポリーはレバーを握ったり離したりしながらドムの「感触」を楽しんでいた。
コクピットが違っても三日あれば、慣れてみせると豪語する彼にとってドムは初めての機体ではない。
独立戦争時は、ルナツー攻略戦において彼の愛機はそれだった。
軍を離れてもアポリーは、「パイロット」という職業からは離れられなかった。
同じ釜の飯を食ったロベルトは、どこぞのコロニーで、胡散臭い仕事でなんとか食いつないでいるらしい。
どちらが正しかったのか。
正解はまだ出ていない。
仕事に就きやすいように、あるときはジオン軍上がりのフリをする。あるときには連邦に属していたことにする。
そうして生きるうちにもう自分がほんとうにどっちで戦っていたのかわからなくなってきた。
“あいつが白い悪魔、か。”
地上での戦闘経験があるパイロットを探している。
往年の“黒い三連星”のマッシュにM.A.V.を組まないかと誘われたのは、三日前だ。
アポリー自身はここネオホンコンのクラバでは2戦して二回とも勝ってる。
だがアポリーはいまは“巣なし鳥”だ。
自分の機体をもたないでクランバトルに参加するものはそう呼ばれる。
借りた機体で勝てばまあいいが、たいした儲けにはならない。
そのくせ、負ければ修理代まで請求される。
だがこの試合に参加すれば、ドムはそのまま使って良いと言われている。
とんでもない好条件だが相手がよりにもよって“白い悪魔”とは。
マッシュのドムが身体を接近させた。
他人に傍受されない会話をするためには、これが一番確実である。普通は相手の肩に手をかけるのだが、いまマッシュのドムは巨大な槍(ハクジとか言うらしい)で両手が塞がっていた。
「いいか試合開始と同時に、俺は白い奴に特攻をしかける。」
「そりゃどうかな。読まれて対処されてしまうんじゃないか?」
試合開始と同時に仕掛けたのでは、不意打ちにはならないだろう。それに槍を構えた相手が突っ込んでくるなんて当たり前すぎる。
「わかってる。」
わかってたんかいっ!!
「これはやつの注意を俺に集中させる為だ。その間におまえはゾックの方をやれ。頭を叩き潰して『行動不能』の判定を取るんだ。
そのあとで、2人がかりで白いヤツをやる!」
なるほど。
さすがはジオン軍のエース。その一角だ。
ゾックは水陸両用モビルスーツだ。
その役目は移動砲台に近い。
体のあちこちに備えられたメガ粒子砲はやっかいな武器だったが、いまの戦場はクランバトルで、ビームライフル、メガ粒子砲は使用禁止だ。
となれば、動きの鈍い的が残るだけである。
「いいか! 2分だ。2分でゾックを片付けろ。
それまでなんとか俺1人で持たせる。」
猪武者を演じていてもそれだけでは戦場は生き残れない。
さすがはマッシュだ。これで俺にも運が向いてくるかもしれんな。
――ところでゾックの頭ってどこだろう?
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ククルス・ドアンはめったに酒は飲まない。
だが、飲み始めれば強い。
デニムは試合がはじまるまでが仕事だ。
実際に始まってしまえば、バトルの進行は別のものたちがやる。
なので、彼は自分のグラスに1杯ついだあと、ドアンの器もまた満たした。
「面白いものを持ち出したな。」
ククルス・ドアンは、薄く、笑った。
「宇宙ならば、単純に推力を増す、プロペラントタンクを増設する、それでそのまま、パワーアップに繋がるものだが、地上ではそれ自体の重量がのしかかる。だがそれは例えば生身の人間が剣や槍を振るうのに等しい。
要は使い方だ。装備そのものの重さも含めた、な。」
モニターの画像が鮮明だ。
ビーム兵器以外の火器の使用が許可されている今回のクラバでは、さすがに光学的に捉えられる範囲の観戦は禁止だ。
ドローンによる中継は順調である。
デニムはチラリと手元のスマホを覗き込んだ。
有料配信は試合開始を間近に、いよいよ数を増している。
賭けのほうも……順調だ。
先にティターンズ相手に大立ち回りをやってのけたアムロであったが、M.A.V.が名前の売れていない少女だったことにくわえて、使用機体がゾックだったことで、いいオッズに落ち着いている。
ゾックなどというマイナーな機体を知らなかったものもいたと見えて、その巨体がのろのろと姿を現したとたんに、アムロたちに賭けていたものたちからは呪詛と悲鳴が飛び交って、一段と賭けはマッシュ側に傾いた。
「これより、クランバトルを開始いたします!
“黒い三連星”マッシュ&アポリー!
対するは“白い悪魔”アムロ・レイ&“病み猫”ニャアン!!」
「開始まで、5、4、3、2……」
「うおおおおっ!!くたばれえええっ!!!」
ドムの体が。
信じられないような加速でアムロの「ガンダム」目掛けて突進していた。
それは開始の合図を待たない奇襲。
ハクジ。
その生み出す加速はアムロの意表をついたのだ。
バーニヤを噴かしながら飛び上がる白いモビルスーツに、マッシュは槍を振り上げた。
通常のビームサーベルならば、問題ない間合い、だがハクジはドムの巨体よりも長い。
ギンッ!!
噛み合った剣と槍は、ビームの刃を形成しない。
クランバトルという試合でそこまでしてしまうと死亡率が跳ね上がりすぎる。
アムロの振るったのは、ヒートサーベルだった。
単純に武器のもつ質量において、ハクジが勝った。
バランスを崩した白いモビルスーツに、槍の連撃が襲いかかった。
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アポリーはドムを加速させた。
マッシュの奇襲は見事だった。
だが、白い悪魔はそれにもなんとか対応している。
押されてはいるが、その身体にまったく直撃をうけていないのだ。
いまのうちに!!
ホバリング移動は「歩く」よりもかなり快適だ。
ゾックは動かない。
――いや、動いていた。
ドムと同様のホバー移動だが、遅い。
あまりに遅い。
もらった!!
バズーカの弾丸が発射される。
弾速。連射機能。
対モビルスーツ戦には手数が足りない。だがあの移動速度では避けることも難しい。
ぐるん。
ゾックの身体が回った。
と、同時に巨大なクローのついた腕が振られた。
ガン。
ジャイアントバズの砲弾が、跳ね返された。
な。
アポリーは、辛うじて理解した。
ゾックはそのクローで砲弾を横から叩いてはじき飛ばしたのだ。
バズーカの砲弾は実戦で使う炸裂弾ではない。
横から叩いてベクトルを変えてやれば
理屈は、砲弾を弾くことはできる。だがあの動きで。
二発目もゾックの身体に吸い込まれるように。
ガコン!
またもクローアームが砲弾を弾く。
偶然ではない。
これは!!
ゾックがクローアームをふるのと同時に身体を回すのは、クローの速度不足をカバーするためなのだ。
おそらくは。
背後に回り込む!!
アポリーはドムを加速させた。
だがものすごおっくゆっくりと、ゾックは向きを変えながら、そのメインカメラにドムをとらえ続けている。
アポリーは事前に調べさせたニャアンのプロフィールを思い起こした。
いわゆるコロニー難民である。クランバトルの経験はあり、とのことだったが、戦績は空欄だった。
アポリーはバズを連射した。
それを目くらましにジャンプ。ヒートサーベルを抜き放ち、頭上から襲いかかる。
ゾックのメガ粒子砲。それはほとんど水平方向への面の制圧に使われる。
対空性能はほとんどないのだ。
だが、ゾックは身体を傾けた。
そのまま、横倒しになりかけたコマのように身体を回す。
巨大なクローと長い腕は。
ドムとヒートサーベルよりも間合いが長かった。
ドムの腕がクローアームに引っかかり。
相手が回転する勢いのまま、アポリーのドムは地面に投げ出されていた。
苦手な戦闘シーンがきたよう。
しかし、メガ粒子砲なしのゾックってあと武器はなに?
……あ、なんか魚雷出たっけ。
ドアン先生がすっかり剣豪モードだ。