『原初のニュータイプ』『世界改革者』と『白い悪魔』が交わるとき、世界が軋む!!
少し散歩しましょう。
そう言って、ララァは歩き始めた。
アムロも慌わててあとを追う。
いつもの買い物の付き合いのつもりで出たので、パイロットジャンバーにくたびれたジーンズだ。
彼女曰く「戦闘準備」をした正装のララァと、並んで歩いてよいものかどうか。
「わたしたちの用事は済んだわけだし、カンチャナたちの学校あるから、そろそろ地球に帰らなければならないわ。」
「ぼくらは今月いっぱいは、講師の仕事があるんだ。」
アムロは、2、3歩下がって歩きながらそう言った。
「N・ロックさんからは延長を依頼されてるけど、あまり学校をサボってるわけにもいかないからね。
一度、ネオ香港に帰るつもりだ。」
「ニューヤークの顛末は聞いた?」
「ヤンさんからメッセージを受け取ったよ。
月面支社のラインハルトさんが、フリードルフ家の後継者に決まり、それに反対する親戚たちが、城砦に立て篭もったのを、クワトロ大尉が攻略したんだって?」
つくづく、クワトロ大尉は数奇な運命もとに産まれたひとなのだなあ。
と、アムロは思う。
パーティに招かれただけて、お家騒動に巻き込まれ、さらに戦いにまで巻き込まれるなんて!
「まあ……うまくいったから良し、とするわ。」
ララァは笑った。
「心配……ではないのかい?」
「もちろん心配よ! とくになにかあるとまっさきに自分がモビルスーツに乗って飛び出したがるのは、なんとかしてほしいわ。」
ララァは足取り軽く、公園へと向かった。
「でもね。あのひとにとって、安全とか平穏っていうのは戦って獲得するものなのよ。
勝ち取らなければ、死とか、もっと悪い状況が待っているだけ。」
「すごい……とは思うけど、真似したくはないな。
というか、とてもマネできない。」
「クランバトルの無敵のチャンピオンが言うセリフじゃないわ。」
そうかもしれないな。
木立を吹き抜ける風を心地よく感じながら、アムロは思った。
あくまでもクランバトルは「試合」。
だが、かなり荒っぽい競技であることには違いないし、過去には実際に死人もでていた。
そして彼も勝ち抜くことによって、父のモビルスーツ開発を援助できたし。ジオン工科大学への進学も学費の援助も、クランバトルでの好成績で勝ち取ったものだと言えなくもない。
「アムロ。」
木漏れ日のなかで立ち止まったララァは手招きをした。
そろそろ公園のなかに入りつつある。
「あなたはこの世界を正しいと思う?」
「ララァにとってはどうだい?」
「それは“夢”の世界と比較して……という意味?」
「まあ……そうだよ。」
ララァの夢。
愛する大佐を白いモビルスーツに殺されたくないために、なんどもなんども世界をやり直す夢。
大戦のとき、アムロはまだ少年であったし、モビルスーツの開発責任者であったテム・レイとその家族はある種特別待遇であったと言っていい。
それでも戦争はイヤだったし……ララァは夢の中とはいえ、その全てを戦場で過ごし、大佐はその目の前で落とされ続けたのだ。
原因は、ほとんどの場合、連邦の『白い悪魔』……つまりアムロ自身だ。
「……まったくよく負け続けたものね。」
ララァはアムロをしっかりと見ながら言った。
手が伸ばされ、指がそっと絡む。
「機体をかえても、戦術をかえても、毎回毎回!
わたしひとりで、『白い悪魔』をうち落とそうとしても横からしゃしゃり出てくるんだもの。
わたし言っちゃったことがあるのよ────
『大佐! どいてください、邪魔です!』」
「……夢の話だよね?」
「夢の話よ。」
ララァはアムロの手を引いて歩き出した。
世界が。止まっているような気がする。
「ここはね。たぶんわたしがやり直してやり直してやり直した挙句にたどりついた唯一の世界。
わたしがいて、あのひとがいて────そしてあなたもいる。」
「ぼくが?」
「そう。わたしはたぶん、あなたのことも愛しているの。あの人があなたに執着するのは、そのわたしの感情に嫉妬しているから。」
黒瞳が、妖しげに煌めいた。
「マチュとは────もう?」
「ち、違うよ! 彼女とはそういうのじゃない!」
「どうでしょう? わたしから見てもあの子のあなたへの好意は本物だし、あの子は良い子よ。見た目も含めてね。なにか特別な好みとかがあるの?」
「いや……」
アムロは、ララァの手をそっと離した。
「いや、たしかにマチュは可愛らしいと思うけど」
「口説きかたがわからないなら、カバスの舘のナンバーワンがレクチャーしてさしあげてもいいけど?」
「謹んでお断り……」
「あなたもわたしのことを愛してるのよ、アムロ。」
ララァはきっぱりと言った。
「惚れた女がいるのに、ほかの女性には手を出せない。わかりやすくて、好意のもてる感情だわ。」
「夢と現実をごっちゃにしすぎてるよ!」
アムロは抗議した。
「現実ってなに?
わたしにとって大事なのは『この世界』こそが大事なの。ここにはあのひともいて、あなたもいる。わたしもいる。ここだけが大事なのよ。
もし……これも夢のひとつで本当の世界が別にあったとしたら……」
「つまり」
アムロは懸命に頭を巡らせた。
「選択によって、無数に分岐した世界が並行して存在してあて、ここはそのひとつに過ぎないってことか?
そして、そうではない『真』世界が別にある……
例えば、カンチャナの物語のような」
「カンチャナの書いた物語はわたしの夢の話ではないの!」
低い声だったが、それら紛れもなく悲鳴だった。
アムロは震えるララァの肩を抱いた。
「いや……サイド7で、ぼくがガンダムに乗り込む話だろ? 間違いなくララァの夢の話……」
「この世界を除いては、せんぶあなたがサイド7でガンダムに乗り込む話なのよ。
最初にわたしが見た夢は、ガンダムのあなた、大佐のゲルググ、わたしのエルメス、セイラさんの戦闘機が戦い、あなたのビームサーベルが大佐のゲルググを貫いたところで終わってる……」
「だから、それがカンチャナの『機動戦士ガンダム~行きて帰りし物語』だろ?」
「違うわ、アムロ!!
カンチャナの創作はわたしの夢物語とも違うの!
夢の中のその戦いで生命を落とすのは、わたし!
あの人をかばって、わたしがあなたのビームサーベルに刺し貫かれるの!!」
ララァはアムロの胸に顔を埋めるようにして、泣きじゃくった。
「カンチャナは誰からあの物語りを聞いたの?
もし……もしあの子の書く物語りこそが『真世界』ならば、いつか揺り戻しが来るわ!
わたしは死に。あなたとあのひとが戦う未来が。。」
「そ、それは……別にそう決まったわけじゃないし。」
「そう思う?」
ララァは、顔を上げた。
涙は一滴も流れていない。
「そうは思うけど……たしかめようがないしね。」
「方法はなくもないのよ、アムロ」
ララァは、アムロの手を引いて歩き出した。
「ないよ。この世界に生きてる者はみんなこの世のことしか知らないんだし……」
そこまで言ってアムロは気がついた。
この世界ではない者。
その者が語る歴史と、カンチャナの物語が一致すれば……
公園の木立を抜けるとそこには、ディアナ廟がある。
ちょっと短いのですが、キリがよいので。
しばらくアクションも面白いシーンもないので、ときどき、ま完全義体サイボーグの開発や、マリンドルフ家から派遣される秘書の話とかも入れてきます。