アムロたちは、グラナダ上空で模擬戦のようです。
よい機体ではあるが、全体に出力不足。
……というのが、アムロのスパルタニアンに対する機体の評価である。
今後の主流が可変機になり、練習段階からそれに慣れるため、設計されている。
もともとは、安全性を考慮して幾重にもリミッターをかけた状態で運用される。
リミッターを外すことで、可変機なりの高い運動性を獲得できるのだが。
反面、脆い。
限界まで振り回せば、それだけで故障の可能性はぐんと跳ね上がる。一応、大気圏内での使用も視野に入れているが、有重力下で歩行などさせようものなら、膝周りは簡単に損傷する。
そうすると可変ならではの整備性の悪さも相まって、メンテナンスの手間はとんでもないことになり、結果、コストはうなぎ登りになってしまう。
「ティート! ニイ!
今回は威力は落としているが、実弾を使用しての模擬戦になる。」
この2人は、クランバトルスクール生の中でも頭一つ抜けている。
ティートはフラナガンスクールの出身。
ニイはアナハイムエレクトロニクス月面支社の強化人間である。
とはいえ、相手が悪い。
マチュのチームは、アン・ムラサメとフォウ・ムラサメ。
ニャアンは、ドゥー・ムラサメとトロワ・ムラサメを率いている。
「アムロさん……」
ティートの声が強ばっていた。
先だって、月面での模擬戦中に、アナハイム監視下におかれていた旧ティターンズが整備中のマラサイとトロイホースを奪って脱走を企てる、という事件があった。
射撃兵装を持たない演習中であったが、ティートは相手のマシンガンを奪って利用するという臨機応変な対応で、1機を落としている。
「落ち着くんだ、ティート。」
アムロは出来るだけ落ち着いて聞こえるように言った。彼自身にしても、マチュとニャアンとドゥーとトロワとアンとフォウに狙われて冷静でいられる自信はなかったが。
「まず、狙うのはアンのスパルタニアンだ。彼女が一番クランバトルに慣れていない。
ニャアンがゾックでふよふよ前に出てくるが、相手にするな。打たれ強い機体だ。そこに意識を向ければ、それだけでピンチになる。」
「わかりました……」
「えー……お題です。相手がニュータイプだったときにとりあえずやっちゃいけないことは……
機体を赤く塗って『三倍』ってささやいてみる。」
大喜利をしながらニイのスパルタニアンが変形。モビルスーツ形態をとった。
「ニイ! 集中するんだ!」
「ええ……と、大喜利に?」
「わたし、天パとやり合うのは初めてかもよ?」
マチュは、先日ソドンが運んできたジークアクスのコクピットにおさまっている。
「実際、ジークアクスもやりにくそうだし、ね。」
ジークアクスの中核。『エンディミオンユニット』とアムロの関係はよく分からない。マチュはそのふたつを『同じもの』として感じているのだが。それは『エンディミオンユニット』そのものにアムロが宿っているような感覚なのだ。
「じゃあ、たまには白い悪魔を落としてみようか?」
ニャアンが言った。こちらは愛機であるリック・ゾックを、ネオ香港から運び込んでいる。ゾックそのものは移動砲台のようなコンセプトのモビルスーツだ。胴体部分にメガ粒子砲を内蔵。さらにクローアームは有線で射出し、オールレンジのビーム攻撃を行えることになっているが。
そもそもビーム砲はクラバの標準的なルールでは反則なので、いまのリック・ゾックは使える武装なし、機動力皆無。単なる動く的どころかあんまり動きもしない的であるのだが、装甲はそれなりなので、実弾攻撃に対してはなかなかしぶとかったりする。
「天パをおとす……?」
考え込んだマチュは、次の瞬間、カッと目を見開いた。
「落とそう……!!
あのエロ天パ、許すもんかっ!」
しっかり気づいてたし、怒ってた!!
「アン! フォウ!
目標は天パのスパルタニアン!
ティート機とニイ機には目もくれるなっ!」
「了解、マチュ!」
アンのスパルタニアンが加速する。
「わかったわ、マチュ。」
フォウのサイコガンダムRがインコムを射出した。
「……ということになった。」
ニャアンは淡々と、彼女の部下たちに告げる。普段は人見知りで臆病なところもある彼女だが、戦いになると覚悟が決まる。
いわゆる、武辺者というやつだ。
「我々はアムロ・レイのスパルタニアンを捕捉し、これを殲滅する!
心臓を捧げよ!」
あー?
と言いながらドゥーがコクピットの自分の体を見下ろす。彼女の意識の中では、モビルスーツそのものが自分の肉体であり、パイロットである自分がその『心臓』だと認識している。
心臓を捧げてしまったらパイロットがいなくなってしまう。
「ティートとニイのスパルタニアンに対して、接近し、攻撃をしかける。」
トロワが己のガンダムヘビーアームズを前進させた。もともとは基地制圧用のモビルスーツである。対モビルスーツ戦はあまり得意な機体ではないし、この模擬戦ではミサイルは使えない。実質機銃と実体剣だけなのだが、冷徹なまでの判断力は鈍っていない。
「……ん? アムロを撃てって言ったつもりだったんだけど?」
「ディートとニイを追い詰めれば、必ずアムロがカバーに出てくる。そこを狙うんだ。」
それぞれの機体は加速する。
ミノフスキー粒子は改めて散布していないし、この距離ならば、モビルスーツは『高熱源体』として探知されてしまう。
「ぼくを……集中して狙うのかっ!」
それぞれのモビルスーツの動きから、アムロは敏感にそれを察知した。
ニャアンのリックゾックはふよふよ浮いているだけだし、トロワのヘビーアームズはすこし違う動きをしているようだが。
「させるか……」
『当該宙域の全船舶、モビルスーツに告げる。ただちに加速を中止。グラナダ宙港への進入コースから退避せよ。』
宙港からの強制配信だった。
音量も凄まじい。
「なっ……!!」
突進を削がれたジークアクスが、たたらを踏んだ。
「なによ、いったい!」
マチュたちはきちんと許可をとって訓練を行っている。
通常の航路からは充分離れているし、だいたいグラナダはひっきりなしに船の行き交う大都市である。こんな緊急勧告をいれたらかえってあぶない。
「マチュ!!」
「なに!?」
つい苛立たしげに返してしまって、マチュは反省した。
別に、天パとララァさんになにがあろうとそれは、2人の問題であって、マチュが口出しすることではないのだ。
『赤い彗星』対『白い悪魔』という夢のカードにワクワクしてればそれでいい。
「ソドン級の強襲上陸艦だ。みたことがない、新型……かな?」
「いっくら軍艦だからって生意気じゃない!?
一般のフネまでどかせてさっ!
そもそも軍艦なら軍用の施設がちゃんとあるはずで……」
「多分……公王府の直属艦グレイファントムだ。」
アムロは言った。
「ジオンの偉い人。たぶんアルテイシア姫が乗っているんだろう。」
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やり過ぎだ。
アルテイシアは頭を抱えている。
彼女はわりとシンプルに物事が運ぶのが好きなのだ。
いかにも『ジオンの元首が乗ってます』的な大騒ぎは好みでは無い。
「進路クリアまであと五分はかかりますな!」
髭をたくわえた艦長は、胸を張っている。
アルテイシアをグレイファントムに乗せたことが、誇らしくてしょうがないのだ。
グレイファントムと一緒に正規軍から押し付けられた、はっきり言ってロートルのひとりだ。軍縮のときに首にしなかったのは、出来なかったからでもある。
その生涯を軍に捧げたものを、生活のあてもなく放り出すほど、ジオン軍は非情な組織ではなかった。
もし、独立戦争に負けでもしていたら話は違っただろうが、戦争には勝っている。
オペレーターが艦長を振り向いた。
「航路は正常です。オールグリーン!」
「よし! ならばグレイファントムを前進させよ!」
「あ……少しお待ちを……
少し離れたところにモビルスーツがいます。航路としては支障はありませんが……」
「なにぃ? モビルスーツだと?
ジオンに逆らう愚か者どもがまだうろちょろしているというのか!」
「そんなはずはないわ、ガデム。」
アルテイシアはたまりかねて口を出した。
「ここは、グラナダの上空。ジオンの権威の範疇です。おそらくは訓練中の守備隊でしょう。無視してよろしい。」
「閣下! しかし、この識別信号はグラナダ守備隊ではありません!」
オペレーターが口早に言った。
「機体は、ザクでもドムでもゲルググでもありませんっ!
可変機です。それに……あれ? ジークアクス……?」
“……マチュたちね。クランバトルスクールの講師をしてたはずだから模擬戦でもやってるのかしら……”
ガデムの顔色がかわった。
「なんと!
グレイファントム、モビルスーツ隊発進せよ。アルテイシア様をお守りするのだ!」
ブリッジの空気が凍った。
オペレーター……コモリ少尉は、首をゆっくりと横に振っている。
「な、なに? なんかいまわしダメなこと言った?」
「艦長! 簡単に、モビルスーツの発進を命じてはダメです。特にアルテイシア閣下のいるところでは……」
「いや……その……いきなり戦端を開くつもりはないぞ。だが、念には念をいれてだ、な。」
コモリは空のシートを指さした。
たったいままでアルテイシアが座っていたはずのシートだ。
「へ……? 閣下はどこへ……」
ブリッジのメインモニターが切り替わる。
「アルテイシア・ソム・ダイクン! レイダー発進します!」
なんかあったらモビルスーツにのって飛び出したがる兄妹。