食事を一緒にしようと言い出したのは、マチュだった。
今日の模擬戦が台無しになったのは、グレイファントムのせい……ではあるのだが、レイダーに向かって自分が突っかかっていったのもその原因の一つであることは理解しているらしい。
アムロたちは、今月いっぱいで地球に帰還することにしている。
そのあとは未定だ。
N・ロックが目論んだ『コンテンツへのテコ入れ』という目標は達成したが、まだまだ教えたりないことはある。
話はあまり弾まない。
この中ではいちばん大人であるべきアムロが、むっつりと押し黙ってしまっているのだ。
彼のスパルタニアンは、完全にオーバーホールしないと使えなくなっていた。
研修期間中にはもう模擬戦は無理だ。
スパルタニアンをそのような状態にさせてしまったのが、シャトルを破片から守るためとはいえ、あまりにも急加速と急制動をかけたためだということが、パイロット以前にメカニックである彼の心を責めているのだ。
「あの……先生」
ティートがおずおずと話しかけた。
フラナガンスクール出身の生徒たちは、上昇志向が強い。フラナガンスクールの敷いた「ジオン軍パイロット」という将来を蹴ってクランバトルに身を投じたのだから当然だが、なかでもティートは特別だった。
アムロは、彼にかなり慎重に接していた。
トップを目指す思考は大事だが、彼の場合、「一番になれないこと」がすなわち「失敗」というわかりやすい罠に陥りやすいように思えるのだ。そうなったときに、いまは隠れている彼の苛烈さは悪い方向にでるだろう。
「アムロでいいよ。」
「アムロ……さん。」
彼はおずおずとタブレットを差し出した。
可変機の設計図だが、かなり精緻な出来だ。
スパルタニアンのようだが、かなりあちこち弄っている。
「スパルタニアンの改修機……いやここまで来ると別物かな。装甲は?」
「最新のガンダリウム合金に変更します
モビルスーツ形態時の防御力強化のための追加装甲も」
「脚部に補助ジェネレーターを追加するのは、ぼくも考えたんだ。」
アムロは呟いてまじまじとタブレットを見つめた。
「拡張性にもこだわったみたいだね?」
「はい……」
落ち込んでいるように見えた教官が、元気を取り戻してくれたように見えて、ティートも嬉しそうだった。
「練習機ではなく、実戦にも投入できる機体を想定して設計しました。ミサイルポットやプロペラントタンクの増設以外にも、インコムユニットも装着したままで、変形が可能です。」
アムロの顔色を見ながら、ティートは話を続ける。
「もちろん、機体そのものの剛性も大幅にアップされます。今日、アムロさんがやったような急加速、急変形でもらくらく耐えられるはずです。」
「……いいな。データを送ってくれないか。N・ロックさんに打診してみる。場合によってはジオンか連邦からも打診があるかもしれない。」
「ほ、ホントですか!?」
「ああ……もし、採用になるとしても道のりは長いだろうけどね。
そろそろジオンも連邦も次世代機の開発に取り掛かってるんだ。
ジオンはたぶん、ペズン開発のゼクシリーズが採用されるだろうけど、この機体はエース用の精鋭部隊用として興味を示してくれるかもしれない。」
「す、すごいです!」
ティートは目を輝かせた。
「もしそうなれば!という話だ。
実際には次世代機量産機には、さまざまな資本がからみ、複雑に渦巻いている。
単純に機体の性能だけで決まることはない。」
「コ、コストですよね!」
テイートは勢いこんで答えた。
「たしかに、可変機ならではのコストアップや整備性の悪さといった問題はありますが、ZETAや百式、ギャプランに比べてもだいぶ改善はされています、それに……」
「というより。純粋に政治的な問題かな?
軍事的に主力になる兵器だよ。
膨大な資金が動く。
賄賂だってその一部だ。派閥同士の力関係もあるならね。」
「それじゃああんまり意味がないですね……」
「きみにとってはあるのさ、ティート。
この凄いモピルスーツの設計図を引いた若者には誰もが興味を持つだろう。
ぼくも学生だから生意気なことは言えないけど、クランバトルのパイロットなんてヤクザな道はやめてジオン工科大学に進学して
もっと技術を学ぶべきだ。」
ティートはニヤッと笑った。
「……そうですね。それも考えてみます。」
「ぜひ! その方がいいよ! 奨学金制度について大学の方に聞いてみるから……」
「ぼくの目標はアムロさんなんです。」
嬉しそうにティートは言った。
「無敵のクランバトルパイロットで、技術者としても超一流……ぼくもそんなふうになりたいんです!」
本気で尊敬してくれているようで、アムロは内心頭を抱えた。たしかに十代のころから父テム・レイについてモビルスーツの開発にタッチしていた。ちいさな工房だったから図面をひいて終わりでは無い。
メカニックたちと一緒に、工具を手に取って、ああでもない、こうでもないと徹夜でやりあったことは、いまとなっては得難い経験だろう。だが、『超一流』は言い過ぎだ。
そして自分も設計から携わったモビルスーツ。
それに乗ってクランバトルに参加したことのある者はたぶん、ほとんどいない。
なかなかユニークな経験を積んできたアムロではあるが、それをよしとはしていない。
特にクランバトルは。
戦いは恐ろしいストレスをもたらす。
終わった瞬間の安心感はあるが、戦いに望むときには何も高揚感はない。
しなければならないから、やる。
それだけだ。
おそらくそこらは、クワトロ大尉やアルテイシア・ソム・ダイクンとは異なる部分なのだろう。
「てんぱあぁぁあっ!」
マチュが、ワインのデキャンタを握りしめてよろよろと近づいてくる。
グラナダの法律で完全に飲酒OKなのは、講師であるアムロたちだけなので、未成年のスクール生には飲ませていない。
マチュは、そのままアムロの膝の上に座り込んだ。
「どうすんのよっ!」
「どうするっ……て?」
「薔薇のお姫さんとホントのお姫さんとよ。どっちを取るの?」
「いやその……」
スクール生のティートとニイも同席しているのだ。だる絡みは勘弁してほしい。
「アムロさん!
狂犬先生と病み猫先生以外にも女性がいるんですか!」
「アムロはもてるよお。」
ニャアンがぼそりと言った。
ロックで紹興酒を飲んでいる。
「お題です。
もててもててしょうがないニュータイプは、女性のことをどう思ってるのでしょう?」
ニイが手を上げた。
早口に
「ひとつ……ふたつ……みっつ!
よっつ! いつつ! むっつ!?」
どんとフリップを出した。
「撃墜数とごっちゃにしてる。」
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アナハイム月面本社。支社長でもあるラインハルトの執務室は乱入者のため、妙なことになってきる。
追い出すこともできない。
「そうだ! ご一緒にいかがです?
ラインハルト・ローエングライム・フリードルフ。」
アルテイシア……いや、彼女の名乗りに従えばソム・エドワウは揶揄うように言った。
ラインハルトはやっとのことで答えた。
「彼を迎えるのに、夕食会を用意しています。」
「夕食にはまだ時かもあるし、ちょうどいいと思うわ。キルヒアイスさん。あなたもご一緒に。」
「就業時間中だ。」
ラインハルトが不快そうに遮った。
「それくらいの裁量がきかないのでしょうか、ラインハルト?」
「今日は、ミーティングも会議も予定されておりません。」
キルヒアイスはてきぱきと言った。というより、ラインハルトが、フリードルフ家の膨大な資料との格闘している為に、入れられなかったのである。
この少年の登場でそれが大幅に改善出来るのならば、半日くらいご機嫌取りに使ってもいいだろう……というのが、キルヒアイスの正直な感想だった。
「ただ……“シャイの逆襲”は人気があり過ぎて、チケットは入手が困難です。まして、
4人…5人ともなると……」
「わたしは遠慮させていただきます。犬の世話をしないといけませんので。」
オーベルシュタインがそっけなく言った。
「それより」
遮るようにソム・エドワウが言う。
「だったら、お仕事に戻りなさい。ご案内ありがとうオーベルシュタインさん。」
オーベルシュタインはなにか言いたそうに口を開きかけたが
「チケットは5人分ネ!!」
ドアが破裂するような勢いで開かれた。
「専務がボディガードなしに街をウロウロするのはイケないネ!」
今日は髪をお団子に結っている。そのせいかいつもに増して幼げに見えた。
イェ・チャージーである。
「イェさん。ですからチケットがそもそも……」
「そこはわたしがなんとか致しましょう。」
ソムが静かに言った。
ラインハルトとキルヒアイスはほかの者には分からぬように目配せを交わした。
それはたしかに―――
覇権国家の元首ならば「なんとかなる」のだろうが、国家権力をそういうことに使うのには首をかしげざるを得なかったのだ。
『逆シャア』見ながら、アルテイシアが兄を言葉で抹殺するのは次回あたりで!!