第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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伝説の男が、伝説の男を演じる。
覆面作家フロドが次に描くのは、0083。
かのデラーズ紛争。
ならば――本人に、その役を演じてもらおう。






【閑話】悪夢の悪夢

「まだ仮の話ということで聞いておいてもらいたいんですが」

そう前置きしてから、男は喋りだした。

 

アナベル・ガトーにとっては初対面である。

 

だが、何者かは知っている。

 

名をN・ロック。

配信コンテンツやイベントのプロデューサーであり、最近、アナハイムエレクトロニクスから独立して、別会社を立ち上げた。

 

昨今、クランバトル業界に新たに参入しようとするものは次々と現れる。

一応、先駆者であるサイド6には、官民で立ち上げたクランバトル理事会がある。他のサイトでも月面都市でも、地上でも。「有力」とされるクランオーナーはそこに所属している。

だが所属しないといけないという決まりはない。

加入資格を制限しているわけでもない。

 

だったら気軽に参入できるかと言えば、実態は真逆である。

クランバトルそのものがつい半年ばかり前までは、非合法だった興行である。

現在もクランバトルを大々的に認めたのは、サイド6くらいであり、そのほかはせいぜい『黙認』だった。

むしろ、月面のエアーズ市のように改めてクランバトル禁止を打ち出しているところもある。

元が裏側でやっていた非合法興行。

場所によってはいまもきっちり非合法。

そこに属する者同士の仲間意識が、高い障壁となっている。

 

だが、儲けは絶大だ。

クランバトルの興行主は自動的に、賭けの胴元にもなる。そしてギャンブルは胴元が絶対に儲かるような仕組みになっている。

そして、モビルスーツ同士の戦闘行為も『クランバトルだ』のひと言で済むようになりつつある。

使われる機体は、払い下げの中古にかわり、各研究所や企業が最新型の試作機をテストと宣伝を兼ねて投入するようになっている。

さらに。

先日は、ジオンと連邦が外交上の問題をクランバトルで決着した。

 

アナハイムエレクトロニクスも、クランバトルに参入しようとしたが、失敗。かわりにジュニア部門の立ち上げを、サイド6のアンキーや、ネオ香港のクワトロと合同して行うことになった。

 

「話はきく。それしか言えんな。なにしろわたしは単なるクランバトルの選手でしかない。」

 

「トップランカーですよ。」

にこにこと笑顔を浮かべながら、N・ロックは言った。

 

「トップランカーはアムロのことを言うんだ。」

 

「あれはトップオブザトップですよ。

うちの配信はごらんいただいてる?」

 

現在、クランバトル業界は過剰なまでに活気づいている、と言ってもいい。

その一因が、この男の立ち上げた配信コンテンツ『今日、M.A.V.になります』だ。

ジュニアクランバトルの選手を目指す少年少女たちが、養成スクールに通いながら、競い合い、励ましあい、クランバトル選手を目指す物語だ。

 

「アムロやマチュたちが教官役で登場するようになってからはときどき、な。」

 

「それはありがたい!」

 

「……しかし、あのアムロ語録とやらはなんだ?

ほんとうに彼がそんなことを言ったのか?」

 

そうガトーが問い詰めると、N・ロックは破顔した。

 

「まあ、意訳、みたいなもんです。」

 

『俺には負けという選択肢はない。』

 

『俺にとってクランバトルは、昼下がりのコーヒーブレイクと何ら変わらない平穏なものだ』

 

『M.A.V.を縛り付けておけ。俺一人で充分だ』

 

ガトーはペズン討伐でアムロたちとともに戦っている。

乗り込んだ船が違うのであまり話しをする機会はなかったが、物静かで、軍人というよりは技術者といった感じの若者だった。

 

「それについてはアムロくんからもなんとかしてくれとは言われてます。」

しれっとN・ロックは言った。

「そもそも制作者側で発信した情報ではないんですよ。彼についてのネットの書き込みや評論家からのコメントが勝手に彼自身の発言にされてしまって……」

 

「……たしかにやってることは『語録』に近いがな。」

ガトーはため息をついた。

「それで? 俺への要件はなんだ?

言っておくがおまえのスクールの講師はお断りだ。」

 

「そうではないんです。シミュレーターを使った仮想戦にパイロットとして出て欲しいんですよ。」

 

「ネオ香港の『ア・バオア・クー戦』のようなものか?」

 

「そうです! 実はフロドの次回作を舞台にした仮想シミュレーションの配信を企画していまして……」

 

「0083…だったな。」

 

「ご存知でしたかっ!!

もしや、あの伝説の先行上映会にご参加を?」

 

「そこまでファンでは無い。」

ガトーは言い訳するように言った。

「あるジャーナリストから、話をきいて、な。

どうもわたしが一時期所属していたデラーズ・フリートを題材にした物語のようだ―――そうか! それでわたしを?」

 

「話が早くて助かります。」

 

「しかし……どの部分をシミュレートするんだ?

デラーズ・フリートの活動期間は史実通りならイオマグヌッソから壊滅までだが、『フロドの歴史』のなかでは終戦から0083まで数年に渡る。」

 

「それはわかりません……なにしろ、フロドの手による『0083』はまだ書かれていないのですから。

ついでに申し上げると、まだフロドからその著作を仮想戦コンテンツにするという許諾はおりていません。」

 

「それでも覆面作家であるフロドとコンタクトはとれたわけか……」

 

「実を言うとそれもまだです。」

 

おいおい。

いくらなんでも。

ガトーは呆れた。

 

「そんな状態でわたしに話しをする意味があるのか?」

 

「もちろんです!

フロド氏とコンタクトが取れた時に、すでに主人公たるアナベル・ガトー氏からは快諾をもらっている、とお話することが出来るのですよ。」

 

「まあ……」

ガトーほどの男でも言葉を失っている。

「この段階では、YESもNOも言えないな。まだなにも決まっていないのだから。」

 

「それで充分です。」

N・ロックは立ち上がった。

「また進捗はお知らせします。

次のネオ香港行きのシャトルにのらないといけないので、今日はこれで!」

 

「ふむ……フロドはネオ香港にいる、と判断しているわけか?」

 

「いえ―――ア・バオア・クー仮想戦を企画したネオ香港大学にシミュレーターと運営スタッフのレンタルを依頼しないとなりませんので。」

 

えっ!? そっちもまだなのか!

ガトーは心の中で悲鳴を上げた。

N・ロックという男は―――軍人ではないにせよ、ある種の怪物には違いない。

 

こちらの心を読んだのか、N・ロックはニヤリと笑った。

「まあ、こちらの方は手探り、というほどではありません。ネオ香港大学には十分な報酬を約束出来ますし、企画運営の中心となったヤン・リー氏とは面識があるのですよ!」

 

 

 

 

 

 

 




フロド側としては、モデルになったキャラクターからのクレームがいちばん怖いので、ガトーの了承がとれている、というのは一応メリットではあります……
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