その異形のモビルスーツは全てが奇怪だった。
恐るべきクロー攻撃が。謎の武器が。謎の踊りが。アポリーを追い詰めていく。
次回機動戦士Gundam GQuuuuuuX。「宇宙の孤蝶」。
アポリーは生き延びることが出来るか。
「テム先生。それでは、アムロは無事である、と。」
クリスは、モニターのテム・レイの顔を睨みつけていた。親といえどもテキトーなことを抜かすと容赦しない。
そんな表情だ。
もともと少女のように愛らしい美貌の女性なだけに、そんな顔をすると実に怖い。
「そうだ。こんなこともあろうかと、大気圏突入用の耐熱フィルムを装備しておいたのだよ。」
なんとなくクリスには、そのセリフは彼のモノではないような気がした。
アムロの無事を確信しているせいか、なにか取り込み中だったのか、テム氏は恐ろしくご機嫌ななめだった。
いやまさにたったいまトラブル中であったところにクリスが連絡をいれてしまったらしい。
モニターの外にいる誰かとさかんにやりあっている。
「ナガノくん!! カミーユくんのアドバイスもあってきみのデルタの基本機構はこれで進めることは承知した。
だが、なんだね、この色は!!」
「最新のビームコーティング剤です。
従来の三倍の……」
「色は!!」
「色?」
「金色だぞ!」
「いや、試作機だし問題ないのでは?」
「だれがこんな金ピカの機体に乗りたがるのかね! テストパイロットに総スカンされる!」
お取り込み中どうも
と、だけ言ってクリスは通信をきった。
ドゥーは、リビングのカウチにのたりこみながら、クッキーをかじって、クランバトルの配信を観賞していた。
ドゥーはなかなか一緒に暮らしにくい相手だったが、クリスとクリスの夫であるバーニィにはそれなりに懐いていた。
とくに身体の具合が悪いと、医者よりもまずバーニィに診てもらおうとする。
ドゥーはその強化を受ける際に、自分がモビルスーツの部品の一部であるという刷り込みをされているらしい。
なので、優秀なメカニックであるバーニィのほうを医者より信頼しているようなのだ。
しかし、診てもらおうとして平気ですっぽんぽんになるので、バーニィはえらく困っているのだ。
「くりすぅ」
バキンバキンとクッキーにしては硬質すぎる破壊音がしたあと、ドゥーが振り向いた。
口に皿のかけらを加えていた。
いまのバキンは、ドゥーがクッキーが乗っていた皿を無意識に噛み砕いてしまった音らしい。
唇か口内を切ったらしく、血がしたたっていた。
「ドゥーっ!」
身体だけではない。なにかの拍子にその精神は突然著しい不安定さを露見する。
そのような発作がおきたのかと、クリスは慌てて駆け寄ろうとして。
モニターに目をやり。
そのまま、ソファにつまずいて床にダイブした。
モニターの中では見覚えのある白いモビルスーツがドムを相手に激闘を繰り広げている。
「あ、アムロおっ!?」
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「す、すごいな、マッシュは。」
デニムはある意味、心から驚いていた。
“黒い三連星”は独立戦争初期。主に対艦攻撃で名を挙げたエースたちだった。
だが、独立戦争も終盤、連邦もモビルスーツを投入するようになり、2機で小隊を組む「マブ戦術」が標準になってからはやや精彩を欠く。
三人一組で行動する彼らは「運用しにくい」という理由で華々しい手柄を挙げられそうな場所からは遠ざけられたのだ。
だがいまのマッシュの動きは。
慣れない地上戦であるにもかかわらず、ホバリング機能を巧みに使って、「白い悪魔」を追い詰めている。
時おり見せる槍のバーニヤを使ったダッシュも有効だ。
それをホバリングの中でアクセントに使うことで、「白い悪魔」に反撃のスキを与えない。
「これは番狂わせが……あるな。」
デニムの呟きに、傍らで観戦していたククルス・ドアンは首を振った。
「まだ有効打はひとつもない。
すべて白いヤツが見きっている。」
「し、しかし。実際それは“かわすのが精一杯”ってことでは?
まったく反撃ができないみたいだし。」
「白いヤツは反撃ができない、のではない。“していない”のだ。」
ドアンは楽しそうだった。
デニムはそのグラスに三杯目を注いでやった。
「どうも僚機のゾックが気になるらしい。優しい男だぞ。白いヤツのパイロットは。」
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ゆるゆる。ふわふわ。
なにしろ、ゾックは遅い。
装甲はそれなりに硬いし、完成当時としてはモビルスーツ内に複数のメガ粒子砲を装備するのは画期的なはずだ。
だが。今回のクラバではビーム兵器は使用できない。
爪に引っ掛けられて転倒した際に、バズーカはアポリーのドムの手を離れて地面に転がった。
起き上がりながらホバーをふかして距離をとる。
ゾックはじわじわと接近してくるが自分からは攻撃しようとしない。
“攻撃手段がないのだ”
と、アポリーは判断した。
「白い悪魔」たちがゾックを手に入れたのもほんの数日前だときいている。
メガ粒子砲をオミットして別の兵装に付け替える時間が十分あったとは思えない。
“つまりはM.A.V.の数合わせのために無理やり調達した機体なのだ。”
アポリーのドムは、ゾックの周りを回る。
ゾックはその動きに合わせて、ゆるゆると向きを変えていく。
動きは遅い。遅いが妙に有機的だ。モビルスーツではない。着ぐるみを人間が動かしているような。
ガンッ!
なにかがドムの頭部を揺らした。
とっさに、アポリーはドムを加速させ、ジグザグ走行にかえる。
攻撃を受けている!
なにかが、いままでドムの頭のあったところを駆け抜ける。
そのなにかは、飛行中に向きをかえ、ドムを襲う。
2機だ。
それが変幻自在な軌道を描いて、ドムの頭部だけを狙ってくる。
つまりはメインカメラの破壊による勝利を狙っているのだろう。
しかしその動きをどうやってコントロールしているのか。
このクランバトルではミノフスキー粒子を必ずしも戦闘濃度まで散布はしない。
だが無線のコントロールという技術そのものが廃れて久しいのだ。
ありうると言えば。
その独特な動きに、アポリーは見覚えがあった。
ビット!!
大きさは異なるがそれは、独立戦争終期シャア大佐のガンダムが使ったビットだ。
ゾックのパイロット“病み猫”ニャアンはニュータイプだったのか!!
うかつに近づけば、あの独特なクローアームに翻弄される。かといってこのままでは。
ゾックの使っているビットは小型だ。重量もない。メインカメラに直撃しなければ耐えられる。
アポリーはバーニヤを限界まで踏み込んた。身体を低くして落としたバズーカに向けてダッシュする。
カン!カン!
頭部をガードした腕に、ゾックのビットが当たり、跳ね返った。
よし、いける!!
ドムの手がバズーカを拾い上げた瞬間。
べちゃ。
粘塊がドムを包んだ。
バズーカは――持ち上がらない。
腕も胴体も粘塊に塗れている。
恐ろしい粘着力だ。動くことも立ち上がることすら出来ない。
アポリーは焦った。
これでは簡単にとどめを刺されてしまう――。
「アポリー敗北。アポリー敗北。」
無情なアナウンスが響き渡る。
とどめを刺す、とかそう言う話ではなかった。
別に頭部を破壊されなくても行動不能にされればそれは「負け」に違いない。
ニャアンのゾックは。
爪を振りながらゆっくりと回転していた。
ときおり身体を斜めに傾けたり、爪を開いて、閉じて。
モノアイを上下左右に走らせる。
ニャアンにして見れば、久しぶりに自分の自由に動くモビルスーツに乗った感触を楽しんでいただけだったのだが。
それはあまりにも奇怪な勝利の舞いだった。
まだマッシュとアムロは激闘を続けている。
それどころか、マッシュの猛攻にアムロは防戦一方だ。
それに加勢するわけでもなく。ふわふわと移動しながら、怪しげな踊りを続けている。
このときから、“病み猫ニャアン”は一種の妖怪としてネオホンコンの市民には認知された。
あとで、ニャアンは悔やんだが、別にそれはニャアンが悪いのでとくにだれも同情はしなかった。
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あの武器はなかなかいい。
と、モニター観戦をしていたククルス・ドアンは評した。
「クラバだよ。戦場だったら……」
「相応しい場所に相応しい武器を使うのは悪いことでは無い。」
冷静にドアンは言う。
「もともと暴徒鎮圧用のトリモチ弾を対モビルスーツ戦に使う発想はなかった。」
「そりゃそうでしょ!
モビルスーツを動けなくする量の粘塊を発射するためにはどのくらいのスペースを確保しなきゃならんのか。
打てても1回程度だし、弾速がそんなにはやくは出来ないから外しやすいし……」
もともと熟練のパイロットであったデニムは話しているうちに気がついた。
「それを全部、ニャアンがコントロールしていた、と?」
「最初からかどうかは、わからんが。」
ドアンはまたグラスを空けた。顔色はまったく変わらない。
「少なくとも、クローでバズーカを弾き飛ばしてからは意図的だ。相手がバズーカを拾いに行きたくなるようなシチュエーションを作り出し、バズーカを拾う瞬間にトリモチ弾を発射した。
動き回る相手はとても捕捉しきれないトリモチ弾でも、相手の動きが予測できれば当てやすい。
全てがあのニャアンというパイロットの手の内だった
…ということだ。」
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「白い悪魔!! サシで勝負だ!」
マッシュは観戦者たちにも伝わる回線で叫んだ。
アポリーが倒された以上、試合は2対1になるのは当然なのだが、ここは勢いである。
なんだか、ゾックはこちらの戦闘に参加する気がなさそうだし、無理やり1対1の戦いに仕切り直す。
マッシュの背中を冷たい汗が濡らしていた。
傍目には激闘に見えていても対戦しているマッシュには分かるのだ。
白い悪魔はまだまだ余裕をもっている。
回避に注力していたのは、ゾックの戦いが気になり、そちらがピンチになったらいつでも駆けつけられるように気を配っていたからだ。
「これはあまり使いたくなかったんだがな。」
マッシュはホバリング移動を中止した。
腰を落として、ハクジを構え直す。
「こいつが俺の切り札だ! くたばりやがれ、白い悪魔!!」
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「む、むう!」
モニターを眺めていたククルス・ドアンが唸った。
「あの構えは!」
「知っているのか、ドアン!!」
少し別のマンガのテイストを入れてみました。