かのカリスマ、ハマーン・カーン。でもこの作品ではシャアに裏切られていないので、かわいいものです。
ハマーンは鬱鬱としている。
ピンクの髪は、ショートカットにしている。毛先は襟足にかからないくらいで揺れていた。
ネオ香港大学は、名門であるし、通うのも良家の子弟が多い。あまりがつがつと勉学に励まなくても卒業後の進路はある程度約束されているようなもの達ばかりだ。
よい子達なのだが、友人にするには物足りない。
お付きでここに通っているキャラ・スーンに愚痴ると、一笑された。
「将来が約束されたおぼっちゃま、お嬢ちゃま!
言うまでもなく、あんたもその中に入るよね、ハマーン様?」
ハマーンとしては憤懣やる方ない答えだ。
彼女は父親であるマハラジャ・カーンからの指示で、クワトロ・バジーナ、すなわちキャスバル・レム・ダイクンを籠絡するためにネオ香港に来ている。
学生という身分を選んだのは、それがここに長期滞在するために一番有効な資格だからだ。
「たしかにハマーン様とキャスバル殿下の婚姻は、ジオンに安定をもたらします。」
マシュマーはマシュマーの癖にまともなことを言う。
「カーン家が今後もダイクン家の後ろ盾になるという意思表示になりますし、あなたを奥方様に迎えれば、アルテイシア様のキャスバル殿下への殺意もすこしは抑えられますでしょう。
マハラジャ・カーンの愛娘の婿を謀殺して、ジオンを割るようなことは聡明なアルテイシア様は考えもしないでしょうし。」
問題はそれがさっぱりうまくいってないことだ。
同じネオ香港にいても、あいつはかなり忙しい。ろくに会う機会もないまま、時間が過ぎていく。
しかもどうもやつは、同棲しているらしい。
どこぞの難民キャンプで拾ってきたとかいう褐色の肌をした美女だ。おまけでついてきた美少女ふたりと!!
ハマーンは自分の容姿についてアレコレ思い悩んだことは実は少ない。
態度に険がある。目付きが悪い。
そんな風に言われていることは知っているが、多感な十代をアクシズという辺境の小惑星で過ごしたのだ。見た目よりもまずその人間が何ができるか、だ!
―――なにも出来ていない。
シャアは口説けず、かといってキャンパスライフを謳歌するような友だちにも恵まれていないのだ。
唯一の派手なイベントは先日のクランバトル。
連邦が突然、希少資源の輸出停止を持ち出したのを、クランバトルでの勝利で覆したのだ。だがそれもハマーン個人にとっては赫々たる戦果をあげたとは言い難い。
「ハマーン様?」
ある種の厭世観、寂寥感に陥っていたのだろう。そもそもの恋敵に声をかけられた時、ハマーンは思わず嬉しく感じてしまったのだ。
「なにか用か? シャアの同居人。」
「あら。ちゃんと挨拶してませんでしね。
ララァ・スンと申します。こっちがわたしの妹分。ヴァーニとカンチャナ。」
エプロンドレスの少女たちは、丁寧に頭を下げた。
妹、というよりはよく洗練されたメイドのようだった。
「……それと、大佐との同居は解消致しました。いろいろと考えるところがありましたので。」
「そ、そうか」
「ハマーン様! お茶です! お茶に誘うのです!」
「酒でもいいんじゃないスか? そっちのガキンチョどもを除けばみんな成人してる。」
どうでもいい事をアドバイスしてくるマシュマーとキャラを、ハマーンは睨んだが、ララァは
「まあ。みなさん仲がよろしいのですね。」
と言って微笑んだ。
ネオ香港大学は、アムロたちの通うジオン工科大学ネオ香港キャンパスとは異なり、街中にある。
周りは学生向けのカフェやレストランも多い。
ハマーンたちが入ったカフェは、昼下がりだというのにそれなりに混んでいた。
窓際の席では学生たちが端末を広げ、向かいの席では課題らしい資料を山積みにしている。
ララァたちが案内されたのは、店の奥にあるL字型のテーブル席だった。
「ここ、よく来るのか、ララァさん?」
マシュマーが何気なく尋ねた。
「わたしは聴講生なので、授業と授業の合間に時間がうんと空いてしまうことがあるのです。
大学の近くって、こういうお店がいっぱいあるでしょう?」
ララァがメニューを眺めながら答える。
「そ、その…一緒にお茶をする友だちはいるのだろうか。」
ハマーンは自分の表情が固くなっているのを感じている。
「同じコースをとってる聴講生の方とは、一緒に時間をつぶすことはよくありますわ。でもそうですね……あらたまって、休みの日や放課後に会うことはないです。
基本的にはこの子たちが学校から帰る時間には家にいたいですし。」
「失礼ながら、そのお子さんたちとはどのような関係で」
「ホッントに失礼だな、マシュマー!」
キャラがマシュマーにかなり力の入った肩パンを入れた。
ララァは笑みを崩さずに
「同じ難民キャンプにいましたの。」
とだけ答えた。
「……難民キャンプ……?」
マシュマーが、少しだけ声を落とした。
「ええ」
ララァはそれ以上は説明しなかった。
マシュマーとキャラも、それ以上は聞かなかった。
黒いくせっ毛を短くした少女(こちらがヴァーニというらしい)が、メニューを手に取った。
「皆様。ご注文はいかがなさいますか?」
「そうね……ダージリンを。あと海鮮のお粥をもらうわ。」
「お粥……というのは美味いのか?」
ハマーンが尋ねる。
「作り手によりますが。」
「ならわたしも同じものを。飲み物は冷たいコーヒーを」
金髪をオールバックにしたほう(カンチャナといった)の少女も立ち上がる。
各自のオーダーを控えるためか、メモとペンをもっていた。だが目つきは悪い。
「ビッグマックとコーラのL。」
「ここは、マクドではございませんが」
「じゃあ、似たようなもんで。」
キャラの雑な注文を、黒髪の同僚の持つメニューを覗き込みながらメモする。
「お兄様はなにになさいます?」
金髪の少女は満面の笑みで、マシュマーに尋ねた。マシュマーにとっては、美少女からちやほやされるのは大好物だったから、軽く髪をかきあげかながら答えた。
「飲み物は……グリーンティー。それとサンドイッチをもらおうか。」
「かしこまりました。お兄様。」
ララァは笑みを崩さなかったが、ハマーンはその心中をなんとなく感じ取れた。
「ララァ……いまのマシュマーに対する態度は……」
「どうもカンチャナには、男性に対する不信感があるようなのです。」
とだけ、ララァは答えた。
「普通は、睨んだり、けんもほろろな扱いをするのですが……」
「マシュマーは?」
「それ以下です。カンチャナがにこやかに対応する時は、『それ以上近づくんじゃねえ』のサインです。」
伊達男のマシュマーは、愕然とする。
ふたりのメイド少女は、店員にオーダーを告げた。ちゃんと自分たちの分も頼んでいたので、ハマーンはどこかホッとしたのだ。
「その……なんというか……」
ハマーンはララァの顔から視線をそらすようにしながら言った。
「いきなり、お茶に誘ってすまなかった。」
「まあ」
ララァは頬に手を当ててにっこりした。
「話しかけたのはわたしからです。それに嫌でしたらいっしょに参りませんわ。」
「い、忙しいんだろ。」
「しばらく、グラナダにいたものですから。だいぶ授業をさぼってしまってます。でも聴講生だから学費さえ納めていれば時間的な、制限はなくって」
「で、でも彼女達の面倒も見ながら」
「生活面では面倒を見てもらってるのは、わたしの方です。」
「なんというか……ほか友だちとの約束とか。」
「学校でのお友だちですか?
さっきも申し上げた通り、授業の合間にお茶をするくらいの方はいますけど」
(『うちのハマーン様よりだいぶマシだな』とキャラが囁いたのをハマーンはキッと睨んだ)
ララァはほおに手を当てた。
「なかなか親しいとまで言える方はおりません。
―――そうだ! ハマーン様。わたしとお友だちになって下さい。」
「わ、わ、わたしは!
あの男と結婚するためにネオ香港に来たんだっ!」
ハマーンは怒鳴った。
怒鳴らなければ、うれしくって踊り出してしまっただろう。
「なんで恋敵のおまえと友だちにならなければならないんだ。」
「だって、ダイクン家ですわ。」
ララァは言った。
店内はかなり、ざわざわしていたし、昼間からアルコールで盛り上がっていたグループもいたので、ハマーンの怒声はさほど注目を集めなかった。
「偉い人たちとの感覚は、庶民とは違うんです。」
「そんな……」
「婚姻も政治の一環です。
実際にハマーン様もあの人がダイクン家の長子だから、結婚しようと考えたのでしょう?」
「そこまで……分かっていてなんで友だちになろうなとと……」
「それはそれ。これはこれ。だからです。」
料理と飲み物が運ばれてきた。
ララァとハマーンは大失敗した。
運ばれてきたお粥は、4、5人で取り分けられる大きな器で運ばれてきたのだ。
「わたしの数少ないお友だちのひとりが言ってくれました。
あのひとがいまの複雑な立場から逃れるためには、結婚がいちばん良いそうです。
きいてわたしも納得しました。」
カンチャナやヴァーニにもお粥をよそってやりながら、ララァは言った。
「わたしと結婚すれば、マハラジャ家の後ろ盾がついてくる!
アルテイシア様がなに言っても安定した地位が約束される!」
「もし、あのひとがジオンの政治に関わりたいと望むなら……ですね。
もし、そうでないならわたしでも充分です。」
お粥に香辛料をたっぷりふりかけながら、ララァは楽しそうだった。
「要するにあのひとが政治から離れてくれれば、アルテイシア様は落ち着くのだと思います。あなたと結婚すればそれは、アルテイシア様を頂点とする現在のジオンの体制の元に付き従うと表明したこと。
素性も知れない元戦争難民のわたしと結婚するならば、ジオンの政治には興味がないと言明したことになる。
どちらにとってもアルテイシア様にはあの人を亡き者にすることまでは、諦めてくれるかと思うのです。」
「だったらなんでシャアのところを離れたの?」
ララァの真似をして、キャラとマシュマーにお粥を山盛りによそいながら、ハマーンは言い返した。
「すこし、距離をおいたほうがよいかと思いました。あの人とは愛し合ってる自信はあるのですが、それでもあの人は、チャンスがあればモビルスーツにのってすっ飛んで行ってしまう……」
「なに、その拗らせた中二病みたいなの」
「もっと悪いです。あのひとにとってはいまが小五の夏休みなんですよ。
愛するものと家庭を築くよりも、ウンコチンチンカブトムシの」
「そ、それは大半の小学校5年生に失礼だと思うがっ!」
「あの人はですね。」
ララァは少し寂しそうに。嬉しそうに笑った。
「およそ恵まれた少年時代を送っていなかった。
いまはじめて、ザビ家の復讐からも解放されて、自由な時間を満喫しているんです。
ですので、わたしとしては」
ララァは胸を張った。
「ここはひとつ、母のように大きな愛情で見守るつもりなんです!」
はあ……
ハマーンは呆然と目の前の女性を見つめた。
「それはそれとしてですね、ハマーン様。」
ララァはイタズラをするように笑った。
「わたしのモビルスーツの練習に付き合ってくれません?」
アクションが全然ないのです。0083のシミュレーターの中身はOVAそのままなんであらためて描写しても。
という訳でキュベレイ対ロゼスパークルのクランバトルをやってみようかと。