赤い彗星はついに最大の敵と直面する。
クランバトル……そうクランバトルではあるが、ビーム解禁。この戦いにシャアは生き延びることができるか。
それはあまりにも異形のモビルスーツだった。
もともとが人体の動きをトレースする宇宙作業用の強化服がその発想の原点にあるモビルスーツである。
フォルムは、人間が鎧を着込んだようなものになるのは当然だ。
だが、このモビルスーツはさらにその上から鎧を重ねたように見えた。
ハマーンはアクシズ育ちである。
独自に進化を遂げた可変モビルスーツをはじめ、モビルスーツという存在には興味を持っている。
現在、モビルスーツの開発競争は、次の段階を迎えつつある。
これまでジオン、連邦が主力として配備されてきたザク、軽キャノン、ゲルググ、軽キャノン改については大幅な改修がすすめられるとともに、可変機を初めとした次世代機が続々と登場している。
それらの中にはたしかに追加武装、追加装甲を過剰にまとった結果、ずんぐりとしたフォルムになるものも少なくない。
だがこの機体は違う。
外側にマウントされた武装はほとんど見られない。
全身は非常に厚く、丸みを帯びた大型装甲で覆われている。
左右に大型の肩アーマー。
大型のプロペラントタンクが内蔵されていると思しき脚部もふとく、相対的に頭部は小さく見えた。
それでも全高は30メーター近い。
はたしてこれをモビルスーツと呼ぶべきなのだろうか。かろうじて人型にはなっているもののサイズ的にはモビルアーマーに近いのだが。
ウォルンタース・デイ。
そう、ララァは自分の機体をそう呼んだが、正確にはそれは正しくないのだ。
ララァの機体は、ヘルムコングロマリットからの借り物である。機体そのものは、ゲルググの改修タイプであり、最大の特徴は操縦者への安全性である。
彼らはこの機体を、この世界における超VIPのための特別カスタム機の素材として売り出した。
外見的にはとんがり帽子を被ったような頭部が目立つが、これも発注者の自由にカスタマイズできる。たまたまララァに機体が供されたときに、ヘルムコングロマリットが主催するブランドの新作の帽子を意匠にしたに過ぎない。
そしてその名無しの機体に今回装備した『ユニット』の名前が『ウォルンタース・デイ』なのだ。
「ヘルムコングロマリットの戦略はある意味、大成功してるんです。」
ハマーンの傍らに立つララァはそう言った。
「もともとがセミオーダーシステムの少数生産が目的の超高級モビルスーツです。
コクピットの安全性が高く評価されて、なんとあのジオン公国元首アルテイシアの専用機として採用されたんですから!
注文も続けてはいり、ヘルムコングロマリットのモビルスーツ部門は軌道に乗りました。
その立役者が、わたしなわけで、わたしのところには多額の契約料に加えて、頼みもしないのにヘルムコングロマリットのブランドの新作が次々と贈られてくるわけなので」
「あなたが“ココ・シャロン”だったなんて、ね。」
モビルスーツデッキの柵に頬杖をつきながら、ハマーンは言った。
「ご存知でいてくれてありがとう。」
ララァはパイロットスーツ姿である。連邦軍のテストパイロット用のごく当たり前のものだが、目元を特徴的なバイザーが覆っていた。
対してハマーンのスーツは濃紺。
身体にぴったりとしたデザインだが、首元から黒と濃紫の布が何重かに折り重なって、胸元に大きなドレープを作っていた。
「計算違いが、納品後の強化武装よ。」
ララァも柵にもたれかかりながら言った。
「本当は追加武装『ユニット』でも一儲けしたかったんだけど、そちらはグリーンノアのテム・レイ博士のチームのプランが採用されてしまったの。」
「ああ、それが『シルエット』システム……ね。」
「そう。アルテイシアは『レイダーシルエット』が随分とお気に召していただけた様子……」
ララァはくすりと笑った。
「一方でわたしの機体に搭載された『ロゼ・スパークル』ユニットは発注はゼロ。
まあ単純に使いにくかったのかもね。
それを覆す意味でこの『ウォルンタース・デイ』ユニットが開発され、テストということになったのだけれど。」
「ハマーン代表!」
ブライトがモビルスーツハッチの入口から顔をのぞかせた。
「ココも一緒か。よかった。
いまネオ香港のシャトルから連絡があった。指定ポイントにキュベレイを射出してよいかとの確認だ。」
「もちろんよ! 最終チェックはわたしがするわ。クランバトルの会場になる廃棄コロニーまでは?」
「2時間後、だな。大佐の百式は現地待機というのとだが」
ブライトの細い目が剣呑なヒカリを放った。
「しかし……いいのか? ビーム兵器ありのクランバトルなどこのところまったく聞かんぞ?」
「たまにはいいでしょう?」
ララァは仮面の中から笑顔を浮かべた。
「しかし、だな。」
「その話はそれくらいにしておけ。」
壁のモニターに髭面の男の顔が映る。
「ヘルムコングロマリットが、ビームを使用した限りなく実戦形式に近い形でのテストを希望している以上、我々に拒否権はない。」
「ヘンケン艦長!」
ブライトは言い返した。
「しかし実際としてそれはあまりにも危険……」
「プラスパイロットも了承してのクランバトルだ。
とはいえ……」
ヘンケンはチラリと視線を手元に落とした。時間を確認したのだろう。
「不慮の事故は最小限に抑えたい。
ブリーフィングは可能か? ハマーン代表、ココ・シャロン。
アーガマブリッジに上がってくれ。」
ブライトは頷いた。
ブライト・ノアの現在の地位は中尉。
この地球連邦軍モビルスーツ運用実験艦アーガマのモビルスーツ運営責任者だ。
宇宙戦力の保持を徹底的に削られた連邦軍にとっては5年ぶりの新艦艇となる。
基本設計は、ソドン級(連邦式に言えばペガサス級)を継承している。大気圏への突入、離脱、ミノフスキークラフトを使用しての大気圏内航行も可能な万能艦だったが、なにぶん『連邦は一切の宇宙戦闘艦は建造できない』のが終戦の際の条約である。
アーガマには一般的な戦闘艦なら必ず備わっているメガ粒子砲がない。ミサイルもない。
このままでは新鋭モビルスーツを試験運用するための船としてあまりにも危険なので、随伴艦としてジオン所属の重巡アレキサンドリアがつけられている。
こちらも基本設計図は連邦、建造したのはジオン軍という変わり種だ。
新鋭艦ならではの強大な火力と多数のゲルググを配備している。
『アーガマを護る』というのは建前であって、『妙な行動をすれば即座に撃沈するぞ』というジオンの意志が見え見えの艦艇である。
それがあまりにもあからさまにならないよう、艦長にはガディ・キンゼーという連邦軍人が配されていた。ただし、クルーやパイロットはほとんどがジオン軍人で固められている。
両艦とも最大の特徴は、実戦を生き残った艦であることである。
小惑星ペズンでのニューディサイズの反乱に両艦ともに参加していた。これはあくまでも「戦闘」ではない。ジオン配下の小惑星ペズンを奪取して立て篭もった連邦軍過激派に、ポメラニアンズを中心としたクランがクランバトルを申し入れ、結果、主戦力を失ったニューディサイズが組織として自壊した。それだけのことである。
アーガマとアレキサンドリアは、クランのモビルスーツの『運搬船』として参加したが、『あまりにも流れ弾が激しく』アレキサンドリアは、かなりの損傷を受けた。
『威嚇射撃』をしたところ、多少ニューディサイズのモビルスーツにも当たってしまったようだが、それはそれで仕方ないと判断された。
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「気密性は失われているようだ。自転もほとんどない。」
クワトロ・バジーナは、シャトルの操縦席パネルに表示される数値を確認して、そう口にした。
今回のクランバトルに用意されたのは、廃棄されたコロニーだ。コロニーとしては小ぶりではあるが、それでも全長は30Km近い。
半年ほど前に起きたデラーズ紛争の遺物である。
デラーズは、このコロニーに核パルスエンジンを取り付け、地球に落下させようとした。だが落下軌道に入る前に、アナベル・ガトーのデンドロビウムがすべての核パルスエンジンを破壊することに成功。
コロニーは地球から離れつつある。
とはいえ、安定した軌道にのった訳ではないので、いずれはあらためて軌道修正を行うか。まずは使えそうな部品を外すところから作業ははじまるのだろう。
ここを今回のクランバトルの会場に提案したのは、クワトロ・バジーナ自身だった。
相手は―――
他ならぬララァ。
そしてクランバトルの形式はビーム兵器もありの限りなく、実戦に近い方式。
ならば空間を物理的に限定し、ほかに被害の出ない廃棄コロニーは絶好のグラウンドだった。
一対一ならば、負ける気はない。
たとえば、こちらがザクでララァが専用モビルアーマーだったりしたら問題外だろうが、こちらも百式という新鋭モビルスーツである。
たとえ、ララァがビット攻撃を駆使するモビルスーツやモビルアーマーを使っても無傷で取り押さえる自信はある。
ニュータイプ能力の問題ではない。
こと「戦う」においては、ララァはかなりのダメ人間なのである。
だがハマーンを連れてくるとは!!
二対一。
しかもハマーンは確実にキュベレイを使ってくる。あまりにピーキーな操作性のためこれまで真価を発揮できたと言える機体ではないが、ファンネルの本当の有用性、そしてハマーンのニュータイプ能力には疑いの余地はない。
そのアグレッシブさも含めれば、総合力ではララァを凌ぐだろう。
なぜ、こんなクランバトルを受けた?
クワトロはあらためて自問自答し、苦笑を浮かべた。
冷静に考えれば得はない。
ララァ。
ハマーン。
どちらも傷つけるだけでもやっかいな相手だ。
しかも手を抜けばこちらが殺られる可能性すらある。
だが、少なくともララァの頼みにおいて、クワトロは断る術を知らなかった。
愛する女が何を考えているのか。
まったくわからないのを、彼は心から楽しんでいた。
今回のクラバはアレのオマージュです。