数倍の敵を相手に、祖国の興亡と己の誇りをかけて戦い抜いた漢達はほんとうにそこにいたのだ。
“黒い三連星”マッシュの意地が、有り得ない奥義となってアムロに襲いかかったそのとき――
次回機動戦士Gundam GQuuuuuuX。「怪物を超える」、
きみは刻の涙を見る。
「あれがなんだって!?」
デニムは尋ねた。
重心を落とし、槍を構えたまま、ホバリングをやめたドムは、中世初期の鎧武者のように見える。
対する「白い悪魔」は、呆然と、ただ立っているだけのように見えた。
――
だが、それは逆に言えばどんな構えもとっていない、ということだ。
相手がどう動くか。
それに予測することで、かならず人はなんらかの「構え」をとろうとする。
それは当然のことなのだが、そうすることによって、予想と違うことが起きた場合に反応が1歩遅れることになる。
「白い悪魔」の構えのない構えは、それを払拭したものと言えなくもない。
「ギャンの計画そのものは独立戦争時からあった。」
ククルス・ドアンは、まるで剣豪同士の立ち会いのようにじっと動かない両者を見つめている。
「もともとは、接近戦用に開発されたモビルスーツだ。ビームライフルは後回し。接近戦にビームサーベルを備えた機体だった。」
「それはきいたことがある。」
デニムは頷いた。
「で、クワト……シャア大佐がガンダムを強奪したことで、ビームライフルの実用化が一気に早まり、結局、ジオンが公式に採用したのが、ゲルググだった。」
「ギャンのビームサーベルは切断、というよりも刺突用でな。
叩き切るというよりも突く動作を主眼に考えられていた。
フェンシングなどを想定してもらえばいい。」
デニムは、ドアンの言いたいことがわかってきた。モビルスーツは人間に近い動作ができるようある程度、コントロールが自動で行われている。
“足のつま先部分に体重をかけなから、頭をやや前へ。前方に倒れるのと合わせて1歩足を前に踏み出す。”
これの操作をレバーとペダルでやろうとしても不可能だ。(これがつまり「歩く」という動作になるわけだが)
だから、ある程度の動きは事前にシステムが記憶している。
その意味で刺突は実にやり易い。
基本的には同じ仕草の繰り返しだし、それを可能な限り連続で行わせればいいのだ。
「マッシュはドムの槍を使って、それをしようとしている……と。」
「その通りだ。そしてそれを捌き切ることは」
ドムが突貫した。
ギャンのサーベルとは異なる。
ビームの穂先はないにしろ、その質量と速度はギャンのビームサーベルの威力に勝るだろう。
「白い悪魔」はその初撃を避けた。
頭をわずかに左に傾けたのだ。
穂先がそこを掠める。
二撃め。
「白い悪魔」が動かなければ、人に当たれば喉の部分を貫いたはずだ。
三撃。
頭部への攻撃を連続で避けられたマッシュはその攻撃を腹部に変えた。
確かに動きの早い相手を捉えるにはそれがセオリーだ。
「コクピット周辺への故意の攻撃は反則」
クラバのルールにはそう決められているが、実はこの反則は一度も適用されたことがない。
どうやってその行為が「故意」だと証明できるのだろう。
「白い悪魔」は片方の足を引いた。
身体がマッシュのドムに対してやや斜めになる。
それだけで、巨大な槍は虚しく虚空を抉った。
「うおおおおおっっっ!!!」
マッシュが吠えた。
刺突にこまかなコントロールはいらない。
相手の身体のどこに当たってもいいのだ。
ハクジの破壊力はどこに当たってもその部分を破壊する。
頭だろうが、胴体だろうが、手足だろうが。
ドムの腕がブレる。
そのスピードが人間の捉えられる限界を超えたのだ。
もちろんその腕が握る巨大な槍。ハクジの穂先も。
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「サイコミュが見当たらない!?」
クワトロの声はわずかに険しさを増した。
苛立った声は珍しい。
特にララァといるときはそうだ。
通信の相手は、クワトロのクランの技術スタッフだった。
クワトロも信頼しているメカニックだった。
アムロは別に彼の「ガンダム」を秘密主義にしてはいなかった。
メンテナンスについては、ほぼ一任してくれている。
「それはわたしが言った『特殊な』サイコミュが、なかったと。そういう事か?」
「違いますよ、大佐。」
メカニックは連邦軍出身の技術者だ。
その彼にまで「大佐」と呼ばれるのは妙な気分であった。
「アストナージ。きみの言葉を信用しないわけではないのだが」
「いや、信用とか信頼なんて大袈裟なもんじゃなくてけっこうです。
とにかく、『ガンダム』にはサイコミュは搭載されておりません。」
難しい顔で通信を切ったクワトロに、ララァはソファの隣をとんとんと叩いた。 ここに座るように、という分かりやすい合図である。
「どうしました、大佐?」
もはや訂正する気力もない、ララァに引きずられて皆んなが彼を「大佐」と呼び始めている。
「アムロくんの白い『ガンダム』はサイコミュを積んでいない。」
「では、カッパサイコミュの行方は一から調査し直しですわね。」
それはともかく。
なんのサイコミュも積んでいないのは意外であった。いや異常である。
サイコミュは遠隔操作だけに効果を発揮するものではない。
操縦全般を補助してくれるものだ。 もちろん、パイロットにニュータイプの才能があることが前提ではあるが。
「あの動きをサイコミュの補助なしで可能にしているというのか、アムロくんは。」
「そのアムロは今日が試合の日よ。見てあげなくっていいの、大佐?」
「相手は“黒い三連星”マッシュだったな。」
クワトロは、モニターのスイッチを入れた。
にっこりと笑いながらララァは言った。
「白いモビルスーツが勝つわ。」
「……そのセリフは言わないといけない決まりでもあるのか?」
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それは先程までの光景の延長に見える。
マッシュのドムが攻撃する。
「白い悪魔」がそれをかわす。
モビルスーツの接近戦では、見たこともない高度な攻防に、視聴者は湧き上がり……そして、いつか静かになっていた。
腕の本数が増えたかとも見える連続の突き。
だが、「白い悪魔」はそれを完全にかわし続けている。
こちらは力を温存するかのような最小限の動きだ。
“当たらない”
誰かがネットに発言した。
あ、あ
当たらない!
当たらないぞ!!
個人の端末で観戦していたもの。
エグザべとコモリのように店で、見ていたもの。
ネットへの発言か、実際の肉声かは別として。
全員が同じことを思っていた。
「なぜ!当たらないんだあ!!」
ニャアンはこの間も舞い続けている。
単純にゾックを操るのが楽しいのだが、もちろんM.A.V.の意味はわかっているのだから、アムロがピンチなら彼女は駆けつけただろう。
だが、そんな必要はないとわかっていたのだ。
アムロがヒートサーベルを弾き飛ばされてもニャアンはそばに寄ろうともしなかった。
ニャアンはわかってしまったのだ。
アムロが反撃に転じないのは。
その必要がないからだ、と。
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「化け物だ。あのふたりは!」
観戦していたデニムが呻くように言った。
モビルスーツのパイロットだったデニムには、マッシュの攻撃の凄まじさが、そしてそれを回避するアムロの技量が分かるのだ。
ククルス・ドアンは、酔えば酔うほどに無表情になっていくようだった。
顔色ひとつ変えずに静かに言った。
「たしかにどちらも化け物かもしれんが、差がありすぎる。」
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もともとマッシュの連続突きは、ギャンに備わったビームサーベル用のプログラムの改修バージョンである。
それを大重量の槍、ハクジで行ったらどうなるか。
威力そのものは、ギャンのレイピアに近い形状のビームサーベルよりは増すかもしれない。
だが。
バシッ!
なにかが弾ける音がした。
突然ドムは動きをとめた。
その両手からハクジが滑り落ちていく……いや違う。
腕も一緒に、だ。
両肘から先がハクジを握りしめたまま、地面に落ちていく。
バシッ!
バシッ!
ドムの身体のあちこちから火花が上がった。
ぐらり。
立っていることも出来なくなったのか。
そのずんぐりした身体が、荒野に伏していく。
頭部破壊はクラバ勝利の条件ではあるが、もっと分かりやすいものもあった。
――相手の戦闘不能である。
「マッシュは戦闘不能と見なします。
よって、アムロ、ニャアンの勝利!」
ニャアンのゾックが巨大なクローを振りながら近づいてくる。
もう一機のドムを悩ませた飛翔物体は、その頭部、頭部といってよいのかわからないがその両脇にちょこんと収まっていた。
ネコの耳を思わせてなんとなく可愛いような気が…しないでもない。
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いままでのクラバとはこれが違うんだな。
と、アムロは思った。
もともと非合法の催しだけあって、勝敗が決着すれば、参加者はすみやかに撤収。これが当たり前だった
勝利者インタビューがあるなんてかんがえてもいなかった。
いやそれどころか。
敗者にもインタビューがあるのだ。
そのために、アムロとニャアンは待たされている。荒野の中に。
パイロットスーツは防寒性能だってあるのだが寒い事は寒い。
ずぞっ。
ずぞぞぞぞ。
気味の悪い音は、ニャアンがリクエストしたラーメンをすする音だ。
アムロもスタッフが入れてくれた温かいコーヒーを口にする。
マッシュのドムはコクピットの周りの開閉装置までイカれていたのだ。
中からは開くことが出来ず、メカニックがかかりきりになっている。
一方でマッシュのM.A.Vのドムは、ニャアンのせいで粘液まみれである。
コクピットをこじ開けようとしたクラバの運営が二次災害にあって、機体に張り付いてしまった。
やっと中和剤が届いて、パイロットが救出されたときにはそろそろ日が傾いている。
「さて、歴史に残る一戦を戦った勇者たちにインタビューです。」
開口一番。マッシュが叫んだ。
「俺は負けてねえっ!!」
「はあっ!?」(×視聴者数+スタッフ)
「俺はこいつに倒されたわけじゃない。こいつはそもそもなんの攻撃もしてないんだ。
こっちの機体の故障で、試合が中断しただけ……ノーカンだ!ノーカン!!」
とこかの地下施設の班長のようなことを言い出したマッシュに、アムロはにっこりと笑った。
「いいですよ。」
もともとクラバの選手にはまともな紳士は少ない。
なにを言われても動じない程度の胆力は、アムロにも身についていた。
「なんどでもお相手します。ですが乗る機体がなくなってしまった今回はぼくの勝ちです。
機体トラブルで戦えなかったら、敗北にプラス違約金もかかりますが。」
マッシュはまじまじとアムロを見つめた。
その厳つい顔が破顔した。
「冗談だよ、冗談!」
マッシュはカラカラと笑った。
そのまま、アムロの肩をパンパンと叩いた。
「いやあ、よくわかった!
礼を言うぜ、『白い悪魔』。」
「なにが!?」(×全視聴者+全スタッフ)
「おまえが俺を傷つけなかったのは、俺がこんなところでくたばる人間じゃないと。
そう言いたかったんだよな。」
「……」
「そうだ。俺の戦場はクラバじゃねえってことだな。」
マッシュは空を見上げて、拳を胸に当てた。
「どこを見てるんですか、あのひと。」
ニャアンがアムロのそばによってささやいた。
「たぶん……撮影してるドローンのカメラだよ。」
アムロは答えた。
「思わぬ回り道を食ってしまったが、俺を百万の市民たちが待ってるんだ!!」
「ええっと」
インタビュアーは困惑した顔で言った。
「あなたはたしか、その……不倫疑惑で市長職を辞任されたはず……」
「次の選挙に打って出る!」
マッシュは高らかに宣言した。
「禊はすませた!
俺の戦場は利権に雁字搦めになったコロニーの市政だ!
そして、味方はみなさん!
そう、俺に投票してくれた市民のみなさんだ!
またせたな、諸君!
“黒い三連星”マッシュがあんたらのところに帰ってくるぜ!」
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「有料配信とはいえ、視聴者数はものすごい。」
デニムはうんざりしたように言った。
「マッシュが市長を務めていたコロニーからのアクセスもけっこうな数だ。
あのドムは……もう使い物にならないかもしれないが、市長選への出馬表明としては申し分ない。
いいように使われたな。」
数ヶ月後。
トレードマークになった巨大な槍を片手に選挙演説を行うマッシュの姿があったとか。
次から第17話です。