そうか、世界を改変しようとすれば、それに反発するものも必ず出てくるのか、うむうむ。では―――
しかたないなっ!!
正面、左右のスクリーンが映像を映し出した。
どうもアムロの機体は、大型のキャリアーの中にいる。そういう設定らしい。正面のハッチが開く。
荒れ果てた地上の様子が目の前に広がる。
高度は50メートルばかりか。
ゆるゆると地上を飛行していく。
こんな飛行の仕方は、ミノフスキークラフトを搭載した強襲上陸艦以外にはありえない。
「アムロさん。ジム改の武装をチェックしてください。」
オペレーターの声はフレデリカのものだ。
「ああ……ジム改の標準武装だね。90mmマシンガンにビームサーベル、盾。」
「リニアシートは、フロド先生の原作では使われている様子がなかったので……」
「大丈夫です。やれますよ。」
「今回のシミュレートの設定を説明します。ドム・トローペン三機。東南東より接近。目標は本艦、アルビオンと思われます。迎撃してください。
勝利条件は、ミーア・キャンベル機の撃破。
よろしいですか?」
「わかりました。」
アムロは軽く息を吸った。
「アムロ、行きまーすっ!」
カタパルトがジム改を空中に放り出した。
宇宙空間とは違ってここでは、絶えず下から引っ張られる力が発生する。アムロは軽くバーニヤをふかした。
着地直前、ふわりと機体が軽くなり、荒野にジム改は着地する。
オペレーターからの次の指示はなかった。
実戦ならば、相手の武装、移動速度、方向など、うるさいくらいに情報を流し込んでくるのだろうがこれはシミュレーターの中だ。
オペレーター役のフレデリカとしても、あまりアムロに肩入れするわけにもいかないのだろう。
「楽しみね、アムロ。」
アルテイシアの声は弾んでいる。
アムロとの通信はもちろん切っている。
地上での戦闘は初めてではない。
ニューヤークとその郊外で「ほぼ実戦」のモビルスーツ戦闘は経験していた。
ならばあるいは、こと地上戦に限れば、アムロよりも熟練している可能性はある。
並走するドム・トローペンは、AI制御ではあるが、彼女はリーダーとしての権限で命令を出すこともできた。
「3方向に分かれて、ジム改に接近するわ。」
アルテイシアは言った。
「ホバリング走行ならではの機動性を活かすのよ。わたしたちの勝利条件は、ジム改の撃墜以外にも母艦アルビオンの中破以上のダメージも含まれてるわ。
十分な距離に接近するまでは、発砲は禁止。
OK?」
「こちらオルテガ、了解した!」
「ガイア、了解!」
アルテイシアはちょっと悩んだ。
それは大戦中に名を馳せた『黒い三連星』のものだった。
ということは、アルテイシアはあの胡散臭いマッシュ市長ということになるのだろうか。
単なるシミュレーション上のお遊びには違いないが、少々うんざりする。
バトルフィールドとして設定されたのは、ほぼ平坦な荒野だ。
遮蔽物はないと等しく、ホバリング走行に適さない丘陵や森林地帯もない。
ただ、少し離れたところに、廃墟になった都市があった。崩れかけたビル群は、モビルスーツが姿を隠すには充分な大きさがある。
ジム改が大きくジャンプした。
まだ光学的にとらえられてはいない。高熱源体としてマーカーだけだ。
三機のドム・トローペンはそれぞれ、ジグザグ走行を行いながらそちらに向かう。
『黒い三連星』のクセや操縦技術をどの程度シミュレートしているかは不明だったが、少なくとも熟練したパイロットのうでまえだった。
「オルテガ! ガイア!
『白い悪魔』をいぶり出すわよ!」
「了解だ、姉御!」
ガイアのドム・トローペンが加速する。バズーカを発射。
ジム改は、ビルを遮蔽物にしていて、目視は出来ない。まして弾速の遅いバズーカであのアムロをやすやすと捉えられるとは思わない。
だが、ガイアが狙ったのは、ジム改が潜むと思われる街区に隣接した高層ビルだった。
その中ほどに、続けざまにバズーカが着弾。
崩れかけていた高層ビルは崩壊。
その圧倒的な質量が、ジム改の潜む街区ごと踏み潰すように雪崩落ちてくる。
「撃破」にはならないかもしれないが、まともにその下敷きになってしまえば行動不能にはなるだろう。
そのあとで、ゆっくりとアルビオンを始末する。
そんなシナリオ……
アルテイシアは、加速しながら大きく回り込む。
マシンガンの火線が彼女が回避したあとを走り抜けた。
……通りにはいく相手ではない。
どこから?
「クソっ! 姿が見えねえ! やつはどこから撃ってくる?」
バラバラになった瓦礫が、落ちてくる。
動かなければ、押しつぶされる。少なくとも瓦礫の下敷きになって動けなくなる。
だからその前に飛び出すはずだ。
飛び出すはず……
「瓦礫の『中』だ!」
アルテイシアは叫んだ。
「やつは落ちてくる瓦礫のなかから撃ってきている。」
うんざりだ。
連邦軍のエース『戦鎚』セイラ・マスとして戦ったこともあるジオンの美しき元首は顔を顰めた。
『白い悪魔』は落ちてくる瓦礫の群れに突っ込み。瓦礫をかわし、いなし、あまつさえ、その中から攻撃までしてくる。
「こちらはオルテガ! 被弾した!」
「こっちもだ! だがさすがはドム・トローペンの装甲だ。なんともないぜ!」
何ともないのは言い過ぎだが、ドムの装甲はザクに比べてかなり改善されている。
だが装甲材そのものは、ガンダムに採用されたガンダリウム合金ほどではないはずだ。
現実の世界では、ドムは戦艦群の対空砲火機銃を掻い潜り、バズーカを船体に打ち込む。そういう運用がコンセプトだときいている。
フロドの世界のドム、あるいはドム・トローペンはおそらく技術的な差異はないはずだ。
つまりジム改がビームライフルをもっていない以上、単純に攻撃力と防御力でもこちらが有利なのだ。
あの化け物みたいな操縦技術が無ければ!!
「ガイア! オルテガ!
わたしの後方につけ!」
瓦礫が崩れ落ちる。
その上に、ジム改が姿を表した。
巻き上がる粉塵が一瞬でその姿を覆い隠す。
いいぞ!
これでむこうからもこちらが見えなくなるはずだ!
「一列縦隊を組んで最大加速!」
アルテイシアは矢継ぎ早に叫んだ。
「ジェットストリームアタックを仕掛けるぞっ!」
まずいな―――
アムロは舌打ちした。
隣の建物の下敷きにしようなどとは、とっさによく思いつくものだ。
アルテイシア……ソム……ミーアの発案なのだろうか。
それに、ジム改のメイン武器であるマシンガンが、思ったより効果がない。
装甲材そのものはガンダムに劣るはずだ。
急所を狙えば―――だが、このマシンガンは面の制圧を主眼とするもので、長距離からの精密射撃は不得手だ。
彼が身を潜めた街区がまるごと、瓦礫に飲み込まれていく。
アムロはジム改を、横っ飛びに粉塵から飛び出させた。
そのあとを、バズーカの弾が走り抜けていく。
正確な射撃だった。
少なくとも弾切れを待つような悠長なことはできない。
―――接近してたたく!
アムロは空中で、バーニヤをふかし、軌道をかえた。
バズーカの弾が次々と至近距離を走り抜ける。
これでは狙い撃ちだ!
アムロは強引にジム改を着地させた。
僅かな窪地ではあったが、地形がドムの射撃からは死角になるはずだ。
ドム・トローペンが接近する。
アムロはもう一度、舌打ちした。
彼らの狙いは、接近戦だ。
弾速の遅いバズーカが主武器。実弾に対しては充分な装甲をもつドムにとっては理想的な展開だ。
嵌められた……のか!
ランバ・ラルさんからは酷評されたそうだが、アムロの見る限り、アルテイシア・ソム・ダイクンは小隊指揮官としては超一流だ。
速い!!
ホバリングの移動は、想像以上だった。
ドムは一列縦隊。
こ、これは!!
ジェットストリームアタック。
これは全てが終わってから思い出したことだ。
そのときはそんな暇はなかった。
先頭のドムが、バズーカを連射。
全弾をうち尽くしたバズーカを投げ捨てると同時にヒートサーベルを抜刀。
アムロのジム改の90mmマシンガンは。
その突進を止めるバワーはない。
先頭のドムのヒートサーベルをかわせば、その瞬間に後方のドムのバズーカの一撃をうける。それをかわせてもさらにその後方に……!
アムロは、ドムに向かって突進した。とっさにマシンガンを先頭のドムの足元に向け、片方の脚に射撃を集中。
ホバー走行中に片方のみ推力を失ったドムは、バランスを崩す。
その上を。
「わ、わたしを踏み台にした!」
ドムのメインカメラを蹴り飛ばして破壊する。
そのジム改の足元を二機目のドムのバズーカが走り抜ける。
次の瞬間、その両腕がジム改のビームサーベルで切断されていた。
三機目のドムは。
すでにヒートサーベルを振りかぶっていたが、アムロのビームサーベルが速い。
首を両断されて、コントロールを失ったドムは、転げるようにして、地面に突っ込んだ。
「アムロ、勝利です。」
フレデリカの声がきこえた。
「シミュレートバトルを終了します。」
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「ユーリー・ハスラー少将。はるばるの帰還ご苦労だった。」
「は、いえ、マ・クベ総司令官。わたしは准将で……」
「昇進だよ。よくやってくれた。」
マ・クベは、小惑星アクシズで帰還した宿将を温かく(彼にできる精一杯で!)迎えた。
ジオン本国に残る最後のグワジン級戦艦グワデンのブリッジである。
「ゼナ様のご様態は?」
「いちばん、悪い時期は脱したとの事です。」
ゼナは、ドズル・ザビの妻であり、ミネバの母でもある。現在のアルテイシア・ソム・ダイクン体制に恭順の意を表すため、幼いミネバを先遣艦隊と称してエンドラ1隻で先行させたのだった。当然ゼナも同行すべきであったのだが、一時は命まで危ぶまれるほどの病床にあったゼナは、アクシズに残ったのだ。
やっと。
やっと、アクシズは地球圏に到達した。
「ミネバ様は?」
マ・クベは少し笑って、ウラガンを呼んだ。
ミネバを連れた副官はすこし、居心地が悪そうである。
幼い子供の扱いに慣れていないのだ。
「ユーリ将軍閣下!」
旧知の軍人をみて、ミネバはうれしそうに笑った。
「ミネバ様もご元気そうで」
ユーリー・ハスラーも微笑んだ。
「お母様は?」
「お元気ですよ。」
ユーリー・ハスラーは答えた。
「いまグワンザンで、アクシズからズムシティに移動中です。」
「行き違いになってしまったか……まあいい。ゼナ様にはまずは病院で検査を受けていただこう。」
マ・クベは言った。
「アクシズの医療設備を軽視する訳では無いが……念には念をいれて、というところだ。
それに、旧ザビ家のものを冷遇したということになると、公王府がうるさいのでな。」
「痛み入ります。」
ハスラー“准将”は丁寧に頭を下げた。
大戦終結後、ジオン本国からアクシズに逃げたものはかなり多い。
最近流行りの仮想戦記では、大戦に敗北したジオン軍の一部がアクシズで再起を図るために脱出した―――そんなふうになっているか、もちろん現実ではそんなことはない。
ニュータイプの素養があると思われたものたちにとっては、キシリアのニュータイプ狩りから逃れるためだったし、ゼナやミネバにとっては完全にギレンとキシリアの政争から身を引くためでもあった。
「ではミネバ様は、病院のほうにお連れします。」
ウラガンは、さっさと連絡をとっていた。
「特別室をとっておきますので、ミネバ様も一緒にお食事も。もしよろしければ、ベッドも用意いたしますので今宵は御一緒にお過ごしください。」
「あ、ありがとうございます、ウラガンさん!」
さすがに、長期間、母親と切り離されたのは寂しかったのだろう。この顔は年相応の子どもの笑顔に溢れていた。
「まだしばらくこの艦は、アクシズの受け入れのためこの宙域に留まります。ミネバ様はランチにお乗り換えください。」
「では、ウラガン。この者たちもお連れください。」
ユーリー・ハスラーが天井を見上げた。
二人の少女が飛び降りてくる。
ひとりは分析用のアイグラスに緑の髪。
「ライラック!!」
ミネバが叫んだ。
もうひとりは、栗色の髪をツインテールにまとめていた。
どちらもミドルティーンにしか見えない。
「セルマ・イレルゼ!」
だが、マ・クベとウラガンの目は呆然と天井を見つめている。
そこから。
まっすぐに見下ろす瞳は赤。
いや、重力の働いていない宇宙戦艦の環境である。
天井に貼りつこうが、立とうが、それは自由なのだが。
「ヨル! ヨルも来てくれたの!?」
「もちろんですよ、ミネバ様。」
長い黒髪の少女は優しく微笑むと、天井を蹴って加速をつけ、くるりと回転してグワデンのブリッジに降り立った。
「ミネバ様付きのニュータイプ部隊。ヨル、セルマ・イレルゼ、ライラックの3名です。
ミネバ様に同行させたいのですがよろしいでしょうか?」
ジェットストリームアタックは初見殺し的なところがあるので、あちら側のメタ記憶のあるアムロには最悪の一手でしたね。
ミネバ専用ニュータイプ部隊はそのまんまです。
ガンダム以外のキャラクターは少しずつ名前を変えてますが、あんまりいいのが浮かばなかった。
「わたしはララァ・スンを許さない!」