その存在を知ったマチュは震える。
急展開しそうでしない!
「テーマは自由! なんか書いてみよう!」
というカリキュラムをとってみたマチュは、なんとなく一本。論文めいたものを書き上げて提出しておいたのだ。
この講座の目標はなにはともあれ、「論文」というのを主に新入学生に書かせ、その添削を通じて「論文の書き方」を指導するのが目的である。
マチュは、クランバトルに出たり、クランバトルに出たり、クランバトルの講師に呼ばれたり。
それだけでけっこう忙しい。この講座で教養課程に必要な単位がとれるのは悪いことではなかった。
「聞いたよ。教授に呼ばれたんだって?」
アムロが学校に来るのは久しぶりだったりする。
昼間は打ち合わせや、シミュレーターの調整。夜は夜で、N・ロックの主催する食事会(社会では『接待』とよばれるアレ)にひっぱり出され、通学回数は、自分の籍があるジオン工科大学ネオ香港キャンパスではなく、ネオ香港大学の方が多い。
「う……うん。研究室入りを勧められた。」
その教授は、変人ではあるが、学内ではなかなか権威のある人物だった。しかも専門は―――マチュの専攻したがっていた「ゼクノヴァ」である。
断ることなどありえないのだが―――
「わたしのことを何かで知って、スカウトしてきたんだと思っていたんだけだど」
そう、マチュは世界を震撼させたゼクノヴァ……イオマグヌッソ事件の当事者である。
なんだったら、引き金をひいたのは、ルームメイトのニャアンであり、向こう側からから現れた白い巨大化するガンダムの首をはねて、撃退したのはマチュ自身である。
そのほか、赤いガンダムがパープルウィドウを撃沈してしまったり、キシリアの親衛隊とギレンの親衛隊が戦ったり、あまり大っぴらに出来ないことはやまほどあるのだ。
ゼクノヴァ現象を研究するものにとっては、その場に居合わせたものなら喉から手が出るほど欲しい―――には違いないのだが、どうもそうでは無いらしい。
そこらの事情はまったく知らずに、純粋にマチュが一晩で書き上げた論文「もどき」を読んでスカウトをかけたらしいのだ。
マチュの論文は、アムロも読んだが、論文というよりもエッセイに近い。
その論じるところは―――
ゼクノヴァを起こすにはイオマグヌッソという装置は不要である!
というものであった。
実際にイオマグヌッソ以前にも、人類は『ソロモンショック』という現象を目の当たりにしているから、主張自体は無茶苦茶ではない。
ただ、論文ならばそれを検証する為のデータが必要だ。
実験の結果、或いは信頼に足る文献からの引用など。
マチュのエッセイは、それらをすべてすっ飛ばしていた。
ゼクノヴァの発生に必要なのは、複数のニュータイプとサイコミュの存在である!
元気よくそう結論づけているのだが、ではなぜキシリア・ザビはあの巨大な装置を作り上げたのだろうか。
それは人々に共通『幻想』を作り出すためである!
マチュのエッセイは元気だけはいい。
発生にはニュータイプとサイコミュ以外必要としないが、それをコントロールする為にはあの形と大きさが必要なのである!!
そして!その根拠は!
ガンダムが言っている!!!
うーん。
根が理系で技術者肌のアムロは頭を抱えたくなるのだが。
マチュのカンは実によくあたる。
ランチ時間の学食はほどよく混んでいた。
「アムロは午後からの予定は?」
「これからちょっとネオ香港大学に呼ばれてる。シミュレーター担当のフレデリカさんからの応援要請なんだ。」
「また! 『白い悪魔』はモテんのね。」
「フレデリカさんが、連邦軍のお偉いさんのお嬢さんだからって言うんだろ?
いや、多分なんだけど、玉の輿の狙いはヤンさんの方かもしれないよ。」
「“奇跡のヤン”を?」
「そうだよ。連邦軍はヤンさんを軍に戻したがってるし、義理の父親の頼みなら、なんだか望みはあるだろう?
……でもフレデリカさんがぼくを呼んだのはもっとマジメな用事だよ。」
「ほう? と言いますと?」
「新しく来た技術スタッフさんがね…もとトリントンにいた技術者で、実際に試作ガンダムの制作にも関わってたそうで。シミュレーターの設定にやたら文句を言ってくるんだ。」
「ニナ・パープルトン?」
「ああ。ガトーさんやコウさんも持て余してるみたいだ。とにかく思い込みが強くてことガンダムになるとテコでもひかない。
でもまあ……3時には終わる。マチュは?」
「わたしもそのくらいには終わるよ。」
「そうか。」
アムロは、チケットを取り出した。
「写真展なんだけど、帰りに寄らないか? ニャアンの都合はどうかな?」
「あの子は……たしか補習で終わるのは夕方。」
「じゃあ、写真展は二人で行くとして、待ち合わせして三人で外食しよう。」
「うん。でも写真展? 珍いしいね。天パに写真の趣味あったっけ?」
「趣味はないけどね。
ほらアクシズが地球圏に帰還しただろ。その帰還記念イベント。『深宇宙を観測する』展だよ。」
アムロはチケットをテーブルに置いた。
異形の小惑星の写真が刷られている。
「それってなに?」
マチュの目が険しくなった。
「アクシズが撮った小惑星だよ。」
「……なんで、イオマグヌッソそっくりなの?」
それは一個の小惑星というよりも大小の岩塊を連結したような巨大な構造体のようだった。トゲのように飛び出した突起物が下方に向かってのびている。
「偶然……と言いたいけどね。」
アムロは声を潜めた。
「ハマーンさんから聞いたんだけど、この小惑星の近くで、アクシズの調査隊が3人の女の子を救助してるらしい。」
「なんで、虚空のなかの岩っころにひとがいるの?」
「アクシズへの移民船が難破した、ということらしいんだけど。該当する移民船は特定できなかったらしい。
まあ、デギン公王が亡くなったり、キシリアのニュータイプ狩りも本格的になってきて、ジオン本国からアクシズへの移動も多かった時期だから。
3人ともまだ十歳になるかならないかの女の子たちで、しかもニュータイプの素養もあったそうだ。かわりものだけどいい子たちだって、ミネバ様のお世話役になったらしい。
ミネバ様自身もだろうけど、ハマーンもその子たちに再会出来るのを楽しみにしてる。」
「なんか……いやな予感がする。」
マチュは顔をしかめた。
「……って、ガンダムが言ってる。」
「なんとなくマチュの言いたいことはわかるよ。」
アムロは、笑った。
「イオマグヌッソが他の世界へのゲートとして作用するのに、その形と大きさが重要なら、この小惑星もまたゼクノヴァを起こしたのかもしれない。アクシズが救助した少女たちというのは。ひょっとしたら『向こう側』から来たのかもしれないってね。」
「アムロ、まだそこまでたどり着いてないわ、わたし。」
アムロたちは少し、予定を変更することになった。
ランチに遅れてやってきたニャアンが、試作ガンダムのシミュレートと聞いたとたんに張り切り出して、自分も行くと言い出したのである。
そういえば、ニャアンはガトーの追跡に実際にゼフィランサスに乗り、シーマ配下のゲルググと戦っている。
それならば。
と、マチュも午後の授業の放棄を決め、3人はネオ香港大学に向かった。
「フレデリカのシミュレートの方が実際に操縦した感覚に近い。」
シミュレーターから降りてきたニャアンはキッパリと言った。
「ニナ・パープルトンの提案はすべて却下。この状態で『ガンダム強奪』のシミュレートバトルを開始することを提案します。」
「ニャ…アン。でも、そのわたしのガンダムが……」
「数字上のスペックはともがく操作感覚は、実際に戦ったパイロットの意見を優先してよね。」
腕組みしたマチュが、ニナ・パープルトンを睨むように言った。
「それとも、なに?
サイサリスにだけ実弾が積んであって、追跡のドムは演習用のペイント弾だったことを蒸し返そうかなあ?」
ニナは、この二次創作内でほんとにあったサイサリス強奪事件にこっそり暗躍しています。ガトーのためにサイサリスに実弾を装填したり、追撃のドムにペイント弾しかもたせなかったり。