「ケリィ・レズナー氏への連絡は、きみがするよりも、アナベル・ガトー氏に任せるべきだと言うことだね。もっともな意見だ。
あとはいきなり、パイロットとしてのシミュレーターへの参加は抵抗があるかもしれない。
“ジオンの残光~スターダストメモリー”に、モビルアーマーのヴァル・ヴァロが登場させる予定があるので、シミュレーターのアドバイスをお願いしたい―――くらいが話しの持っていき方としてはいいかもしれない。
では、ガトー少佐に連絡をお願いするよ。」
アムロは助けを求めるようにヤンに視線を送ったが、ヤンは困ったように首を振った。
「さて、もうひとつの問題を片付けてしまおう。
『今日、M.A.V.になります』のテコ入れ策だ。」
N・ロック氏は、ネオ香港のシミュレーターバトルにかかり切りになっているわけには行かない。
目下のところ、株式会社捨て猫同盟がいちばんリソースを割いているのは、クランバトルスクールの配信ショー『今日M.A.V.になります』だ。
一旦は編集をかけるものの、台本や筋書きはない。この意味では本当にリアリティショーにちかいのだが、基本方針はあるといえばある。
それは「脱落者を出さない」という事だ。
十代の少年少女をパイロットに駆り出したケース。たとえば先の大戦末期には、ジオン、連邦軍ともに訓練を繰り上げて卒業を待たずに、子どもたちを戦地に送り込んだ。
死亡率はおそろしいことになった。
かのキシリア・ザビでさえ、そのことには批判的だったようだった。
学徒動員兵の「救国の志」を熱弁する副官に、彼女はこう言ったという。
「……気持ちは分かるが戦果だけが全てなのでな。脆すぎる。」
クランバトルも負傷や最悪の場合、死と隣り合わせの危険のあるものである以上、せめて「脆すぎない」程度の技量は持たせてやりたいと思うN・ロックである。だが十代の少年少女である程度の技量をマスターしているとなると、彼が今回、クランバトルスクールに集めた月面支社のニュータイプや、フラナガンスクールの生徒たち、それに反則気味ではあるが、ある程度安定して運用できるムラサメ研究所の強化人間に頼るしかない。
彼の構想では、二人一組にM.A.V.を組んでもらい、総当り式で戦ってもらう腹積もりなのだが、そのためにはいまの人数から参加選手を減らすことは出来ないのだ。
アムロ、マチュ、ニャアンを教官として、投入するというテコ入れは、大成功だった。
だが、彼らは現役のクランバトルのランカーであり、ジオン工科大学の学生でもある。
あまり長期、グラナダに縛り付けることはできない。
かわりに……
以前にデモンストレーション試合に登場したユリアンを派遣してもらおうと、ヤン・リーにかけあったのだが、あっさりと拒否されてしまった。
何だかんだ。やっぱり月の裏側にあるグラナダと、ネオ香港は遠いのだ。
N・ロックの顔を見たヤンは、先回りをするように言った。
「ユリアン自身はクランバトルを嫌がってるわけではありませんよ。」
項垂れるN・ロックに、ヤンは慰めるつもりで続けた。
「モビルスーツの操縦そのものは好きみたいです。今でもパイロット養成コースには通ってますし……バトルシミュレーターにも乗ってるんじゃないかな?
そっちはポプランが見てくれてるんでなんともいえないんですが。
いずれにしても、ネオ香港から、グラナダのスクールまで通うのは無理ですよ。」
ふう
と、N・ロックはため息をついた。
「わかった。たしかに、ネオ香港から月面まで“通う”のは不可能だ。」
「ご了解いただけて、ありがとうございます……」
「ではこうしよう!
クランバトルスクールをネオ香港に持ってきます!」
はあ!?
ヤンは目を見開いた。
「いずれにしてもジュニアクランバトルは、有重力下での試合も想定してるから、どこかで一度地上でのモビルスーツの扱いを訓練する必要はある。」
N・ロックはキーボードにメッセージを打ち込んだ。
「期間は、三週間。スタートは10日後でいけますね。
会場手配はクワトロさんにお願いするとしよう。座学用の設備は―――ネオ香港大学にお願いできるかな?
キャゼルヌ先生連絡はつくかな、ヤン君。」
「待ってください! ユリアンのスケジュールを確認しないと……」
「ユリアン君の通ってるパイロットスクールは、ああ、ここか。ちょうどいい。ここのスクールごとうちと合同授業を企画したら面白そうだな。こっちにもメッセージを、と。」
怪物を見る目で、ヤンはN・ロックを見つめた。
「おっ! グラナダのうちの本社からだ。なるほど! アクシズ帰還者 のニュータイプをジュニアクランバトルに取り込めないか、打診をかけてる?
いいじゃないか。リアリティショーの配信で認知度も上がってる。どうせ卒業してもジオン軍のパイロット以外に将来性のないフラナガンスクールよりもこっちに興味を示してくれる者も多いだろ。
わざわざアクシズに避難したニュータイプにとっては、フラナガンスクールはイコール、ギリシア親衛隊のための養成機関という忌避感も強いはずだ。
……そうだ! せっかくネオ香港でジュニアクランバトルスクールを開催するんだ。体験入校という形で、旅費と滞在費はこちらで負担するといえば、喜んで飛びついて来てくれる。
ネオ香港グルメツアーと、あと希望者には、クランバトルのスーパーエース『白い悪魔』とのシミュレーターバトルも……」
ヤンは助けを求めるようにアムロを見たが、アムロはお手上げです、というように首を振った。
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ヨル、セルマ、ライラックへ。
地球への帰還、心より歓迎する。
ゼナ様もお元気との事。安心した。
ミネバ様にはもう会ってくれたようだ。
アルテイシア様もミネバ様をかわいがってくれている。ミネバ様も懐いている。
心配していたダイクン派による弾圧もない。
おかげでわたしは、ネオ香港で時を過ごしている。
笑わないでくれよ。
クワトロ・バジーナなるクランのオーナーを口説き落として、結婚しろと父上から命令を受けたのだ。
そちらはあまり上手い具合には言ってないが……
まあ、ネオ香港はいいところだ。
おまえたちと会って話がしたい。
わたしとおまえたちのこれからのことを話したいのだ。
わたしたちは、ギレンでもキリシアでもなく、ミネバ様こそがジオンの公王を継ぐものだと。
そう思ってミネバ様に接してきた。
だが……
それはもう有り得ない。
いや、あったとしたらそれは―――まだ、幼いおまえたちには話すべきではないのかもしれないが、とんでもない混乱がおこり、多くの血が流された後となる。
そして、わたしは、いささか俗物化してしまったようだが、そうまでして達成すべき「正義」を感じられないのだよ!
だからミネバ様は、公王となり民を指導する立場ではなく。
ただひとりの人間として、成長し、おのれの成すべきことを自ら見出して欲しいのだ。
はっきり言うぞ?
おまえたちは年齢のわりには、思慮深く、しっかりしているからな。
わたしやおまえたちは、これからのゼナ様やミネバ様には不要な存在だ。
生活の面倒は、ジオン公国が見てくれるだろう。
だが、ミネバ様を主として仰ぎ見るものたちは、もう周りにいないほうがいい。
突然、こんなことを言われてショックだと思う。
だから、直接会って話がしたい。
ネオ香港は本当にいいところだ。
わたしのクラバ仲間のアムロ・レイという男からジュニアクランバトルスクールが、ここで開催されることをきいた。
クランバトルという言葉には馴染みが無いかもしれないが、モビルスーツによるバトルショーだ。
厳密に言えば戦いじゃない。試合なんだがそれなりに危険と隣り合わせだ。
そのジュニア部門の養成機関が、ここネオ香港で臨時開催される。
参加してみないか?
おまえたちはみんな強力なニュータイプだ。
モビルスーツの扱いも優秀だ。
「これからどうする?」
の答えひとつにわたしはクランバトルを考えている。
マシュマーやキャラたちもいまネオ香港にいる。
……まあジュニアクランバトルスクールへの参加というのは、ただの方便だ。
おまえたちに、暗く冷たい深宇宙以外の生活を体験させてやりたい。
そのうえで、ともに歩めるのなら一緒に歩もう。
外の世界には、お前たちがまだ知らないものがたくさんある。
いろいろ知って、経験して、そらから自分のあゆみ出す道を決めて欲しいのだ。
モビルスーツを戦争のためだけではなく、競技として扱う者たち。
自分とは違う技術を持つパイロット。
そして、戦うこと以外の理由でモビルスーツに乗る人間たち。
それらを見ることは、お前たちにとって決して無駄にはならないだろう。
もちろん、クランバトルそのものに無理に参加する必要はない。
なんなら見学だけでも構わない。
ネオ香港大学には私もいる。
ジュニアクランバトルスクールは、三週間ほどの開催予定だと聞いている。
その間に一度、顔を見せてほしい。
それから――
お前たちが興味を持っている者たちもここにはいる。
「ソロモンショック」の渦中にいたシャア・アズナブル。かれはいまクワトロ・バジーナと名乗って、ネオ香港でクランのオーナーをしているんだ。
そう。わたしが父から結婚するように、指示された相手がこいつなんだ。
わたしたちは一目会ったときから、相思相愛なのだがな。ララァ・スンというたちの悪い女がくっついていてどうにも二人きりになりにくいんだ。
……いろいろと余分なことも書いてしまったな。
もしネオ香港に行ってみたいと思うのなら、カーン家のものに声をかけるといい。
すぐに地球行きの手配をしてくれることになっている。
ヨル。
セルマ。
ライラック。
待っているぞ。
ハマーン・カーン
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三人は顔を見合せた。
「なんてことでしょう。」
ヨルの唇が綻んだ。
「ホンモノのアルテイシア・ソム・ダイクンには会っておかねばと思っていたところに、ネオ香港行きの話が舞い込んできましたわ。
おまけにネオ香港には、薔薇のお姫様とその想い人までが揃っている。」
「ミネバんとこでは、あたしらは不要?
不要って言い方は気に入らないなあ。あたしは何時だって役に立つんだからね!」
セルマはツインテにした髪の先を顔の前で遊ばせながら言った。
「……話が上手すぎるわ。なにかの罠かも。」
ライラックが眉を顰める。
「だとしても構わない。」
ヨルは、ティーカップを持ち上げて、ゆっくりと香りを楽しむように口に運んだ。
「ハマーンの言う通り、ミネバにわたくしたちがして差し上げられることは終わりました。
わたくしたちはわたくしたち。その成すべきことをいたしましょう。
世界を―――理をあるべき姿に戻すために。」
せっかくなので魔女っ子三人衆と白い「悪魔」とのシミュレーターバトルはどこかでいれようなかな。
アムロvsワルプルギスのヨルという、どこからも需要のない展開。
「……この、悪魔め」
とかのセリフもそのまんま使えるし。