第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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第13話 鼓動

その男に会うのは久しぶりだった。

連絡は何度かとっている。政権の交代というものは、とかく煩雑なものであるし、それが血統の変更を伴うものなら尚更だ。

 

だが概ね。そう概ね彼らは上手くやっていた。

 

これは簒奪ではない。

 

もともとの持ち主に公位が戻っただけだ。

 

国民はそれで納得している。

連邦や旧ギレン派、キシリア派。

それぞれの勢力はいずれなんらかのアクションを起こすのだろうが、いまは静観していた。

正当な血統とはいえ、まだ二十代の女性がどのようにこのコロニー国家の舵取りをするのか。

それを冷ややかに見守っている。

 

「少しお待ちくださいね。」

そう言いながら、シャリアを出迎えた美しい女性は微笑んだ。

「外交部から急な連絡が入ってしまって―――ところで飲み物はいかが?

西海岸のいいワインがあるわ。」

 

「お気づかいなく、ハモン殿。」

シャリアはそう答えた。

彼女は―――苦手だった。

ほとんど自動的に相手の思考を読めるシャリアにとっても読みづらい相手というのはあるのだ。

「わざわざお呼びいただいたという事は重要な用事でしょう。あまり酔ってしまうわけにはいきますまい。」

 

「そうかしら。酔った方が聞きやすい話かもしれないわ。」

嫣然とハモンは笑った。

 

そういえば、籍は入れたのだろうか。

 

シャリア・ブルはぼんやりと思った。

もともと肩身の狭いダイクン派として最前線に送り込まれ、そこで武功を立て続けることでしかザビ家に対する忠誠を表せなかった時代とはわけが違う。

 

「遅参した、“灰色の幽霊”殿。」

足早に入ってきた男は、現在公王警備隊の隊長を務めている。

美男とは言えない。

口ひげをたくわえた男らしい顔。

がっちりした身体はよく鍛えてはいるが、年相応に腹も出ている。

 

「その呼び名は」

シャリアは手を振った。

「キケロガも失った身ですので。」

 

「その仮面…まだ外されないのですかな?」

 

シャリアは苦笑した。

その目元をすっぽり仮面が覆っている。なにかのバイザーのようにも見えるが、例えるならば中世期の仮面舞踏会の登場人物を思わせるようなある種異様な印象を与える仮面である。

 

「わたしは二度と…表舞台に姿を現す気はありませんでした。

その戒めの意味でこの仮面をつけております。」

 

「そのことならもう決着はついている。

キシリア閣下は、イオマグヌッソ暴走による混乱の中、ガンダムに乗った何者かに攻撃され、その乗艦ごと亡くなられた。

シャリア・ブル殿はその後、ガンダムと交戦、相打ちの形でこれを大破させたのだ。ガンダムのパイロットは脱出し行方不明。

交戦の模様などはソドンやあの宙域に居合わせた艦艇からも確認されている。

あなたは、与えられた場所において己の出来るベストをつくしたのだ。なんら恥じ入るところはない。」

 

映像を上手く繋げば、そうなるのか。

シャリアとしては苦笑せざるを得ない。

 

彼の目的もまたキシリアをあそこで亡き者にする事だった。それをあの男に先にやられてしまったのだから。

 

「あれのパイロットが行方不明だった

シャア大佐自身であったとの噂もありますが……」

 

「それならばそれで。キャスバル様が簒奪者たるザビ家を討ったということなのだからな。」

 

二人は互いをさぐり合うように相手を見やった。

ワインを一口飲んでから、シャリアは諦めたように言った。

 

「今回のお招きはわたしに政権入りをすすめるものではなさそうですね。」

 

「それに応じてくれるのなら、筆頭補佐官の地位を用意する。きみはわしとは違って軍服よりもスーツのほうが似合うとふんでいるのだが。」

 

「お戯れを。」

シャリアは視線を落とした。

「大佐がその心内に澱を抱えるように、わたしもまたどうにもならない虚無を抱えております。そのようなものが人を導く立場にたって良いはずはありません。」

 

「それは考えすぎでしょう、シャリア。」

ハモンが言った。

「政治家は人を導くものではありません。独裁者でもない限り、人が人を一個の意思で導く事などありえません。」

 

「それよりも」

シャリアは居住まいを正した。

「クランバトルをいよいよサイド6が公式競技として認めるそうですが。」

 

 

今度はラルとハモンが苦笑を浮かべた。

シャリア・ブルは極めて高い確率で相手の心を読む。それは漠然とした感情や思いを汲み取るという程度ではない。

相手の考えている事を明確に言語化できる精度で読み取る事が出来るのだ。

 

 

「それ自体は悪い事ではないと……わたしは考えます。

現在、ジオンは、ア・バオア・クーとその戦力を失ったとはいえ、軌道上に足がかりのない連邦軍の直接的な反攻はしばらくないでしょう。

我々が困るのは、ジオンが地上にもっている要衝、およびそこに駐留する自軍へのテロまがい攻撃です。

それは大軍同士のぶつかり合いではなく、少数でも高性能なモビルスーツによる戦闘がその中心となります。」

 

「たとえばサイド6に投入されたモビルアーマーのような?」

 

「そうです。連邦はサイコミュを単なる遠隔操作または操縦補助の技術として割り切っているところがあります。

あの人工ニュータイプと合わせて、しばらくはその開発に傾注するでしょう。そしてクランバトルはその性能テストの舞台としてこの上ないものとなる。」

 

シャリアはじっとラルを見つめた。

 

 

「わたしにクランバトルに関われ、と。」

 

 

「話が早くて助かる。」

ラルはワインを飲み干した。

ハモンが新しい酒を注ぎ―――自分のグラスもまた真紅の液体で満たした。

「だが、話はもう少し具体的だ。

このところ、クラバに登場し、連勝を続けているある機体にわしは注目している。」

 

「その機体がガンダム、を名乗ったからといってそれがなんだというのです?」

悪い癖でシャリアは勝手に相手の心を先読みしてた。

たいていの相手は嫌がる。

嫌がらなかったのは、サイド6で拾った少女くらいのものだった。

「払い下げのモビルスーツをカスタマイズするのは、けっこうやっているはずです。外装を似せてガンダムに近づけるのはそれほど難しいことではない。」

 

 

「情報部からの報告ではこいつにはどうも、連邦の旧ガンダム開発チームが直接関わっているようだ。

パイロットはまだ二十歳そこそこの若者だ。

開発者チームのリーダーと同じ姓だな。どうも父親の開発した機体のテストパイロットを自ら買ってでたということらしい。」

 

 

まさにいまシャリア・ブルが予想した通りの展開だった。

たしかに興味を引かれるが、それだけだ。

 

ラルは1枚の写真を取り出した。

電子的なデータではない。わざわざ印刷したものだった。

 

モビルスーツが写っている。

塗装は白を基調にしている。

大佐用に赤く塗装するまではガンダムはそのような色だったと知識のなかにある。

それ以外はシャリア・ブルの知っているガンダムには似ていない。

本当にガンダム開発チームが関わったのだろうか。

 

全体として、本物のガンダムよりものっぺりした印象をうける。

人体に近い自在な動きを可能にするギミックや姿勢制御用のバーニヤの数はだいぶ少ない。

 

払い下げ品のカスタマイズではなく、限られた予算の中でフレームから開発し直したのなら確かにそんなものかもしれなかった。

 

名前だけを借りた出来の悪い模倣品。

それを見たものは誰もがそう判断するだろう。

 

 

だがかつてシャリアは見ていた。

「向こう側」からきた「アレ」を。

 

「イオマグヌッソ宙域での実際の戦闘データは政権中枢部のものでも知るものは少ない。」

ラルは探るようにシャリアを見つめた。

「どうだね? これは。

『アレ』に似ているかね。」

 

そんなはずはなかった。

「アレ」はガンダムクァックスに首を落とされ向こう側に消えたはずだった。

だが、写真をみたとき、シャリアははっきりと感じた。「アレ」を見たときと同じ戦慄を。

 

恐怖を。

 

「ソドンを使ってくれ。クルーも以前のままだ。エグザベくんとコモリ少尉も連れていきたまえ。」

 

それしかない。

 

イオマグヌッソでなにが起きたかを知るものは少ないほどいいのだ。

 

「ギャンと……きみにはゲルググを用意した。マグネットコーティングとやらを施しているからサイコミュほどとは言わんが操作への追従性はかなり上がっているはずだ。」

 

 

「わかりました。

まずは地球に降りたいのですが……今回の任務にスカウトしたい最適な人材がおります。」

 

 

「もちろん、サイド6のニュータイプたちも連れて行ってほしい。

それと地上でもクランバトルまがいのイベントが始まっている。」

 

シャリアは目を細めた。

 

「……それは。知らない情報です。」

 

「その主催者にもコンタクトをとってほしいのだ。まだ若い男だが。」

 

「まさか、その男はシャアとかキャスバルとかシロウズとか言う名前ではないでしょうね?」

 

「そうだとしたら、我々も頭の痛いところだが、元連邦の軍人だ。

クワトロ・バジーナと言うらしい。とは言え、偽名かもしれん。そこらは君自身が確かめて欲しいのだ!」

 

 

 

 

 

 

 




うーん。渋い出だし。
マチュたちの登場は、第2話「コロニーの落ちた地」から。
赤い人は第4話。お好みもあるかと思いますが、もしよろしければそこら辺までお付き合いくださいませ。
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