どちらが現実。それは本当に戦い?
ネオ香港へ。凶星たちが集っていく。
グラナダ宙港。
ティート・トゥッチは、いやいや手元のタブレットから目を離した。
肩をつんつんしたのは、同じジュニアクランバトルスクールの生徒であるニイである。
「そろそろ、ゲートに移動するって。」
ティートは特に気にしないことにしていたが、配信番組において、彼とニイはカップル推しされていた。
この様子もドローンカメラで撮影されていて、放映させるのだろうか。
ウンザリする。
「それって、スパルタニアンの改修プラン……ですよね?」
ニイが画面を覗き込んできた。
「アムロ先生が送ってきた。
前に話したスパルタニアンの強化プランだ。
―――あのひとも同じようなアイデアをもっていたんだな。構造強度や製造コストまで、計算してくれてる。」
「名前もついてる……んですね。」
ニイもいい加減変わっている。
と、ティートは思った。互いに人付き合いのよいほうではなかったが、それなりに仲は良いはずだ。それなのに、最初は必ず敬語で話しかけてくる。
「リゼル―――リファインゼータガンダムエスコートリーダー。
ニュータイプ専用機やワンオフ機。戦略級のモビルアーマーに随送して、護衛する任務の特別機にするらしい。」
「そんな高性能機に護衛なんているの……でしょうか?」
「数で押し切られたら、どんなニュータイプでもどんな高性能機でも、さすがに、な。」
ティートはタブレットをリュックに放り込んで、立ち上がった。
「モビルアーマーにしてもそうだ。でかい分、被弾面積は大きくなる。Iフィールドに重装甲。それでも死角は生じるし、戦えば戦うほど、武器も推進剤も消耗する。」
それはそうなんだろうけど。
と、ニイは目で言った。
「これはアムロ先生とも話したんだが」
先に立って発着ゲートに向かいながら、ティートは言った。
「ジオン正規軍は、次世代機はほぼ、ゼク・アインで固まりつつある。
だが、公王府直属軍については、正規軍のものをそのまま採用するとは限らない。
とくにあそこは、自分が先頭で出撃したがるトップを抱えてる。
あの残念姫の直属部隊には、ぴったりの機体なんだとさ。」
「も、もしかして」
小柄なニイは小走りに、ティートのあとを追った。ティートはそれに気がついて歩幅を狭めた。
「ほんとに採用されちゃったら?
そしたら……クラバ辞めちゃう……ですか?」
思いもかけないことを言われたように、ティートは驚きの表情を浮かべて、立ち止まった。
一呼吸おいてから、ニヤリと笑う。
「いや……オレの理想はアムロ先生なんだ。
クランバトルにおいては無敵のパイロット。そして技術者としても超一流。」
手を伸ばして、ニイが抱えたボストンバックをひったくる。
身の回りのものは荷造りして、配送済みだ。
訓練に使うスパルタニアンは、ネオ香港のパイロット養成スクールの機体が借りられることになっている。
とはいえ、バッグはかなり重そうだった。
「それに……だ。」
ティートはにやにや笑いながら言う。
「富と名声もついてくる。」
ゲートのあたりで、小柄な少女―――とも少年ともつかない生き物が、ぴょんぴょんとんだ。髪を結い上げ、余ったところを実に適当にピンでとめている。
「おーい! ネオ香港行きシャトルのゲートチェックインはじまったよ!」
重力が地球の六分の一の月面において、ぴょんぴょん跳ねるのは非礼であったし、地球出身者がそれをするのとは、差別的な意味合いもあったが、さすがはムラサメ研究所のニュータイプ。
ドゥー・ムラサメは知ったことでは無い。
「いま行く!」
ティートはどなり返した。
走り出そうとするその手が、ニイの手を掴む。
ハッとしたようにニイは、顔を上げたが、構わずティートは、ニイを引いて走り出した。
―――『今日、M.A.Vになります』のネット掲示板はちょっと荒れた。
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N・ロック氏はワインを手土産に、クワトロ・バジーナを見舞った。
怪我は、打撲に肋骨のヒビということで、病院側では再生医療を試すことも必要なし、しばらく安静にしてるように、との事で、彼は自分のコンドミニアムにいた。
「サイサリス追撃のシミュレーションに参加して欲しいという話なら、お断りさせてもらったが」
プールまで備えた広大なテラスバルコニーに、クワトロはデッキチェアを持ち出し、寛いでいた。
となりのビーチパラソルのテーブルには、リゾート地にしか似合わない派手なカクテルがおかれ、氷をいれたバケットにシャンパンが冷えている。
椅子に腰を下ろした黄色のワンピースの女性は、N・ロックを見ると、手をあげた。
「カンチャナ! ヴァーニ!
お客様よ。グラスを3つとなにか食べるものを用意して」
いえいえ、おかまいなく、
とN・ロックは恐縮しながら、ワインを女性に手渡した。
「怪我のお陰で、ララァがいてくれる。」
サングラスをかけたクワトロはどこか苦い笑みを浮かべた。
「それはまあ……怪我をさせたのもわたしですからね。」
黒い髪をお団子にまとめた女性はコロコロと笑った。
メイド服の少女たちはすぐにやって来た。
慣れた手つきで、オードブルを並べ、シャンパンのコルクを抜く。
「それでは、『ジオンの残光』シミュレーションバトル第1回の成功を祈願して」
三つのグラスが、軽く合わされた。
クワトロが用意したシャンパンは、かなりの代物だった。N・ロックは手土産のワイン代をケチらなったことを神に感謝した。
「これで、シミュレーターに乗ってもらうバイロットには、“加藤大佐”役にアナベル・ガトーさん。彼の逃走を助けるジオンのゲリラ部隊に、マチュくんとニャアンくん。追跡する方は、“浦木豪”役に、コウ・ウラキ。ノース・バニング小隊はそのまま、サウス・バニング小隊がはいってくれます。」
「これをシミュレーター内でのクランバトルとして賭けの対象にするなら、これくらいが面白いだろう。」
クワトロは白い歯を見せて笑った。
「機体性能は追跡するトリントンが上。だが追撃される側は、“ソロモンの悪夢”に“狂犬”、“病み猫神”とネームドのクランバトルランカーが揃っている。」
「わたしとしては、『賭け』よりも配信数を稼ぎたいんですよ。」
N・ロックが飲み干したシャンバングラスに、金髪をオールバックにした少女がすぐにシャンパンを注いでくれた。
金色の液体のなかを泡が弾けていく。
「“赤い彗星”対“ソロモンの悪夢”はぜひ見たかった。」
「……くわしくは話せないが、ジオンの残光の元ネタになったと思しき事件は、本当にあってね。」
クワトロのグラスにもシャンパンのおかわりが注がれる。
「そこでわたしはガトーとやり合っているのだよ。
二度目はごめんだね。」
「そんなものですか」
そりゃそうだな……と内心思いながら、N・ロックは心から残念そうにそう言った。
「わたしを出すくらいなら、アムロ君を出したらどうだ? いま、きみのところで働いているのだろう?」
「まあ、そうなのですが」
N・ロックは頭をかいた。
「現状でも彼に負担を掛けすぎているような気がしていまして。
フロド先生から、発表前の原稿ばかりか、先々のあらすじまで聞き出してくれてるんです。
これ以上、要求したら」
「要求したら?」
「いっそ。このままうちの会社を彼に任せたくなってきますね。」
「ほう?
それであなたはどうする?」
「わたしは現場の仕事が好きなんですよ。コンテンツ制作の場に顔も出せないようなお偉いさんにはあんまり興味がないんです。」
そう言いながら、N・ロックは、あ、そうかと言って腕組みをした。
「どうした?」
「……いえ、この前、ヤンにまったく同じ感想をいだいたんですよ。彼がうちの社長をやってくれないかなって。」
「それってずいぶんと贅沢を言ってるわ。」
ララァが楽しそうに言った。
「どちらも、連邦とジオンが三顧の礼で迎えようとしてる人材よ。」
「少し違うぞ、ララァ。」
クワトロが、真面目くさった顔で言った。
「連邦とジオンだけではない。アナハイムエレクトロニクスもだ。つまりN・ロック氏の感想は急な思いつきではないのだよ。」
ニャアンがゾックに乗りたいとワガママを言い出した時、運営はどうするのだろう。