グラナダの宙港ゲートから、徒歩圏内に公園がある。
ジョギングやウォーキング、立ち入り自由のまた芝生にマットをひいてストレッチを行う人も多い。
よく手入れされた花壇や、公園の中央に建つ『ディアナ廟』を目当てにデートスポットとしても愛されている。
『ディアナ廟』。
グラナダ建設中に発見された冬眠カプセルに眠る少女を祀る廟は、今日は参拝客はひとりしかいなかった。
それをいい事に男は、祭壇の前に胡座をかいて座り込み、ビールを飲みはじめている。
一応、献花台にプルトップをはずした缶をおいているのは。あんたも一杯、のつもりなのだろうか。
髪を長く伸ばし、頭の後ろでまとめている。
年齢はわからない。
決して若くは無いのだが、では幾つかと聞かれると返答に困る。
冬眠カプセルの正面に、幻のように少女の姿が浮かんだ。
白いハイネックのジャケット。襟元には黒地に金色の縁、胸元には金色の円形と菱形を組み合わせた紋章が大きく描かれている。肩から腕にかけては、白く大きく膨らんだゆったりした袖が特徴的だ。
なにかの制服のようにもみえるが、そんな制服を採用している軍はない。
青い唇が苦笑の形に歪んだ。
「チェン! お供えされてもわたしは飲めないのよ?」
「それはそうだが『気持ち』だ。」
とぼけたような顔で男は言った。
チェン・シェンロン。
これがこの男の名前である。
身につけているのは、ジャージだ。
買い物袋の中に、ビールの缶がもう何本かと、肴にするつもひらしい唐揚げやビーフジャーキーが入っていた。
「流れ星が三つ。地球に降りたわ。」
「それは吉兆なのか、それとも」
「力に善悪はないわ。そうね、でも言うならば『歪みを正そうとする』力かしらね。」
「それはよくないな」
グイグイとビールをあおってから、チェンは言った。
「この世界は『歪み』がうんだ世界だ。
“シャイの逆襲”から生まれる黒歴史…それこそが本当の世界なんだろう?」
「ご明察。」
少女の亡霊は、しばし視線を泳がせた。
「グラナダに寄ってくれれば実力行使して止めたものを。素通りされてしまいました。」
「あんたはそれでいいのか?」
チェンは、チキンを放り込むと、またピールをあおった。
「あんたは“本当の世界”からこっちに来たんだろう?
この世界を定着させることに意義があるとは思えんな。」
「ここには、戦争にいかなかった『白い悪魔』がいるわ。『狂犬』マチュも『病み猫神』ニャアンも。それに本来いないはずの『奇術師』や『皇帝』も。彼らの力を信じましょう……」
「わかった、ディアナ・ソレル。」
チェンは立ち上がった。
「わたしになにか出来ることがある、というのだな?
どこへ行けばいい?」
「ネオ香港へ。仮想空間で歴史を紡ぐものたちのもとへ。
よしなに、伝承者。」
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ゼロと少佐殿はビジネスクラスに席をとった。
マクレーンの仕事は、ゼロ・ムラサメがサイド6から連れてきたとかいう少女たちのおもりだった。
飛行機での地上の移動は初めてらしく、シートベルトを締めさせたり、離陸時の加速にはちょっとビックリしたようだった。
「こんな大きなものが、1Gの重力下で空を飛ぶのですか?」
黒髪の少女が、通路を隔てたマクレーンに話しかけた。
「物理法則はどうなっているのでしょうか?」
「この世界は狂ってるのよ!」
緑の髪に眼鏡の少女が吐き捨てた。
「なんにしたって、役にたてばいいんだよ!」
ツインテールの一番幼げな少女が笑った。
ゼロ・ムラサメから、アクシズからの帰還者だと聞いていた。
おそらくコロニーの回転による擬似重力も含めて、常時1Gの重力のかかるところで生活したことがないのだろう。
「大気の抵抗を浮力に変えてるんだ。」
マクレーンも別に航空力学は専門ではない。
「あと手元のパネルから飲み物を頼めるから、警告ランプが消えたら好きに頼んでいいぞ。」
「ホント!? じゃ、わたしいちごパフェとトマトのゼリー!」
「……メニュー表にあるやつだけな。」
マクレーンがそう言うと、ブツブツ文句を言いながらもツインテは、メニューとにらめっこを始めた。
「あと食事がでる。メニューもパネルから選ぶんだ。メニュー表にあるやつだけな!
あと退屈だったらパネルから、映画やゲームが出来るからそれで遊んでろ。」
「この仮想空間でのバトルシミュレーションというのは?」
黒髪が尋ねた。
「ああ、そいつはこの前のネオ香港のシミュレーションを映像作品ぼくまとめたやつだ。いまここで、おまえらがシミュレーションに参加できるわけじゃない。」
「なんのシミュレーションなのですか?」
「フロドって、作家の歴史ifものシリーズだよ。地球や月面だと結構、人気なんだ。
今回は、試作ガンダムが強奪されてそれを追いかけるって追撃戦だ。」
「面白そうです。わたしそれを見ます。」
黒髪は慣れた手つきでパネルを弄った。
「……わたしは、このクリームソーダってやつにするよ!」
「飛行機が安定飛行の高度に達して、警告ランプが消えたら、な!」
「しまった……」
緑髪メガネが唇を噛んだ。
深刻そうな面持ちに、マクレーンは、どうしたと声をかけた。
「ディナーに『爆盛り青椒肉絲定食』を頼んでしまいました。」
「訂正をタップしてキャンセルしろ!」
「ライスが特大爆盛りに変更されてしまいました……」
「俺が修正してやるからそのままにしてろ。
警告ランプが消えてから、な!」
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「てんぱあっ?」
勝手に人の部屋のシャワーを使うのは、まあいいが、バスタオルを巻いただけで、うろうろされるのは困る。
「ドライヤーかけて!」
「自分でやってくれ!
……ああ、ごめん。ちょっと煮詰まってた。」
「ん、ン、んん~」
マチュは本当にタオルを巻いただけで、アムロに近寄ってきた。髪から雫が滴っていた。
「なにこれ。次回のシミュレーションバトル?」
「そうなんだが」
アムロは、手元のキーボードとトラックパネルを操作した。
かつてのアムロの愛機、ガンダムの意匠をどこかに残した“ゼフィランサス”が手足をバタバタとさせた。
「いま、どこでなにしようとしてるの?」
「設定は宇宙空間だ。射撃のために体勢を安定させようとしている。」
「……ぜんぜんなってないよ?」
「姿勢制御用も含めて、すべてのバーニヤ、スラスターが1Gの重力にカスタマイズされてるんだ。」
「なるほど。宇宙だと?」
「案山子のほうがマシだな。」
よいしょ、と言いながらマチュはアムロの隣に座った。とはいえ、1人がけのソファだから、体はぴったりとアムロにくっつくことになる。
「射撃がだめなら接近してビームサーベルは?」
「接近もなにも、動けないんだ。」
「今回の勝利条件はなんだっけ?」
「味方に撃墜機がなく、ゼフィランサスかアルビオンが中破以上の判定を受けないこと。」
「なあんだ。じゃあ、相手の攻撃をひたすら受け続けるしかないってこと?
完全に詰んだよね。いくら機動性や攻撃力、防御力が高くても、まともに動けない、射撃の狙いもつけられない……ではね!」
アムロは驚いたようにマチュの顔を覗き込んだ。
マチュは……頬をあからめる。
えっ……
このタイミングで……まあ、そんなに嫌じゃないけど
「いまなんて言った!!」
「ええっと、このタイミングでそういう流れになってしまうのかなぁって」
「心の声じゃなくて実際に言った方!!」
「え、いくら機動性や攻撃力、防御力が高くってもこれじゃ詰んでるね……って。」
それだ!
とアムロは叫んだ。
バーニヤ、スラスターの改装は禁止されている。だが、多少の変更なら……
マチュはとっても不満そうであったが、アムロらひたすら“ゼフィランサス”の改装プログラムに没頭していた。
まさに……!!
『白い悪魔』である!!
アクシズ三人娘をなんのモビルスーツに載せるかまだ決まらない。ひとりはバウンド・ドックにするつもりなのですが。