一方、アムロはネオ香港大学で、アクシズの少女たちと出会う……
目の前の男はうさんくさい。
漢服……というのだろうか。古来より、この地を文明を築いた民族が好んで着る衣装を身につけている。
いやマクレーンがそう感じるだけで、実際には違うのだろう。刺繍そのものを蛍光色に発光させる技術がチャイナの歴史にあったはずがない。
ビーズで飾り立てたメガネをはずすと、意外に
若く、2枚目なのがわかった。
「わたしがタオ商会のネオ香港統括支店長だ。
名をワン・ズーシュエン。」
「ニューヤーク市警のジョナサン・マクレーンだ。こっちが俺のバディ、モトコ・クサヤギ。」
握手はせずに、東洋式に頭を下げ合うと、ワン・ズーシュエンは2人に椅子をすすめた。
「ゼロ姐姐の紹介なので、できるだけ協力はしますが」
ワンは細い葉巻に火をつけながら言った。
「そもそもニューヤークの市警に、ネオ香港での捜査権などはないでしょう?」
マクレーンも遠慮なく、ポケットから少し潰れかけたウィンストンの箱を取り出した。
モトコが嫌な顔をしたが無視する。
空港で、引率の嬢ちゃんたちと別れてから、モトコに、一昨日ギャング団とやりあったときの突然のパトレイブの不調が、外部からのサイコミュを通じた操作系への干渉であり、それを行ったのが彼が機内で面倒をみていた三人の少女の誰かである―――という話をきかされたのだ。
本当はタバコではなく、ワイルドターキーをストレートでひっかけたい気分だった。
「そうだ。なにを聞いてもそれを理由にアンタらを逮捕することなど有り得ないし、その情報があんたらから出た、ということも言わない。約束するよ。」
「“北米軍一不運な軍曹”マクレーンは、なかなか義理堅い男だときいている。」
紫煙をくゆらせながら、ワンは言った。
「サイコミュの取り引き状況について、聞きたいのかね?」
横に座ったモトコが、横をむいてニヤニヤと笑った。
「なんだ、少佐? なにがおかしい!?」
「……いや、ね。あんたはそれなりに有名なのよ。自覚はしてないようだけど。」
「バリバリの特殊部隊上がりのあんたと比較するな。俺は地に足のついた歩兵だったんだぜ?」
「でもまあ、オデッサではあんたのお陰で十万の連邦兵の命が救われた。
そこにわたしの兄もいたのだ、ということは少なくともタオ商会では忘れてはいない。」
ワンはそう言って、後ろの棚から「飛天茅台」とラベルの貼られた瓶を取り出した。
「すこし、飲みながら話そう。アルコールで多少、舌が軽くなるかもしれない。」
盃につがれた酒を、マクレーンは口に放り込んだ。
複雑な味だが悪くはない。だがとんでもなく強い酒だった。
「……最初に言い訳をしておくとな。」
マクレーンは言った。
「別にマ・クベの野郎は、どうしても核を打ちたかったわけじゃない。 連邦軍の侵攻速度が思ったより早すぎて、やつが予定していた資源の打ち上げやジオン軍の撤退が間に合わなくなっただけだ。」
「そこへ、あんたがやってきた。」
ワンは楽しそうに手酌で自分の盃を満たした。マクレーンとモトコの盃にも二杯目を注ぐ。
「マ・クベの大事なコレクションを人質にとって、そのミサイルをぶっぱなすなら、こいつらも粉微塵だと言って、マ・クベを脅した。」
「そうだよ。奴は躊躇った。結局俺はコンテナをジオンに渡して、やつは、ミサイルをうたずに、コレクションと資源、そしてヨーロッパ方面のジオン軍を撤収させて、宇宙に帰ったんだ。」
マクレーンは鼻を鳴らした。
「結局、やつは躊躇ったふりをして、撤収に必要な時間を稼いだんだ。こっちはしてやられたわけさ。
その証拠に別に俺は、昇進も勲章もなし。
終戦の翌年には軍曹のまま除隊だ。」
「な、わかってないだろ?」
モトコが嬉しそうにワンに笑いかけた。
「この酒とヤニくさい野良犬は、自分の価値をまったくわかってないのよ。」
「そうですね。」
ワンも微笑みながら応じた。
「オデッサに参加した全連邦軍将兵と、ジオン軍マ・クベ司令官の感謝です。」
「マ・クベの感謝か!
ものはいい様だな。俺のブラフに乗ったふりをひて。やつは、時間稼ぎに成功して完璧な撤収に成功したんだ。」
「おまけに核を使う必要もなくなった。」
ワンはゆっくりと言った。
「おい、そりゃどういう……」
「ひとはいくらでも残虐になれますが、反面臆病だってことですよ。
マ・クベは、核ミサイルなんて、うちたくはなかった。南極条約違反だし、あとあとジオン本国からも咎められる危険があった。
あなたはそれを全部回避してやったんだ。
もし、いまの処遇に不満なら、ジオンを尋ねてみることをおすすめしますね。
かなり厚遇されることは間違いない!」
酔っ払いながらの会談だったが有意義ではあった。
サイコミュそのものは完成品で、地球に入ってくることはない。
部品はいくつかの部分は地球上でも生産されるが、中核となる部品は、ジオンから輸入するしかない。
タオ商会で扱っているのもそのひとつではあるが、なにしろ需要はそう多くない。納品場所はすべて記録している。商会からの横流しはない。
あまりにも数が限られているし、そんなにプレミアがついて取引される部品でもないのだ。
納品先のリストは渡せると思うが、すべてニュータイプ関連の研究施設か軍需工場だ。
怪しげな所はひとつもない。が、納品先での横流しまでは把握できない。
ゼロは、N・ロックに別れを告げた。
「……ジュニアクランバトルスクールの食事会まで付き合うつもりだったが、夕方には研究所のほうに戻って欲しいと矢の催促だ。」
そう言ってチラリと、彼女が連れてきた少女たちのほうを見やった。
「ここなスタッフにも打ち解けたようだし、会場まで連れていくのはそっちに任せるよ。」
挨拶もそこそこに、三人は三人とも自由に過ごしていた。
ヨルは、ヤンにくっついて、シミュレーターのモビルスーツデータを見せてもらっている。
かなりモビルスーツそのものに造詣が深いらしく、あれはこれはと質問を投げかけ、モビルスーツ技術者ではないヤンは目を白黒させている。
ライラックは、フレデリカの隣に大人しく座り、フレデリカがシミュレーター用AIの調整を行うのを興味深げに眺めている。
セルマは―――
ニナ・パープルトンにくっついていた。「お姉ちゃん」と呼んで、行く先々をくっついて回るのがなんとも愛らしいのだが、ニナのいないところで、ヨルに対してそっと耳打ちしたのを、ゼロは聞いていた。
“凄いね! あのお姉ちゃん、なんの役にもたってないよ。あんなひとがいてもいいんだね!”
-------------
「あの三人のことは問題なさそうですが」
N・ロックは言った。
「食事会には、ドゥーたちも来ますよ。会ってやらなくていいんですか?」
「会ってやりたいが、別に向こうはそうじゃない。」
ゼロはすこし寂しそうに言った。
「特にアンとドゥーはそうだな。
まあ、マシューとマリラがついてるから大丈夫だろうと思う。」
ドアが開いた。入ってきたのは天パの青年だった。
パイロットがよく着るような丈の短いジャケットを着ている。
「あ、ゼロさん。いらしてたんですか?」
「よう、アムロ」
ゼロは挨拶した。
「これから出かけるところだ―――ほら、こいつらは、ネオ香港のジュニアクランバトル特別クラスの生徒だよ。不在中によろしくたのむ。」
「え、どこかこれからお出かけですか?
相談したいこともあったのに。」
「うん……まあ。」
チラリとN・ロックやアクシズの少女たちに目をやってから、声を低めた。
「自分の乗ってるモビルスーツのサイコミュに外部から干渉されたらどうなると思う?」
アムロはきょとんとして、ゼロを見返した。
「いえ……サイコミュ付きのモビルスーツに乗ったことがないので」
宝の持ち腐れというか、聖剣を持ちながら峰打ちしかしたことない勇者というか、ベンチプレス200キロ挙げてお笑い芸人やってるやつ、というか。
なんともいえない生暖かい目を、アムロを見ながらゼロは言った。
「操縦系にもサイコミュは、関係してくるから、パイロット自身も酷い酩酊状態になるんだ。
そしてそれはアルコールと違って抜けることはない。」
「どこかのパイロットがそんな状態に?
でも、そもそも外部からサイコミュに干渉なんて……」
「まあ、詳しくは今度話してやる。」
そう言ってからゼロは、アクシズから連れてきた魔女たちに手を振った。
「おおい、チビども! あとはN・ロックに面倒みてもらえ! なんかあったらいつでも連絡していいぞ!」
「ありがとうございます、ゼロ!」
ヨル、ライラック、セルマ。それぞれが立ち上がったり、手を振ったりした。
ゼロの背中を追っていたアムロに、ヤンが話しかけた。
「どうしたんだい、アムロ君。今日は出勤の日じゃないだろう?」
「いえ……次のシナリオ“星の海へ”のことで。」
「ああ、きみがゼフィランサスに乗ってくれる、というやつだろう? なにかいい提案でも見つかったのかい?」
「いいかどうか、わからないんですが」
アムロは、ヤンにタブレットを見せた。
「あくまで、設定は『地上戦仕様のままで出撃してしまう』ということろです。
作品中にも、浦木豪が自分なりに、ゼフィランサスを弄る場面もありましたし、ぼくなりに少しくらいは仕様を弄ってもいいかな……と」
ニナが血相を変えて、立ち上がった。
「それ、わたしのガンダム……っ!!」
「いや、ダメだよ。ニナ・パープルトン。」
N・ロックが落ち着き払って言った。
内心は驚いている。名前が一致しているどころか、ガンダムのことになると常軌を逸する性格まで、フロドの描いた“ニナ・パルプンテ”とニナ・パープルトンは一緒なのだ。
「もともとのフロドのシナリオでは、“ニナ・パルプンテ”の手が入らない状態のまま、ゼフィランサスに宇宙戦闘をさせるのがポイントなんだ。
ここで、きみの手がはいったらシナリオが崩れる。」
「それは小説の中の“ニナ・パルプンテ”であってわたしとは別もの……」
「似たようなもんだよ。」
結構、失礼なことを平然と言って、N・ロックは自分もタブレットを覗き込んだ。
「なるほど……これなら……まあ」
次辺り、バトル入れる予定です。