ここで暮らすモビルスーツジュニア大会の優勝者カミーユ・ビダンは新しく着任したテストパイロットと出会う。
ときを同じくして、テム・レイの指導のもと可変機構を持った次世代機が完成しようとしていた。
「マークⅡ」が出来上がってもいないのに、それでいいのか!?
「とにかく、おまえは食が細すぎんだよ!」
3個目のハンバーガーに手を伸ばしながら、男は言った。
190を越える大男だ。
まだ20代の初めといったところだろう。若い。
若くて自信にあふれている。
目の前には、ミドルティーンのカップルが座っていた。
「ジェリドは食べすぎだ。もしあんたの体格でふとったら」
「ああ? なんだカミーユ。俺が太ったらどうなるってんだ?」
「コクピットに入れなくなる。」
同席していた少女がプッと吹き出した。
「ファ……笑うなんて失礼だよ。」
「おまえが言ったんだろうが、おまえが!」
こいつらの出会いは最悪である。
カミーユにとってはジェリドは、女と間違えて難癖をつけてきた酔っ払いであるし、ジェリドにとっては夜道でいきなり殴りかかってきた暴漢だ。
グリーンノアで再会してからも、ことある事にケンカをしている。
そのくせ、こうして軽食を付き合ったりしながらしゃべる機会はけっこうあるのだ。
そしてケンカをしながらも「もう会わない」はしない。
立場的には、カミーユ・ビダンはここのモビルスーツ開発施設の責任者の息子であり、ジェリドはスポンサーから派遣されたテストパイロットだ。
互いに互いを邪険には出来ない関係にあるし。
“まあ、わりと気があってるのよね”
と、ファ・ユイリイはサイダーを飲みながら思った。
ジェリドはカミーユやファよりはだいぶ年上だが、直情で子供っぽいところがあり、話が合わないでもない。
そして、モビルスーツの開発には興味のあるカミーユと、新型機のテストパイロットであるジェリドには、衝突しながらも話す内容はいくらでもあった。
「そう言えば、テム・レイ先生のところの新型の事だけど。」
テム・レイはもともとかつて、連邦のモビルスーツ開発において、その中心となった人物だ。戦後は軍を追われ、あちこちから資金をかき集めてほそぼそとモビルスーツの開発を続けていたらしい。
そんな彼が注目されるようになったのは、わりと最近だった。
非合法のモビルスーツバトル「クランバトル」でテム・レイの開発したモビルスーツが連戦連勝を続けている、というのだ。
あまりの強さについた2つ名が「白い悪魔」。
あくまで、非合法なイベントだから大々的に喧伝されることこそなかったが、クランバトルは新型機の性能テストにこっそりと使われることもあり、その高性能ぶりは密かな話題となっていた。
火がついたのは、モビルスーツジュニアコンテストのエキシビションマッチである。
これはクラバではないので一般配信された。
ここで、優勝者のカミーユとM.A.Vを組んだ「白い悪魔」は、最新鋭機のハイザックを一蹴してみせたのだ。
その後レイ親子の苦難を描いたドキュメンタリー「ザ・ノンフィクション」が配信されると、テム・レイ人気はさらに一気に高まった。
カミーユの父、フランクリン・ビダンも三顧の礼をもって、テム・レイをここ、グリーンノアの自分の研究施設に招いた。
テム・レイは。
傲慢な人間ではない。ただ、技術屋らしく己の仕事については妥協を知らない。
設備の整った独自の研究所はもちろん、彼が「見所がある」と判断した若手研究者を引き抜いて、開発研究をすすめている。
結果として、「ムーバブルフレーム」構造を取り入れた実験機がつい先日、ロールアウトしたのだ。
モビルスーツ事情に詳しいライターのカイ・シデンはさっそくテム・レイやフランクリン・ビダンにインタビューし、次のようにまとめている。
「これは完全に『次の世代』のモビルスーツだ。パイロットに、あるいはメカニックにとんでもない負担がかかるのは気がかりではあるが。
残念ながら、フランクリン・ビダン博士が開発中の『ガンダムマークⅡ』はこれに比べると、出来上がる前から型遅れになったと言わざるを得ない。」
実験機は完成したのだが。
肝心の実働テストは遅れている。
「……テストパイロットがみんな乗るのを嫌がっているんだって?」
「まあ、そうだ。」
ジェリドは頷いた。4個目のハンバーガーを頬張りながら、カミーユにもっと食べないと、と言いながら。
「なにしろ、可変機構つきのモビルスーツなんてだれも乗ったことがないんだからな。計算上は成立してても変形をかけて途端にバラバラにならない保証はどこにもねえ。」
ふと、気がついたように、ジェリドはカミーユに言った。
「……いっそのことおまえがやるか?
おまえだって、この前なんとかという大会で優勝してるんだろ?」
実はカミーユはその気はあった。
ただ、父親であるフランクリン・ビダンはどうしてもうんと言わない。
口先では危険だから、というのであるが、実際にはテム・レイの開発ばかり順調に進むのが気に入らないのだ。
「親が許してくれないよ。
ヤザンさんはどうなの?
変形機構付きのモビルスーツなんて大好物そうじゃないか。」
「ヤザンの旦那は別に、びびってるわけじゃないがなあ、その……色が」
「面白そうなお話じゃない?」
突然、パイロットスーツの女性が声をかけてきた。手にしたトレイにはハンバーガーとフライドポテト、氷のはいったコーヒーカップが乗っている。
ここは、研究施設の中のカフェだ。
部外者ではないのだろうが、ジェリドとカミーユも知らない顔だった。
さらさらの金髪をショートカットにしている。
サングラスをかけているが、顔立ちが恐ろしく整っているのはわかった。
連邦軍のパイロット服をきているから、おそらくは連邦の出身者なのだろう。
そでの部分を肩口からカットしていて、白い腕がむき出しになっている。
スタイルのよさも相まって、それだけでも眩しさを感じる。
「はじめまして。今日付でジオニックから着任したテストパイロットよ。名前は……」
美しい女性は少し言い淀んだ。
「ソム・エドワズ。」
「ようこそ、グリーンノアへ。俺は連邦軍から派遣されたテストパイロットで、ジェリド・メサ。こっちは俺のファンでよくくっついてくる……」
「ここの責任者のフランクリン・ビダンの息子でカミーユと言います。こっちは同級生のファ・ユイリイ。」
「よろしくね。ジェリド、カミーユ、ファ。」
ソム・エドワズはジェリドの隣に腰を降ろした。
「いまなにか面白そうな話をしていたわね。次世代モビルスーツの実験機がもう完成してるの?」
「ああ。こいつの親父……フランクリン・ビダンのところじゃなくて、テム・レイの工房のほうでだがな。」
「そのテストパイロットがまだ決まっていないの?
ならわたしが立候補してもいいかしら。」
「まあ、やめとけ。オススメはしない。
可変機構なんてゲテモノを詰め込んだ実験機だ。なにがおこるか分かったもんじゃない。」
「そんな軟弱なことを言い出したらテストパイロットなんて務まらないわよ。」
びしゃりと言われてジェリドは口ごもった。
「それはそうだ。だが色がなあ……」
「色? 機体の色のこと?
試作機や実験機ならわかりやすいように派手なカラーリングにするのはむしろ当たり前ではなくって?
派手な色は嫌いじゃないわ……『赤』以外なら。」
これは“赤い彗星”を当て擦ったジョークだ。
連邦出身者のジェリドとソム・エドワズは笑いあった。
「で何色なの?」
「いや、それがだな。」
ジェリドはうーんと言いながら腕組みをした。
「開発主任のナガノ技師に言わせると決してわざと派手にしたわけではなくて、運動性向上のために削れる装甲を削った代わりに最新のビームコーティング剤を全身に塗布したためだというんだが」
ソム・エドワズは無言で頷いた。
“ひとに命令するのに慣れているんだな。”
と、カミーユは思った。
「……金ピカなんだ。」
「金ピカなのね……」
「可変機構の実験機だが……このまま開発コード『デルタ』として登録するかね?」
「テム先生。それについてはわたしの案があります。」
「ほう、聞こうじゃないか、ナガノくん。」
「デルタは運動性、防御性は完成度は高いのですが……攻撃力としては、通常のビームライフルとビームサーベル程度しかありません。」
「それは仕方ないことだろう? ジェネレーターを別にして、メガバズーカランチャーでも作るか?」
「いえ、懐に潜り込まれたときの近〜中距離用の兵器としてハンマーを装備しようかと思います。名前は“レイダー”」
「…なんとなくだが、そっちまで手を加えるだすなと誰かが言っているような気がするな。やめておこう……」