操縦者は不敵に笑う。おまえの戦いは愚かで無様だと。
動けないゼフィランサス。新鋭モビルアーマー、バウンド・ドック。
白い悪魔と凄まじき呪いの集合体。
その戦いは。
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魔法少女まどか☆マギカ 廻天の残響
https://syosetu.org/novel/429133/
魔女のいない世界に魔女が来襲する。見滝原の魔法少女たちは―――
え? 登場キャラが被ってる!?
盆が、ひっくり返った。
そうとしか言いようがなかった。
底が割れて突き出た頭部と胴体は、天地が逆だ。モノアイは下を向き、脚部は上から折りたたまれるように出現して、クローアームのついた縁の部分を掴む。本来ならMS形態で立つはずの機体が、MA形態の盆の部分を背負ったまま、逆さでぶら下がっている。
アムロは、懸命にバウンド・ドックのデータを思い出していた。
かつて、ジオンへの反攻の足がかりとなるべく、組織された教導隊“ティターンズ”は、一時はかなり予算を与えられて、最新鋭機を与えられる一方、新鋭モビルスーツの独自の開発もすすめていた。
バウンド・ドックはその一機だ。サイズや独自の変形方法からモビルアーマーに分類されていたかもしれない。
そのコンセプトは、高機動、高防御力。
巨大化した機体を制御するために、サイコミュの改良型の搭載を予定したプランもあった。
しかし。
「なぜ、逆さに?」
アムロの呟きは、誰にも拾われない。配信はララァの一言で止まっている。
すでにチャットの話題は、賭けの配当や意外に精彩をかいたアムロの状況に対する心配の声、次回のシミュレーションバトルの場所になる月面での対決に関心は移っていてる。
キラキラの渦の中心、ヨルは笑っている。
『がっかりしました。動けない機体で盾を傾けて、角度でいなす。そんなもの、戦いとは言わないわ。』
ゼフィランサスは、投げ捨てた盾の代わりに、残った一枚を胸の前で構え直した。ほとんど原型を留めていない。穴だらけで、端は熱で捲れている。
「きみはこのバトルに出場する予定はなかったはずだ
よ。」
アムロは冷静に言った。
「ただ、ネオ香港大学の最新シミュレーターコクピットを体験したみたいから、今回の仮想空間の索敵範囲外でモビルスーツを動かしてみる……それだけのはずだった。」
ヨルは盆の縁のクローアームを広げた。バウンド・ドックの逆さの頭部が、アムロを見下ろす。モノアイが細く光る。
『見てられなくなったのよ。連邦のニュータイプ。』
アムロはバーニアを吹かした。ほんの少しだけ。ゼフィランサスの体が、縦に十度だけ傾く。
琥珀色の光の奔流が、掠めた。
拡散メガ粒子砲だ。
広範囲をカバーする攻撃だ。
だがその威力もまた、並のモビルスーツのビームライフルとは桁が違った。
盾は一瞬で融解した。対ビームコーティングなど蒸発している。それでも角度で受け流せたから助かった。真正面から受けていたら、盾ごと機体を貫かれていた。
『動かないの? それともまさか本当にうごけないのかしら。』
ヨルの声が、共振の中に直接響く。
いらいらような響きがその中にあった。
アムロもまた苛立ちを感じた。
あまり会話の機会はなかったが、アクシズからのニュータイプのなかでは、すこし年長の。落ち着いた雰囲気のある少女だった。
こんなことを仕出かすようにはとても見えない。
不味いな。
アムロは流石に呻く。
とにかく、ゼフィランサスは動けないのだ。
バウンド・ドックの機体が、拡大していく。もともとの巨体がさらに大きくなっていく。
“くっ……これがプレッシャーか……”
『あなたを落とすわ、アムロ』
ヨルは宣言した。
『シミュレーターのなかだからって、楽観視しないでね。
何百回でも何千回でも。あなたは自分の“死”を経験することになる。それに耐えられる精神は人間にはないわ。』
アムロは、いくつかを理解する。
そこまで。
そこまで、話したからには、アムロをこのまま返すつもりはないだろう。
廃人にするか……少なくとも完全に屈服させるまで、それを続けるつもりだ。
「シミュレーターからあの二機だけが、ログアウトできない?」
「そうです。」
フレデリカの顔に焦りが見える。
「こちらからの制御を受け付けないです。なかのパイロットも脱出できない。
攻性防壁……いえ、なにかの結界のような。」
「ヨルさんたちだけで、プログラムに触る機会はあったのだろうか?」
ヤンが言った。
「それは……十分ありました。もともとシミュレーター用AIについて説明してたので」
「……まさか。しかし何のために。」
部屋の者たちの視線は、ふたりの少女。
セルマとライラックにむかった。
ライラックは大人しくお茶を飲んでいる。
セルマは、イタズラを見つかったかのようにニッと笑って見せた。
「セルマはねえ、なんか、役にたちたかったんだよ、」
そう笑う少女に邪気は見えない。
「でもこんなふうに……仕掛けるとは聞いてない。」
ライラックが唇を噛んだ。
「今回はシミュレーション空間の様子見だったはずなのに。勝手なことを!」
ココ・シャロンが立ち上がった。
「どうする?」
クワトロが尋ねた。
「これは仮想空間でおきてることよ。
仮想空間での、出来事は仮想空間で決着をつけるわ。
フレデリカさん。シミュレーターコクピットは空いてる。」
「え、ええ……でも」
「サイコミュと遠隔誘導兵器の使える機体ならなんでもいいわ。用意してください。」
「いったいどうすると?」
N・ロックが言った。
「わたしが出ます。あの子を倒してアムロを救出するわ。話はそれからゆっくり聞かせてもらう。良いわね?」
盾が。正確には盾の残骸が手から吹き飛ばされた。
続くビームライフルの一撃が、肩のバインダーを吹き飛ばす。衝撃で、制動を失いくるくると回るゼフィランサスにさらにビームが突き刺さった。
左脚。
右腕上腕部。
さらに右脚の踵が抉られたように欠損する。
ヨルは、しかしコクピットで唇を噛んだ。
すべてが致命の一撃になるはずの攻撃だ。
あのゼフィランサスとかいうモビルスーツは欠陥品だ。まともな移動すらできない。
あるいは「故障している」という設定なのだろうか。
その中で、わずかな動き、身体の向きを変えたりするその仕草だけで、損傷をこの程度に抑えて見せたのだ。
ここは仮想空間、シミュレーターの中でしかない。ここでの勝利はここでのみ勝利でしかなく、撃墜してもされても実際に生命を奪われることはないのだ。
バウンド・ドックは接近戦も強い。
近づいて、クローアームとビームサーベルで攻撃するか。
僅かに逡巡したヨルのバウンド・ドックを。
ゼフィランサスのビームライフルが直撃する。
頑強な装甲とビームコーティングがそれを弾いた。
姿勢制動すらままならないあの状態では、まともに狙いもつけられないはずだ。
つまりバウンド・ドックがたまたま射軸線上に来るのを待ちながら、その瞬間に一撃を放ったことになる。
ヨルの唇が再び、笑みの形に釣り上がる。
対等に戦える好敵手を見つけた悦び。
『この……白い悪魔め!』
これはダメだな!
アムロはある意味達観した。
どうも操縦者のヨルは、ニュータイプに違いない。
ララァをシャロンの薔薇と呼んだのは。そしてそれを“取り返そう”としたのは意味が分からなかったが、なにか。
彼女たちまたはアクシズにしかない事情があるのだろう。
ディアナ・ソレルを信仰する月面での信仰もあるくらいだ。
妙な信仰の対象に祀りあげられていても不思議はない。
―――いや、違うな。
アムロの頭脳は忙しく働く。
ふだんはズボラで、身の回りの事にあまり気を使わないアムロだが、戦っている時がいちばん、頭がよく働くのだ。
“ララァがすごいニュータイプだって知ってるのは、一部のクランバトル関係者だけだ。まして……グラナダに保管されていた異世界からの漂流物「シャロンの薔薇」を結びつけられるのは、クワトロさんやごく少数のまわりの者たちだけ。”
ビームライフルをバウンド・ドックのビームが掠め、砲身が融解する。
「落とすなら落とせ!」
アムロは言った。
「そのあとで話は聞かせてもらう。」
『なぶり殺しにしてやるわ! 白い悪魔。』
バウンド・ドックがビームライフルを持ち上げる。
それを。
虚空から走ったビームが、ビームライフル正確に撃ち抜いた。
「な、なに!」
ラ
ラ
ララ……ラ
宇宙が音で満たされていく。
『こ、これは!』
『アムロを虐めないであげてね。』
彗星のように、新たなモビルスーツが、迫る。
そのビームライブルが再び、バウンド・ドックを捉えた。
二撃、三撃。
だが、バウンド・ドックの装甲はその直撃に耐えた。まったく、ダメージが通らなかったわけではない。だが、機能を損なうような損傷は受けていない。
『おまえは!』
ガンダムじゃないか!
アムロは心の中で叫んだ。
彼の父が中心となって、開発されたモビルスーツ。試運転直前にジオンに奪われた。
そのガンダムは。
赤く塗装されていた。
クワトロ・バジーナは若干、不快そうである。
N・ロックは面白そうにその様子を眺めていた。
細かい事情は分からなくとも。
クワトロ。
アムロ。
ララァ。
この三名に恋愛感情のもつれがあるのを、N・ロックは敏感に察知していた。
アムロのピンチに、ララァが飛び出して行ったのが面白くないのだろう。
「赤いガンダムは偶然ですよ、クワトロさん。」
N・ロックは宥めるように言った。
「ココさんが希望した遠隔サイコミュ攻撃ができる機体が、たまたまあれしかなかっただけで」
『独立戦争時代の骨董品に!』
バウンド・ドックが急加速。
巨体にも関わらず、動きは早い。
そしてなぜか逆さまなのが、相手を混乱させる。
『やらせはしないわっ!』
『そこっ!!』
急降下したビットから放たれたビームが、バウンド・ドックのスラスターを掠めた。
そういえばジェリドくんは、ヤザンさんと一緒にどっかのクラバで元気に暴れてるはずです。