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魔法少女まどか☆マギカ 廻天の残響
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セルマどっちでも大活躍!
「説明をしてもらえる?」
そんな風に、彼女は切り出した。
N・ロックとしては、ヨルたちを追い詰めるつもりはなかった。
だから、「話をきく」と言って、飲み物を入れ直して、校内のコンビニで、お菓子をどっさりと買ってきた。
だが、「彼女」を止めることもできない。
なにしろ、彼女は
「ソム・エドワウ。あまり強い調子ででない方がいい。子どもたちが怯えている。」
そう言いかけたクワトロに、致死性のある視線を投げつけてから
「いまのわたしはミーア・キャンベル。」
とだけ言った。
ヨル。
セルマ。
ライラック。
三人は大人しく、椅子に座っている。
ヨルは静かだったし、ライラックはふくれて、そっぽを向いていた。
シミュレーターをホストから切断した張本人であるらしいセルマは、一番リラックスして、まるで友達の家に遊びに来たみたいに椅子を揺らしていた。
バニング小隊とシーマは、打ち上げと称して飲みに出かけてしまった。
窓からは、夜のキャンパスの灯りが、斜めに机へ落ちている。
さっきまで歓声とざわめきで満ちていたはずの大学は、いまはもう妙に静かだった。
「アイスクリームを買ってきたのだけれど」
フレデリカがごそごそと袋から、飲み物とお菓子を出してデスクに並べた。
「セルマは、チョコチップが入ったヤツ!」
ミーア・キャンベルは、フレデリカを睨んだ。
「フレデリカさん……これは真剣なお話です。」
「失礼しました、ミーア・キャンベル閣下」
穏やかにフレデリカはそう言って、微笑んだ。
「この三名は、ジオンの国民であることは間違いありません。連邦政府に出来るのは、一時的な身の拘束と、地球からの退去命令だけですわ。
でも、わたしたち『捨て猫同盟』としては、そんなことになってしまっては困るのです。
ですから、警察沙汰にはしたくありません。」
「なにかトラブルになれば、この大学に通っているハマーンを頼るつもりでおりましたけど」
ヨルが微笑んだ。
「元首自らがいらっしゃるとは、助かりますわ。」
「わたしは、ミーア・キャンベル特別補佐官だ。それ以上でもそれ以下でもない。」
ヨルたち以外は、全員がいやな顔をして、互いに目配せしあった。
ミーアのそのセリフは、さんざん聞き飽きていたのである。
「…まあ、戦いを仕掛けたとはいってもシミュレーションの中でのことだ。」
N・ロックが言った。
「アムロくんやココがいいと言えばそれで」
「「いいです。」」
アムロとココは同時に答えた。
「……息が合うな。」
またクワトロが難しい顔をしている。
最初に口を開いたのは、N・ロックだった。
「じゃあ始めようか。
まず、事実確認だ。ホストからのコントロールを失わせた防壁を作ったのは……」
「セルマだよ!」
セルマはむしろ自慢げにそう言った。
「セキリュティは、外部からの侵入に対してのものばかりで、この部屋の端末からの操作についてはあまりにも無防備でした。わたしの責任です。」
フレデリカが頭を下げた。
「では。ヨルくんがアムロくんに仕掛けたのも含めて予定の行動だった、と?」
「いいえ。」
ライラックが不快そうに言った。
「それは彼女の勝手な行動です。」
「……きみたちは仲間じゃないのかね?」
わけが分からなくなって、N・ロックの声が少し大きくなった。
「仲間です。ただ、すこし目的が違います。」
「その目的について聞かせてもらえるかな?」
「セルマは役にたつこと!」
セルマが、元気よく手を挙げて答えた。
「わたしは世界の歪みを正すこと。」
それに納得しているのかいないのか、ライラックがボソリと言った。
「そしてわたしはその目的を探すことですわ。」
ヨルが静かにしめた。
柔らかな声だった。
「なるほど! では無罪放免……とはいかないんだ。」
「怒ってる?」
セルマがすぐに訊いた。
「困ってはいるよ」
N・ロックはにこやかに言った。
「今回は、アムロくんとココさんのおかげでなんとかなったけど、たとえば配信中にあれをやられたりしたら収集がつかない。」
セルマは「そっか」と頷いた。
迷惑をかけたことだけは分かっているようだった。
「ちょっと待ってください、N・ロック!!」
ミーア・キャンベルが叫んだ。
「わたしはこの子たちが、重い罪にならないように口を出すつもりだったんですが、なんです、これは?
なにも咎めずにこのまま、自由にさせるつもりですか?」
「もちろん、聞きたいことはたくさんありますよ、ミーア閣下。」
ヤンは自分用に紅茶にブランデーを垂らしながら言った。仕事にストレスを感じている時の彼のくせなのは、ヨルたち以外は承知している。
「そもそも、彼女たちは、本当にアクシズから帰還したニュータイプなんですか?」
「間違いないわ。もう何年もまえらしいけど、アクシズの調査隊が、難破した移民船の生き残りを、救助したの。それが彼女たち。」
「そう……なのかな?」
「そう……なんでしょうね。」
ヨルが笑って答えた。
「わたしたちはアクシズに救助されるまえの記憶がないんです。セルマもライラックも。わたしに至っては名前も思い出せませんでした。“ヨル”というのは単なる名乗りです。」
「“ヨル”というのは単なる名乗りです。」
柔らかな声だった。
だがその言葉に、部屋の空気がわずかに変わった。
セルマはきょとんとしていた。
ライラックは、ため息をついて視線をずらした。
その反応からして、今の話は二人にとっても目新しいものではないにせよ、軽々しく触れてほしい話題でもないらしかった。
「それは」
ヤンが慎重に口を開いた。
「本名を思い出せない、という意味かな」
「ええ」
ヨルは頷いた。
「少なくとも、いまのわたしには思い出せません。アクシズでそう名乗るようになってからは、それで困ったこともありませんでしたし」
「名前をつけたのは?」
クワトロが低く言った。
ヨルは彼を見た。
クワトロの問いは短かったが、逃がさない響きがあった。
「誰が、とは?」
「“ヨル”という名だ」
「忘れましたわ」
「忘れた?」
「ええ。たぶんこの黒い髪から『夜』を連想したんでしょう。誰かにそう呼ばれて、便利だったから、そのまま使ったのです」
「便利、ですか。」
アムロが呟いた。
ヨルは、少しだけ口元を和らげた。
「呼べる名前があるのは便利でしょう?」
「本当の自分のことを知りたくなりませんか―――ごめんなさい。失礼なことをきいたわね。」
フレデリカがそう言った。
どこまでいっても尋問にならない。
だが―――
ミーア・キャンベルとしてはそれでは困るのだ。
アクシズからの帰還者。しかも、ミネバ・ラオ・ザビの側近として仕えていた三人娘が、シミュレーターに不正アクセスを行った。
しかも、不調のモビルスーツに乗った、という設定のアムロ・レイをなぶり殺しにしようとした。
所詮はシミュレーターのなか。
それだけのことと言って言えないことも無いが、なぜそうしたのか。そして同じことをまた起こさないか。
これは解明しておかねばならないのだ。
「きみたちの個人情報についてはいったん置くよ。」
N・ロックが繰り返した。
「ではなぜ、アムロのゼフィランサスを攻撃したのかね?」
「そうですね。
そうしたかったから。という答えではいかがですか?」
「ぼくの戦い方に興味があった?」
アムロの声は落ち着いていた。
「それもあります。」
ヨルは否定しなかった。
「わたしたちは、ジュニアクランバトルスクールの聴講生となることに決まっています。もし今後、プロのクランバトルの世界で生きていくために、のトップと、安全なシミュレーター空間で1度、その腕前をみせでもらいたかったのです。」
「だったらそう頼めばいい。」
クワトロはなおも言った。
「いきなり、一方的に攻撃をしかけるのは、フェアではない。しかも今回アムロのゼフィランサスは、宇宙戦闘用に換装されていなかった。」
「そこまでは、理解しておりませんでした。むしろ、ろくに回避も反撃もしなかったアムロさんをわたしはふざけているのだも、解釈しました。」
「それに腹を立てた、とか?」
ヨルは少し考えてから答えた。
「それもひとつの理由であります。」
「便利な答えだな」
クワトロが言う。
「便利な現実なんて、ひとつもありませんわ」
ヨルはやわらかく言い返した。
「あなたこそ、ご存じでしょう?」
クワトロの眉がわずかに動いた。
アムロはそれに気づいたが、口には出さなかった。
そこでセルマが、机の上のチョコチップ入りのアイスをつつきながら手を挙げた。
「セルマが言っていい?」
「内容によるな」
N・ロックが即答する。
「でも、どうぞ」
「ヨルってね、たまに変なの」
「変、というのは?」
ヤンが訊く。
「起きてるのに寝ぼけてるみたいになるの」
セルマはスプーンをくるくる回しながら言った。
「急に、いま見えてるものと違うものの名前を呼んだり。海なんてないのに海の匂いがするって言ったり。空が赤い、とか、白いのが落ちてくる、とか」
「セルマ」
ライラックがたしなめた。
「そこまで言わなくていい」
「でも本当だもん」
「本当なの?」
フレデリカがヨルに視線を向ける。
ヨルは少しだけ目を伏せた。
「……自覚はありません。周りか
ら見た時に変に感じられるとしたら、それはわたくしが夢を見て動いているときですわ……」
ララァの連れてきた侍女たちがお茶をいれている。
ひとりが「夢?」とつぶやいた。
「そう」
ヨルは認めた。
「けれど、それが記憶なのか、夢なのか、ただの雑音なのか、判別がつかないんです。そんな夢です。夢のなかでわたくしは、だれかに命じられるのです。」
「夢の主はなんて指示するんです?」
ヤンが問う。
「そしてそれは拒否できないもよなのかな?」
「拒否は出来るでしょうね。
彼はとても紳士的で、強制するようなところはありません。」
「ではなぜ、ヨルさんは拒否しないんだろう?」
アムロが低く言った。
「今回だってそうだ。ヨルさん自身も危険なのに。」
「彼は言うことは真っ当だからですわ。」
ヨルは静かに返す。
「歪みを正せ。世界をあるべき姿に。ひとの意思が、我儘が、世界そのものを変質させ、歪めてしまうのたは、誰が見ても正しくはありません。」
部屋が少しだけ静まった。
アムロは返事をしなかった。
その代わり、ココ・シャロンが壁際から口を開いた。
「ヨル」
仮面越しでも分かるくらい、ララァの声は落ち着いていた。
「あなたは“シャロンの薔薇”についてなにを知っているの?」
ヨルの視線がゆっくりとそちらへ向く。
「あなた自身が、この世界を去ったシャロンの薔薇の残滓、またはその現し身だということです。」
「困ったわ。」
ララァはお手上げ、とでも言うように手のひらを上にむけた。
「これはこの子がやったことの是非を問うまえにお医者さんに診せるべきかもしれない。
なにかの暗示、または薬物の影響下にないかどうか。」
「きみにその考えを吹き込んだものは?」
クワトロが尋ねた。
「それこそ、夢の中の登場人物です。名前など答えてもなんの意味もないでしょう?」
「意味があるかどうかは、こちらで判断する。言えないかね?」
「いくらで言えますわ。夢のなかのおはなしですからね……」
「誰かね、その人物は……」
ヨルは目を伏せた。
「……シュウジ・イトウ」
こ、こいつら……