「ええ……と、臨時講師のアムロ・レイです。」
アムロは、ぐるりとジュニアクランバトルスクールの生徒たちを見回した。
月面と同じメンバーもいるが、ユリアン初め、場所を借りることになったネオ香港のパイロットスクールの生徒も参加している。
それに―――
ヨル。
ライラック。
セルマ。
この三人は、最前列に座っていた。
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放っておくわけにもいかないが、ではなんの罪で裁くのか。
アムロを襲った?
シミュレーションでの出来事にすぎない。
たとえ、ヨルが言った通り、アムロを撃墜したとしても、それはシミュレーターのなかでのことである。
殺人未遂? いやいや。
傷害? まさか。
一応、一連の言動がパワハラに当たるかどうか、ヤンは知り合いの弁護士にチャットして尋ねてみたのだが、具体的にアムロの方がトラウマになって、モビルスーツに乗れなくなるとか、なにか心身の傷害がなければ難しいとのことだった……
罪に問えるかもしれないのは、むしろセルマのシミュレーターAIへの介入だったが、これも外部からのハッキングではなく、ふつうに学内の然るべき端末から行ったものなので、セルマを責めるなら、自動的に管理責任も発生してしまう。
彼女達の頭に妙な考えを吹き込んだシュウジ・イトウなる人物については、アクシズには該当する物が居なかった。
アムロとクワトロ、それにララァは「あの」シュウジかと心のなかでは思ったのだが、口には出さなかったのだ。
結局、ヨルたちは「厳重な」監視のもとで、予定通り、ジュニアクランバトルスクールに参加することになったのだ。
「厳重な監視?……ですか?」
アムロが、尋ねるとN・ロックは鷹揚に頷いた。
「うん、一番前の列に座らせるから、厳重に監視してくれ。」
ぼくがするんですかっ!!
アムロは心の中で悲鳴をあげたのである。
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「今回のコースは、スパルタニアン、及びザクを使用しての地上戦を中心に行う予定だ。
グラナダの受講生のみんなはほとんどがコロニーか、月面都市の出身だったな。
地球には」
アムロは、ペンを持ち上げて空中に「おいた」。
もちろん、ペンは落下し、床に跳ね返ってとまる。
「見た通り、常に1Gの重力が発生している。
コロニーと違ってこれは、モビルスーツをジャンプさせても軽減することはない。」
生徒はみな真剣な眼差しだ。
グラナダのスクール生以外にはユリアンや教室を借りたネオ香港パイロットスクールの生徒たちもちらほらいた。
ヨルたちですら真面目に、アムロを見つめながらノートを取っている。
……まだそんなたいしたことは話してないのに
テム・レイは、このところ随分と講演会もこなしているようではあるが、アムロはあまり多人数に注目されて話すのは得意ではないのだ。
「―――まあ、こんなことは理屈ではわかっていると思う。だが実際にモビルスーツのコクピットに座ってみると今までとは違うことばかりだ。」
アムロは、床に落ちたペンを拾い上げた。少し埃がついている。
「一応、重力のある月面でも、モビルスーツがジャンプすれば、かなり長い時間滞空できる。推力が切れても、落下はゆっくりだ。
推進剤を切らしていなければまず、落下で損傷することはない。でも地球では、そうはかない。
1Gというのは、常に下に引っ張られているということです。ジャンプは、落ちるまでの時間を引き伸ばししているだけ。
そして、移動のために『歩行』を行えばほぼ確実に、信じられないほど短い期間で、脚部が破損する。
実際に、兵器として地上戦でも猛威を振るったザクを保有したジオン軍が思うような侵攻が出来なかった理由でもある。」
生徒たちは、こくりと頷いた。最前列の三人は、特に真面目だ。
セルマが、手を挙げた。ノートは、なにやら見たこともない文字とイラストが描かれている。
「はーい、質問! なんで空飛んじゃわないんですか?」
「要は、重力があろうが、バーニヤの出力と推進剤の問題だと言うことだね。いい質問だよ。
モビルスーツは基本人型だ。そのままの状態だって飛べないことはないけど、今度は重力に加えてバランスや空気抵抗の問題がある。」
「くうき……? ていこう?」
「そうだよ。地球は大気の層に覆われている。
この中を高速で移動するのは物凄く燃費が悪いんだ。とくに飛行なんてしようものならね。」
「セルマたちは、ニューヤークから、ネオ香港にくるのに飛行機っていうのを使ったよ?
モビルスーツよりおっきいけどちゃんと飛べてた!」
「あれは人の姿をしていなかっただろう?」
アムロは言った。
「重力プラス空気抵抗。、この中で、物体を飛翔されるにはあの形が正解なんだ。
そして、セルマのいまの質問は、いまぼくたちが練習機として使っている機体のなぜ、にも答えてくれる。」
アムロはぐるりとみんなを見回した。
「つまり、可変機だ。
こんなものを作れば、製作コストだけではない。メンテナンス、そして操縦。あらゆる面で難易度は跳ね上がる。にも関わらず、最新鋭機に可変機構を装備した機体が多いのはそのためだ。」
うんうん。
なぜか、生徒に混じって授業を受けているニャアンが熱心に頷いた。
どこのものかわからないハイスクールの制服を着ている。
その隣の席で、マチュが眠りこけている。
寝不足のはずはない。
昨日、夕食をアムロの部屋でとったあとそのまま、アムロのベッドを占領して、10時間、たっぷり睡眠をとったのだ。
おかげでアムロはソファで寝る羽目になったので、あるが……
だいたいおまえたちは、生徒じゃなくて講師だろう!?
「マチュ!!」
アムロに怒鳴られて、赤毛の少女は反射的に立ち上がった。
「シ、シュウジ!?」
完全に寝ぼけている。
とにかく、彼女はヨルたちが夢の中でシュウジ・イトウなる人物にあったという話をアムロからきいてから、とにかく寝て、寝て、寝まくっていたのだ。
「違う! ぼくはアムロ・レイで、ここはネオ香港のジュニアクランバトルスクールだ!」
「そ、そっか、そうだった……」
マチュはのろのろと腰を下ろすと、また腕枕に顔を突っ込んだ。
「シュウジはわたしが首を切り落としちゃったんだったなあ……」
こんどは、ヨルたちが血相を変えて立ち上がった。
ホントにもう。
誰か何とかしてくれ。
アムロは何度目かのため息を心の中でついた。
アムロは、ある意味賢明な方法をとった。
話題をズラしたのである。
「この中で、地上でのクランバトルに参加したことのある者は……?」
何人かの手が上がる。
アムロも見知った顔だ。
ドゥー・ムラサメ。トロワ・ムラサメ。
いずれもムラサメ研究所の強化人間であり、「ジュニア」ではないホンモノのクランバトルランカーでもある。
マチュとニャアンものろのろと手を上げる。
いや、おまえたちは講師だろ? 聞いてないから!
「そうか。ではトロワ。宇宙での操縦と一番異なることはなんだった?」
「……そうだな」
その存在そのものが、鋭利な刃物を思わせる少年はアムロの問いに真剣に考え込んだ。
「コクピットの安全性、だろうか。」
「その通りだ。」
アムロは頷いた。
「モビルスーツばかりではない。当然、操縦者も重力を受けている。モビルスーツが逆さになればコクピットも逆さになる。倒れたりすれば、10メートル以上の高さからの落下と同じ衝撃だ。
実際には、関節の動き、コクピット内部の安全装置やパイロットスーツの耐衝撃能力でそこまでのダメージを受けることはないが。」
「あははっ! 逆さまだめだってえ!」
セルマがからかうように、ヨルを小突いた。
「あれは単なるハンディよ!」
ヨルは毅然として答える。
「正位置になったときのほうが動きやすいのは、わたくしも同じだわ。」
「……ネオ香港では、新しいクランバトルの形として『バトリング』が一定のファンを得ている。」
アムロは続けた。
「これは射撃用の武器を使わない。ビームサーベルやヒートアクスなども持たない。本当に人間でいう格闘技に近い形で試合を行うものだ。」
「そんな戦いがそもそも成立しますの?」
ヨルが首を傾げた。
「いい着眼点だね。ルールはまだまだこれから整備する必要がある。たとえば手甲の様な追加武装をどこまで可能にするのか。全部ダメにしてしまえばそれはそれでスッキリするけど、ふつうにモビルスーツが拳を作って相手を殴れば、指が破損してしまう。だったならそもそもマニュピレーターなんてやめて、クローアームにでもした方が有効かもしれない。」
アムロは、広げていたタブレットをバタンと閉じた。
「バトリングの第一人者は、ぼくの友人なんだ。ハヤト・コバヤシという。彼は柔術の達人だ。」
にやっとアムロは笑った。こんな表情は珍しい。
「きみたちはそこまでになる必要はないけれど、まあ、確実に言えるのは、身体を鍛えなくちゃ始まらないってことだね。
……さて、授業まえのブリーフィングにずいぶんと時間をとってしまった。それでは、ネオ香港ジュニアクランバトルスクール第一回を開講します。」
いや、はじまってなかったんかーい!!
クラス全員の思いがひとつになった。
「クラス全員の思いがひとつになった」
フラナガンクスールの卒業生やアナハイムの強化人間、ムラサメ研究所のナンバーズに、銀英伝キャラに、異世界のニュータイプまで?
やりますな、アムロ先生!!