ジュニアクランバトルスクールの見学を断られた2人は、マクレーンの知り合いで、クラバ界隈のオオモノ、クワトロ・バジーナを尋ねます……
「よく来てくれた。」
クワトロは、マクレーンと握手した。
彼のプライベートなコンドミニアムだというが、吹き抜けになったリビング。庭にはプールまである。
「ガルマは変わり無さそうか?」
「おいおい、俺は湾岸分署の刑事なんだ。
エッシェンバッハ家の娘婿のことなんて知るかよ!」
マクレーンはぶうたれた。
クワトロはサングラスの奥から笑った。
「わざわざきみをネオ香港に送り込んでくるくらいだから、彼の息が掛かっているのだと思っていた。」
「そうか。あなたから見ても『そう』見えるのね。“赤い彗星”?」
「わたしは元連邦軍大尉のクワトロ・バジーナだ。それ以上でもそれ以下でもない。
……きみも刑事なのかな、お嬢さん?」
2人組のニューヤーク市警刑事は、一応、観光客っぽい格好ではあった。
マクレーンは着古した革のジャケット。法律的にネオ香港では火器は携帯できないハズではあるが、フリードルフ家の結婚記念パーティでのこの男の立ち回りはきいている。
素手でも恐ろしく強く、しぶとい。
そのバディである女刑事のほうも短いジャケットに、タイトなパンツ姿である。
「……それは私服か? マクレーン警部補。」
クワトロが尋ねた。
「ああ。そうだ。ハネムーンにネオ香港を訪れたカップルって設定だ。」
ドスッ
女の肘鉄がマクレーンの脇腹に炸裂した。
うぐぐ、とマクレーンが呻く。
「あら、そんな設定なら、昨日のベッドでも少しは考慮してあげたのに。」
「モトコ・クサヤギ。俺のバディだ。上から押し付けられた。
ご覧のように若くて美人だ。」
ウォーキングシューズの踵がマクレーンの脚を踏みにじった。
「……とっても優しい、を忘れてるわ。」
「クサヤギ刑事」
クワトロは眉をひそめた。
「あなたも軍上がりか?」
「モトコでいいわ。クワトロ・バジーナ大尉。」
モトコも手を差し伸べた。
握った手はしっとりと温かい。だが、銃器でも、モビルスーツ操縦でも。ひとつの技術の習得に打ち込んだものの象徴―――タコがない。
「今日はお願いがあってきたの。
わたしたちは、モビルスーツのサイコミュに外側から干渉できる技術を追ってる。」
「……そんなことが可能なのか?」
「そうね。たとえば、サイコミュ搭載機を操縦者が遠隔で『呼ぶ』ことができるのは、ほぼ証明されている。
なら、外部からサイコミュを通じて、モビルスーツを動かせるってことは可能よね?」
クワトロはしばし黙り込んだ。
彼の―――ララァが似たようなことができるのは、察していた。
そして、恐らくはアムロも。
「可能ならば、軍事的に大問題となるな。
少なくとも、ジオンの優位のひとつが崩壊する。」
「まあ、いまんとこは『可能性』の問題でしかない。それに自分の乗機を呼ぶのと、他人が操縦しているモビルスーツに干渉するのは、またレベルの違う問題だ。」
と、マクレーンは言った。
「さっき、『追っている』と言っていたな。」
クワトロの視線にモトコは、肩を竦めてみせた。
「もちろん!
お願いごとをする以上、教えるわ。
追っているのは、最近、アクシズから来たニュータイプよ。」
「あの……三人の少女が!?」
「知ってるなら、話が早い!
わたしたちは、彼女たちとコンタクトを取りたいの!
ちなみに初対面じゃないわ。もともと彼女たちは、ムラサメ博士に連れられてニューヤークに来ている。そして、マクレーンがネオ香港までの飛行機のなかで、彼女たちの面倒をみているの。
でもね。彼女たちがいまいるはずの『ジュニアクランバトルスクール』に面会を申し入れたら、あっさり断られてしまってね。」
クワトロは、二人をまじまじと見つめた。
犯罪者には見えないが、堅気にも見えない。
まるで、戦場の雰囲気を色濃く残しているかのような佇まいだった。
ニューヤークからきた刑事です、と言われてもたしかに、積極的に関わりたいと思う学校関係者はいないだろう。
「ジュニアクランバトルスクールを主宰しているのは、グラナダの会社だ。『捨て猫同盟』という。
そこの代表がいま、ネオ香港に来ているんだ。そこを紹介することはできると思う。」
クワトロはふと思い出して尋ねた。
「ところで、きみたちはモビルスーツの操縦は?」
マクレーンは大きく首を振った。
「俺はロートルの歩兵でね。いまさらモビルスーツの操縦を叩き込もうなんて上は考えなかった。」
「わたしも専門は、地上部隊。それも市街戦ね。」
モトコのほうはどっちつかず、というふうに首を傾げた。
「でもモビルスーツの操縦は、習ったわ。軽キャノンなら乗ったこともある。」
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「いやあ! よく来てくれました!」
海千山千のプロデューサーというのはこういうものか!
クワトロが、2、3メーセージのやり取りをしたあと、ネオ香港大学に連れてこられたマクレーンたちは、『ジュニアクランバトルスクール』や『シミュレーションバトル配信』をしているというN・ロックなる人物に紹介されたのだ。
距離をつめる速度が速い!!
「さっそくですが、どちらがゼフィランサス“フルバーニアン”でヴァル・ヴァロと戦ってくれるのですか?」
なんがどうなって、そうなったのか、まず説明しろ、というモトコの要求で、2人はミーティングスペースに通された。
ネオ香港大学という名門の大学構内ではあるが、いくつか部屋を借りているらしい。
「ヤン・リー……?」
「名刺は作ってないんです。もともとここの学生で。N・ロックさんからの依頼でシミュレーションバトルの手伝いをしています。」
そう言って頭をかいた青年は、東洋系らしい黒い髪と黒い目。二十代半ばで、大学生というには、少し歳がいってるようにも見えた。
「フリードルフのパーティにいた……?」
「ああ、あのとき警備に当たっていただいていたニューヤーク市警の方ですか。」
一緒にミーティングに加わった女性もまだ二十歳を少し出たくらいだろう。知的なイメージで、フレデリカ・グリンヒルと名乗った。こちらもニューヤークの大学生で、インターンとしてここに勤務しているそうだ。
「そのほかのスタッフは、グラナダに本社がありまして」
自ら、自販機でコーヒーを買ってきたN・ロックは、飲み物を配りながら言った。
「こちらはこのスタッフで回しています。
本社はグラナダなのですが、そちらは主に、ジュニアクランバトルの開催準備と“今日、M.A,V.になります”のコンテンツ配信をしています。いずれそっちに戻らないと行けないので、そのあとはヤンくんが取り仕切ってくれる予定です。」
「わたしは単なるアルバイトですよ、N・ロックさん!」
ヤンが抗議したが、N・ロックは構わずに続けた。
「クワトロさんには、シミュレーションバトルの賭けの配当を担当していただいています。
それと、かの“白い悪魔”アムロくんや“狂犬”マチュ、“病み猫神”ニャアンなど名だたるクランバトルランカーにも監修にはいっていただいておりまして。」
「わたしたちは、アクシズからきたニュータイプの少女たちとコンタクトが取りたいんだ。」
モトコが言った。
「逮捕云々ではない。だが、彼女たちがもつ重要な情報が必要なんだ。場合によっては保護することもありうる。」
「そこらへんは本人たちに打診してみましょう。」
N・ロックはあっさりと言った。
「ですが、会ってコミュニケーションをとるるはともかく、保護するのは難しいと思います。あの子たちはアクシズから来ている。つまり正当なジオン国民です。、ニューヤーク市警、いや連邦だっておいそれと手は出せない。」
「いくつかの犯罪組織的にも目をつけられている可能性があるんだ。」
「あの子たちをここに連れてきたのは、ゼロ・ムラサメです。どんな犯罪組織でも手は出せませんよ。
それとね―――」
N・ロックはヤンにポットをわたした。ヤンが紅茶党なのを覚えていて、時間に余裕があれば、ヤンには必ずティーポットと茶葉をもってくる。
「あの子たちのことは、すでにジオンのミーア・キャンベル氏も知ることとなっています。」
「ミーア・キャンベル?」
モトコが首をかしげた。
「ジオンの特別補佐官だ。まだ若いがキレ者らしい。ニューヤークのフリードルフ家の結婚記念パーティーにジオン代表として参列してからは、ずっと地球に滞在している。」
「特別補佐官?」
「外交部ではない。公王府の直属だ。アルテイシア陛下の側近でな。影武者をしていたという噂もある。」
ヤンとN・ロックが気まずそうに目配せしあった。現在、地球に滞在している「ミーア・キャンベル」がアルテシアのダブルでもなんでもなく、本人だと気づいているのは、彼らを除けば、クワトロやアムロたちくらいだろう。
「わかった。とにかく、ヨル、ライラック、セルマの無事が確認できれば、ありがたい。」
モトコは、そこはひいた。
「では彼女たちと会わせてくれる代償として、わたしにシミュレーションバトルに出場しろ、というのか?」
「強制するわけではないですよ。ですがここはお互いWinWinで。」
「あんたんとこのシミュレーションバトルは、フロドの小説を下地にしてるんだろう?」
マクレーンが口を挟む。
「で、たしかフロドの小説のモデルになっているであろう実在人物を実際にシミュレーターのパイロットをさせるのがウリだったはずだ。
モトコは―――これは別に隠すことでもないが、元連邦軍人だ。だが、パイロットは専門じゃない。
モトコを起用することになにかメリットがあるのか?」
「ああ……ごもっとも!!」
N・ロックは頷いた。
「興行としてはそうですね。」
「では、なぜ―――」
「ゼロ・ムラサメからの要望なんですよ。」
サラリ、とN・ロックは言った。
「ムラサメ博士が!? なぜ!!」
「性能テスト……なんだそうです。
ヴァル・ヴァロのパイロットをやってくれるケリィさんは、リユース・P・システムを使った義手をしています。
―――もちろん、ゼロ・ムラサメ製です。
そして、モトコ・クサヤギ。あなたの身体にもリユース・P・システムが使われている。」
「―――なるほど!」
モトコは苦笑いを浮かべた。
「モビルスーツならぬ、パイロットの性能テスト、か。悪趣味だし、わたしに話を通していなかったのはあったまくるけど」
「もともと、お二人のは任務があって、ネオ香港に出張されてたはずです。」
如才無く笑みを浮かべながら、N・ロックは言った。
「こちらから連絡をするのはNG。なんかでモトコさんたちから連絡があれば、打診してみてくれ、とのことでした。」
モトコは、こめかみを押さえた。
「……最初から仕組まれてたってことか。あの女。」
「あの女は言い過ぎですよ。ムラサメ博士はたぶん好意でこのシミュレーションを考えたはずですから。」
「好意半分、好奇心半分だろうな。これだからマッドサイエンティストは敵にも味方にもしにくいんだ。」
マクレーンが、肩をすくめる。
「俺に、飛行機でヨルたちの世話をさせたところから、もう仕組まれてたような気がする。
で、テストっていうのは、どこまでやるんだ? ただシミュレーターに乗って、データを取ればいいのか?」
フレデリカが、さっと資料を取り出した。
「ええ。基本的にはそうです。シミュレーター内ですからなにが基本的には安全です。モトコさんはフルバーニアンに乗ってもらって、フォン・ブラウン近郊でヴァル・ヴァロと遭遇戦を一回。
クランバトルとして賭けの対象にはなります。
武装はビーム兵器ほかすべ使用可能ですけど、なにぶん現実ではなく、シミュレーターの中のことですから、撃墜されても怪我をする心配もありません。時間にして三十分もあれば終わります」
N・ロックが付け加える。
「もともと作品内でフルバーニアンに乗ることになっていた浦木豪……役のコウ・ウラキは体調を崩している。興行的なことを言えば、後半戦にそなえて、いまコウくんに無理をさせたくない。
またアムロくんにお願い出来ればそれでもよかったんですが……」
「ダメだろうな、N・ロック」
笑みを含んでクワトロが言った。
「賭けが成立しなくなる。」
「別に、N・ロックさんの口車に乗ることはないですからね。」
ヤンが、ポットから紅茶を注ぎながら、小さく笑った。
「おい、ヤン!!」
「マクレーン警部補。あなたのことは、クワトロさんからよくきいてますよ。大丈夫。このお話を断ってくれてもちゃんと、あの三人との面会はセッティングします。」
「なるほどね。」
モトコも小さく笑った。
「“奇術師”ヤン……だったかしら。」
「いえ、わたしは手品も魔法も使いませんよ!」
モトコは立ち上がって、ヤンの肩に触れた。
「そうなのかしら。なんだかシミュレーションに出てもいいような気がしてきたわ。これはあなたの使った魔法なのかしらね?」
「そんな!」
「ニューヤーク市警としては、捜査中の刑事がこんなことをしてたら問題になるかも、だけど?」
モトコはぶつぶつと呟いた。
「仮面でもつけてみるか……」
「冗談ではないわ、クワトロさん。
捜査上、必要だったと堂々と主張するわ。
……報酬はでるんでしょ?
あとで内緒で受け取れるようにしてね。」
バトルまでたどり着かないのにまた長くなってしまった……