アムロたちを前にしてけっこうハードなことをやるマクレーンさん。
アムロは内心、ほっとしていた。
周りがおだてようが恐れようが、彼自身の認識のなかでは、自分は家庭の都合で入学が遅れた大学生でしかない。
クワトロやアルテイシア、N・ロック。傑物と知り合う機会はずいぶんあった彼であるが、まともに参考にできるのはヤンくらいなのだ。
少なくとも、ヤンのすることを真似ておけば、人生、それほど愚行に走らずに済むような気がする。
ニューヤークの刑事たちも、宴席を楽しむ術は心得ていた。
ヨルたちも……三者三様ではあるものの、食事を楽しんでくれているようではあったし。
うん、これならなんとか。
と、アムロが思い始めたところで、マクレーンが手を挙げた。
「ちょっとだけ、仕事の話をしてもいいか?」
「まあ、構わないが」
チェンがそう答える。
「これは、アムロやマチュにも聞いてほしい話なんだが……コクピットに座らずにモビルスーツを操縦できるか?」
「技術的に……ってことですか?」
アムロが言った。
「可能ですよ。モビルスーツにだって、補助AIで基本動作はプログラムとして入ってるんです。遠隔で命令することは……技術的には可能です。どのくらい細かな動作が可能かはまた別問題ですし、たとえば戦闘行動になれば当然、ミノフスキー粒子による阻害も……」
「うん、わかったわかった」
モビルスーツの技術話への食いつきがよすぎたのか、マクレーンは焦ったように手を振った。
「無線でのコントロールはそうだな。
たとえば、だ。サイコミュを経由しての脳波コントロールはどうだろうか?」
「どうだろうかって。それはもう大戦のときに証明されてますよね。クワ……シャア大佐の赤いガンダムに装備されていたビットは、まさに脳波によるコントロールですよ」
「例えが悪かったな……」
マクレーンは腕を組んだ。
「少し、具体的に話そう。
俺たちはニューヤークでギャング組織の密売を追ってたんだ。
意外なことに、ブツは薬物でも盗品でも人間でもなかった。
……モビルスーツだったんだ」
「ジオンが軍縮のときに、派手に放出しましたからね」
ヤンは、乾杯だけ付き合って、あとはお茶に切り替えている。
「連邦の軽キャノンも、だいぶ放出されましたよ」
「ああ」
マクレーンは、ちらりとヨルを見た。
「対象のモビルスーツは、ニューヤーク市警が中心になって開発した小型モビルスーツだった。バッテリー駆動になるから、市街地でも動かしやすい。
それ自体も問題なんだが、どうもそいつはサイコミュを搭載していたようなんだ」
「サイコミュ……ですか?」
アムロは面食らった。
「たしかに、一部の基幹部品は地球では生産されてないですし……軍需品ですから、輸入できる業者も限られてる。
けど、まったくできないわけではないし、実際にムラサメ研究所や連邦軍系の研究所でも、実験用に輸入はしてるはずです。
扱ってる商社は限定されますが……たとえば、ネオ香港だとタオ商会ってところが指定業者のはずです」
「問題はそこじゃなくてね、アムロ!」
マチュが、〆のかき氷を食べながら言った。
「搭載したサイコミュを通じて、コクピットの外からモビルスーツが動かされたって、この刑事さんは言ってるのよ!」
「相手はさっと30人。こっちは、モトコと二人だけ。増援は間に合わない。おまけに、取り引き用の小型モビルスーツまで参戦して来やがった」
マクレーンは顔をしかめた。
「正直、あのときはもうだめかと思ったんだが」
「あら、あなたに絶望するような繊細な心があったなんて驚きだわ」
モトコが茶々を入れるのをひと睨みして、マクレーンは続けた。
「ところが、突然、やつらのモビルスーツが、酔っ払ったようによろよろし始めたんだ!」
「モビルスーツが酔っ払うか、という問題ですね」
アムロは真剣に答えた。
「もちろん、モビルスーツがアルコールや薬物を摂取することはないのですが、バランサーに異常が生じた場合、『酔っ払った』ように見えることはありえますね。
もっとも可能性として高いのが、パイロット自身に何か異常が起こった可能性です」
全員が、
ヤンやユリアンまでもが、変な目でアムロを見ていた。
「な……なんです?」
「理系がっ!」
マチュが吐き捨てるように言った。
いや、きみも同じジオン工科大学生だろうに!
「わたしたちは、何者かが外部から、サイコミュの操縦系に侵入して、機体の動きを妨害したんじゃないかって考えたのよ」
モトコが言った。
「外部からのサイコミュへの働きかけ、か」
チェンも真面目な顔で頷いた。
「不可能ではないネ!」
イェが〆のフォーを頼みながら言った。
「不可能だよ! そんなことありえない」
マチュが言った。
ニャアンがずずっとラッシーをすすりながら、口を挟む。
「マチュは、ソドンから何度もジークアクスを呼んでるよ」
「だからあ! あれはわたしとジークアクスだからであって。一般的には参考にならないんだから!」
アムロは、それについてはあえて発言しなかった。
ジークアクスが搭載しているサイコミュが特殊なものなのは、彼も承知していた。
オメガ・サイコミュは、人格を内包している。
そしてその人格とは、並行世界の彼自身のようなのだ。
「アムロくん」
ヤンが身を乗り出した。
前にも言った通り、アムロはヤンをさまざまな面で尊敬している。
ただ、学者肌の難点というべきか……好奇心が何より先に立つところが、たしかにあった。
「きみはたしか、この前のシミュレーションバトルのときに、赤いガンダムのビットを操ったよね?」
「そうでした」
ヨルが言った。
「途中から……ビットの動きが変わりました」
「あ、あれはシミュレーターの中の話でしょう!?」
アムロは、自分に火の粉が飛んでくるのを感じて、慌てて言った。
「ネオ香港大学のAIは、すごく優秀でね。
さまざまな要因から総合的に判断して、それが起こるべきだと判断すると、そのようにシミュレートしてしまうんだ。
つまりあそこで起きたことは現実の世界でも起こりうる。
つまり、あのときAIは、アムロくんが――サイコミュも搭載してないゼフィランサスのコクピットから、ララァさんが操る赤いガンダムのビットを操縦できる!……と判断したんだ」
「つまりは、物凄く強力なニュータイプならば、外部からモビルスーツの制御を乗っ取ることは可能だ、と?」
「マクレーンさん。あくまでも可能性の問題です。アムロくんも言ったとおり、これはシミュレーターの中で起こったことですから」
ヤンさん、あんたどっちの味方だ!
と叫び出したくなるアムロだったが、まあ、学者というのはこういう人種なのには、自分の父でもう慣れていた。
「しかし、可能性はある?」
「完全に否定はできない、というところです。それに、ビットはあくまでも遠隔操作の移動砲台ですからね。モビルスーツそのものの操縦系に影響を与えるとなると……」
ふう。
と、マクレーンはひとつ息をついた。
横に座るモトコをちらりと見やる。
トン、とモトコはテーブルに両肘をついた。笑みを浮かべて、一同を見回す。
「実際にわたしはそのとき、『干渉』を感じたのよ」
「あなたもニュータイプ……ってことですか?」
「そう。しかも、サイコミュ内蔵の、ね」
モトコは手をひらひらと振ってみせた。
「わたしの身体は、ほとんどが作り物なのよ。ゼロ・ムラサメお手製のね。
わたしはそれを、リユース・P・デバイスとサイコミュで動かしている。いわば、この全身がモビルスーツみたいなものなのよ。
そして、あの晩。ニューヤークの倉庫街でわたしは、制御を乗っ取ろうとする干渉波を、たしかに感じた」
「え……」
アムロはマチュの視線を感じて、口をつぐんだ。
技術的に興味のある質問が溢れそうなのを、慌ててこらえた。
「それからもまあ、いろいろとバトルはあったんだが、ムラサメ博士のおかげでギャングどもは逮捕、サイコミュ搭載のモビルスーツも回収できたんだが……」
「パイロットは? パイロットはどうなった?」
マチュが怖い顔で詰め寄った。
「オーガスタ……と思われる。強化人間だったよ。だが、サイコミュへの干渉の影響を受けたのか、ほとんど口もきけない状態だった。ムラサメ研究所に送られて、治療を受けてるはずだが」
マクレーンは、ヨルたちに笑いかけた。
「いや、本当にムラサメ博士には助けられたんだ。
感謝している――ところで、あの晩、おまえさんたちもすぐ近くにいたよな?」
会話がつづいたので、かるくバトルを入れる予定です。