第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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ひさびさのバトルが肉弾戦!






GQuuuuuuXseason2 第20話 ネオ香港異街譚

 

 

小物呼ばわりされたボスらしき男は、しかし、いきなり逆上したりはしなかった。

逆に、手のひらを合わせ、チェンに向かって深々と一礼した。

 

「名もお顔も存じ上げませんが」

 

落ち着いた声で彼は言った。

 

「なかなかの高手とお見受けしました。

これは個人的な意趣返し。命まで取る気はございません。

この場はお手を煩わせぬよう、お願いいたします。」

 

「しかし、たったふたりを、これだけの人数で取り囲むのはどうかな?」

 

チェンは静かに周囲へ視線を投げた。

 

「逃がさぬための布陣です。

あくまで、戦うのは同じ人数。」

 

うまい手だった。

チェンたちはアナハイムの保安要員をしているようだが、ここではあくまでプライベートだ。

モトコたち自身が試合として受けて立つなら、手を出すのをためらう可能性はあった。

 

「二対二なら、まあ、いいんじゃない?」

 

モトコが肩をぐるりと回す。

 

「おい、モトコ……」

 

「お腹いっぱいで動けないとか言わないでよね、カウボーイ。」

 

集団の中から、ふたりの若者が歩み出た。

どちらもゆったりとした拳法着だ。

 

「黒白会陰陽門、リュウ・イッソウ。」

 

「同じく、黒白会屍操門、ウーラ・ドウラ。」

 

「緑一色は北派のようネ。けっこう使えるよ。浸透勁には気をつけるとヨイ。

ガードも筋肉の鎧もくぐり抜けて、直接内臓にダメージが来るネ!」

 

イェが、土産物店の扇子をひらひらと振りながら言った。

 

「じゃあ、そっちはわたしが担当するわ。」

 

モトコが前に出た。

 

「その……シントウケイ……ってやつには、ニューヨークで痛い目に遭ってるのよ。」

 

「裏ドラは暗器使いだな。」

 

シゥ・クイシェが肉まんの入った袋を持って立ち上がった。

 

「勝った方に一個やるぞ。温かいうちにケリをつけるんだ。」

 

「なんだよ、こっちは素手なんだぞ?」

 

マクレーンはぼやいた。

 

するする、とウーラ・ドウラが近づいた。

必ずしも速い動きではない。

だが、予備動作も溜めもないその移動は、見た目の速度以上に対処しにくい。

 

その袖口から、きらりと光るものが走った。

とっさに飛び退いたマクレーンだったが、ジャケットの前身頃がざっくりと切り裂かれていた。

 

「な、なんだ、こいつは。」

 

「鋼糸ネ。」

 

イェが面倒くさそうに言った。

 

「極細の糸は、うまく滑らせると刃物よりもよく切れるネ。

対処方法……まで教えると、あんたらに肩入れしすぎになるネ。」

 

「チッ! サービスが悪いな! クワトロに言うぞ!」

 

「アイヤ、あんた、大佐の知り合いかネ。だったらサービスするネ! そいつの対処は――」

 

「両手の間で操作するから、低い位置には攻撃しにくい、だろ?」

 

「あんた……戦闘センスあるネ。わたしの弟子になるカね?」

 

「お断りだ!」

 

マクレーンは、糸を避けるために路上を転がった。

裏路地の地面は、あまり綺麗ではない。

 

生ゴミと塵芥にまみれながら、マクレーンは壁際まで追い詰められた。

ウーラ・ドウラが間合いを詰める。

 

「そっちが武器を使うなら――」

 

マクレーンは、すぐ脇にあったゴミバケツを両手で掴んだ。

 

「こっちもだ!!」

 

生ゴミの詰まったバケツを持ち上げ、そのままウーラ・ドウラの頭に被せる。

 

視界を塞がれ、生ゴミにまみれて息を詰まらせた相手の鳩尾に、マクレーンは靴の踵をねじ込んだ。

 

ぐえっ。

 

声を漏らし、相手は身体をふたつに折って倒れる。

 

「くそっ! 一張羅が!」

 

マクレーンの視線が、忙しく路上を行き来した。

 

「モトコ!」

 

*********

 

体内から練り上げた“気”を集中させ、それを打撃とともに相手の体内へ送り込む。

いくら鍛えていても無意味だ。

 

そのはずなのに。

 

リュウ・イッソウの顔は、脂汗にまみれていた。

 

発勁が通じない。

相手はかわしているわけではない。

 

たしかに彼の打撃は届いている。

届いているのに、相手は平然と笑っている。

 

まだ若い女だ。

だが、鍛えている。物腰から見て、軍隊、それも特殊部隊上がりだろう。

 

しかし。

 

「なぜ!」

 

リュウ・イッソウは叫んだ。

 

「なぜ勁が効かない!!」

 

「なんていうのかな。」

 

モトコは笑った。

 

「技が綺麗すぎるのよ。」

 

「なん……だと?」

 

「まあ、普通の打撃にも言えることなんだが、パンチでもキックでも、いちばん威力が出る間合いはあるでしょう?

遠すぎれば十分に届かない。近すぎれば、狙った打ち方ができない。」

 

「……」

 

「あんたの浸透勁は、充分な威力を発揮する間合いが、はるかに狭い。

ほんの一センチ。前に出るか、後ろにずれるか。それだけで、身体の内部まで衝撃が伝わらなくなる。」

 

「こ、この――」

 

ダン!

 

大きく、重く。

踏み込みながら、リュウ・イッソウは肩口からモトコに体当たりを仕掛けた。

 

ずむ。

 

モトコの突き出した拳が、その胸を拳大にへこませた。

 

血を吐いて、リュウ・イッソウは崩れ落ちた。

 

「肋骨三本。粉砕骨折。

折れた骨が肺に刺さると死ぬよ。早いところ病院に――」

 

そのとき。

 

「うわぁぁぁぁぁあっ!!」

 

疾風のごとき勢いで駆け込んできた赤毛の少女が、取り巻きのひとりの股間を蹴り上げた。

 

 

**********

 

 

アムロは憮然としていた。

 

マチュが、少し裏通りの古着屋を見ていくと言い出したのだ。

まだ遅いというほどの時間でもない。ヨルたちも、ほとんどネオ香港の観光はしていないので、土産物屋でも覗いてみるか。

 

そう考えただけだった。

 

なにやら、通りの先で人が集まっていた。

喧嘩でも始まっているような雰囲気だったので、アムロはそこを避け、別の道を選ぶつもりだったのだ。

 

マチュが走り出して、いきなりひとりの股間を蹴り上げるまでは。

 

まずい!

 

周囲を取り囲んでいる男たちは、身なりこそさまざまだが、いずれも鍛えられた屈強な体躯をしている。

 

囲まれているのは、ニューヤーク市警のマクレーンたちだ。

 

「ニャアン、ヨルたちを頼む!」

 

マチュを助けるつもりで、アムロはそう声をかけて走り出した。

 

「なんで……ついてくる?」

 

なぜか、ニャアンもついてきた。

いや、ヨル、ライラック、セルマも。

 

「なんとなく。」

 

ニャアンが答えた。

 

「わたくしたちのことを、アムロ先生にも少し教えてさしあげます。」

 

ヨルが言う。

 

「放ってはおけないでしょ?」

 

ライラックも続いた。

 

「あははっ!! なんか面白そうだってね! セルマはそう思ったんだよ!」

 

マチュは、男たちが振り上げる拳をかいくぐり、またひとりの股間を蹴り上げる。

 

なんていうタチの悪い戦い方を……。

 

アムロは舌打ちした。

 

周囲の男たちには、武器を携えている者も多い。

さすがに刃物は見当たらなかったが、棍やヌンチャク、トンファーなどを構えている。

 

ひとりがアムロたちに気づき、襲いかかってきた。

素手だが、かなりガタイがいい。

 

争い事には縁がない――え? どの口が言う?――アムロは、とっさに身を引いた。

組みついてくる相手の襟を掴み、そのまま後方へ身体を倒す。

その勢いを利用して、相手を大きく投げ飛ばした。

 

弧を描いて、男は店の脇に置かれたゴミバケツに頭から突っ込んだ。

 

「やめろ!」

 

投げた相手の動きを確かめる余裕もなく、アムロは叫んだ。

だが、やめたのはニャアンだけだった。

 

走るのをやめて、アムロの後ろに隠れたのだ。

 

ヨル、ライラック、セルマの三人は、そのまま男たちの中へ入っていった。

 

いずれも十代半ばの少女ではある。

だが、奇襲をかけられた男たちは、頭に血が上っていた。

 

ひとりがヨルめがけて拳を振るう。

顔面を狙った、容赦のない一撃だった。

 

だが、パンチが到達したとき、ヨルの頭部はもうそこにはなかった。

 

くるり。

 

ヨルは倒立していた。

地面に手をつき、そのまま身体を回転させる。

 

その靴の先が、相手の顎先をわずかにかすめた。

狙ってやったことだろう。

浅く触れただけに見えたが、男の頭が振られ、その膝が崩れた。

 

ライラックの相手は、武器を携えていた。

棍の両端に錘のついた、双錘と呼ばれる武器である。

 

仲間が鮮やかに倒されたのを見た男は、錘をライラックめがけて振り下ろした。

 

ライラックが片手を上げ、棍の中ほどを押さえた。

 

ぐるん。

 

棍が回り、男の握りが外れる。

次の瞬間には、双錘はライラックの手に収まっていた。

 

「この武器の使い方は――」

 

細い身体に沿って、双錘が一回転する。

 

顎。

腹。

膝。

 

三度の打撃が、ひと続きに炸裂した。

 

いちばん小柄なセルマを襲ったのは、大男だった。

スピードも、セルマの動きを読んだ歩法も、ヨルやライラックに倒されたふたりより一段上だ。

 

その太い腕が、背後からセルマの首に回された。

 

「ガキどもがっ!」

 

男は叫んだ。

 

「おとなしくしねえと、こいつの首を――」

 

言い終わらないうちに、男は口をぱくぱくさせて黙った。

そのまま喉を押さえ、うずくまる。

 

「な、なにをしたんだ?」

 

アムロは問いかけた。

 

「ああ、ちょっと点穴を突いただけだよ。」

 

セルマの手には、細い針が握られていた。

 

「殺しはしないよ。ほんの少しの間、呼吸ができなくなるだけ。」

 

「ど、どのくらい?」

 

「……えっと、二十分くらい?」

 

「普通に死ぬぞ、それ!」

 

 

 

 

 

 




あんまりオリキャラは出さないようにしてるのですが、香港で、マクレーンに絡んでくるチンピラ役で、当て込める登場人物って思いつかなくて。
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