「何がどうなってる!?」
マクレーンは叫んだ。
二対二の決闘のはずが、乱闘がはじまっている。
誰かが味方に駆けつけてくれたようだが、それはつまりこちらも、二十名を超える黒白会を相手にしなければならなくなった事を意味していた。
「誰か! 救急車を!」
すこし離れたところで天パの青年が叫んだ。
アムロだ。
かがみ込んで、ぐったりと力を失った黒白会の男を蘇生させようと試みている。
黒白会のやつらは構わず、アムロに攻撃しようとしているが、それを阻んでいるのは、ヨルたち三人の少女だ。
「丸腰ってのはホント落ち着かないわね。」
モトコが組ついてきた相手の関節をとって、挫いた。
その後ろから、横殴りに振るわれる棍を、ちょいとかわす。
「それに、手加減するには人数が多すぎるのよね。」
ドンッ!!
黒白会の男たちが三人まとめて吹き飛んだ。
「な、なんだ? 新手か?」
新たに助勢にかけつけた男は小柄だった。
だが、みっちりと筋肉のついたいい体をしていた。
棍でうちかかる相手の懐に、すいと潜り込む。
「よい歩法をマスターしているようだ。」
チェンが、シゥ・クイシェから受け取った肉まんを頬張りながら言った。
潜り込みながら、肘鉄。
息の詰まった相手を、背負うように投げ飛ばす。
「ジュージュツ……ヨ。」
ひょいと手が伸びて、シゥ・クイシェのもつ袋から肉まんが抜き取られた。
イェである。
「かなりの高手ネ。まだまだ人はいるものネ。」
「ハヤト・コバヤシ……だな!」
黒白会の頭領は叫んだ。
「クランバトルのパイロットごときが、黒白会に逆らうのか。」
「友人が襲われてるんだ。否応ないさ。」
「きさまの家族ともども無事でいられると思うなよ!」
「ほう?…それはどういう意味だ?」
のそり、と現れた屈強な人影に、黒白会は全員が凍りついた。
「拳法道場ということで、大目にみてやっていたが、ずいぶんと悪さがすぎるようだ」
「ドアンさんっ! ハヤト!」
アムロが叫んだ。
「ひとり、息をしてないのがいるんです。救護しないと」
「原因はなんだ?」
「セルマの針でツボを突かれたんです。」
「なら突いた当人を連れてこい。蘇生のツボも知ってるだろう。」
黒白会のものたちは、固まっている。
セルマが、ニヤニヤしながら寄ってきて、倒れた男の隣にしゃがみ込んだ。
胸と肩甲骨のあたりに、針を差し込む。
ビクリと男の体が痙攣し、ゲボゲボと咳き込み始める。
「……よかった……ほかに怪我をした方は?」
「甘いよ! 天パ!」
マチュが怒鳴った。
正義感……というより単純に暴れ足りないのだ。
「負傷者の手当より、目の前の敵を倒さないと!」
「黒白会。」
ドアンがずいとまえにつめた。
黒白会の頭領は、ちらりと周りを見回した。
部下たちは誰ひとりとして戦おうとしているものはいなかった。
約半分は、路上に跪いて頭を下げている。
土下座──というやつだ。
「ドアン殿。これはただのケンカです。」
黒白会の頭領は頭を垂れた。
ククルス・ドアンは半ば伝説的な人物だ。
元ジオンの兵士で、大戦のときに、保護した子どもたちを近海の島で育てていた。
何年かまえに、子どもたちの就学に合わせて、ネオ香港に越してきた。
公式には、アナハイム・エレクトロニクス社の極東支社……ネオ香港支局の保安員にすぎない。
だが彼こそが、ネオ香港の守り神であることは皆がよく知っている。
そして、ドアン自身もまた自分の養育する子どもたちが学校に通い、生活するここ地を大切に思っている。
いわば今のネオ香港そのものが、ククルス・ドアンのシマなのだ。
拳法道場崩れの黒白会に歯がたつ相手ではなかった。
「遺恨か?」
ドアンが尋ねる。
項垂れた黒白会の頭領の代わりに、マクレーンが答える。
「俺はニューヤーク市警のマクレーン警部補。こっちは俺のバディでモトコ・クサヤギだ。
どうも俺たちがニューヤークで逮捕したギャング団にこいつの身内がいたらしい。」
「逆恨み……というやつか。」
「正確にはそれも、違う。こいつの弟とやらはギャング団の用心棒をしていたんだが、こっちはそいつに痛い目に合わされた方だ。」
「な、なんだと!?
では弟をあんな目に合わせたのは……」
「ゼロ・ムラサメ」
黒白会の頭領はがっくりと膝を着いた。
「ム、ムラサメ研究所の……!?」
「なんだよ。俺たちはムラサメ研究所に、喧嘩を売ってたのか?」
「八分殺しのムラサメ」
「い、いやだ! 改造されるのは嫌だあっ!」
黒白会の三下たちは血相を変えて逃げていく。
頭領はその様子を呆然と見つめた。
路上には塵芥と。
気絶した黒白会のものたちが、数人転がっていた。
早急に治療が必要なものもいるが、それは頭領と脚をくじかれて、逃げそびれた黒白のものたちが救急車を呼ぶだろう。
「助かりました。」
アムロはドアンに頭を下げた。
ドアンもたしか二十代のはずだ。アムロとそう年は変わらないはずだが、島で孤児たちと暮らした経験からか、一回りも二回りも上に見える。
ドアンは無精髭の生えたあごを撫でた。
「いや、礼はいい。ハヤトと呑みに行くところに偶然通りかかっただけだ。」
ドアンが、黒白会の頭領を見下ろした。頭領はまだ膝をついたままだ。
「それで?
ムラサメ研に喧嘩を売るのは、知らない間に合いずいぶんと黒白会というのはでかくなったんだな。」
「い、いえ! そういうわけでは……!」
「じゃあ、ニューヨーク市警に喧嘩を売っていたのか?」
ドアンが、マクレーンとモトコを見た。マクレーンはゴミまみれの一張羅を、仏頂面で眺めている。モトコは手首や足首を回していた。
「いや、こっちはただの逆恨みだよ、ドアンさん」
マクレーンが、苦笑いしながら言った。
「紅サソリの用心棒の、その兄貴分が、ゼロ・ムラサメにやられた腹いせに、俺たちを狙ったってわけだ」
「あんたらがニューヤークから来た刑事か?」
ドアンが、少しだけ眉を上げた。
「ニューヤーク市警のしがない警部補とそのバディだ。ネオ香港の組織は管轄外でな。」
「誤解だ、刑事さん。」
ドアンは困ったように頭をかいた。
「俺は、ククルス・ドアンという。ただのアナハイムの保安部員だよ。」
「こいつらにはずいぶん、顔がきくようだが?」
「まあ、子どもたちのためにも安全で暮らしやすい街にはしたいからな。そのための努力は惜しまんさ。」
「あなたたちの方は怪我はない?」
モトコが、ヨルたちを見た。ヨル、ライラック、セルマの三人は、マチュとニャアンに守られるようにして立っている。
「……それにしても、ジュニアクランバトルスクールは格闘術や暗器の使い方も教えてるのかな?」
「いやいや。この子らの技は、長い鍛錬と持って生まれた素質がなせるものだよ。」
チェンがゆっくりとあゆみ出た。
「あなたは?」
「あんたもネオ香港のアナハイム保安部員だと言ったな。われわれも似たようなものだ。」
「アナハイム月面支社の保安部ネ!」
イェが陽気に言った。
ドアンの目が細まる。
「ディアナ教……“ギンガナムの首”か!!」
「そんなふうに呼ぶものもいるが、な。」
チェンはゆっくりと言った。
「まあ、アナハイムの前月面支社長の一派に利用されただけで、ディアナ信仰は、グラナダの民間信仰だよ。」
「この少女たちを鍛えたのもあなた方か?」
「いいや。」
チェンは笑っていた。なんとなく嬉しそうに見える。
「彼女たちはジュニアクランバトルスクールに通うために、ネオ香港に来たばかりだよ。出身はジオンらしい。」
その時、ようやくパトカーが裏路地に入ってきた。ネオ香港市警だ。制服警官が降りてきて、路上に転がっている黒白会の男たちを見て、ぎょっとした。
すぐにドアンを見つけ、敬礼する。
ドアンは軽く頷いた。
「ああ、ここではちょっとした乱闘があっただけだよ。黒白会がニューヤークの刑事さんを私怨で襲ったんだ。二十人以上が集まっていたが、動けないもの以外は逃げ去っている。怪我人がいるので救急車を一台……いや、二台ほど呼んでくれ。」
「了解です。ドアン殿!」
イェが、土産物のストラップを三つ、モトコに押し付けた。
「はい、お土産ネ。二個買ったら一個おまけだったから、ちょうど余ったネ」
「……あんたねえ」
モトコは、パンダのストラップを見て、また額の青筋を押さえた。
マクレーンは、ゴミまみれのジャケットを脱いで、ヨルたちに近づいた。
「……大丈夫だったか?」
ヨルが、小さく頷いた。
「怖かった……わけはないか。」
「怖ったですよ、普通に。」
微笑みを浮かべてヨルは言った。
「でも、アムロやあなた方は、わたしくしたちに誠実に接してくれました。
なら、わたくしたちもすこしは手の内をみせて差し上げないと。」
「ねえねえ。」
セルマが笑った。ライラックは仏頂面だ。
「セルマたちって怖くなかった?」
ハヤトをなんとなくジュージュツの達人にしてしまったのがすこし違和感。この二次創作では、むかしアムロとM.A.V.を組んでクラバに出てたよのですが、射撃が下手で、フラウ・ボウとの結婚を機にクラバを引退。
とはいえ、生活のためにクランバトルに逆戻り。現在は飛び道具を使わないクランバトル「バトリング」の第一人者として活躍しております。