第13話 鼓動   作:ATARU 2025

427 / 427
ネオ香港。
深夜。
異界への門が開く────






【閑話】異世界便り

ジュニアクランバトルスクールが、生徒たちのために借りた宿舎は、高層コンドミニアムの上層階だ。

ネオ香港大学からは徒歩でアクセスできる。

 

豪華という訳では無いが、セキュリティはしっかりしている。

IDのないものは、彼女たちのいるフロアには入れないし、男女もフロアが別になっていた。

 

ヨルたちは中層階にある庭園に集合した。

すでに、時間帯は深夜に差し掛かっている。

人気はない。

昼間は、テラスとして使われていているのだが、この時間帯はそちらも閉まっていた。

 

照明は最低限に落とされ、ドーム型の窓から見えるネオ香港の夜景のほうがむしろ明るいくらいだった。

 

「どうも──気に入らないのよ。」

ライラックはベンチに腰を下ろしている。

シャワーを浴びてきたのだろう。

まだ濡れた髪をピンでとめていた。

 

「ライラックはずうっと、気に入らないね。」

ブランコに、足をブラブラさせながらセルマが揶揄うように言った。

 

「あなたたち!

馴れ合いすぎなのよ!」

ライラックは叫んだ。

三人のなかでは一番物静かな印象ではあるのだが、内には強い感情を秘めているようだった。

「ゼロに、アムロに、マクレーン!

彼らは敵になるかもしれない相手なのよ?」

 

「セルマはセルマにとって、やくにたってくれるなら、みんな友だちだよ?」

ツインテの少女はくすくすと笑った。

可愛らしい顔立ちだが、どこか邪なものを感じさせる笑い声だった。

「役にたたなければ、切り捨てるだけだよ。違う?」

 

「あなたもトロワ・ムラサメのことはずいぶんと気に入っているようね?

今後の方針については、まずはあれと相談をしましょう、ライラック。」

ヨルが言った。

「ここまでは、ほぼ予定通り。

わたしたちは地球圏に帰還し、シャロンの薔薇の現し身への足がかりを得た。あとはなにをすればよいのか。」

 

丸いテーブルに立てた旧式のタブレットが光る。

 

 

ザザ……

ザ……

 

しばらく雑音が続いたあと、タブレットはひとりの少年の姿を映し出す。

 

「や……あ……」

 

濃い青の髪は、カットを2ヶ月くらいサボっている。

まっすぐにこちらを見つめてくるその顔は、端正だ。年は十代の半ばだろう。骨格に華奢な部分が残っている。

 

「無事に着いたようだね。」

 

三人は無言の視線でそれに答えた。

 

少年は慌てたように、自分の身体を見下ろした。ランニングシャツから肩甲骨や筋肉の厚みがない胸が透けて見える。

「……なにか、変かな?」

 

「大丈夫だよ!」

セルマがウインクしながら、親指を立てた。

「ちゃんと人間だよ!」

 

「正直言うと、あまりにも脆弱で、未だにびくびくしているよ。まえにそっちにいたときは、急に体温が上昇して困った事があった。はじめての体験だったから、それなりに観察はできたけど。

あれは『風邪』というものなんだろうね。」

 

「そちらはどんな具合なのですか?」

 

ヨルが尋ねた。

 

「きみたちにも話すことはできないことはたくさんあるよ。」

少年は言った。

「でも、概ね順調……なんだろうな。

エネルギーの供給量は足りている。当たり前だよね。

だが、世界そのものが無数に枝分かれしてしまうと……」

 

「マチュ……という女の子を知っていますか?」

ヨルが尋ねた。

 

「もちろん!

会ったんだね、彼女と?」

 

「わたしの通うパイロットスクールの講師です。」

 

「あの……マチュが!?」

 

「クランバトルは公式の競技となり、その選手は社会的にも地位があるのです。」

 

「そうなんだ……」

少年は考え込んだ。

「……それは興味深いね。

ではきみたちは、いまそのパイロットスクールな在籍する形で、地球に滞在しているということなんだ。」

 

「正確には、ジュニアクランバトルスクールです。

近々はじまるクランバトルのジュニアコースの養成コースのようなものです。」

ヨルの笑みはいっそう濃くなった。

「シャロンの薔薇の現し身もへの手がかりも見つけました。」

 

「仕事が早いね。」

 

「というより、あなたは、ひとの世の織り成す因果というものをあなたはあまりにも軽く見すぎています。

そのような目的をもって、この世界にいる以上、否応無しにわたしたちは目的に近づいてしまうのです。

お忘れでしょうか?

この世界もまた、ひとりの少女が、願いを叶えるために繰り返しを行った世界なのですよ。」

 

「それは……わかっている。」

少年は言った。

「でもそれは『夢』なんだ。それがどんな幸せな夢でも、いつか目覚めなければならない。

そして目覚める方法は────」

 

「この世界にいる薔薇の乙女の分体を殺すこと。

あなたはそうおっしゃいました。」

 

「彼女はいま────どうしている?」

 

「それなりに安定した立場にはあるようです。

クランバトルの大立者、クワトロ・バジーナ大尉の恋人という立場です。」

 

「クワトロ・バジーナ?」

 

「分かりやすく言えば、元ジオン軍のエース“赤い彗星”シャア・アズナブルの偽名です。」

 

「そうか──あの子は彼と一緒にいるのか…」

 

少年が浮かべたのは、実に複雑な表情だった。

もともと────この少年は自分の感情を表情筋に乗せるのは下手くそだった。

本人は「自分には感情がない」と言ってはいるが、ヨルもセルマもライラックもそれを信じてはいない。

 

 

「あなたの指示を改めて聞きたいと思います。」

ヨルは少年に問いかけた。

「わたしたちは、ララァ・スンを亡き者にするのでしょうか?

それともこの世界のヒトの文明そのものを破壊するのでしょうか?

方法はいくらでもあります。この世界では人類は互いを抹消するに充分な兵器を開発しています。

対立を煽ることは、難しくはありません。」

 

「……ララァ・スンに近いうちに接触をとってみて欲しいんだ。彼女がどうしているか。

幸せなのかどうかを報告してほしい。

判断はそれからにするよ。」

少年は言った。

 

「わかりました。昔の歌のようですね。」

ヨルは言った。

「マチュに伝言はありますか?」

 

「ない。と言うより、ぼくにまだ会いたいというのなら、彼女は、それだけのリスクと努力と決断をするべきだ。

こちらから差し伸べる手はないよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ストーリー的にはヴァル・ヴァロとフルバーニアン戦よりも本筋だったりします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

フロンタルに憑依した苦労人転生者のガンダムSEED(作者:鉄血)(原作:ガンダムSEED)

フル・フロンタルに転生した転生者。そんな彼が可能性の光に包まれ、宇宙世紀を去り、次に目覚めた時はコズミック・イラの世界だった。▼彼はフル・フロンタルとしてこの世紀末なコズミック・イラの世界を生きていく。▼なあ、この世界は本当に変われるのか?▼なお、作者は映画も全て視聴済みです。


総合評価:19429/評価:7.79/連載:232話/更新日時:2026年10月31日(土) 22:33 小説情報

銀河英雄伝説 エル・ファシルの逃亡者(新版)(作者:甘蜜柑)(原作:銀河英雄伝説)

 エル・ファシルの民間人脱出劇。それは天才ヤン・ウェンリーにとっては最初の栄光でしたが、アーサー・リンチ少将に従って捕虜となった将兵にとっては、「エル・ファシルの逃亡者」の汚名を背負った苦難の人生の始まりでした。▼ 逃亡者になったことがきっかけで身を持ち崩し、今は旧同盟首都ハイネセンの救貧院で暮らす老人エリヤ・フィリップスもその一人です。街角で暴行を受けて意…


総合評価:11844/評価:8.79/連載:136話/更新日時:2021年04月03日(土) 10:20 小説情報

転生タイガのオーブ改革録 〜崩れゆく世界で未来を選び直す〜(作者:台風200号)(原作:ガンダム)

気がつけば、そこは『機動戦士ガンダムSEED』の世界だった。▼だが――転生したのはコーディネーターでも、英雄でも、パイロットでもない。▼よりによって「オーブのアスハ家三男」という、政治と陰謀の渦中に放り込まれる地雷原のド真ん中の最悪のポジションだった。▼未来を知る者として、タイガ・ウラ・アスハは決意する。▼――オーブを守る。▼――プラントの滅びを見届ける。▼…


総合評価:2627/評価:7.21/完結:275話/更新日時:2026年11月01日(日) 07:14 小説情報

技術試験隊斯ク戦ヘリ(作者:ザクスキー2世)(原作:ガンダム)

欠陥機、鹵獲艦、飛べるが帰れない試作機。▼まともなものが一つも回ってこない第603技術試験隊で、名家のお嬢様が愚痴を言いながら戦うお話。▼主人公は転生者ではないです。▼原作で死亡するキャラは、そのまま死んだり生き残ったりする予定です。▼基本的にMSIGLOO準拠ですが、一部ジオリジンの設定を持って来ます。▼箸休め程度に気楽に読んでもらえると幸いです。▼第1章…


総合評価:2798/評価:8.9/連載:50話/更新日時:2026年10月29日(木) 16:00 小説情報

地球連邦軍上層部はいつも多忙です。(作者:はにわはにわ)(原作:機動戦士ガンダム)

宇宙世紀0083年。核攻撃で観艦式が壊滅する中、地球連邦軍最高司令部の苦労人大将は、コロニー落とし阻止のため胃薬片手に奔走する。▼一旦、0083編で完結とさせてもらいます。Z編は制作に時間が取れなくなっているので、見通しも立たないですから、一旦、打ち切りの上、削除しました。


総合評価:6678/評価:8.32/完結:16話/更新日時:2026年06月24日(水) 01:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>