ティターンズは負け連邦軍の過激派で、「スターダストメモリー」もこれからなのでそれほどの勢力はもってません。
対するエゥーゴはこれが旗揚げ。軌道上におけるモビルスーツ試験運用実験艦という位置づけで作られた新造艦は武装すらままならぬ。モビルスーツは各自が自分のを持ち込みです。アルバイトでも断わる案件です。まかないくらいはつくのかな。
もともと水陸両用のモビルスーツを宇宙で使えるように改装しかけたものをまた陸戦用に調整し直す。
技術陣はよくやった。
だが、それ以上によくやっているのは、ニャアンである。
これで3戦め。前の2試合はいずれも勝利をおさめている。
今日は飛び道具なしの試合である。
今回の場所は郊外に設けられたスタジアムだ。
ちょっとした演習場ほどの広さがあるのは、10メートルを超える巨人が、殴る蹴る、をする以上、しかたない。
ニャアンは手を振り、モノアイを動かしながら、会場をぐるぐると回る。
双眼鏡でそれを眺める観客はなにがなんだかよく分からない。
識者は、ニャアンがロストコロニーの出身者で、そこだけで崇められている奇怪な神に祈りを捧げているのだという。
もちろん、大ハズレであって、ニャアンはがっちりと独立戦争とそれに続く動乱の被害者であり、不法難民としてイズマコロニーで運び屋などをしながらほそぼそと生活していた。
イズマコロニーは別に難民に対して寛容な場所でもなかったが、東洋系の人種が多く住んでいて、ニャアンは少なくとも外見的には目立つところがなかったのである。
ニャアンはひとしきり、舞を踊ると、M.A.Vのところに戻ってきた。
白を基調にしたトリコロールカラーの試作機であるが、今回のM.A.V.はアムロではない。
あの日あの改札で接触事故を起こした赤毛の女子高生である。
もともと、アムロとのM.A.Vで売り出されたにニャアンだったが、マチュが強い口調で抗議したのだ。
「たまには自分も活躍させろ。」
怒ったときのジト目である。
「……と、ガンダムが言っている。」
マチュはニャアンには信じられないほど思い切りがよく、よく直感で行動するのであるが、彼女自身も理由がよくわかっていない場合や、説明がめんどくさい場合はよくそういう言い回しをするのだ。
ニャアンにはわかる。
その中に人格を宿した特別なサイコミュがあるのだ。
だから「ガンダムが言っている」と言われてしまうとそれが本当にガンダムの意思ではなくっても周りはうんうんとうなずくしかない。
よくシュウちゃんもそういう言い方をしてたんだけど……え? まさかシュウちゃんも?
「なんです? あのモビルスーツは?」
アムロは、クワトロの自室でモニター観戦をしていた。
出番を取られたとか、そういう心情はない。
もともと戦いを好むタイプではないのだ。
半ば強制的に。
例えば、無理やり戦場に送り込まれでもしない限り、戦おうなどとは思わないだろう。
クワトロの部屋はかなり広い。
アムロも流石にホテル暮らしも不便になったので、かなり広めのコンドミニアムを借りたが、クワトロの部屋は桁違いだ。
別にお城というほどでもなく、コンドミニアム内部が三層に吹き抜けになっていて、ひとつひとつの部屋が、ふつうに家族が暮らせるほどの面積があるだけなのだが。
「あれはよくないな。」
クワトロは言った。
お茶にお茶菓子は、メイドらしき10代半ばの女の子たち二人が甲斐甲斐しく世話を焼いてくれている。
住み込みで働いているらしい。
アムロは人身売買をちょっと心配したが、二人ともララァを「お姉様」と呼んで慕っているようなので、あまり深くは追求しないことにした。
アムロが驚き、クワトロが顔をしかめた相手のモビルスーツは、大幅に改造を施していた。
動きをよくするためだろう。
外部装甲をほとんど外してしまっている。
もちろん、それは防御力の大幅な低下につながるのだが、今回のクラバでは実際のダメージではなく、当たりの判定だけで決着するルールになっている。
だから防御よりも運動性を、ということになるのはわかる。
だが、それはもはや「モビルスーツ」の面影はない。
片方が元は「ザク」で片方が「軽キャノン」だった「であろう」ことがわかる。
「安全性を高めるあまり『実戦』から離れてしまうとああなるのか。」
二体の「元」モビルスーツがもつ剣は、通常のビームサーベルの倍は剣身があった。
これも安全性からビームサーベルではなく、実体をもつ「剣」であり、重力下では特にあまりに剣が重くなれば振り回しにくくなるものだが、おそらくは剣も軽い素材で作っているのだろう。当たっても実際にノーダメージだが、今回のルールでは当たれば「切れた」と判定される。
『気持ちわるっ!』
ジークアクスを寄せてきたマチュがささやいた。
『でも動きが疾そうだよ。』
『たぶん、動きだけなら先読みができるからだいじょぶ。』
マチュは自信がありそうだった。
たしかにトリントン基地で二人は重力下でもモビルスーツの操作をたっぷり経験していた。
いやあんたはいいんだろうけど。
わたしはコレなんだよね。
と、ニャアンはゾックのクローを開いたり閉じたりしてみせた。
『それよりもリーチが問題かもしれない。』
マチュの声は悩ましげだ。
『いまの剣はジークアクスの標準時の長さしかないから、同じタイミングならむこうの剣が先に届く。』
リーチならなんとかなるよ。
とニャアンは断言した。
先読みはまかせた!
「クランバトル、クランバトル開始まで、5、4、3、2…」
相手は動いた。
マチュはその動きを読んではいたが、相手は想像以上に速かった。
間を詰められるまえに、こちらの間合いを作らないと!
飛び出したジークアクスの足首を、ニャアンのゾックのクローが掴んだ。
「え、は? なに?」
「力抜いてね、痛くしないから~」
ニャアンはそのまま、ジークアクスを振り回した。
まるで剣を振り回すかのように。
「クァックスソードっ!!」
この奇想天外な攻撃に。
それでも身をかわしたがジークアクスの手に持った剣が身体をかすめた。
判定、撃破。
もう一機はあまりのことに呆然と立ち尽くす。そこへ。
べちゃ。
ゾックのトリモチ弾が炸裂した。
いやトリモチは炸裂しないので言葉のアヤなのだ。
「勝者! “狂犬”マチュ&“病み猫”ニャアン!!」
「だんだんぼくの知ってるクラバじゃなくなっていく……」
アムロはどうにも納得がいかない顔で、お茶をすすった。
「正直、困るな。」
クワトロは、二人の少女のうち金髪のほうから、お茶の入ったポットを受け取った。
(もうひとりはアムロに似たくせっ毛だった)
「試合自体をあまりコミカルなものにしてしまうと……配信コンテンツとしてはいいが、賭けが成立しなくなる。」
「それは出場している選手次第になるはずよ?」
ララァが微笑みながら言った。
「最初からコミックショーを観せるための俳優ではなくて、実際に凄腕のパイロットが出場していれば、どんな試合になってもみんな真剣に観てくれるわよ。」
「はあ…そんなものですか?」
アムロが理解できないまま答えると、ララァは面白そうに笑った。
「そう! あなたが凄いパイロットなのは、一部のクラバファンにしかまだまだ知られていないから。
だからアーガマと一緒に活躍して名前を売ってきてね。」
「やっぱりそうなるんですか!?」
アムロは別に、ティターンズへの対抗組織「エゥーゴ」に参加したつもりはない
ただ、新型艦アーガマのテスト航海に同行してくれれば、返済不要の奨学金を手配してくれると言われ……。
だまされた!?
青ざめるアムロをクワトロは、笑って慰めた。
「ただより高いものはないぞ、アムロくん。
素直にクラバで稼いで進学したほうがおすすめだった。」
「大佐。あなたもですよ?」
ララァが言った。
「クランバトルのオーナーが実はすごいパイロットだったなんて設定はみんなきっと喜びます。」
「いや、その『みんな』がどこら辺の層に刺さるのだか」
「“エゥーゴ”で活躍してきてくださいね!
もちろん、大佐の別のお名前をだしてよいのなら!そんな宣伝はまったく必要無くなるのですが。」
「やめてくれ! またシャリア・ブルに殺される。」
……
ソドンはジオンへと帰っていった。
入れ違いに『アーガマ』がネオホンコンに到着した。
スフィンクスのような形状の、いわゆるソドンに似た系譜の船だった。
ただし、強襲揚陸艦に分類されるソドンよりは、アーガマはモビルスーツのキャリアーとしての側面が強い。
連邦軍そのものではない。あくまでその外郭団体としてもあまり武装を強化することは難しかったのか。
通常の戦艦ならばかならず装備するメガ粒子砲を装備して居ない。
防空用の機銃があるものの、あくまで「テスト用モビルスーツを大気圏外まで連れていき、また回収して降りてくる」というシャトルとしての機能をもとに建造許可をとったのか。
搭載するモビルスーツは……
アムロの『ガンダム』。
マチュの『ジークアクス』。
ニャアンの『ゾック』。
いや、8機以上のモビルスーツが運用できるはずのアーガマのデッキの中は閑散としている。
「いやあ。」
デッキでモビルスーツを見ながら、シャリア・ブルはうそぶいた。
「昔を思い出しますなあ。」
「思い出さんよ。あのときはわたしにはガンダムがあったし、おまえにはキケロガが…いやそれ以前にわたしはクワトロ・バジーナだ。それ以上でもそれ以下でもない。」
「違うところはこれから、艦隊が防衛している拠点に殴り込みをかけるのではない…というところでしょうか。」
「そのときと比較しているのなら、たしかに状況はかなりましだな。しかし、エグザべくんとコモリくんまで一緒に着いてこさせて良かったのか?」
「わたしはなにを仕出かすか分からないところがあるそうで。お目付け役ですよ。さすがにギャンは貸し出して貰えませんでしたが。」
「たしかにおまえは次になにを仕出かすか分からないところはあるな―――」
「あなたにだけは言われたくありません。」
「おう、こちらでしたか、クワトロ大尉、シャリア・ブル閣下。」
艦長のヘンケンが顔を出した。
階級は大尉である。
通常はこのクラスの艦艇ならば少佐以上が艦長につくのだが、やはりアーガマは特別という所なのだろう。
二十代半ばと思われる士官を連れていた。
「モビルスーツの運用を担当するブライト・ノア中尉だ。」
「ブライト・ノアであります。よろしくお願いいたします。」
生真面目そうな士官は、まっすぐな目で敬礼した。
「そうか…苦労をかけることになると思う。」
クワトロは皮肉でもなんでもなくそう言った。
「それとわたしはすでに軍を離れた身だ。
シャリア・ブルも軍籍を離れて、客人としてここに参加している。あまり固い挨拶はこれ切りにしてもらうぞ。」
発信前のブリーフィングということで、一行はブリッジに集められた。
「エゥーゴの代表を務めるブレックス・フォーラだ。」
独立戦争からの叩き上げのはずだが、柔和な印象を与える。階級は准将であったがすでに退役し、今回のアーガマへの参加はオブザーバーとしてのものになる。
クリスチーナ・マッケンジーや以前に会った時にブレックスが連れていた黒髪の女性士官(エマ・シーンと言うらしい)もいる。
クワトロが選抜したアポリーやメカニックのアストナージもいる。
マチュとニャアンはいきなり退屈していたが、ブレックスは微笑ましげにそれを見守っている。
「ち、ちょっと、中佐!!」
コモリがシャリア・ブルに囁いた。
「連邦軍のブリーフィングにわたしたちが参加していいんですか!?」
「大丈夫だよ。わたしは軍令部への報告では軍を脱走したことになってるからね。」
「え! いえ予備役の中佐はそりゃある程度自由でしょうけど」
「きみとエグザべくんもたぶん脱走の扱いだ。いや脱走したわたしを追跡する特別任務中かな? そこはラシット艦長の器量に期待しよう。」
「あのさ!」
マチュが開口一番に話し出した。
育ちは悪くないので、礼儀作法を知らないわけはないのだが、ここはクラバで揉まれた彼女流なのだろう。
「これから、わたしたちはティターンズのやろうとしてるテロを止めて止めて止めまくる。そのはずなんだけど、この船の武器はどうなってるの!?」
「なかなか鋭いお嬢さんだ。」
ブレックスは微笑んだ。思いっきり話の腰を折られたのだが動揺する気配もない。
「もともとモビルスーツキャリアとしての母艦の側面が強いアーガマだが…」
「そのモビルスーツも、もっと積めるのに3機しかないよね?
パイロットだけでも…」
一応自分のモビルスーツを持ち込んでいるアムロとニャアンが手を上げる。クラバの参加者だったアポリー、テストパイロットのクリス、エマも手を上げる。
“中佐! あなたは手をあげなくてもいいと思います!”
“いや、なんでぼくまで手を…”
「なので、我々はまずモビルスーツの補充に向かおうと思う。」
メインモニターにコロニーが映る。
「最初の目標は、ここ。グリーンノアだ。」
次回「再会!父よ!」
「いいかアムロ、このモビルスーツにのればおまえの戦闘力は数倍に跳ね上がる。」
いや、そりゃ...マジのやつですけど。