ヤザンは次の敵を探した。
ロベルトは2機のゲルググを相手によくやっているが徐々に追い詰められていた。
彼もまたかなりの熟練のパイロットだったと見える。
ヤザン自身がそうしていたように、市街地への被弾を出来るだけ避けるように、位置を取りつつ、ビームライフルは牽制程度には留めていた。
ヤザンが救援に駆けつけようとしたとき、1機のゲルググの背後に、黒い影が浮かび上がった。
黒に近い濃紺のガンダムマークⅡは、ゲルググのマシンガンを持つ腕を肩口から、ビームサーベルで両断する。
制御を失ったゲルググはキリモミするようにして落下した。
「ジェリドか!? よくやった…」
「カミーユです!!」
あのクソガキかっ!
とヤザンは思ったが、別に特にカミーユに悪意をもっているわけではない。ガキ呼ばわりするのもクソとつけてしまうのも単なるヤザンの習性である。
最後の1機残ったゲルググは逃走を選んだ。
これは正しい。
全滅しても味方はだれも喜ばない。それよりも情報を持ち帰るほうが優先だ。
「追うな!」
との命令が入った。
かなりの濃度で散布されたミノフスキー粒子のせいでこの距離でも画像が荒い。
フランクリン・ビダンだった。
荒い画像でも髪が乱れ、焦っているのはひと目でわかった。
「やつらを運んできた艦は何隻だ?」
ヤザンは尋ねた。
目的がいまひとつわからない襲撃だった。
機体は海兵隊用のゲルググMだ。
それを使っているのは、シーマ艦隊だけで、ということはデラーズ・フリートのやつらなのだろう。
思想的には互いを排他し合うティターンズとデラーズ・フリートは不倶戴天の敵同士ではあるが…。
似た者同士なんじゃねえのか?
と言うのがヤザンの感想だった。
「ザンジバル級の巡洋艦にムサイが3隻だ。デラーズ・フリートと名乗っている。
平和を乱す新型モビルスーツ開発に対する示威行動ということらしい。」
「は? ここは連邦だけじゃねえぞ。ジオニックやジオン公国軍の金やひとも流れてる。そこにモビルスーツ隊を送り込んで暴れさせんのか?」
「わたしもわからんっ!」
フランクリン・ビダンは諦めたように言った。
「ティターンズのバスク少佐が“トロイホース”で外に待機している。
そのまま合流しろ。」
「おう、了解だ。カミーユ、おまえはどうする?」
カミーユだとっ!!
画面のフランクリンが完全にパニックを起こした。
「なぜカミーユがそこにいる?」
「ジェリドが落っこちたんだ。」
ヤザンは説明した。
「で、かわりにカミーユが乗ってきたらしい。
言っとくがジェリドのやつの腕が悪いせいじゃないぜ。実際に動かしてみての調整を省いたおまえさんたちの責任だ。」
「いかん! カミーユは戻せ、いやいったんそのままトロイホースに合流だ。カミーユを回収するための連絡艇は用意する。」
その判断はおかしいんじゃねえかな?
ヤザンは思った。
シーマ艦隊の規模からすれば、まだ多数のモビルスーツを持っているはずだ。
そこに息子を放り出す?
たしかにフランクリンは仕事に女にと家庭を顧みないタイプの男だったが、そこまで積極的に息子を殺しにかかるとは思えない。
別にたいした手間ではない。
ラボでカミーユを降ろさせて、かわりにソムでも誰でも代わりのパイロットを乗せるほうがあとで回収用のランチを出すよりはるかに簡単だろう。
つまり。
フランクリンのおっさんは、この襲撃のことを知ってやがった。
そして、シーマ艦隊からはもうこれ以上攻撃がないこともわかっていたのだ。
つまりはあれか。
ティターンズとデラーズ・フリートは裏で繋がってやがったのか。
頭に血が上りやすいヤザンだが、その中でも特に嫌いなのが、周りから騙されてコケにされることだ。
だが、このときは、ヤザンはニヤニヤと猛禽類が無理やり笑えばこんな顔になるだろうという顔で笑った。
“ご苦労なこった。だが残念だな。全部ご破算だ。”
「わかったぜ。このまま、トロイホースに合流する。カミーユ、ついてこれるな?」
「はい、でも本当にティターンズにこれを渡してしまうんですか?」
カミーユが以前エキシビションマッチで一緒になったパイロットの乗ったシャトルがティターンズに襲撃され、そのパイロットが一時期消息不明になったこともあって、彼はティターンズを嫌っている。
「まあ。そこら辺のいろいろな事情があって、俺たちはここでテストパイロットをしてたんだからな。」
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「2機もやられるなんて、なんてことだいっ!」
シーマは怒り狂っていた。
これはあくまで示威行動。デモンストレーションに過ぎない。
連邦がこっそり新型モビルスーツを開発していたところを抗議のために彼女の艦隊は訪れたのだ。
研究施設への攻撃は限定的なもの。
新型モビルスーツはかろうじて脱出したものの、果敢な抗議活動は、デラーズ・フリートの評判を上げるし、一方でコロニーの研究施設に被害が出たことでティターンズはジオンの脅威を一層声高に喧伝できる。
間違ってもその際に、シーマ隊に被害が出ないように新型の動作テストも終わらないこのタイミングを狙ったのだ。
それが…。
「後方のアルビオンが接近します。戦闘距離まであとフタマル!」
部下の報告にシーマはコンソールパネルを殴りつけた。
「なんだって! あの臆病者の壺やろうがここで戦端を開こうってのかい。面白いじゃないか。
わたしの“ガーベラ”を用意しな。
それとガトーに発進準備をするように言っとくんだよ。」
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悪巧みを仕込んだもう一方。
トロイホースもまた混乱していた。
「“アーガマ”だと! モビルスーツの宇宙での実験基地となるべく造られた船がなぜここに!?」
バスクは叫んだ。
それが、ジャミトフに反対する派閥、ブレックス准将の働きかけでつくられ、先日竣工したという話はきいていた。
「アーガマは、モビルスーツのテスト艦だ。新型の発艦着艦の訓練のため到着したとのことだ。」
シナプスは、バスクの狼狽を冷たい目で見つめている。
アーガマの到着は事前には知らされてはいなかったが…まあ、筋は通っていた。
通っていないのは、このバスクだ。
ひとしきりシーマ・ガラハウと罵りあいを展開したが、シーマ艦隊は、こちらには砲を向けず、モビルスーツ隊はそのまま、グリーンノアに侵入していった。
バスクはそんなシーマ艦隊の動向にはなんの疑問ももたずに、これで仕事は終わったと言わんばかりにくつろぎ始めていた。
バスクの目的は新型モビルスーツの受領である。ただし動作確認テストも済んでいない状態での受領だ。
多少の動かしながらの数日の最終調整は必要だろうし、そのためにアーガマが来てくれたのはシナプスにはありがたい。
整備不良のモビルスーツにトロイホースの発艦デッキを壊されたりするのは願い下げだった。
「あれを」
バスクはレーザーサーチャーが映し出したアーガマの映像を指さした。
「あれを落とせ。」
冷静なシナプスもこれには驚いた。
「バスク少佐? なにを言っている。あれは友軍の艦艇だぞ?」
「あれは有害なテロリストに乗っ取られている。」
バスクは断言した。
シナプスは嫌な顔を露骨にだした。
ティターンズがそう言い出すときは必ず無辜の市民まで巻き添えになる戦闘が起きる。
いやそもそも「戦闘が起こった結果巻き添えが出てしまったのか」それとも「最初から民間施設を狙った攻撃だったのか」。
彼としては疑問が常に残っていた。
だが、ジオンに対して強い態度を取り続けるティターンズは、軍内部にも民間にも一定の支持はある。
先だってはついに、良識ある反対派のブレックス准将を退役に追い込んだほど、その政治的な力、勢いは凄まじいものがあった。
「シーマ艦隊から通信です。」
ザザッ。
ミノフスキー粒子に乱された荒い画像が目の下にクマのある女を映し出した。
「そっちのマークⅡも手を貸せ。」
敵は敵で、さらにとんでもないことを言い出すのを、シナプスは呆然ときいていた。
「我々の“アルビオン”が反乱を起こした。わたしたちは共同してこれを叩く。」
「わかった。」
い、いやバスク!わかったではないだろう?
「我々も反乱艦アーガマを後方に置いている。ともどもこれを叩こう。」
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ジオン公国軍最新鋭艦アルビオンの艦長ドレン中佐は、連邦軍サウス・バニング中尉をゆっくりと振り返った。
「ご覧の通りだ。デラーズ・フリートは民間施設にテロ攻撃を平気で行う。
だが我々もいまここで、ジオン公国軍同士が相打つまでの決断はできん。」
シーマ艦隊から発進したモビルスーツは、連邦軍のトロイホースではなく、グリーンノアに進んでいく。
「我々はなんとかあのコロニーを助けたい…あそこはモビルスーツの開発拠点ではあるが、ジオン以外の住民が大半だ。」
「…捕虜のわたしにどうしろ、と?」
「うむ。我がアルビオンには発進準備済みのゲルググが積まれていてね。
どういうわけか、発艦ハッチが開いたままでうまく閉じないのだよ。もし、奪われたとしてもそれはそれで仕方ないのかな!と思うわけだ。」
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「...そんなことになっているんですか?」
アムロは、ブレックスの話を聞かされて、唖然としている。
場所は彼の「ガンダム」のコクピットだ。
グリーンノアが目視できるところまで来たときに、彼らはモビルスーツへの搭乗を命じられたのだ。
えー...っと。
モビルスーツを受領するだけのカンタンなお仕事ではなかったのかなあ。
うまい話にはぜったいに裏がある。
求人には気をつけよう。
「ムチャクチャだ。」
と、マチュがボソッと言った。
「マチュ。」
「なに、天パ?」
「これは、クランバトルだ。戦争じゃない。」
「あんたまでなに言い出すの! どうみたって戦争じゃん、これ。」
「それでもぼくらは兵士じゃない。だから戦いはしない。あくまでクラバのルールで相手を無力化するだけだ。」
「あ―――」
マチュはなにかに気がついたように言った。
「わかった。殺さないで済むなら殺さない―――ってガンダムが言ってる。
ニャアンもわかった。」
「うん!」
と、ニャアンはゾックの中で答えた。
もちろん、彼女は殺されそうになっても殺さないつもりは毛頭なかったのだが。
試作ガンダムとガンダムマークⅡの戦いは、映像でもコミックでもまだ見たことないのですね。
想像で書きます。
自分のイメージでは、試作ガンダムシリーズは採算度外視の実験機。ガンダムマークⅡはムーバブルフレームとかの新技術をとりこみながらも新世代のフラグシップ機として手堅く仕上げた機体。
なのですが。