第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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アーガマにのせ損なったドゥー・ムラサメのお話し。
もともとムラサメ研究所の強化人間でシャリアのキケロガに撃墜されて、入院した病院からブリックス准将派によって救い出されたボクっ子がなにをやってるのか。
ティターンズの動向報告も兼ねて、しばし香港編にお付き合いを。






ネオ香港奇譚1

夜のネオ香港は、息苦さを感じるほどの光に包まれていた。

 

高層ビルの壁面を流れるホログラム広告3Dサイレージが、空を青や赤に染め替える。

 

その内の幾つかは、さきほど終了したクランバトルの試合を繰り返し流していた。

機体そのものは払い下げのザクとすっかり需要の減った水陸両用型モビルスーツ同士という新鮮味にかけるものだったが、ビーム以外の射撃兵器あり、という、クラバが公式化されたいまでは珍しい、危険度たっぷりド迫力のもので、街頭を行き交う人々のなかには、足をとめて

迫力ある映像を楽しむものも多い。

 

「しかし、スターが次から次によくうまれてくるものだな。」

皮肉でも言うような口調で感心してみせたの痩躯の男は、ウォン・リーという。

このところモビルスーツの開発にも力を入れていて、ジオニック社と双璧とも言われるアナハイム・エレクトロニクス社の極東幹部だ。

「“黒い三連星”マッシュが引退、鳴り物入りで登場させた“白い悪魔”や“病み猫”に“狂犬”もしばらく試合に出られないとあっては、さすがにクラバ人気も下火になるかと思ったが。」

 

画面ではザクのマシンガンを掻い潜った水陸両用型モビルスーツ“アッガイ”がアームクローで、一方的にザクを叩きのめしていた。

 

「勝者! “戦慄”のアカツキ!!」

 

 

「…で、ドゥー・アカツキを最後にみたのはいつだ?」

ウォン・リーは傍らの男に話しかけた。

ずんぐりした体型で貧相な髭を生やしている。

軍隊でいうなら、気の利いた下士官程度。見るからにエリートのウォン・リーとは対照的だ。

だが下士官として有能なものはたいてい、どこの組織に行っても有能である。

という訳で、ウォン・リーはこの男を好ましく思っていた。

名をデニムといい、現在ネオ香港のクラバ組織の支配人である。

 

「闘技場からガンペリーで郊外のドッグへ運び込んだときまでは間違いなく一緒でした。」

 

「市街地へは?」

 

「ホテルの前まで送ったと、ジーンのやつが。」

 

「そのあと、部屋には戻らずに外出したのか。」

 

ドゥー・アカツキは実は体が弱い。

とくに呼吸器に欠陥があるらしく、マスクをほぼ着用している。

もともとクリスチーナ・マッケンジーが保護した少女で、その出自はある意味で悪名高いムラサメ研究所の強化人間だった。

クリスたちとアーガマに乗らなかったのは、ちょうどそのときにドゥーが発熱して寝込んでいたためだった。

 

ドゥーの出自は、アナハイム・エレクトロニクスの幹部であり、ブレックス准将のエゥーゴ立ち上げにも助力したウォン・リーには承知のことだった。

 

「定期的にモビルスーツでの戦闘を行ったほうが精神的に安定する。」

 

というアドバイスに従って、クランバトルに参戦。ここまで四連勝。“戦慄”のアカツキは新しいクラバのスターとなった。

 

だがそれはイコール、ドゥーの情報が拡がってしまうという危険性もはらんでいる。

ムラサメ研究所からはいまのところなにも言ってきていないが、今後はわからない。

 

だからドゥーをひとりでフラフラさせるなどとんでもないのだ。

 

 

上層のカジノ街では、豪奢な服を纏った客たちが笑い声を上げ、酒と音楽に溺れている。

しかし、その真下に広がる下町は別の顔を持つ。

香辛料の匂いと油の焦げる匂いが入り混じり、薄暗い路地では金と命の取引が黙々と行われていた。

 

ドゥー・アカツキ、いやムラサメ研究所の2番目の実験体ドゥーは、その下町を一人歩いていた。

 

十代半ばの華奢な美少女――だが、その脳と体にはムラサメ研究所が施した強化プログラムが刻まれている。

戦場の中では、モビルスーツを意のままに操るための反応速度と演算力を誇る。ある意味、人工的に作られたニュータイプと言える。

だが、今は生身。

細い手首も、足の力も、路地裏での喧嘩一つできやしない。

 

街角から見上げる3Dサイレージにはさっきの試合が繰り返し放映されている。

しばらく見上げてからまた歩き出す。

亜熱帯のネオ香港でももっとも寒い季節にはいっている。白いコートはもこもこしてはいたがあまり暖かくはなかった。

 

クランバトルに勝って、観客からの歓声を浴びるのは気持ちが良かった。

だが満たされない。

 

“そうだ、天パだ。天パの成分がボクには足りてない。”

 

あれの操作は天才だ。あいつの操縦を真似たい。

 

声が遠くに消えていくのを感じながら、彼女は薄暗い屋台街へと足を踏み入れた。

 

“いや、あいつにボクを操縦して欲しい。”

 

(……少し歩けば、頭も冷える)

 

屋台の鉄板で合成肉が焼け、刺激的な醤や香草の匂いが鼻をくすぐる。

しかし、その人混みの中で、背筋を刺すような視線があった。

 

ドゥーはその視線の主を意識しながら、少しずつ、人通りの少ない一角に移動した。

 

「ボクになにかようなの?」

振り返った瞬間、細身の少年が立っていた。

深緑のフライトジャケットに、長い前髪が片目を覆う。

露出した瞳は氷のように冷たく、そのに何の感情も感じることはできなかった。

 

「……だれよ、きみ?」

 

「名前はない。お前を殺しに来た。」

 

「あ、お仲間?」

 

次の瞬間、彼の指が腰の鞘にかかる。

引き抜かれたのは、光を吸い込むような黒刃のコンバットナイフ。

動きは迷いがなく、まるで訓練された舞の一部のようだった。

 

ドゥーは後ずさった。

強化された視覚は、彼の筋肉の収縮や足の角度を瞬時に読み取るが――身体がついていかない。

逃げるにも、声を上げるにも、遅すぎる。

 

「なるほど…トロワってわけね。」

 

「呼びたければそう呼べ。」

 

トロワが間合いを詰め、刃が光った。

ドゥーの喉元まで、わずか半歩。

その瞬間、背後の路地影から、巨岩のような腕が伸びた。

分厚い手がトロワの手首を捕らえ、刃先を横に弾き飛ばす。

 

金属音と共に、ナイフが地面を滑った。

 

「ガキが夜に刃物かよ。物騒だな」

 

現れたのは、大柄で筋肉質な男だった。

浅黒い肌に短く刈った黒髪、無精髭。深く刻まれた皺の奥に光る鋭い目。

しかしその眼差しには、妙な安心感もあった。

 

「……あんたは?」

 

「ククルス・ドアンという。この街の保安部にいる。この嬢ちゃんがふらふらしないように見張っておいてくれと頼まれてな。ま、今日は俺の仕事の一部ってわけだ」

 

トロワは視線を鋭くしながら、逆手でナイフを拾い上げた。

しかし、それ以上踏み込まず、一歩退く。

 

「……今日は引く。だが、次はない」

 

そう告げると、群衆の中に紛れて消えていった。

残されたのは、まだ心臓の鼓動が速いままのドゥーと、腕を組んだドアンだけだった。

 

「……礼は言っとく。でも、どうしてボクを?」

 

「お嬢ちゃん、あんたが誰かくらい、アナハイム・エレクトロニクス社もクランバトルの組織もはちゃんと知ってる。

ムラサメ研究所の被験者で、イズマコロニーの襲撃事件の犯人だろう?

あいつは?」

 

「たぶん…ボクと同じ強化人間だ。

次の被験者は男だって聞いてたから…たぶん、あいつがそうだ。

トロワ・ムラサメ。」

 

「スマホを見てみろ。ウォンさんやデニムから問い合わせがやまほどはいっているはずだ」

 

遠くでアリーナの次戦の告知がホログラムに浮かび上がる。

だが、ドゥーの胸には、さっきの氷のような瞳と黒い刃が焼きついて離れなかった。

 

「当分はホテルで、軟禁だな。あのトロワとか名乗った少年はなかなかの腕前だ。」

 

「たぶん、無駄だよ。」

ドゥーは次の試合の告知をしらせるホログラムを指さした。

 

 

次のクランバトルの予告だ。

新たなる挑戦者は、ガンダムタイプ。

その言葉に明確な定義があるわけではない。

だが、複数のセンサーアイ。V字のアンテナを備えたモビルスーツは「ガンダム」として人に認識される。

そしてパイロットはエメラルドグリーンの髪と瞳の少女。

 

「話には聞いてる。記憶がなくなるまで強化を施した四番目の被検体。」

 

ドゥーは吐き捨てるように言った。

 

「フォウ・ムラサメだ。」

 

 

 

 

 

---

 




ムラサメ研の強化人間は、アン、ドゥー、トロワだろうと思ってました。トロワってきくとあいつしか思い浮かばない。たぶん実弾たっぷりつんだガンダムタイプにのってるんだろうなあ。
そしてフォウ・ムラサメついに登場です。たぶんサイコガンダム乗ってくると思われるのですが、ドゥーちゃんアッガイですけど。
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