第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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ドゥーをアーガマに乗せ忘れたことに気がついたからじゃないぞ!
ドゥーは体が弱いんだ。設備の整ってない病院もないところで、何週間も過ごすのはむりなんだ。だから地上においてったんだ!!
という言い訳のためのネオホンコンクランバトル篇。
もうちょっと続きます。




ネオ香港奇譚2

「ムラサメ研究所だ。」

デニムは、吐き捨てるように言った。

場所は彼のクランの事務所である。

「裏から手を回したんなら、ウォン・リーさんを通じてこっちも圧をかけられるが、堂々とクランバトルに参戦して来られたら、受けざるを得ない。」

 

「ボク刺されそうになったんだけど?」

 

大きなソファに座ったドゥが、むっつりと言った。足は床につかずにブラブラさせている。

伸びすぎた白い髪をあちこちで、ピンで止めていた。

素肌のうえにダブダブのシャツを一枚羽織った姿でどうも下着もつけていないようだ。

自分をモビルスーツの「心臓」だと刷り込まれた少女は身だしなみという点においてはかなりまずいものがあった。

 

「あれは顔見せだな。

殺すつもりなら、殺せていた。」

アナハイム・エレクトロニクス社の保安部にこの人ありと。そんな評判の元ジオン兵ククルス・ドアンがそう言った。

もともと戦災孤児を戦火の及ばぬ島で養育していたが、子供たちの就学の問題もあって、ネオホンコンに移住してきた。

 

デニムの見立てでは、クランバトルでもエース級の腕前のはずだが、子供たちのてまえ、後暗い稼業には手を出さないと言い張って、アナハイムのこの地における保安局員として地道に勤務している。

 

「今回はクランバトル伝統のM.A.V戦になる。」

デニムが言った。

「ビーム以外の火器ありのルールだ。

パイロットは……トロワ・ムラサメとフォウ・ムラサメ。

ムラサメ研の強化人間に間違いないな?」

 

「ボクらはお互いの顔なんて知らないよ。」

ドゥーは言った。

「でもそう名乗ってるならそうなんでしょ?

どこのだれが製造番号と生産地を名前にしたがるのさ。」

 

「ドゥーも別に本名はあるのか?」

 

「忘れたよ。」

ドゥーは細い肩をすくめた。

「でもぼくにとって価値があると認めたやつらがボクをドゥーって呼ぶから、ドゥーでいい。」

 

「“大佐”はなんと言っている?」

ククルス・ドアンが尋ねた。

“大佐”とはクラバのオーナー、クワトロ・バジーナのことである。

もともとクワトロの恋人であるララァが呼び始めたのだが、すっかり定着してしまっていた。

 

「グリーンノアで、デラーズ・フリートと連邦軍の小競り合いに巻き込まれたらしいです。アーガマは大丈夫だったんですが、パイロットに負傷者と、モビルスーツも何体か破損したらしく、修理のため浮きドックに向かうとのことでした。」

 

デニムは小競り合いと評したが、敵味方合わせて30機以上のモビルスーツに、最新鋭モビルアーマーも投入しての戦いは普通は小競り合いとは呼ばない。

 

つまり、すぐに地球に戻るのは無理だという事だ。

 

「ドゥーをこれからどうするかだ。」

ククルス・ドアンは言った。

彼はある意味戦いというものを割り切っている。

彼が守るのは自分の身近にいるものだけだ。

直接には、彼の保護する子どもたちと彼らが暮らすネオホンコンシティ。

ドゥーは彼の庇護の対象ではなかったが、保安部としてはネオ香港に被害が及ぶようなことがあっては困るのだ。

 

「逃がすのか、それもとクラバに出場させるのか。

もしクラバに出すのなら、早急にM.A.V.をどうするか決めなければならない。」

 

「……ドアンだんなにM.A.V.をお願いできないか?」

 

「前からクランバトルへの出場は断っている。」

 

「しかし、やつらがムラサメ研のものなら、ドゥーの命を取りにきてる可能性が高いんだ。

一応、故意のパイロットへの攻撃は反則だが、射撃ありの試合ならいくらでも不慮の事故で片付いてしまう。」

 

「ならば、逃がすか?」

ククルス・ドアンの態度は事務的ではあるが、誠意のないものではない。

「シャトルに乗せて、宇宙にあげるか。

アーガマに合流させてしまえば、ムラサメも手は出しにくいだろう。」

 

「ドゥーは体調が万全じゃないです。

ちゃんとした医療設備のある病院に定期的にかかる必要がある。宇宙戦艦暮しは無理です。」

 

「ならばM.A.V.を見つけて試合を組むしかないだろう。

だがムラサメ研究所の強化人間がどれほどのものかはわからないが、これまでのドゥーの戦いぶりから見ても、尋常ではない強さを持っている。」

 

---------------

 

「楽しそうね、トロワ。」

エメラルドグリーンの瞳と髪の少女が呼びかけた。

モニターをチェックしてした少年は静かに振り向いた。

細面の顔立ちは整ってはいたが、片目を垂らした前髪が隠している。口元は厳しく閉じられていた。これは彼のもともとの表情であって、とくに機嫌が悪いということではなかったが。

―――別に楽しそうでもなかった。

 

ネオ香港では一般的なホテルの一室である。

なにも宇宙世紀以前の香港に寄せなくてもいいとみなが思うのだが、ネオ香港もまた限られた土地に、あらゆるものが濃縮されたような土地で、滞在費はそれなりに高い。

 

 

「ゲルググヘビーアームズは、基本的にはゲルググに付属兵器と追加装甲を施したものだ。おまえの機体のようにモビルアーマーの機能をモビルスーツサイズに凝縮されるようは無理はさせていない。

もしなにか作動に問題があれば武装をパージしてしまえばいいだけの話だ。」

 

「トロワったら。ちゃんと“ガンダム”ヘビーアームズって呼んであげないと。せっかくツインアイセンサーにヘッドを交換したんだから。」

 

「フォウ、おまえこそ。サイコガンダムリファインをチェックしなくて大丈夫なのか?」

 

「大丈夫よ。アレはわたしの一部みたいなものだから。」

 

ベッドの上でバスローブを纏ったフォウ・ムラサメの肌は抜けるように白く、滑らかだった。

どことなく、歪な未成熟さを感じさせる彼らのプロトタイプ、ドゥーとは違い、その体も優美な曲線を描いている。またドゥー・ムラサメに見える肉体的な脆弱さも見られない。

 

だが。

 

“心のほうは派手にいじられているはずだ。”

トロワは思う。

ドゥーの失敗(呼吸に補助器具が必要なほどの脆弱性)を鑑みて調整されたのがトロワであるが、ムラサメ研究所のマッドサイエンティストたちは性能に不満だったようだ。

 

最新作のフォウは、自分が誰かわからなくなるほどに精神改造を施してある。

その能力は、おそらくサイコミュを搭載したサイコガンダムリファインを遠隔でも操作できるだろう。

 

だが不安定だ。

 

失った記憶のかわりに、トロワが「仲間」であるという帰属意識を植え付けているが十分ではない。

 

 

フォウ・ムラサメは立ち上がると、トロワの傍によった。

「ドゥー・ムラサメはどうだったのかしら!トロワ?」

 

髪や瞳と同じ色のマニキュアを塗った指先をトロワの顎を慈しむように触った。

 

 

「生きていることを確認しただけだ。

俺たちが、ドゥーから正常に進化しているのかどうかは、モビルスーツで戦うことで証明される。」

 

「トロワ。」

フォウはため息をついた。

「あなたは羨ましいわ。戦っていれば満たされるように“調整”されているのだから。」

 

「これ以外の生き方を覚えていないというだけだ。」

トロワは短く答えた。

フォウの肢体は女性としての魅力に溢れたものだったが、トロワにはそちらへの興味はさっぱりのようだった。

 

「だが、確かに楽しみではある。」

 

 

-----------------

 

 

ララァ・スンは鏡のなかの自分を何度も見返した。

それが彼女に似合っているのかどうか。

どうにも判断がつかない。

 

ただ、磨き抜かれた鏡のなかの自分はあまりうかない顔をしているような気がした。

 

うかない表情なのは、大佐としばらく会えていないからだ。

「恋人さん」を待つのは慣れているつもりであったが、これはやはり別物らしい。

 

「ヴァーニ、カンチャナ。」

ララァは諦めて、彼女の身の回りの世話をしてくれている少女たちを呼んだ。

「これって、わたくしに似合うのかしら。」

 

「お姉様はなにを着ても似合うよ。」

ヴァーニが答えた。

カンチャナは黙って、周りを見ている。

 

再会……いやそれはララァの「夢」の記憶込みでの話であって、出会ってからは大佐はどこにいくにもララァを連れていった。

なので、これほど長い間、一緒に居られなかったことはないのだ。

 

以前、クワトロがララァのためにコートを買ったハイブランド店は、彼女を上客だと認めたようだった。

なにかにつけて招待状を寄越していた。

 

ララァはそのブランドがことさら好きという訳ではなかったが、彼に会えない寂しさと無聊を慰めるために珍しく足を運んでいる。

 

ララァは、新作の帽子とやらを被らされていた。

色は青緑。いやな色ではないのだが、コーディネートはしにくそうだ。

帽子というよりヘルメットに近い印象をうける。

つばが前に大きく飛び出していて、鳥の嘴を思わせる。

アクセントのつもりか、後部にビョンとアンテナのようにしか見えないものがとんがっていて、なんとも奇矯なデザインだった。

 

ララァはふう、と息を吐いて帽子をとった。

 

「いかがでしょう。」

支配人は、うやうやしく頭を下げた。

「これは特別なお客様にのみおすすめする新作となります。」

 

ララァは、招待状に視線を落とした。

 

「DREAMS BEGIN HERE!

パリの意匠が宇宙世紀に甦る! モビルスーツコレクション」

 

「この度、私共のブランドもモビルスーツ部門に参入することになりまして。

それをモチーフにしたコレクションを発売しております。」

 

支配人の手に小さな写真立てが現れた。

ホログラム映像が現れる。

 

なるほど。モビルスーツだ。

ララァが被らされていた帽子はその頭部をモチーフにしたものらしい。

 

「大量生産は考えておりません。オーダーによるワンオフ機となる予定です。これがその試作一号機ということになります。」

 

「それは……失礼ですがだれが買うのでしょうか?」

 

「そりゃ買う人はいるとおもうよ、お姉様。」

カンチャナが口をはさむ。

「“高級感”とか“自分だけ”っていうのが刺さる層ってあるんだよ。

軍のお偉いさんとかさ。」

 

 

「まさにその通り!」

支配人は芝居がかった仕草でカンチャナにも礼をした。

 

「最新鋭のゲルググをベースに、マグネットコーディングを施し、さらにはサイコミュまで搭載しております。」

 

「サイコミュ……あれはニュータイプでないと効果が」

 

「そうなのですが、逆もまた然り。これを購入することで己にニュータイプの素養があると世間から認められることになります。

なので販売先としてはジオン公国の上層部を狙っております。

例えば、かのアルテイシア様にもし御座機として使っていただければ……」

 

支配人は腰を屈めて声を低くした。

 

「……問題は性能です。実際に使えぬモビルスーツでは売り込みもなにもない。」

 

「はい?」

 

「失礼ですがララァ様は、ここのクラバのオーナー、クワトロ・バジーナ様とお親しい間柄とか。」

 

「……」

 

「いかがでしょう。無償で貸し出しをいたしますので、クランバトルで我がブランドの機体をテストしていただくわけには参りませんでしょうか?」

 

 

 

 




この二次創作初めてのオリジナルモビルスーツの登場です。(一応)
名前はエ……のわけはないので、それっぽいのを考えないとなあ。
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