出来れば今日中にもう1本で、宇宙に戻りたい。
「一流ハイブランドのモビルスーツだとおっ!」
デニムは常識人だ。少なくともそのつもりでいた。
「中身は、ジオニック社の製品のようですわ。ゲルググを基準に作ったと言っていましたから。」
ララァは、最初は黙ってクラバにエントリーしてやろうかと考えていたのだった。
モビルスーツなんてのったことのないララァであった。戦いなんて考えたこともない。
でもなぜかそのモビルスーツには乗れる気がしたのだ。
ああ―――夢だ。夢のなかでわたしはあのトンガリ帽子に乗って、大佐と一緒に戦って。
もちろんそんなことをすれば大佐は怒るだろう。だから、偽名で。パイロットの顔は非公開でもエントリー出来たし、そう、なんならちょっと仮面でも被れば。
ヴァーニ、カンチャナからはめちゃくちゃに怒られた。
カンチャナに至っては、ボソリと「全部燃やしたくなってきた」と呟く始末だ。
という事で、ララァはデニムに相談することにしたのだ。
「しかし、いくら中身がゲルググでもまるっとデザインを変えられるものなのか?」
モビルスーツ乗りが長いデニムは首を傾げた。
「あ、そいつは、最近はやりの“ムーバブルフレーム”ってやつですね。」
情報通のジーンが口を挟んだ。
「駆動系を内骨格とみなして、装甲とは別ものって考える設計思想です。フランクリン・ビダンってひとが提唱してるんすけど、武装や装甲の追加がしやすくて、人体に近い自然な動きが可能になるっていうんで、流行ってるみたいですよ。
いままでのゲルググや軽キャノンもその考えを取り入れて新しく製造されるものの一部はその構造を取り入れてるらしいです。」
「なんでそれをあそこの会社が」
「昨今のモビルスーツの開発競争ってむちゃくちゃじゃないですか。アナハイムにジオニック社の資本と金が流れていたり。軍から独自の開発資金が怪しげな工廠や研究所に流れていたり。
案外、」
ジーンはニヤリと笑った。
「ムーバブルフレームなんてことを言い出したのもここのブランドかもしれませんよ。」
「ララァさん。とりあえずあんたがパイロットになるのは絶対だめだ。」
デニムは、きっぱりと言った。
「なんとなく乗れそう、で新兵を戦場に送り出す上官なんていると思うか?」
「あら、でもこれは戦争じゃなくてクラバです。試合ですよ?」
その垣根も怪しいもんだ―――とデニムは思った。
せっかくクラバが公式のものとなり、大手を振って歩けるようになったのに、こともあろうにグリーンノアの紛争を中継して、賭け事の対象にしていた輩がいたようなのだ。
デニムはだれにも言わなかったが、十中八九ポメラニアンズのアンキーだろうと思っている。
「ドゥーの機体がアッガイしかなくて困っていたんだ。こいつがまともに動くのなら、ドゥーに乗らせる。」
「あら。生まれて初めて乗る機体じゃ、パフォーマンスはだいぶ落ちるわ。私が、のったほうが―――」
「ララァさん。モビルスーツの経験はあるのかい?」
ララァは。
夢の中で“大佐”を生き残らせるべく試行錯誤を繰り返していた。
大佐のモビルスーツをあれやこれや変えるだけではない。
ララァ自身も自分の乗機をいろいろと試していたのだ。
このトンガリ帽子のヘッドをもつモビルスーツはその中にはなかった。
ただヘッドの部分だけを巨大化させたようなモビルアーマーは、なんども乗っていたような気がする。
その話をすると、デニムは怖い顔で「却下」と言った。
「夢の中でデザインの似たモビルアーマーにのったことがあるからって出撃は許可できません!」
「ドゥーが危ないんでしょう?」
「そこは俺たちでなんとかします。極端な話、八百長でいいんです。試合開始そうそうにドゥーが降参してしまえばいいんだ。それ以上やつらが……フォウ・ムラサメとトロワ・ムラサメが攻撃することは出来ない。もし攻撃すれば……」
「どうします?」
ララァは少し笑っていた。瞳の色が。複雑な光に煌めいていた。
「仮にそれでもドゥーが攻撃され続けた場合、だれが止められます?」
「……止められるものはいないか。」
デニムはうめく。
「そうです。“戦闘”になってしまえば、街や市民にも犠牲がでるかもしれません。」
「アナハイムの保安部隊を呼んでおきますか?」
ジーンが言ったが、デニムは首を振った。
「現実的ではないぞ。俺はドゥーのイズマコロニーでの戦闘データを裏のルートで取り寄せた。
正直なところ、ムラサメ研が同程度の性能のモビルスーツを持ち込んできていて、あの二人がドゥーに匹敵する能力をもっていたら、軽キャノンでは被害が増えるばかりだ。」
「それほどなんですか!?」
ジーンが驚いたように叫んだのを、デニムは睨んだ。
「ドゥーの機体を倒したのは“灰色の幽霊”のキケロガだ。イズマコロニーの軍警察のザクなどは歯が立たなかったらしい。」
「……だったら」
ジーンとララァは同時に同じ言葉を発した。
ふたりは顔を見合わせた。
「……だったら、ララァさんがでるなんて絶対にダメです。」
「だったら、わたしが出るしかありません。」
デニムは難しい顔で、首を振った。
「ララァさんのニュータイプ能力が高いはずなのは大佐からも話をきいている。だが戦うことと、ニュータイプとしての能力は別物だ。」
「それがなんと!」
少し戯けたようにララァは笑った。
「あながち、別物でもないんです。
ニュータイプの特徴のひとつである認識能力がいちばん拡大するのは戦いの場なのですから。」
「……あなたが戦いを好むとは思わなかった。」
「なんども言いますけど、これは“試合”であって戦場ではありません。」
「クラバは武器に制限がつけられるだけで、戦場と変わりありません。」
次回でバトルします!