第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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モビルスーツの性能とトロワの戦闘テクニックに追い詰められるアッガイ。一方、サイコガンダムRのビットソードに追い詰められるララァの機体は苦戦の中、ララァのニュータイプ能力はしだいに拡大していく。



ネオ香港奇譚7~決着

 

恐ろしい。

たまらなく恐ろしかった。

目の前の鋼鉄の巨人は青黒く塗装されている。

いや、鋼鉄ではない。

それよりと何倍も丈夫なガンダリウム合金だ。

ショルダーガードに相当する部分は外れて、斬撃となっておそってくる。

 

ララァの夢の記憶にもそう言えば、地上での戦闘はなかったように思う。

だがもし夢で見ていたとしても、気持ちは一緒だっただろう。

 

もともと、彼女は戦いに向いていなかったのだ。

 

怖い。怖い。怖い。

当たれば、割合に華奢なこのモビルスーツの装甲など簡単に貫かれるだろう。

だからララァはひたすらにかわしつづけるしかない。

 

もともとVIP用にカスタムを施して少数のみ生産する予定のこのモビルスーツは、コクピットだけはやたら丈夫に出来ていて、ビーム兵器の直撃以外ではまずパイロットは無事であると。

そんなことをショップの支配人から力説されたので、デニムはしぶしぶララァのクラバ出場を認めたわけなのだが。

 

だが恐怖とともに。

ララァは自分の「認識」が拡大していくのを感じていた。

それは最初は、相手の攻撃が読める程度のものだったが。

 

見える!!

 

世界そのものが。

 

これから起こることも。

 

“まるで夢の中にいるようだ。”

ララァは、右足を半歩ひいた。

少し頭を傾ける。

 

先端に鋭い刃物をそなえた飛翔体がその空間を走り抜けていく。

ララァは、しかし攻撃できない。

 

このモビルスーツには固定武装はそもそもないのだ。

唯一の武器としてもたされた機銃は、さっき水に漬けてしまっている。

 

……ああ、見える。

これは「有り得るかもしれない」未来の記憶だ。

 

途方もなく巨大な災いがもうすぐ地上に落ちてくる。

アレを。

アレを止めないと。

絶対にとめないと。

 

大佐!!

 

大佐! どこですか!

 

ララァの認識は宇宙にまで拡大していく。

愛するシャアの姿をもとめて。

 

ララァは叫んでいた。

 

「大佐っ!! いけません!!」

 

 

---------------

 

 

金もないし武器もない。

モビルスーツは本来ティターンズに納品されるものを横取りしたもの。

あとは持ち込みに中古品。

だが人材だけは豊富である。

 

アーガマが身を寄せたラビアンローズは自走ドック艦だ。

 

名前通り大きな花弁のようなシルエットが特徴で艦そのものはもちろん、モビルスーツの工廠としても機能する。

 

「“大佐”」

 

マチュたちとの訓練を終えて、一休みしたいたクワトロ・バジーナに、栗色の髪の女性が話しかけてきた。

 

「レコア中尉……わたしは大尉なのだが。」

「マチュさんもアムロさんも、いえヘンケン大尉やブライト中尉もみんな“大佐”って呼んでますよ。」

 

いたずらっぼく笑いながら、飲み物を手に取り、クワトロのとなりにふわりと立った。

ここはドックの見える休憩室である。

なかはほぼ無重力であり、飲み物はふわふわと液体がこぼれ出さないように、蓋付きのカップで提供される。

 

「マチュたちはどうです?」

 

「パイロットとしてか?

クセはあるが悪くはない。いやクセを悪い方に修正せずに育てたコーチがよかったのだろうな。」

 

「どなたなんですか、そのひと。」

 

「シャリア・ブル中佐だ……“灰色幽霊”だな。」

 

レコア・ロンドはぶるっと身震いした。

もともと連邦軍の人間である彼女にはその名前は恐怖の対象でしかないのだろう。

 

「そう怖がらんでも。たしかにいきなり、メガ粒子砲のオールレンジ攻撃をくらったときにはどうなることかと思ったが」

「そんなことがあったんですか!

やっばり大戦中のことですか?」

 

クワトロは咳払いをした。

誰がどこまで知っているかは彼にも正確に把握が出来ていない。

 

「まあ……そんなところだな。」

 

「それで生き延びているだけ大したものです。」

 

「レコア中尉の言う通りだな。しかし、いまの彼はジオンからの脱走兵だ。そう怖がらんでも普通に付き合って貰って大丈夫だぞ。」

 

「いえ、それはわかるのですが……」

レコアは顔を曇らせた。

「あのヘンな仮面が」

 

ゲフンゲフン。

クワトロは思った。

 

“みんなそう思ってたのなら言ってくれ!”

 

「ヤザン大尉の乗っていたガンダムマークⅡは分解されてパーツ取りに回されるようです。」

 

あの戦いで一番損傷を負ったのが、ヤザンの乗ったマークⅡだった。

 

あのコンテナにモビルスーツを埋め込んだ異形の機体を操るガトーの爆導索からアーガマを守った際に、派手に損傷してしまったのだ。

ラビアンローズの技術者もアストナージも、もう修理よりも残りの2機を効率よく運用するためのパーツ取りにした方がいいのではないかという統一見解だった。

特に自分の乗機にこだわりのないヤザンはそれに納得していた。

 

「なんだか……寂しい気がしますね。」

 

「そうかな。わたしは軍人が長いせいか合理的な処置にしか思えないのだがな。」

 

「なぜ大佐は軍人に?」

 

「ほかに食っていく術を知らなかったからな。だから未だに嫁さんももらえん。」

 

「大佐。」

レコアは、クワトロの顔を下から覗き込むようにした。

「大佐は地球に恋人を残してきているんでしう?」

 

「突然、なんだね?」

クワトロは苦笑いした。

「確かに難民キャンプで保護した女性たちを我が家に保護しているが」

 

シャロンの薔薇がもたらしたイオマグヌッソの惨事。それを知るクワトロには、ララァへの感情はひと通りではない。

それをうまくこの優秀なエウーゴの士官に説明するのは難しかった。

もともとあの現場に居合わせたマチュたちならばともかく、エウーゴの士官のひとりでしかない彼女にそこまでの情報をわたすこともはばかられた。

 

「恋人……ではないのですか。」

 

「わたしと彼女の関係性は少し説明しにくいんだ。」

 

「なら。いま“大佐”に恋人はいらっしゃらないと?」

レコアはクワトロに腕を絡めた。

「そう思っていて良いですか?」

 

 

--------------

 

 

ララァは。

地球の孤島からその情景を「見た」。

あるいは「感じた」。

 

その顔が歪んだ。

 

コメカミから稲妻に似た光が走り、顔を隠していた変な仮面が砕けた。

 

「だぁいさあっあああぁっっ!!!!っ!」

 

------------------

 

 

なに!?

トロワのヘビーアームズは、アッガイをあと一歩まで追い詰めていた。

 

だがその声のない悲鳴。

それはトロワの鋼の心をも砕くような。ほとんど物理的な衝撃力をもっていた。

 

サイコミュが!?

謎の共振を起こしている。

ヘビーアームズのサイコミュが作動を止めていく。

 

こんなときでもトロワは冷静だった。

操作をサイコミュからマニュアルに切り替えて戦闘を続行しようと、試みたのだ。 だが。

アッガイのクローアームが、ヘビーアームズをとらえていた。

鋭い鉤爪が、完全にその頭部を破壊する。

 

フォウは、凄まじい頭痛の発作に見舞われていた。

いったい、なにが。

 

これは。

相手のパイロットがやったことなのか。

 

彼女が使ったソードビットは、サイコガンダムRの右腕と左脚を半ば切断していた。

サイコミュのコントロール系が。

 

破綻している。

 

バランスをとることも出来ずに、サイコガンダムRは倒れた。

 

相手のモビルスーツはゆっくりと、空を見上げたまま、歩を進める。

フォウは、サイコガンダムRのコクピットから這い出した。

サイコミュ操作も停止している。

 

いったい。

いったいなにが。

 

震える唇のまま、見上げた濃緑色のモビルスーツのコクピットが開いた。

パイロットが身を乗り出した。

 

可憐な。

 

フォウの強化された視力がそのパイロットをとらえた。

 

二十代の初めくらいだろうか。

大人の女性……たぶんインド系なのだほうか。

成熟した魅力とどこか危うい少女の美しさを兼ね備えた。

 

そして。

彼女は怒っていた。

 

宇宙を無に帰する程にも怒り狂っていた。

 

フォウは彼女を崇めた。それ以外に、この場を取り繕うことは出来なかったのだ。

 

相手のモビルスーツのパイロットはしばらく、空を見上げていたが、ふと気がついたようにフォウを見た。

 

フォウは跪いた。

一瞬でサイコミュに干渉し、全てをぶち壊した荒ぶる神。

 

「怪我はないですか?」

彼女はモビルスーツを座らせると、コクピットをおりて、フォウのもとに駆け寄った。

 

「お、おまえ、いや、あなた……は。」

「わたしはララァ・スン。」

「ララァ……お姉さま……?」

 

フォウの不安定な精神に、ララァが「お姉さま」として刷り込まれた瞬間だった。

 

 

 




……

いやあ危なかった。もうちょっとでゼクノヴァ起きるとこでした。
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