第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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アクシズは宇宙世紀とは違ってジオンの「残党」が流れ込んだりしていませんので、戦力的には大した事はありませぬ。
ですが、ギレンの粛清や、キシリアのニュータイプ囲い込みから逃れるためにけっこうな人数は移民しています。
一応、深宇宙用の独自のモビルスーツ開発もそれなりにすすんでおります。





第18話 星の屑(承前)〜アクシズの影

クワトロは、レコアの腕の感触に一瞬だけ身体を硬直させた。

無重力下では、わずかな接触が過剰に意識に残る。レコアの纏う香りすらも、浮遊する空気の粒子に溶け込んで伝わってくるようだった。

 

「……中尉。」

 

彼は視線を逸らした。真正面から彼女の瞳を捉えてしまえば、表情の揺れを見抜かれてしまう。サングラスの存在をクワトロ・バジーナは心からありがたく思った。

 

「私は……恋人を“つくらない”のではない。彼女の思いに応える術がないから“つくれない”のだ。」

 

レコアは意地悪そうに口元を歪める。

「大佐がそんな弱音を言うなんて意外です。」

 

「弱音ではない。」

クワトロの声は硬い。

「彼女の思いは無数の可能性から生まれた幾多の世界にまたがっている。……私が彼女を守って死んだ世界。彼女がわたしの盾となって散った世界。

その中には、私が、地球を滅ぼしかけた世界もあるらしい。

そのような可能性の果てに、私はいまララァと一緒にいる。

これを単なる男女の仲に昇華してしまえるほど、私は若くはない。」

 

レコアは腕を離さず、ふわりと身体を近づけた。

「だったら。そのララァさん以外にも、『恋人』が存在する余地はありそうですわね。」

 

彼女の声は囁くように柔らかく、それでいて痛烈だった。

クワトロは心中で小さく舌打ちする。

“この女……こちらの言葉の裏を突くのがうまい。”

 

休憩室の外では、ドックに収まったガンダムMk-IIの残骸が作業員に分解される光景が、ガラス越しに映り込む。

 

「合理的、だな? いらなくなった機体はバラし、新しい戦力へと変える。感傷は要らない。」

クワトロは外の光景を指差した。

「……恋も同じだ。私の心に残っている感情すら、役立たせるためには切り離さなくてはならん。」

 

レコアは一瞬、目を見開き、そしてふっと微笑んだ。

「なら……私がその“残骸”に新しい形を与えてあげましょうか。」

 

クワトロは静かに眼を閉じ、ほんのわずかに息を吐く。

 

「中尉。」

「はい?」

 

「その挑発に応じてさしあげるには、私はいささか危険な立場にいてな…。」

 

言いながらも、レコアの瞳が自分を射抜いて離さないことを、彼ははっきりと感じていた。

 

そして。

 

「大佐!! 浮気中ごめん。」

小柄な赤毛の少女が、通路から叫んだ。

 

「話をしていただけだ。」

 

「ララァさんが聞いたらゼクノヴァ起こしそう。」

マチュはじと目でクワトロを見あげた。

身長差でそうなってしまうのだが、上目遣いのじと目はなかなかに迫力があった。

 

「ブレックスさんがブリーフィングルームまで来てって、さ。」

 

「なにかあったのか?」

 

「さっき、型式番号のないモビルスーツが乗船を求めてきたんだよ。で、会いたいのはブレックスさんでもエウーゴでもなくて、シャ、じゃなくて大佐らしい。」

 

「わかった。すぐに行こう。」

クワトロはダストシュートにカップを投げ込んだ。

「では、レコア・ロンド中尉。興味深い話をありがとう。」

 

レコアはにっこりと笑って、手を振った。

 

「お返事おまちしていますわ。」

 

 

「なんて言うか、女って怖いねえ。」

通路を移動しながらマチュはしみじみと言った。

 

「きみまで大人をからかうな。」

 

「わかってる。わたしもいずれは大人になるんだからね。」

かつてイオマグヌッソ事変の中心にいた少女をクワトロは好ましいと思う。

マチュは変わることを恐れない。

ニュータイプとしてのあり方も自身の生き方すべてを自分で決めるつもりでいる。

 

おそらくは。

彼女を曇らせない行動こそが、これからにクワトロにとって行動の指針となるのだろう。

 

「急ごう。もうだいぶ彼女をまたせてしまってるんだよ。」

 

「彼女? 識別不能のモビルスーツのパイロットは女性なのか?」

 

「うん。ハマーン・カーンっていう女の子。」

 

 

---------

 

 

「止まれ。」

ガトーの命令は短く、的確だ。

相手は理解しやすく、選択は常に与えられる。

ガトーの指示に従うか、そうせずに撃墜されるかだ。

 

識別不能のモビルスーツは前者だった。

加速をやめてガトーのフルバアーニアンと相対速度を合わせる。

 

長方形のモジュールを無理やり人型に組み立てたような奇妙な形のモビルスーツだった。

 

「ここはジオン公国宇宙防衛軍の管理宙域となる。

貴官の名前と所属を名乗られよ。」

 

「アクシズ先遣艦隊エンドラの騎士マシュマー・セロ。」

どことなく気障な若い男の声だった。

「地球圏がいろいろと騒がしくなっているようなので、調査が目的だ。デラーズ閣下にお目にかかることは可能だろうか。」

 

 

 

----------

 

 

「マハラジャ・カーン。ひさしぶりです。お元気でしたか?」

幼子は緊張していたが、なんとか笑みをつくり老政治家にむかってそう言った。

 

「ミネバさまも大きくなられた。」

思わずその顔の笑みがこぼれた。

実際には、ミネバまだ乳児ともいえる年齢ではジオンを離れている。当然、マハラジャ・カーンの顔など覚えているわけはないのだが、そこはサービスというものであろう。

 

カーンは旧知のユーリー・ハスラーの顔をみたが、かれは素知らぬ顔をしている。

 

「アクシズは、予定航路を順調に移動中です。」

無表情のままアクシズ防衛軍の司令官は答えた。

「ですが地球圏到着にはまだ数ヶ月かかります。それよりも一刻早くミネバ様をアルテイシア様にお目通り願いたく、先遣『艦隊』とは名ばかり。巡洋艦一隻で駆けつけてしましました。」

 

「遠路はるばるありがとう。ユーリー・ハスラー提督。」

 

アルテイシアは、椅子から立ち上がった。

さっと、アクシズ勢の全員が膝をついた。幼いミネバまで。

 

アルテイシアはその傍によって、そっとちいさな手を取った。

 

「ミネバ?」

 

「はい。アルテイシア陛下。」

 

「陛下はやめることにしたの。公王制は廃止するわ。だからあなたも」

アルテイシアはミネバのかたわらに膝をついた。

「普通の女の子として生きてよいのです。ザビの名前を悪用しようとする大人たちからはわたしが守ります。」

 

ユーリー・ハスラーも。おそらくはマハラジャ・カーンもほっと息をついた。

 

ジオン・ズム・ダイクンからジオン公国を簒奪したザビ家の末裔。

自らジオンを離れることを宣言したガルマをのぞけば唯一の直系といえる。

 

まさか殺しはしないまでも、幽閉などは十分ありえた。

だが、アルテイシアはそうはしないと。

 

少なくとも幼子であるミネバの安全は保証すると。

そう言ってくれたのだ。

 

ふと。

アルテイシアは、眉をひそめた。

 

「ハマーン・カーンさんは。あのキュべレイをデザインしたマハラジャ・カーンのお嬢さんはどこです。たしか先遣艦隊と一緒に来るという連絡では。」

 

「ハマーンさまは、別の場所に。お一人で。」

 

「無茶なことを! いったいどこに。」

 

「場所はラビアンローズ。エウーゴなる組織と接触したいとのご要望でした。それに、許婚者のシャア大佐と会っておきたいから、と。」

 

ピクとアルテイシアのこめかみが動いた。

 

 

ミネバが怯えたように、アルテイシアから身体を離した。

 

 

 

 




「全軍発進。ジオンの全戦力をもってアーガマと兄を誅殺する!」


アルテイシア、心の声。
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