彼らもそんなにバカではなく、それなりの策を用意しておりますようです。
というか、読者に読まれそうな気もしますが。
「ガトー。」
シーマ・ガラハウは、ステイメンの操作パネルをチェックしていたアナベル・ガトーに呼びかけた。
鬱陶しい。
と、ガトーの渋面は何も言わなくてもその心の内を物語っている。
シーマ・ガラハウもまったく同意見である。
だが、この二人には打ち合わせなければいけないことが山ほどある。
「あのマシュマー・セロとかいう若僧。どう見るかい?」
「……デラーズ閣下は気に入ったようだな。」
ガトーは武装関係をもう一度チェックする。
デンドロビウムのコンテナ状の武器庫“オーキス”にはひたすら核弾頭が装備される予定である。
前回のように、複雑な武器体系の操作は必要ないかもしれない。
デンドロビウムで最大加速。
ティターンズが、落下するコロニーに照射して軌道をずらすソーラーシステムを搭載した核ミサイルで破壊する。
コロニーは爆散、または軌道を逸れて北米の穀倉地帯を直撃するのではなく、「予定通り」ジャブローに堕ちる。
それがガトーに与えられた新しい任務である。
この時をもって、デラーズ・フリートとティターンズは決別することになるのだ。
「アクシズの戦力……あてになるのか?」
「なる、と判断されたのだろうな、デラーズ閣下は。」
「マシュマーの小僧は、景気のいい決意表明を連発していたが、アクシズの戦力についてはろくに情報を明かさなかった。
やつの乗ってきたモビルスーツは、人型の戦闘フォームと、運行用の飛行体フォームを切り替えられるらしい。たしかに馬鹿げた移動可能距離だが、戦いとなった場合は未知数だ。
アクシズの先遣艦隊は何隻いる。何機のモビルスーツを出せるんだ?」
「つまり、アクシズはまったく当てにならないと。そう言いたいのか?」
「デラーズ准将閣下は、ベラベラと“星の屑”の概要までしゃべっていたぞ。
ヤツらアクシズがもし、ジオン公国に与することにでもなったから……」
「いずれにせよ、デンドロビウムをソーラーシステム破壊に向かわせなければならぬ時点で
“星の屑”作戦は失敗だろう。」
ガトーのデンドロビウムは、デラーズ・フリートがコロニー落としを行う際に、当然邪魔をしてくるであろう本国の戦力を足止めするために使用する予定だったのだ。
足止めがなければ、圧倒的な数のジオン公国正規軍は、すみやかにデラーズ・フリートを壊滅させるだろう。
コロニーを落下軌道に載せる間もない。
下手をすれば、ノイエ・ジール。
あのIフィールドを備えたモビルアーマー一機で片がついてしまうかもしれない。
「もともと成功しないほうがいいくらいの作戦だ。そんな渋面をするな。」
シーマはにやにやと笑った。
「いや……気になることがあってな。」
ガトーは、コクピットから立ち上がった。
「計画を一部変更するぞ。」
「へ? わたしがアーガマに復讐するために、自分の艦隊を総動員して出撃する。それを追撃するために、デンドロビウムで出撃。で合流してジオン本国を目指す。
どこか問題があるかい?」
「もうひとつコロニーがあるらしい。」
ガトーは面白く無さそうにぼそりと言った。
「俺たちはなにかと外にお使いに出されることが多くて気が付かなかった。
これについては独自のチームが動いているらしくてな。口が堅い。」
「デラーズ閣下の腹心中の腹心。アナベル・ガトーにも知らされていない情報ってわけね!」
ケラケラと笑うシーマをガトーは不愉快そうに見た。
「二基を同時に落とすなどは聞いたこともない。考えもしなかった。これはひょっとしたらマ・クベの裏をかけるかもしれん。つまりコロニー落としが成功してしまう可能性もある。もうひとつ……
ニナの問題もある。」
「ニナ・パープルトンかい? あれが……」
「彼女は軍事技術者だが、軍人ではない。ここから無事に帰してやりたい。」
「甘いこったねえ。昔の女だろうに。
……でもそれは心配しなくてもいいんじゃないか? 仮にデラーズ・フリートが全滅してここが制圧されても彼女は、ムーンレイスでトリントン基地の所属だ。捕まって無理やり言うことを聞かされたとでもいえばそんなに酷い目にはあわんよ。」
ガトーはコンソールの脇においた飲み物のはいったカップをふたつ手に取ると、ひとつを、シーマに投げてよこした。
「……デラーズ閣下の最近のご様子が気になる。とくにあのマシュマーという若僧と意気投合したのが気がかりだ。
もともと、我々はギレン総帥亡き後、急遽王座についたアルテイシアの正統性に疑問をもったがために、暗礁空域に立て篭もった。
そののちは、ジオン本国への発言力を高めるために連邦の軍事強化計画には積極的に介入してきた。
“星の屑”もその一環でしかない、
デラーズ・フリートは、ジオン本国がなし得なかったジャブローへの大打撃を『実行した』という名声を、そしてあのティターンズという連中はそれを阻止したという名声を。
それぞれ得ただけでコロニーそのものは落ちなくてもよい。そんな計画だったはずだ。」
「それがなにがなんでもコロニーを落とす方向に事態がスライドしていると。でもジャブロー潰しが成功してしまったら、デラーズ・フリートも逆に終わりよ。
条約で連邦は、宇宙戦闘艦はあげられないけど、モビルスーツは山ほどもってる。
ジオン本国もなりふりかまわず、彼らに救援を求めるでしょう。
ジオンと連邦が共同してデラーズ・フリート討伐にかかる。」
「あのお人は死にたがっている。」
ガトーの憂鬱はそこにあるようだった。
「ギレンの野望の後継者になったつもり、デラーズはその理想に従って死んでいくつもりだ。」
「すばらしいっ!
もちろん、答えは決まってるさ。『死にたければ勝手に死ね』だ。そんなものに付き合う気はさらさらないね。」
「だからこそだ。」
ガトーはシーマを真っ直ぐに見た。
「デラーズは最後の出撃の際に、茨の園を破壊していくだろうという気がしている。技術者や工兵も含めてな。」
「はあ。」
考えすぎだ、とシーマは一笑に付そうとしたが顔が強ばった。
デラーズは――それほど大物ではない。
ギレンの、それもデラーズ自身の妄想のなかで肥大化したギレンを演じようとすれば、たしかに壊れる。
終戦からこっち、ギレンはデラーズの理想とするギレンではなくなっていた。
ジャブローも解体せず、賠償金もとらず、中途半端な状態で、安穏な歳月を送った。
せっかく完成したイオマグヌッソも直接攻撃ではなく、抑止力として利用しようとしていた。
あまりに過激な(というか演説を真に受けすぎた)デラーズは。ギレンにはむしろ疎まれて、イオマグヌッソ事変の際には、親衛隊がア・バオア・クーへ集合する中、単独で演習を命じられていたため、巻き込まれずにすんだのだが。
「それに『もうひとつのコロニー』についても探ってみたい。行動開始がギリギリになればそうそう将兵にも隠しておく訳にはいかないだろう。なにか情報があれば連絡をつける。」
シーマは細い葉巻を取り出すと、火をつけた。
ひと吸いしてから、ガトーの唇にシガーをねじ込んだ。
「なら、わたしは動くよ。しばらくはお別れだね。次に会う時は戦場か……ズムシティの公王府か……あるいは地獄か。」
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「シーマ!! シーマ・ガラハウ!
出撃命令は出ていない。直ちに全艦停止し、茨の園に戻れ!」
シーマ・ガラハウ麾下の艦隊。ザンジバルを中心にムサイ、補給艦も含めた全艦隊が茨の園を出撃していく。
「ふざけるんじゃないよ!!
ちゃんと言ってたはずだ。」
シーマ・ガラハウは、艦橋に仁王立ち。
モニター越しにデラーズを睨みつける。
「わたしは、ガーベラが修理でき次第、アーガマの奴らに仕返しに出るって。」
「大事のまえだぞ、シーマ!」
デラーズの副官は叫ぶが、当のデラーズは指揮官席に座ったままだ。
軽く目を閉じ、腕を組んでいる。
だが、ガトーが立ち上がった時に、静かに目を開いた。
「いくな、ガトー。」
「フルバーニアンなら追いつけます。わたしが止めてきます。」
「大事の前だ。いまおまえを危険にさらすわけにはいかん。」
「しかし……シーマ・ガラハウは、公王府直属艦隊を餌にこのまま、逐電する可能性があります。」
「最悪……それでもよい。」
ガトーにとってもそれは意外な言葉だった。
シーマ・ガラハウの艦隊は、新鋭機のゲルググを多数所有している。
パイロットも腕利き揃いである。
エギーユ・デラーズの艦隊はグワジン級戦艦をふくむ巡洋艦20隻を越える規模だがモビルスーツはザクの改修機が多い。
裏切りうんぬん以前にとんでもない戦力ダウンになってしまう。
「もはや戦力は最小限でよい。」
デラーズは立ち上がる。
「しかし……マ・クベの艦隊を足止めするには少しでも戦力は多い方が、」
「奴らを足止めする方策はすでに出来ておる。シーマ・ガラハウにはそのまま行かせろ。」
「……それは……もうひとつのコロニーと関連しているのですか?」
デラーズは笑った。
見るものをぞっとさせるような笑いだった。
「流石だな、ガトー。」
環境の空気が冷えていく。
「ジャブロー……連邦軍も消える。ジオン本国軍も消える。残るのは、我がデラーズ・フリートのみ」
やっと、星の屑始動です。
というか、始動の準備が整いました。