第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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誰一人。
刻さえ見えるニュータイプたちですら予想できないほどに、戦況は混乱していく。
ソーラーシステムに集められた連邦軍パイロット。
ソドン隊。そしてマチュ、ニャアン、アムロたち。
すべてが決戦の舞台へと向かう。




第20話 強襲!阻止限界点~コウ・ウラキ吶喊

「以上でブリーフィングは終了だ。なにか確認事項はあるか?

……なにか?」

モビルスーツを満載して打ち上げられた大型シャトルはあくまでもシャトルであって、戦闘力はない。防御力という点でもメガ粒子砲やミサイルなどで攻撃されれば一撃で致命傷になるだろう。

 

バスク・オムは、手を挙げた将校をサングラスの奥から睨んだ。

 

優秀なパイロットは不足している。

今回のソーラーシステム占拠に対しては、連邦軍からも宇宙空間での戦闘の経験のある者を参加させている。

 

手を挙げたのはそのひとりだった。

 

「ブラン・ブルターク大尉だったな……」

「オークランド研究所所属のブラン・ブルタークであります、少佐殿。

質問をよろしいでしょうか?」

 

口調は上官に対するのに相応しいものだったが眼光は鋭い。

彼は強化人間やモビルスーツの開発の重要拠点であるオークランド研究を代表して参加しているに等しい。

実際、彼の隣にひかえる十代後半美女、ロザミア・バダムはオークランド研究所が派遣した強化人間だった。

粗略には扱えない。

 

「許可しよう。」

 

「有難くあります。ではなぜジオンがコロニーを落とそうとしたのを察知したのか伺いたい。」

 

「情報源については充分に話せない。だがジオン、なかでもデラーズ・フリートを名乗る一派は、これまでも新型モビルスーツの強奪や、訓練に上がったモビルスーツへの襲撃などの挑発行動を続けてきた。彼らの意図は、かつての戦争において、彼らが講和条約のひとつとして突きつけ、結果受け入れられなかったジャブローの解体にあると思われる。」

 

「……」

 

「ジャブローは、今日なお健在だ。上空からの攻撃には厚い岩盤がこれを防ぎ、陸路からの攻撃も難しい。また大規模な地上侵攻軍を組織することは、いまのジオンには難しい。

ならば、夢をもう一度、とコロニーによるジャブロー破壊を企んだのは必然と言える。」

 

「そのコロニーが、ソーラーシステムの照射距離を通ることがどうしてわかったのか伺いたいねえ?」

 

発言したのは、栗色の髪をショートカットにした女性パイロットだった。

 

「なにか!

発言したいなら、許可をとってからにしてもらおう!」

ジャマイカンは、バスク・オムをフォローしたつもりだろうが、この寄合い所帯では逆効果だ。

女性パイロットは冷笑を浮かべた。

 

「かまわん。発言を許可する。ライラ・ミラ・ライラ大尉だったな?」

 

「ああ。私も戦争経験者でね。宇宙戦闘の経験があるんで、引っ張り出されたんだ。

質問は言った通りだよ。

なんで落下させるコロニーがソーラーシステムの射程内を通ると断言出来るのさね?」

 

「……それも情報源は話すことは出来ない……」

 

「はっ!? コロニー落としは百歩譲るとしてもそれがソーラーシステムで迎撃可能な場所を通ると、どうやって判断したのか。それも答えられないと?

じゃあ、質問を変えようか。

コロニーが落とされるなら、落下軌道に乗る前になんで、それを阻止しないんだい?」

 

「我々は戦艦も含めた宇宙での打撃戦力はもっていない――」

 

「コロニー落としなんぞをされるならそもそも終戦条約違反だろうが!!

ソーラーシステムなんぞ持ち出さなくても、連邦とジオンで交渉は出来なかったかね?」

 

ブラン・ブルタークが再び手を上げる。

ライラの質問から逃げるように、彼の発言を許可したバスク・オムは直後に後悔した。

 

「ソーラーシステムの照射角度と照射ポイントについて再考を求める。」

 

「と、言うと?」

 

「説明にあった攻撃では、コロニーは爆散せず、一部の崩壊、つまり落下地点を変えることはできるが、その大部分は大気圏で燃え尽きることなく、地上に落下する恐れがある。」

 

わかった、検討しよう。

とだけバスクは答えて質疑応答を無理やり終わらせた。

ティターンズ以外の連邦パイロット、いやティターンズの制服を着たものたちの間にも疑惑の視線が広がる。

 

クソッ。

早いところ、コロニーを寄越せ、デラーズ。

お前ら諸共に、ソーラーシステムで焼き尽くしてやる。

 

 

-----------

 

「ありがとう、アムロ。」

 

穏やかな笑みを浮かべて、ソドンの艦橋でアルテイシアはアムロを迎えた。

どう反応したものかわからず、アムロは口の中でどうも、と言ってから、慌てて、いい直そうとした。

相手はなにしろ、ジオンの代表だ。

変な態度を取れば、それだけで首が飛ぶかもしれない。

言い直そうとしたのだが、なんと言ったらよいかわからずに、結局、アムロはもう一度、どうも、と言った。

 

ソドンの艦橋のメンバーは、みなアムロに視線を向けている。

視線に耐えきれずに、アムロは視線を落として、マチュとニャアンは?と尋ねた。

 

「ニャアンさんは吐き気と頭痛ですね。医務室に寝かせていますが、生命にかかわるような兆候はないです。」

シャリア・ブルが答えた。

 

様子を見に行って来ます、と言ってブリッジを出ようとしたが、ランバ・ラルが彼を呼び止めた。

 

「アムロくんか。良い目をしている。」

 

ランバ・ラルもまたジオンの大物だ。立場は、アルテイシアの護衛隊長に過ぎないが、マハラジャ・カーンと揃ってジオンの政治をほぼ牛耳っているという。

これも、またとんでもない大物だ。

なんと返答していいのかわからないアムロは結局、どうも、とだけ答えた。

 

「何もかも、上手く行かねえぞ!

ああっ!?」

ブリッジに戻ってきたのは、ヤザンだった。

撃墜したザク1機、損傷を与えて撤退させたのは2機。

乗ったガンダムマークⅡは無傷である。

 

「そのわりには元気そうだ。」

シャリア・ブルが皮肉そうに唇を歪めた。

 

「あったりめえだ。俺は任された任務はきっちりやり遂げる。だが俺ひとりがきっちりやっても周りがダメなら戦いは負けだ。」

そう言って、かなり、強くアムロの肩を叩いた。

「おまえはよくやったな。

クラバのチャンプなんて怪しげなもんだと思っていたが、大したもんだぜ。」

 

「チャンプなんて……そんな大層なもんじゃありません。」

 

「馬鹿言え! 俺とジェリドはトアールコロニーのクラバでおまえに落とされてるんだ。そのあと、ジェリドが、カミーユのガキに絡まれてる時に助けに入ってきたしな。」

 

「あ、あのときの……」

 

「思い出したか? 」

そのまま、ヤザンはアルテイシアの指揮官席に歩んだ。

「おまえ、本物のヒメさんだったのか?」

 

「ご挨拶ね、ヤザン。でも姫よばわりは結構よ。公王制は廃止させるつもりだから。」

 

「じゃあ、なんて呼べばいい? 総帥か?」

 

「なに? ジオンにくら替えしたいの? まあ歓迎するわ。

アムロくんもぜひどうぞ。」

 

「遠慮します。ぼくはクラバの選手ですから。」

アムロはきっぱりと言った。

 

「クランバトルってそんなに楽しいの?

正直、パイロット崩れがやり合うだけの型落ちモビルスーツの格闘ショーくらいに思っていた。

で、アムロくんはそこのチャンピオンなのね。」

 

「チャンプなんてそんな。別にクランバトルにタイトルなんてありませんから。」

 

「そうだな。こいつはとにかくデビューから一度も負けたことがない。それだけなんだ。」

 

ほう、と誰かが言った。

 

「戦果がまとまりました。」

コモリが、報告を呼び上げる。

デラーズ・フリートの先遣艦隊は、ゲルググが2機、ザク4機、ザクの改修型を2機撃墜されています。残りは、艦隊に逃げ帰りました。こちらは――キュベレイが中破、あとは損害はなし。」

 

「本当は、やつらのモビルスーツ部隊を蹴散らして、艦隊を攻撃。その後、敗走するやつらに紛れて、茨の園に侵入したかったんだろうが、そこまでラッキーに恵まれてるわけじゃねえからな。

これから休息時間はとれるのかい、ソム?」

 

アルテイシアは、ソドンのラシット艦長と、ランバ・ラルを半々に見た。

 

「出来ればキュベレイは修理したい

。」

アルテイシアは言った。

「損傷の具合は、アーガマからの報告を待とう。それまでは交替で休息をとることにする。

アムロ・レイ。少し話がしたいわ。わたしの部屋に来れる?」

 

「ああ、分かりました。でもその前にマチュとニャアンを見舞ってきます。どうもニャアンは暗礁空域の奥にあるものに当てられたらしいのです。」

 

「なにかしらそれは――地上に落下させるためのコロニー?」

 

「それだったらすでに、デラーズ・フリートの主力とともに、動き出したようですよ。」

単なるオペレーターではない。分析官としてもコモリは一流なのだ。

「コンスコン中将の艦隊と本国艦隊が挟み撃ちしてこれを撃滅するそうです。」

 

「ジオンの内部での武力衝突は、結局避けられなかったわけだな。」

ヤザンはずけずけと言った。

ランバ・ラルが眉をひそめた。

ヤザン・ゲーブル。

悪い兵ではないが、アルテイシア様に対して近すぎる。

 

「始まってしまったからには最小限の損耗でことを終わりに致しましょう。」

アルテイシアはきっぱりと言った。

「アーガマに、ハマーンの様子とキュベレイのファンネルユニットの換装状況を報告させてください。二時間後、全艦発進。暗礁空域に突入し、」

チラリとアムロを見た。

「ニャアンが感じたという『暗礁空域の奥にあるもの』を確認し、これを破壊します。」

 

アムロは驚いて、アルテイシアの顔を見つめた。

アルテイシアは、少なくともサイド7では見せたことのない笑顔でアムロと視線を合わせた。

 

「わたしはニュータイプのカンは大事にするわ。それにね、あなたは充分に信頼できると思うの。」

 

 

『セイラ』さんの笑顔に当てられたのか、アムロは、フラフラしながらマチュたちのいる医務室にむかった。

『セイラ』さんは、みんなの憧れだった。

アムロもカイもハヤトも。

とんでもなく美人で、どこかマジメで、どこか影をもった彼女のことをあの地区に住むもので知らぬものは居なかっただろう。

当時も高嶺の花だったが、いまはそんな表現ですら及ばない。

 

連邦とジオン公国。人類を二つに分けた政治組織の一方のトップである。

その人物が自分を褒めてくれたのだ。

 

マチュにじと目で見られて、アムロは我に返った。

そんなことに有頂天になっている場合ではなかった。

 

あくまで、彼は兵士になったつもりはない。

たまたま巻き込まれた戦闘において、クランバトルの延長をしているだけだ。自分にそう言い聞かせていたが、現実はそうもいかない。

実際に人は死ぬし、そうしなければ自分が殺される。

ほっておけば、コロニーは地球に落ちて、何百万もの人が死ぬのだろう。

その中には、ネオ香港で知り合ったララァさんやデニムさんたちも含まれるのだろう。

 

「ニャアンは?」

 

「だいじょうぶ。」

ベッドのなかから、ニャアンが手を挙げた。

「わたしは大丈夫なんですけど、なにかとっても悪いことが起きるような気がする。天パさん、イオマグヌッソ事件って知ってる?」

 

「普通にニュースは見てるからね。環境改造用の装置が暴走して、ア・バオア・クーを周辺艦隊もろともに破壊。当時施設を視察中だったギレン総帥やキシリアも巻き込まれて死亡。イオマグヌッソそのものも崩壊した。

そのときにソロモンのグラナダ落下のときにもあった物質の転移現象“ゼクノヴァ”も観測されている。」

 

「わたしとニャアンはあの現場にいたんだよ。ニャアンは……」

マチュはベッドのニャアンの手を固く握りしめた。

「あのときもこうなったんだ……」

 

 

「わたしが撃ったの。」

ニャアンはボソリと言った。

「何をしてるかは分からなかった。アレが何をするものかも知らなかったし。でもわたしがジフレドに乗って、座標をセットして、わたしが起動させた。」

 

イオマグヌッソは単純な事故ではないのだ!!

その噂はあちこちで囁かれていた。

一番は実はそれは戦略級の兵器であって、完成したそれの主導権をあらそって、ギレンとキシリアは互いを殺しあったのだ……と。

 

「あの中に隠されているのが、イオマグヌッソである可能性は?」

「ゼロ……だと思う。」

 

だらだらとお茶でもしているときは、クラゲの一種かとも思えるマチュであるが、頭は悪くない。

 

「イオマグヌッソが、そんなに短期間に建造できるはずはないし、あれは特別なサイコミュがないと作動できないはずで、その特別なサイコミュは特別なパイロットでないと動かない。」

 

「例えば、きみたちのように、か。」

 

「うーん。」

マチュは考え込んだ。

「特別なのだろうかなあ…」

 

「準備が出来次第、ぼくたちは全艦で暗礁空域に突入する。

コロニーを連れたデラーズの艦隊とは入れ違いになるけど、やることは、デラーズが本拠にしていた『茨の園』を解体して、やつらの戻る場所をなくすことにある。」

 

「コロニーのほうは?」

 

「“ジオン”が動いてるんだ。別の艦隊が――たぶんこんな寄合い所帯より遥かに大きな艦隊が動くはずだ。」

 

アムロとマチュは目を合わせた。

 

コロニーの奥にあるもの。

それは確かに不気味な存在ではあるが、こちらの勝ちは動かない。

コロニー落としもきっと阻止できる。

 

だが、なんなのだろう。

この不安は。

 

 

 

---------------

 

 

「セット完了。」

ただ一隻。『茨の園』に残ったムサイの環境では、作業が淡々と進んでいた。

 

「艦長。」

技術士官らしき男が上官に話しかけた。

「こんなこと……必要なんですかね。なんでわざわざ。」

 

「故事にもあるだろう? 背水の陣、というわけだ。

逃げ帰る場所をなくしてしまう事で士気は否応にも高まる――という理屈だ。」

 

ほとんど、艦船暮しの彼らが実質的居住スペースとして使用してきた浮きドック。それがいま破壊されようとしている。

 

「それもわかるんですが、せめて民間の技術者や作業員は脱出させてやるわけにはいかなかったんですか?」

 

艦長は黙った。

彼もまた、そう思っていたのだ。

 

もはや、彼の中では“星の屑”は失敗していた。いやコロニー落としが行われようが失敗しようが、彼らはとんでもない戦争犯罪人として、断罪される。

デラーズが夢想したように、「連邦に果敢な攻撃を加えた英雄」としてジオンに凱旋することなどありえないのだ。

言わば彼らは死兵である。

死を覚悟した兵は恐ろしく強い、というがならぱその道連れは相手の軍であろう。

協力してくれていた民間人まで、殺すことはない。

 

艦長は迷った。

 

例えば、浮きドック内の者たちに警告をだして、爆破前に適当にランチで脱出させる……。

だが、残った人数とランチの数から見て、それが、スムーズに完了するとは思えない。ならば爆破時刻を遅らせるか。

軍人としてそれは出来ない。

 

だが彼の思考は、けたたましい警報で妨げられた。

 

「大型モビルアーマー、接近!!

こ!これは!」

オペレーターの声は悲鳴に近かった。

「ノイエ・ジールですっ!!」

 

 

コウ・ウラキはこのときほとんど正気ではない。

彼は戦う動機として、愛しいニナ・パープルトンを奪ったデラーズ・フリート、なかでもそのエースであるアナベル・ガトーという男への恨みを植え付けられていた。

 

それはまた、彼自身の心情に基づくものだったので、「強化」と「調整」はうまくいっていると。ジオンはそう解釈していた。

だが前回、グリーンノア宙域での戦いで、コウの駆るノイエ・ジールはガトーのデンドロビウムを落としている。

そこでいったん「復讐」のストーリーは完結していたのだ。

 

残ったのはニナ・パープルトンへの狂気にも似た執着。

ニナをなにがなんでもこの手に取り戻す。

 

コウ・ウラキの頭の中はそれしかなかった。

そして歪んだ彼の脳はありもしない命令を受信していた。

 

暗礁空域に侵攻。ニナを救出せよ。

 

 

「コウ・ウラキ。吶喊します!!」

 

 

「あいつはIフィールドを持っている。ミサイルで対抗しろ。モビルスーツは出せるか?」

「ミサイル、発射用意……モビルスーツは、すべて故障しております。」

 

艦橋をノイエ・ジール本体のメガ粒子砲が貫通した。続いて左右から有線アームクローに備えられたメガ粒子砲が、その胴体に大穴を開けた。

さらに、大型の対艦ミサイルが船首に着弾。

コムサイもろとも艦首を爆散する。

 

――明らかにオーバーキルでであった。

 

 

 




デンドロビウムとノイエ・ジールは0083時点では、オーバースペックだとか言われてましたが、書いててもそうですね。とくにIフィールドが無敵っぼ過ぎる。
後の世の、たとてばF91のヴェスパーとかなら撃ち抜けるんでしたっけ。
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