ソドンを中心とする公王府直属艦隊は、暗礁空域に突入する。
アムロ、マチュ、ニャアン。
ニュータイプたちもそれぞれの思いを抱いて。
暗礁空域。その中にあるものとは!!
「コンスコンが前進をためらっているだと?」
マ・クベは、確かに歴史に名を残すような大人物ではない。
それなりに腹芸もやってのけはするのだが、肝心なときに苛立ちを隠せない。
またいかにもな嫉妬心もある。
ルナツー攻略戦の際に、シャア大佐を予備部隊に回したこともある。結果、ルナツー攻略は三日遅れた。予備部隊であるシャア大佐の部隊がソロモン落としを阻止できたので結果オーライと言ってしまえばそうなのだが、シャア大佐のガンダムとシャリア・ブル大尉のキケロガがいれば、ルナツー攻略はもっと早く終了し、連邦軍はソロモン落としを発動する機会すらなかったという説も根強いのだ。
「はい。どうもこの地点」
モニターには二手に別れたジオン本国艦隊と、コロニーを引き連れて進軍を続けるデラーズ・フリートがそれぞれ光点となって表示されている。
そのまま前進を続ければ、数ではるかに勝る両艦隊が挟撃する形で、デラーズ・フリートを捕捉できるはずだ。
「ここで、ちょうど『茨の園』から両艦隊が重なるようになるのが気になる、と。」
「奴らはすべての戦力を引き連れている。
もはや出撃させる戦力は暗礁空域には残っていないはずだ、ウラガン。」
マ・クベは白磁の花生けを手に取った。
自らのいらだちをおさめるように、その滑らかな表面に指を走らせた。
「直線上の艦隊に瞬時に大ダメージを与える兵器だと?」
「そんなものはありませんし、もしそれが気に入らないならば、タイミングをずらせば良いだけのことでは?」
「……それはそれで、挟撃ではなく、各個撃破の機会を与えてしまうことになる。
あのデンドロビウムとかいう試作兵器がある以上、いたずらに犠牲を増やしてしまう……」
マ・クベは、ウラガンにソドン艦隊への回線を開くように命じた。
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「出撃が早まった!?」
アムロは、嫌な顔をした。
頭痛と吐き気に悩まされていたニャアンが起き出してきてから、まだそれほど時間はたっていない。
いくら不味いとはいえ、食事くらいはとらせるべきではないか。まして、マチュもニャアンもそして彼自身も軍人ではないのだ。
「……もういいです。不味いしこれ。」
ニャアンはスプーンを置いた。
トレイの粘土状の物体は半分も減っていない。
「栄養バランスは良いはずなんだ。」
「帰ってから残りは食べます。」
きっぱりとニャアンは言った。帰って来れない可能性はもちろんあるのだが、それを傲然と無視しているのが、この謎めいた少女らしかった。
「それぞれ、搭乗を急いでくれ。これよりアルビオンを先頭に、艦隊は暗礁空域に突入する。」
ブライトが厳しい顔で言った。
おそらくきっちりと士官学校を出て、戦争も経験しているのだろう。
民間人らしいだらしなさのあるアムロ達にはわざと厳しくしているような様子もある。
「やっぱ、暗礁空域になんかあるんだね。」
マチュが言った。
「いや……わからんのだ。」
わからん、なんて言ってしまうところはブライトも若い。
なんでもあの襲撃の時に、彼もサイド7にいたのだが、腹痛を起こして医務室にいたらしい。まともに出撃していれば、ビームサーベルで艦橋ごと焼かれていた可能性もあるので、ある意味幸運の持ち主なのだろう。
「ジオンのマ・クベ中将からの指令……いや依頼らしい。」
なにしろソドンに乗っているのは、元首なので軍のトップであるマ・クベにも『命令』は出来ないのだ。
「デラーズ・フリートは全軍を揃えて、押し出してきている。
暗礁空域には、やつらが持ち込んだ浮きドックや資材回収用のコロニーくらいしか残っていないはずだ。いまさらそんなものを抑えられても痛くも痒くもないはずだ。」
「なにが残ってるって?」
アムロの心にザワつくものがある。
「浮きドックやコロニー……」
そんなものの光景は見ていない。
歴史上にもそんなことは起きなかった。
だが、アムロは幻視した。
光と人の渦が溶けていく。
憎しみの光が大艦隊を飲み込み、消滅させていく。
「まさか……」
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物語は数分前に遡る。
「暗礁空域へ突入、だと?」
マ・クベはジオン軍のトップというべき立場だが、ランバ・ラルも政治における最高権力者のひとりである。
「ソドンにはいま、アルテイシア様が御座しておられる。それを承知の上での指示か?」
「これは命令ではありません。お預けしているアルビオンとラーディッシュを含めて、公王府直属軍は私の管轄外ではありますからな。」
「きさま、まさかアルテイシア様に万が一のことがあれば、ミネバ・ザビを後継に立てれば良いとかんがえてはいないだろうな!?」
「考えすぎです、ランバ・ラル閣下。」
マ・クベは律儀に言った。
「それにご不安でしたら、アルテイシア様にはモビルスーツで戦線を離脱ください。
回収のための艦隊はこちらから出します。」
「お断りです。」
アルテイシアは即座に言った。
「アルテイシア様。」
ランバ・ラルはため息をついた。たしかにアルテイシアならそう反応するだろう。
「ですがもう少し説明してください。マ・クベ将軍。あなたは暗礁空域になにがあると思っているのです?」
「なにもないかもしれませんな。」
マ・クベは飄々と答えた。
「むしろ、なにか『ある』と見せかけてこちらの艦隊の挟撃を避けようとしているだけなのかもしれない。
しかし、あのコンスコンが漠とした不安を感じているのですよ。
――あの『有能な臆病者』が。」
続きを話せ。と、アルテイシアはわずかに眉を上げて促した。
「このまま、艦隊が進むと我々が派遣した2つの艦隊が暗礁空域から見て直線上にならぶ瞬間があるのですよ。」
「それが?」
アルテイシアは険しい顔で尋ねた。
「もう暗礁空域にはデラーズ・フリートの艦隊は残っていない。それにその距離から艦隊にダメージを与えられる兵器など……」
ランバ・ラルが呻いた。
「まさか……」
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「百式とキュベレイが先行する。」
アーガマのブリーフィングルームでクワトロは言った。
「暗礁空域にどのような戦力が残っているかはわからんが、少なくとも浮きドックと廃棄コロニーがもう一基あるはずだ。
攫われた民間人の技術者が捕らわれている可能性もある。
デラーズ・フリートの退路を断つと同時に彼らを保護したい。」
「ぼくも行きます。」
カミーユが手をあげた。
「カミーユ、気持ちはわかるがきみは民間人だ。ジェリド中尉とともに、アーガマの直衛に回ってくれ。アーガマは条約上まだ艤装も終わっていない艦艇だ。攻撃には脆い。」
「“大佐”もハマーンさんも軍人ではないでしょ?」
痛いところをつかれたクワトロは黙った。
ハマーンはカミーユを睨んだ。
「私とシャ……クワトロは、ジオン公国に縁があってな。」
ハマーンは、俗物が!と怒鳴り出す代わりに淡々と言った。
「多少の危険は義務なのだ。」
「しかし、距離があり過ぎないか?」
ヘンケン艦長が冷静に言った。
「ここから、暗礁空域まで移動するのはモビルスーツにはいささか遠すぎる。」
「百式の飛行体モードでキュベレイをひいていく。」
クワトロは答えた。
「それにデラーズ・フリートの艦隊行動を見ているとまるで、ジオン本国艦隊を誘い込んでいるような印象があるのだ。
万が一、ということもある。やつらが本拠地に隠したものを確認しておきたい。」
「秘密兵器というわけか?」
ヘンケンがどこか揶揄するように言った。
「計画書だけで、実際には使われなかったがな。独立戦争時に着工までいった兵器がある。」
「なんです? それは」
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「コロニーレーザーだ。」
マ・クベは答えた。
「マハルを改造したコロニーそのものを砲身とする巨大レーザー砲だ。
ソロモン陥落後、さらに連邦が侵攻を続ければこれを一挙に殲滅するために建造がスタートしていた。」
「コロニーそのものをレーザーにする?
確かにそんな計画はあったと記憶しているが」
ブライトはアムロの発言に怪訝な顔をした。
「確かに、艦隊そのものを消滅させる威力はあるだろうが。それをデラーズ・フリートが密かに建造していたというのか?」
クワトロは答えた。
「ソーラ・レイの名前で建造されたコロニーそのものを利用したレーザー砲だ。
イオマグヌッソの建造に際して、キシリアがサイド6から資金援助を取り付けるときにもそれを地球環境改善に利用するというのを名目にしていたはずだ。」
まあ、射線軸をずらしてしまえばいいんじゃないか、というご指摘もあるでしょうが、艦隊単位で動いてるものを変更されるのはそれなりに大変なのです。それにデラーズ・フリートにはデンドロビウムがあるので、各個撃破の危険もあります。それにともかくコロニーレーザーがほんとにあるのかないのかわからないので、今回はジオン本国艦隊が同一軸線上に並ぶまえにソドンを突っ込ませようということになりました。