第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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さて―――試合開始。


と思いきや。





第21話 狐の時代~ズムシティ

「わたくし専用のモビルスーツ?」

アルテイシアの形のよい眉は、不快そうに歪んでいた。

ランバ・ラルは、丁寧に一礼した。

「作りたくはないのですが、ないと収まらないでしょう。」

 

「キュベレイは?」

 

「ファンネルシステムが事故を起こした時点で候補からはずれました。」

 

ランバ・ラルはアルテイシアの執務机の上にデスクをおいた。

その上に立体映像が浮かび上がる。

 

頭部にとんがり帽子のようなアンテナ状の突起があるほかは、モノアイを採用した通常のモビルスーツだ。

外装は淡い緑で、もともとザクにも採用されたジオン公国には馴染みの深い色合いだ。

 

ランバ・ラルは中世から延々と続く名門ブランドの名を出した。

 

「―――がこの度、製造したモビルスーツです。」

 

アルテイシアは呆れた。

そのブランドの名は知っていたが、なぜモビルスーツにまで手を出すのか?

 

「最新のゲルググをムーバブルフレーム構想を取り入れて改修した機体です。

あくまで、これは一例であって発注者の意向でいかようにもカスタマイズが可能とのことです。ゆえに名前はついておりません。

便宜上、評価テストのために、作られたゼロ号機が完成し、現在、クランバトルに投入されています。」

 

「…こんな言い方は不本意だけど、面白みのない機体、そう思います。」

 

「それはそうでしょう。

逆に言えば、ファンネルを飛ばしたり変型したりするような構造的に無理を詰め込んだ機体に、アルテイシア様をお乗せするわけにはいきません。」

 

ランバ・ラルは、手を挙げた。

執務室のモニターに映像が映る。

 

月面らしい。

 

音声が入ると、アルテイシアは顔をしかめた。

クランバトルは人気のコンテンツであるが、あまりけたたましいのは彼女の趣味には合わないのだ。

 

単なるショーではなくそこには、多額の金が動く。

 

「つ、い、に!!

あの男が戦場に帰ってきた。頭上に浮かぶは我らがソロモン!!

そこで潰えた多くの英霊たちの魂を慰めるためついにあいつが帰ってきたあああっ!!

“ソロモンの悪夢”アナァァベル、ガットウゥゥゥ!!

機体はデラーズから分捕った新型試作ガンダム“サイサリス”だアッ!!」

 

「これは! デラーズがガトーに強奪させた戦略級核バズーカ仕様の“サイサリス”よ!」

 

「まさか。月面とはいえ、核兵器などは使いません。これはクランバトルですからな。弾頭は通常のモノになっているはずです。」

 

 

「そしてガトーのM.A.V.は、こいつだあっ!

トリントンの精鋭。コウ・ウラキ!」

 

こっちはあんまり盛り上がらなかったようだ。

 

「ノイエ・ジールのパイロット…だったわよね?」

 

「その通りです。ガトーの駆るデンドロビウムと死闘を繰り広げたコウとM.A.V.を組む。」

ランバ・ラルの目がかすかに潤んでいた。

「いやあ、殺すか殺されるかの戦いの果てにも友情は成立するのですな。」

 

アルテイシアは、バカにするつもりはないのだが、そういう男の子同士の友情ごっこは理解の範囲外なところがあった。

 

「コウの機体は?」

 

「サイサリスと同じくトリントン開発チームによる試作機です。ゼブィランサスを宇宙戦仕様に改装した“フルバーニアン”です。」

 

ビーム兵器がオミットされるクランバトルにおいて、重装甲に巨大な盾をもったサイサリス。そしていかにも俊敏そうなフルバーニアンはかっこうのコンビに思えた。

 

「わたし用のモビルスーツに乗ってクランバトルに出るのは?」

 

「ココ・シャロン。」

ランバ・ラルは、タブレットにひとりの少女の画像を映した。

褐色の肌をした(たぶん)可愛らしい少女だ。

たぶん、と言ったのはその少女の目元が

 

「なに? こいつはアレのファンかなんかなんでしょうか、ランバ・ラル?」

 

かつて、ジオンの英雄シャア・アズナブルが装着していた(そしていまはシャリア・ブルが受け継いでいる)仮面が、その目元を覆っている。

 

「まあ、『赤い彗星の再来』を名乗るクランバトル選手は、片手では収まりませんからな。」

 

アルテイシアは憂鬱そうに、唇を噛んだ。

「……で、この道化の仮面のM.A.V.は誰なの?」

 

画面の中でアナウンサーが絶叫する。

 

「対するは、これがデビュー四戦目!!

狂気と惨劇の研究室が生み出したモンスター!!! フォウ・ムラサメ!!」

 

ツインアイにV字型のアンテナ。肩のバインダーが大きく張り出していた。

 

禍々しい紫の機体が舞い降りる。

 

「機体はサイコガンダムR!

かつて、イズマコロニーを襲ったモビルアーマーとの関連は!?

これまでの3戦はすべて、この機体のビット攻撃で決着しています。」

 

 

「ランバ・ラル。わたしはムラサメ研究所についてはいろいろと悪い噂を聞いています。」

アルテイシアは不快そうだった。

「こうも大っぴらにその存在を明らかにしてよいものなのでしょうか?」

 

「それについてはいろいろと―――ああ、来ました。これがアルテイシア様の専用機として提案するモビルスーツです。」

 

 

サイコガンダムRに続いて、輸送機から優雅に降り立った機体は、細身で、特徴がないのが特徴ともいえた。

月面におりたったその姿は、しなやかで、力強い。

外装のデザインでそう見せているのなら、デザイナーはたいしたものだった。

 

 

「先にも申し上げた通り、名前はまだ決まっておりません。

外装についてはオーダーの時点で、クライアントの希望でカスタマイズ。

武装については、現在はマシンガンとヒートソード、盾のみですがこれは、バックパックを装着する『シルエットシステム』による強化を考えているそうです。」

 

要するになにもない素体のまま、ってことね。

アルテイシアの不満そうな呟きをかき消すようにアナウンサーは叫ぶ。

 

「仮面の戦士! ココ・シャロンが登場だあ!」

 

「アクセスが急増しておりますな。」

ランバ・ラルが呟いた。

 

「なぜここまで人気が?」

アルテイシアは疑問を口にした。

「もっぱら活躍してるのは、M.A.V.のフォウ・ムラサメのほうでしょう?」

 

「ぐらびあ、ですな。」

 

「グラビア、ですか?」

 

ランバ・ラルはモニターのサブ画面を操作した。

映し出されたココ・シャロンは、寝台に寝そべっている。相変わらず仮面をつけていたが、それ以外はほとんどなにもつけていなかった。

 

顔立ちから幼げな印象だったが、その肢体はかなり肉感的だ。

 

「女性でクランバトルに出場する者はたしかに珍しいでしょうね。」

アルテイシアの唇が歪む。

「しかも脱げるパイロットはほかには知らないわ。」

 

 

画面の左したにロゴが見えていた。

 

「ココ・シャロンファースト写真集『薔薇の真実』。絶賛発売中!」

 

「グラナダは、ジオンの軍関係者が多いのでそこから出たのかとも思われますが」

ランバ・ラルは、アルテイシアの嫌そうな顔をみてそそくさとサブ画面を消したが

「“シャロンの薔薇”の二つ名で呼ばれております。」

 

普通、二つ名は、戦いぶりや機体から付けられるものだ。

写真集のタイトルからつけられるケースは、ない。

いやクランバトルの出場選手が写真集を出すなどこれまではなかったから、ないに決まっているのだろうか。

 

それともクラバが公認されたからには、こんな扱いも増えてくるとうことだろうか。

『赤い彗星の休日』というグラビアタイトルを無意識に思いついて、彼女は思わず吐き気を催した。

 

もともとアルテイシアが、自分用のモビルスーツを求めたのは、いつまでたっても本格的にアレの抹殺に乗り出さないジオン政府に腹をたてて、クラバにかこつけて自分で殺ってやろうかと考えたからなのだが。

 

はたして、自分はここまで肌を晒すことに耐えられるだろうか。

 

水着? 水着ならなんとか。

 

自分がクラバに出る以上、写真集のオファーが来ることはすでに前提となっているふざけた国家元首をよそに、いよいよ“ソロモンの悪夢”と“シャロンの薔薇”の一戦が始まろうとしていた。

 

 

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ズムシティにも影はある。

 

リニューアル工事が決まって、住民を追い出したあとで予算がつかなくて着工ができないまま、数年が経つこの地区などは、正にそれだろう。

 

廃墟となった街には、食い詰めた者やほかのサイドからの難民がながれついて、一瞬混沌とした活気を作り出している。

時刻は夜だ。

 

「彼女」が身を潜めたビルは、骨組みが一部組み上がったところで、放棄されている。

ひとが使うにはやはり壁と天井はあったほうが好ましいと見えて、通りの活気とは裏腹に静まり返っていた。

 

たぶんゴミ捨て場にもなっているのだろう。

壊れた姿見が、斜めに立てかけてある。

 

鏡の中の少女はオレンジの髪。

逃げ出した時の着の身着のままなので、薄汚れてはいるが、別段気落ちした様子もない。

 

にいっと笑うと鏡の中の自分も同じ笑みで返した。

 

たぶん年齢は10歳くらいに見える。

丸一日なにも食べていない。

 

少女は「強化」について思考をめぐらせた。

わずか10歳の子どもが。

一日逃げ回った子どもがする表情では無かった。

少女は立ち上がる。

まだ、足も動く。走れる。跳べる。

まだまだ逃げることができる。

 

「こっちだ!」

「いたぞ!―――クソッ、はやい。」

「まわりこめ!」

 

少女は走った。

すこし休んだ分、身体は軽くなっていた。

 

あそこには。

戻りたくない。

 

たしかに「強化」は効果があるのだ。

 

追っ手の男たちを引き離して、少女は雑踏のなかに駆け込んだ。

 

 

「追えっ!!」

リーダーらしき男が叫んだ。

「奴を! エルピー・プルを捕まえろ!!」

 

 

 

 




たしかブルシリーズを作った研究機関は、サイド6だったかなあ。一応、ジオンが勝った世界線で、GQuuuuuuX本編で、ギレンがクローン部隊を作ってて、みたいな話があったので、まあその研究機関もお膝元のズムシティにあったことにします。
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