第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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昨日はとうとう投稿出来ませんでした。
とっとと、試合を始めたいのですが、周りでなにが進行しているか、もなかなか面白いのですね。





第21話 狐の時代~ズムシティ 科学者とクローン

路地を曲がって曲がって曲がって曲がったところで、エルピー・プルは捕まった。

正確には追い詰められたのだ。

 

背後は壁。

 

「麻酔銃が効きません!」

ひとりが荒い息を吐きながら言った。

 

「薬物に対する耐性効果だろう。」

リーダーらしき男がむっつりと言った。

「力づくでなんとかしろ。」

 

聞いた部下たちは全員いやな顔をした。

何人かはエルピー・プルに蹴り飛ばされた脚を引きずっている。

頬にひっかき傷をつけているものもいた。

 

10歳の子どもの戦闘力ではない。

同じサイズの肉食獣を相手にするくらいの覚悟は必要なようだった。

 

男たちは得物を手にした。

 

―――刃物はさすがにいない。

目の前の少女は貴重な被験体であり、殺してしまうことは厳禁だった。

だが倒される武器がナイフか警棒かどちらかを選べと言われたら、だれも返答に困るだろう。

 

出血と骨折。

どちらかを選べと言われているようなものだからだ。

 

少女は、怯えてはいない。

強い力のこもった瞳で、追跡者たちを睨んだ。

 

「おまえは、大事な人材なんだよ。

おまえはおまえであることを止めることは出来ないんだ。」

甘やかすような口調で、リーダーは言った。

「丸一日以上、ひとりで逃げ回っていて、寒かったろう? 辛かったろう?

あそこにいればそんなことはない。

ちゃんとしたベッドで栄養バランスのとれた食事をとることが出来る。

なにより、仲間もいる。

さあ、大人しく帰ろう。」

 

「ひとはね。」

少女は言った。

「変わることが出来るんだ。わたしがわたしであることを否定はしない。でもちょっぴり生きてる環境を変えたいんだ。それには、あんたたちは邪魔なんだよね。」

 

彼女もまた無傷ではない。

体力的精神的な「強化」を受けていてもそれは、その幼い体が超人になったわけではないのだ。

細かい擦り傷は無数にある。

それに疲労も。

 

このまま、座り込んでしまって、研究所に連れ帰られてしまえばそれはそれでラクなのかもしれない。

たしかに自分は―――自分たちは数が限られている。殺されることはないだろうが、何らかの洗脳は受けるかもしれない。

 

それはお断りだった。

 

「…だから。帰らない!!」

 

 

 

「あの…」

 

後方から声を掛けられて、男たちの何人かが振り向いた。

 

「ここらにクランバトルを観戦できるバーを知らないかね?」

「…なんだ、おまえは?」

「いや、通りすがりの科学者なんだけど。」

 

どん詰まりの路地裏に「通りすがる」者がいるのだろうか。

いや、道を間違えて旅行者や酔っ払いならそれもありうるだろう。

だが、眼鏡の下から冷たい視線を覗かせる女性は酔っているようには見えなかった。

 

「消えろ!」

ひとりが短く言った。

もちろん、ポケットに差し込んだ手は、即効性の毒針を打ち出す暗器を握りしめている。

女性が立ち去ろうとうしろをむいた瞬間に、撃つつもりだ。

 

「みたところ、大の男が、年端のいかない女の子をかどわかそうとしているように見えるのだが、まあそれはいい。そういうこともあるだろう。」

 

それはいいのか。

 

男たちはきょとんとしている。

再開発地区の裏路地に現れた女性は、見かけは紛れもなく普通で、かなりの美人ですらあったが。

どこかが狂っていた。

 

「だが、わたしがクラバの見れる酒場を探しているのを無下に断ったのは万死に値する!!」

 

うむ。

毒針の発射装置を握った男は、女が嫌いだった。とくに美人でわけの分からないことを言う女には、一瞬たりとも我慢が出来なかった。

彼は躊躇わず、引き金をひいた。

 

闇夜に紛れた黒い針は、女がかざした人差し指と中指に挟み止められていた。

 

出来る。

 

「きさま! どこかの非合法工作員か!?」

 

「聞きたいのか? 聞いたら生きて帰れないかもよ?」

 

女はすいっと近づくと拳を振るった。

男はかわした―――体術には自身があったのだ。が、女の拳に握られた針の分だけ、間合いを誤った。

 

ドゥっと、塵芥にまみれた地面に倒れる。

 

興味深げに女はそれを眺めた。

 

「全身のマヒまで、1秒…致死性のものかと、思ったらマヒ毒かね。運がよかったね。」

 

「待てっ!!」

部下たちが一斉に得物に手をかける(今度は銃や刃物だ)のを隊長は制した。

「やめろ。おい女。ただものでないのはよく分かったが、ここは見ないふりをして立ち去っては貰えないか?」

 

「なるほど。

あんたらはどっかのヤヴァめの研究施設の警備員だね?」

 

女は納得できた、というふうにふんふんとうなずいた。

 

「なぜ…」

 

「いえ、荒事に慣れてはいるし、かと言って血に飢えてるようでもないし。

まあ、ぶっちゃけるとウチにも同じような立場のニンゲンがいて、そいつらと雰囲気が似てるのさ。

そっちのお嬢ちゃんは、そっから逃げ出した被験体、というところかね。」

 

そう言いながら無造作に、エルピー・プルに近づくのを隊長は制した。

 

「なんの義侠心か知らんが、手出しは無用だ。

―――そいつはクローンなんだ。

もちろん被験体としては重要だが、市民権どころか人権も無い。我々がどうしようが法の保護の外にある。」

 

ぐじゅる。

 

女の口元からへんな音がした。

 

「遺伝子提供者は?」

 

「そんなことまで話せるか!

…だがひとりはニュータイプの素養のある者だった、と言っておこう。」

 

ぐじゅる。

ぐじゅる。

 

見間違いではない。女はヨダレをたらしていた。

とんでもないご馳走でも目の前にしたかのように。

 

「ニュータイプの遺伝子をもつクローン。いくら弄り回してもかまわない個体…」

 

「な、なんなんだ、おまえは!!」

 

確かに女の言った通り、彼らはとある研究機関の警備員だった。荒事はしょっちゅうであるし、たまには脱走したものを追いかけて、暴力をふるうこともある。

だが、基本的には殺すまではしないし、最初から殺すことを目的で攻撃を加えることはない。

 

だが、この女は。

 

警備員たちは全員が同じことを思った。

同様な狂気を宿したものたちを彼らはよく知っていた。

 

研究所の研究員たち。

ひとを切り刻み、場合によっては死に至らしめても、平然と次の検体を求めるモノたち。

 

「殺せ!!」

そのひと言がついに出てしまったのは、おそらく、研究者たちに対する鬱憤がそうさせたのだろう。

 

ズムシティは厳密な意味での火器は、個人で携帯することは禁じられている。

だが法律的にグレーなものとして、電気ショックを与えるデーザーガンや先にひとりが使用した薬物を塗った針を飛ばすニードルガンなどは、施設の保安部員ならば携帯を黙認されている。

 

女の白衣の裾がひるがえった。

 

一瞬、姿が隠れたその瞬間に、女は警備員たちに接近していた。

 

「一足で飛び込める間合いで、飛び道具を持ち出すのでは遅い。」

 

それは白衣をまとった颶風。

屈強な男たちは、巻き上げられるように飛ばされ、受け身もとれずに地面に叩きつけられる。

 

ものの10数秒。

 

倒れ、呻き声をあげる男たちの目の前に、女は傲然と立っていた。

 

「お、おまえは…」

 

「あんたたちの雇い主の同業者だ。

ムラサメってきいたことがあるかい?」

 

「ムラサメ研…っっ!!」

 

「わたしはムラサメ。

わたしの悪業はわたしのせいになり、わたしの成果は研究所のものになる。」

よくわからぬ事をつぶやきながら、女―――ゼロ・ムラサメは、まだ意識のある男の傍らにしゃがみ込んだ。

「まだ、やるかい?」

 

「い、いや!!

…しかし、プルをどうする気だ。もし噂に聞くような人体実験に使うつもりなら」

 

どこかを骨折していることは、間違いない。

身体を起こそうとして激痛が走ったのか、男は再び、地面に倒れた。

 

「けっこう、まともな倫理観を残しているじゃないか。転職をおすすめする。強化人間絡みのプロジェクトはまともな人間が関わるもんじゃない。」

 

「では、プルを…エルピー・プルをおまえの実験の材料にするつもりか!」

 

「決まってるじゃないか。」

ゼロ・ムラサメは、幼い少女の手を取った。

「差し当たって、どんなニュータイプにも負けないように強化する。」

 

「そ、そんなことをさせるか!」

男は身を起こそうともがいて、また倒れた。

 

「それについては大丈夫。」

ゼロ・ムラサメは、プルの顔を覗き込んだ。

少女はなにかを悟ったように、ゼロ・ムラサメの顔を見返した。

「…わたし、失敗しないので。」

 

 

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白衣の女性と、手を引いて歩く少女、という連れ合いは、雑踏のなかではそれほど人目を引かなかった。

 

「クローン、だと言ったな。」

「そうだよ。」

「名前はプルか?」

「エルピー・プル。みんな同じ名前だから、番号で呼ばれてる。」

 

「それは酷な。」

けっこう本気でゼロ・ムラサメは言った。

「なぜ、逃げ出したんだ?」

 

少女は少し考えてから言った。

 

「わたしたちはそれなりに大事にはされていたと思う。遺伝子提供者は特別な人だし、育成にはお金がかかってるから。

でも」

 

「“モビルスーツ”の方に合わせて、人体の方の改造をはじめようとしたのか。」

 

びっくりしたように、プルは女科学者を見上げた。

 

「…わかるの?」

 

「というか、わたしも通った道だからな。

具体的には、パイロットそのものをモビルスーツの部品の一部だと思い込ませるように刷り込みをかけたのだが、」

 

プルは身体を震わせた。

 

「一定期間、モビルスーツに乗らないと精神崩壊を起こしかねない不安定な存在になってしまった。」

 

「…失敗しないんじゃなかったの?」

 

「なにを言う! いま彼女はクランバトルの選手として、人気の存在だ。ちゃんと定期的にモビルスーツに乗って、楽しく暮らしているぞ?」

 

…もちろん、ドゥーがきいたら抗議がくることは間違いない発言であったが。

 

「…そうだ! こうしてはいられない。

どこかで、今日のクラバが観戦できる店を見つけなければ!!

わたしのかわいいフォウの試合があるんだ。

ところで、腹はすいているか?」

 

プルはうなずいた。

 

「一日なにも食べてない。」

 

「うむ。ならば、雰囲気のよいバーよりも飲み食いができる店にしよう。」

 

 

 

 

 




なにしろ「ソロモンの悪夢」のクラバデビュー戦ということで、けっこう注目の一戦です。
主催者側は、賭事の胴元となる以外にも、有料配信やらグッズ販売でアコギに設けております。
ララァは素直に感謝しておりますが、彼女のグラビア写真集もけっこうな利益をアンキーにもたらしております。
なので、そろそろ、クワトロさんたちも気が付きますので。そっちの反応は次回以降に。
さすがに試合は始めますよ。

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