第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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ひいひい、はあはあ。
やっと更新できました。
ゼクノヴァって、シャロンの薔薇って、このせかいではどう解釈されているのやら。
なにしろ、キシリアさんもレオ・レオーニ博士の亡くなってしまってるし。


ああ。
まだシロウズくんが健在でした。




第21話 狐の時代~シャロンの薔薇

 

コウの身体は、投与された薬物により、強化されている。

それは単純に「強化」というプラスの言葉で表現出来るようなものではない。

流石に数ヶ月から一、二年で動けなくなるほどのものではないが、長期的には、様々な臓器への障害が起きるだろう。

だが、モビルスーツパイロットに必要な「強化」は必ずしも身体に関することばかりではない。

より重要なのは、空間認識能力の拡大であり、心へひとつ能力を付け加えることは心からひとつなにかを削る作業となる。

 

例えば、悪名高きムラサメ研究所などは、空間認識能力の拡大、戦闘に対する忌避感や恐怖を克服するために、その者の記憶を奪うという暴挙を平然とやってのける。

 

ジオン公国軍はそこまではしなかった。

今回は。というべきか。

一説には、ニュータイプの素養を持つものとさる大物の遺伝子を掛け合わせたクローンには「人体実験」としかいいようのない行為が行われているという噂もある。

だが、コウが受けたのは、様々な短期長期にわたる副作用の危険はあるものの、あくまでジオン公国軍が一般兵を対象に開発していた強化である。

 

記憶消去のかわりに行ったのは、動機づけだった。

愛するニナ・パープルトン。それをデラーズ・フリートが、アナベル・ガトーが奪ったのだ。

ガトーが憎い。

憎い、憎い、憎い!!

 

だが、その条件付けは崩壊した。

コウの操るノイエ・ジールは一度はガトーのデンドロビウムを大破させ、そしてガトー自身から、対等のパイロットとしてM.A.V.の申し入れを受けたことで、コウの精神状態はかなりの部分、安定したのだ。

ただ、今度は恋人であったはずのニナへの愛情にどこか冷めたものを感じてしまうのが、変化といえば変化だと言えた。

 

あとは、「戦う」という行為への依存度を徐々に下げ、それ以外の時間を「普通」に過ごすことで社会復帰は可能だろう。

ガトーがコウを誘ったことは、ある意味、コウ・ウラキという若者のリハビリのために理想的なプロセスを踏んだのかもしれない。

 

「クソッ! どうなっている!」

そのコウが焦っていた。

 

コウの射撃は、間違いなく相手のそのとんがり帽子を被ったような機体を捉えているはずだった。

 

だが、本当に最小限度の動作。

僅かに体を傾けたり、軽くステップを踏むような動作で、未だに有効打を与えていない。

 

まるで銃弾がすり抜けているかのような印象だった。

 

独立戦争時代、かの英雄シャリア・ブルの操る機体がまさにそのような機動を見せていた。ついた渾名が“灰色の幽霊”。

 

このとんがり帽子のモビルスーツは、その再来のようだった。

 

だが不思議なことに、とんがり帽子は反撃しようとはしない。

マシンガンを持ってはいるのだが、構えようともしないのだ。

フルバーニアンの機動性を活かし、背後に回り込んでも無駄だった。まるで背中にも目がついているかのように。

 

 

 

「コウ・ウラキ!!」

ガトーが叫んだ。

「『点』を狙うな! 速射を活かして『面』を制圧するんだ!!」

 

ガトーのサイサリスは、フォウ・ムラサメのサイコガンダムリファインと交戦中だ。

サイサリスのバズーカの弾頭はサイコガンダムのファンネルビットを撃墜するための散弾に変更している。すでに撃ち尽くしたバズーカを投げ捨てて、頭部バルカンでサイコガンダムリファインを牽制しつつ、ヒートサーベルでの接近戦を狙っている。

 

サイコガンダムリファインは、かつてイズマコロニーを襲った『サイコガンダム』からは大幅にスペックダウンしていた。

 

サイズそのものは、通常のモビルスーツサイズ。

Iフィールドやメガ粒子砲、ミノフスキークラフトは装備していない。

 

かつてのサイコガンダムはさらに、一次装甲を分離し、リフレクタービットとして使用したり、そのまま質量弾として相手にぶつけたりできたが、同様な機能はサイコガンダムリファインでは、肩のバインダー部分のみとなっていた。

 

ただし本来ならば、エネルギーキャップ式のビームガンとなるはずであったので、クランバトルルールに従って、大幅に弱体化させられたと言えなくもない。

設計を引き直した某ムラサメ博士がいれば、かくのように言っただろう。かつてのサイコガンダムは、あれこれと機能を本体に詰め込みすぎた挙げ句、本体が巨大に、かつ動きが鈍重になった。シャリア・ブルの駆るキケロガに、その有線式メガ粒子砲を、Iフィールドの内側に、突き込まれた挙句に撃墜されることになったのだ。そのサイコガンダムの弱点を根本から改良したのだ、弱体化など冗談ではない。

(実際にこのときズムシティの場末のバーで、プルを介抱しながら、ゼロ・ムラサメは同じようなことを言っていた)

 

事実、サイコミュによる運動性能の向上もあって、接近戦を挑もうとするガトーのサイサリスから、巧みに距離をとりつつ、機銃を浴びせている。

サイサリスもまた通常のモビルスーツから一回り大きなサイズであるにもかかわらず、機動性に優れた機体だ。なによりも自らの持つ戦略級の核バズーカの破壊力から我が身を守るための重装甲と盾は、サイコガンダムリファインのもつザクマシンガンに多少改良を加えた程度の弾頭では、ダメージになりにくい。

 

 

フルバーニアン対とんがり帽子。

 

サイサリス対サイコガンダムリファイン。

 

戦いは双方、決定打を欠いたまま進む。

 

 

 

------------

 

 

 

「まさか、本気で、弾切れか推進剤の枯渇を狙っている、とでも言うのでしょうか。」

 

アルテイシアは、不快そうに眉の間にしわをよせている。

 

「あのココ・シャロンというパイロットには戦う意思がまったく感じられません。あのとんがり帽子を被ったようなモビルスーツがサイコミュを搭載しているのなら、ココ・シャロンもニュータイプ。しかもあの先読みは、シャリア・ブル中佐にも匹敵するかも。

アレほどのニュータイプが」

 

確かに。

ランバ・ラルは頷いた。

 

キシリアのニュータイプ狩り(あえて『狩り』と呼ぶ)はかなり徹底したもので、およそジオン国民でそこから逃れたものは少ない。

別段、酷い目に遭わせたわけではなく、フラナガンスクールで統一的な管理と教育を行っただけではあったが。

それでもあのサイド6の少女マチュや、難民であるニャアンのような取りこぼしは生じるのだが。

 

「アレほどのニュータイプがあそこまで脱がないとクランバトルに参加できないとは」

 

ランバ・ラルはため息をついた。若く美しいジオンの国家元首の脳内でクランバトルとニュータイプとグラビアが妙な融合反応を起こしている。

 

「先読みは確かに、すばらしいものがありますが、確かにココ・シャロンには攻撃の意思が感じられません。

これまでのクランバトルでも、彼女はもっぱら回避行動に専念し、攻撃はM.A.V.であるフォウ・ムラサメが行っていた、と。」

 

「だが、相手はアナベル・ガトーと彼が選んだM.A.V.。」

アルテイシアは視線を泳がせた。

「この試合の結果にかかわらず、ココ・シャロンの調査をお願いします。」

 

「あの、姫」

ランバ・ラルはこめかみを抑えた。

「別にココ・シャロンがきわどい写真集を出したのはてっとり早く名を売るためであって、それ以上の意味は」

 

 

「“シャロンの薔薇”」

アルテイシアはゆっくりと言った。

 

ランバ・ラルは、いつかマハラジャ・カーンがぼやいたのを思い出していた。

 

“ダイクン家のものたちは神輿に担ぐには頭が切れすぎる。”

 

「あなたはとぼけたりはしないでしょう?

かつてソロモンのグラナダ落下の際には、グラナダの地下にあり、イオマグヌッソ事変の際にはその中核に備え付けられた“向こう側”の技術的産物。

それが“シャロンの薔薇”だったはず。」

彼女が首を振るとそれに合わせて、金髪がサラサラと揺れた。

「そして“シャロンの薔薇”は一種のモビルアーマーであり、そのコクピットにはひとりの少女が眠っていた、と。」

 

「それがいま、あのモビルスーツを操っているココ・シャロンである、と?

ありえません。“シャロンの薔薇”はその中に眠る少女とともに“向こう側”に戻ったはずです。」

 

「ランバ・ラル。“向こう側”とはなんですか?

異世界でしょうか。」

 

「ある種の異世界でしょう、な。」

 

「なるほど。魔王がいて、恐るべきドラゴンが空を舞い、魔道士が杖の一振りで稲妻を作り出し、転生した勇者が伝説の剣を振るう世界ですか。」

 

「いいえ。残念ながら。

おそらくは、わたしたちの世界と同様に、同じ人間同士が宇宙を舞台に争う世界だったかと。

“シャロンの薔薇”は確かに一部で未知の技術は使われておりましたが、機体そのものは、ジオンがモビルアーマーとして開発していたものに酷似しておりました。いや、実際に型式番号まで振られておりました。

遠隔で操れるビットを搭載し、索敵外からの遠距離攻撃を可能にした、いわばキケロガの発展型とでも言うべき、機体です。」

 

「ビット。」

アルテイシアの瞳が暗く染まった。

「それはアレが。赤いガンダムが、使ったあのビットですか。」

 

「そうです。もともとビットは、モビルアーマー内部に格納し、実際に使用する際に射出するタイプの兵器です。ガンダ厶による運用ではそれが果たせず、結果として戦闘中にビットの推進剤は枯渇することもあったはずです。」

 

「わたくしも『ゼクノヴァ』についての文献には、この5年。ずいぶんと目を通したつもりです。

技術的な進化から、“向こう側”もまた宇宙世紀に似た世界。どこかでボタンをかけ違ったことで生じた平行世界のような存在ではないか、と。」

 

「ということは。」

 

「“シャロンの薔薇”のこの世界での姿が、あのとんがり帽子のモビルスーツであり、“シャロンの薔薇”の中で眠っていた少女のこちら側での顕在した姿が、ココ・シャロンではないか、という可能性です。」

 






たぶん、そのうち、あのブランドからうちのモビルスーツを『とんがり帽子』なんてダサい呼名で呼ぶな、というクレームが入ります。中世でも宇宙世紀でもブランドイメージは大事ですね。


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