口当たりのよいものもありますのでお気をつけください。
「決着が近いぜ。」
ヤザンは、シャンパンからもっと酒精の高い蒸留酒に切り替えている。
「ガトーはM.A.V.にするのも悪くない漢だ。コウの動きが変わった。」
正確に狙う代わりに、一定の範囲に弾丸をばら撒く射撃。
とんがり帽子のモビルスーツは、大きくジャンプして、「範囲」からの離脱を試みるしかない。
いままで、まるで古典の剣戟映画のように最小限度の動作で、フルバーニアンの攻撃を避けていた余裕はそこにはなかった。
「だかまだ有効打はないぞ、ヤザン。」
ジェリドは、カミーユを抱き起こしながら言った。
「あれだけ派手に弾丸をばら撒いたら、今度はタマギレを心配しなきゃならんだろう。」
「あのフォウとかいう強化人間のサイコガンダムリファインも、とんがり帽子のモビルスーツもサイサリスに対しては決定打にかける。」
ヤザンは―――酔ってはいるのだが、冷静だ。
「ガトーのサイサリスはタイミングをはかっている。サイコガンダムリファインを相手にしているようで、狙いはとんがり帽子だ。
フルバーニアンと、サイサリスの被弾覚悟の同時攻撃なら、とんがり帽子のパイロットがとんでもない回避力をもっていても確実に仕留められる。
サイコガンダムリファインのソードビットは、バズーカの散弾で落としてあるからあっちもただの動きのいいゲルググでしかない。」
「ヤザン!! それってニュータイプ同士のM.A.V.をオールドタイプが圧倒できるってことかよ!」
「熱くなるなジェリド。
ニュータイプは万能じゃないんだ。
それにニュータイプとオールドタイプで分けるなら、フォウ・ムラサメは強化人間だし、コウも薬物による強化の影響がまだ残っているはずだ。」
「大きな星がついたり消えたりしてる。」
ジェリドに抱き起こされたカミーユは、うつろな目つきでつぶやいた。
「あはは、大きい。彗星かな、いや彗星はもっとパアって動くもんな。」
「カミーユ、それは天井のミラーボールだ。」
もちろんカミーユは誰かに心をもっていかれたわけではない。
すべては、ヤザンが面白半分に飲ませたシャンパンがもたらした効果である。
家によっては子どもにも食前酒を嗜ませる家系は、宇宙世紀でも珍しくはない。
水が不衛生なものであり酒の方がマシだった中世のなごりだ。
だが、幸か不幸かカミーユの家はそうでなく、けっこうな値段のシャンパンはそれなりに口当たりも良かったのだ。
「…暑苦しいなあ、ここは。出られないのかな。
おーい、出してくださいよ、ねえ?」
うっ!
カミーユが口元を抑えた。
吐き出したものがキラキラしていたとかしていなかったとか。
-----------
「ほれほれ。」
なんとか息を吹き返したエルピー・プルを隣に座らせて、ゼロ・ムラサメは上機嫌だ。
「そろそろ決着だぞ?」
「そうなの?」
プルは、さっき初めて会ったばかりのこの女性に親近感を抱いていた。
なぜかはわからない。
女の匂いは、間違いなく、彼女たちを実験体としていじり回す、あの『科学者』という輩と同じものだったのだ。
「試合を支配しているのはガトーのように見える。」
ゼロ・ムラサメは、なんだか白く濁った酒を追加した。
「ビット対策に散弾バズーカ。
回避力は抜群だが、攻撃をしてこないとんがり帽子をコウに牽制させつつ、自分はサイコガンダムリファインの相手をする。だが、本当の狙いは、とんがり帽子。」
「ほんと?」
「わたしの可愛いフォウとサイコガンダムリファインは、クラバなどというルールのある“試合い”では本領は発揮できないんだ。
我ながら思うんだが、わたしの創るものはすべて殲滅を旨としてしまう。」
クックックッ。
実に愉しそうに、ゼロ・ムラサメは笑ったのだ。
--------------
「クラバを止めさせる!」
そう宣言したクワトロである。
彼がそういうモードになってしまうと、たいていは周りでは止めるものなどいない。一種の無双モードになってしまうのだが、結果はロクなことにならない。
だが、ここには止めるものが、多数いた。
赤毛のチビは、ジト目でクワトロを見上げながら、ばかにしたように言った。
「何言ってんの、シャアさん! 出来るわけないじゃん!」
クワトロがなんとなく苦手意識を感じるアクシズから来た少女は、口元に冷笑ともとれる笑みを浮かべて、断定的に言った。
「勝負には手出しは無用だぞ、我が君。」
クワトロが一目置く、ニュータイプの青年は挙動はやや自信なさげではあるのだが。
「クランバトルは始まってしまえば、その勝敗はクラバで決まるんです。それ以外はないんですよ!」
自信なさそうな口調なのだが、言ったのは、クランバトルの無敗のチャンプ“白い悪魔”だ。
「きみたちは…」
全員に詰められてクワトロは絶句した。
「それはニュータイプのカンか。」
「いえ、ぼくは別にニュータイプではないので」
アムロはヘンなことを言って、またマチュにジト目で睨まれた。
「シャアさん!」
マチュはすでに“大佐”というあだ名ですら呼ばない。
「ララァさんが決めたんだよ!
シャアさんについていくためにモビルスーツを動かせるようになろうって!
だからララァさんの決めたこと、応援してあげてよ!」
アムロたちは忘れていたが、サイコガンダムリファインは優れたモビルスーツだった。
作り上げたのは、彼らが知るよしもないが、ゼロ・ムラサメという天才科学者。
ムラサメ研究所の一号被験体。
倫理観を逆転させたような行動力。卓越した知性。武装したその道のプロを瞬時に蹴散らす超人的な体力。
だがなぜかモビルスーツの操縦だけがさっぱりという異常な失敗作。
サイコガンダムもそれを操縦するフォウ・ムラサメもまた、ゼロ・ムラサメの『作品』であったのだ。
最大の武器である肩口のバインダーが分離・飛翔するソードビット。
それを落とされたあと、決定打にかけるマシンガンで、ガトーのサイサリスと渡り合ってきたのだが。
ついに、ガトーのロングヒートサーベルを、サイコガンダムリファインのマシンガンの銃弾がはじき飛ばしたのだ。
サイサリスの頭部バルカンはとっくに弾切れしていた。
チャンスだ!!
ガトーに有効打を与えるべく、フォウは、サイコガンダムリファインの腰にマウントされてヒートサーベルを抜いた。
そのまま、大きくジャンプ。サイサリスに襲いかかる。
サイサリスは盾を掲げて、防戦一方だ――。
その盾が。
変形した。
単なる分厚い、核の閃光からサイサリスを護るものではなく。
凶暴な突起物をそなえた打撃武器に!
ガトーはその盾を鈍器として、フォウの駆るサイコガンダムリファインに叩きつけたのだ。
シールドバッシュ、という盾を使った戦闘術は存在する。ガトーのサイサリスの盾は、まさにその目的のために改造されていたのだ。
「見た見た見たあっ! わたしのガンダム!!」
レストランで観戦していたニナ・パープルトンが、ケリィに抱きついた。
「対核防備の必要がなくなったら、あれだけの質量の盾なんだから!どんな武器だってマウントし放題なのよっ!!」
サイコガンダムリファインは頭部から右半身を大きく損傷し、月面に叩きつけられた。
M.A.V.の片方の脱落をもって決着とするクラバルールもあるが、今回のルールでは、ガトー&コウに勝利ポイントが1ポイントはいるだけだった。
ここから、ココ・シャロンことララァがガトーのサイサリスと、コウのフルバーニアンを倒せば、彼女達の勝利となる。
可能性はゼロではない、
ゼロではないが。
次回、決着!!