「ここに居たの。」
白衣を着た女性がベンチに向かって話している。正しくはベンチに眠る男に向かってである。その男はハットで目元を隠し、口に咥えた煙草を吹かしていた。
「…生物室じゃ満足にサボれねえからな。それに4月付けで新担任にするなんて脅しも来てる。…俺は向かねえってのによ。」
気だるげにそう言う男はベンチに座り直し、タバコを左手で持った。
「それにクラスには神谷のご令嬢もいるものね。」
「筒抜けか。…いいさ。どんなお偉いさんだろうと…俺を見た瞬間にやる気をなくす。」
吸い殻を適切に処理し、その場を後にする男。女性はその後に続く。
「演技でもいいから。もうちょっと、笑ったら?…雲居先生。」
雲居と呼ばれた男は気だるそうに息を吐く。確かに男には先ほどから笑顔が欠けていた。
「ベタベタくっつくんじゃねえ。鈴華。」
「んもう。下で呼ばないでよ。学校ではちゃんと上で呼びなさい。四条って。」
「生徒もいねえし、いとこだろうが。」
とある一室にそのまま入る2人。そこには水槽の中のカエルやカブトムシの標本などが置かれていた。雲居は事務椅子に座る。資料まみれのソファを少し片付け、鈴華と呼ばれた女性はそこに座った。
「桜でも見てこいよ。おっさんの相手よりそっちの方が楽だろうが。」
「嫌よ。鷹兄よりもおっさんの相手しなきゃいけないのよ?…そっちの方が疲れるわ。」
頬を膨らませる鈴華。雲居は机近くの冷蔵庫に手をかけ、そこから缶コーヒーを取り出す。一つを鈴華へ、もう一つは自分で開けた。ぷしゅっという音を聞き、そのまま冷たい液体を喉に流し込む。
「この俺が担任か。担当陣は目が腐ってるみたいだな。」
「そう?…私は適任だと思うけど?」
「…冗談はよせ。」
「だって、鷹兄ほど生徒思いで熱い先生は見たことがないもの。大体は言うだけの腰抜け。でも、生徒のために保護者にも立ち向かうのは貴方だけだったわよ。」
詰まることなくそう言う鈴華。雲居はコーヒーを一口飲むと読みかけの本を進め始めた。
「静かに。」
ただ…勿論、唯一の進学校であるといった点から親に無理やり入れられた生徒も多く、生徒層は多種多様…問題児と一概に言われる生徒も少なくはない。ここ、1年3組もそうである。今年の1年は総勢、96名。支援を受けているとはいえ、そもそもの王羅の子ども人口が少ないことも踏まえ、マンモス校というわけではない。そのうち32名を受け持つのが…。
「1年3組、担任の
無精髭に死んだ目、ボサボサの髪の毛の男だった。生徒がざわめく。2組の先生は美人だだの、1組の先生はイケメンだだの。その講義の声は多種多様である。もはや、雲居…いや、鷹也には聞き飽きた言葉である。
「さて、早速名簿を読み上げる。みな、3年間クラスは変わるだろうが、同じく学びを深める仲間だ。だからと言って強制的に仲良くはしなくていい。反りが合わない、気に食わない…人間なら持ってて当然の感情だ。心の底から仲良くしたいときにしろ。折角の学校生活だ。友達が多い方が豊かになる。…その考えを押し付ける気はないが、少なくとも俺はそう思っている。…さて、1番からな。」
鷹也の言葉に一瞬、生徒たちの言葉が詰まる。こういう時は仲良くしろと言うものではないだろうかと全員が思っただろう。しかし、鷹也はただ名簿を読み上げる。その中で1人、目に留まる名前があった。
「…
「はい。」
凛と澄んだ声、肩までかかる黒髪と容姿端麗、スレンダー。一言で言うと美人の彼女こそが神谷プライズの代表取締役社長の娘…所謂、御令嬢という立場の人間であり、その後ろには1人の青年が腕を組んで立っている。
『神谷の御令嬢がボディガードを連れている』
その話はたった今、先ほど、校長から聞いてきたところであった。鷹也はそのまま名簿を読み進める。
「以上。2限以降は今後の予定を話していく。…少し休憩するように。」
チャイムの音と共にガラガラと引き戸を開ける鷹也。その隣でも同じような音が響く。そこに居たのは目が痛くなるような真っ赤なスーツに身を包んだ茶髪の女性であった。
「あら。雲居先生、そちらも終わりまして?」
見た目はまさに悪役令嬢と言わんばかり。
切り長の目と高い鼻、1年担任団の紅一点と呼ばれ、鈴華と校内人気を取り合っている…高飛車な女。正直、鷹也の苦手な部類であった。
「…富士野先生、またボタン掛け違えてますよ。」
「あっ!?えっ!?うそ…だから、生徒たち…!!」
…その一言で顔まで真っ赤になる。かちゃかちゃと自身のボタンを弄る『富士野稲荷』に鷹也はため息をつく。
「…こほんっ。ま、まぁ、このぐらい隙を見せておかなきゃ。美人には隙が必要だからね。」
「そうですか。」
気だるげにそう言う鷹也。ポケットに手を突っ込み、溜息をつく。
「茄子川先生の方はまだ時間かかってるみたいね。」
「質問攻めにあってるんでしょ。俺のようなおっさんや、アンタみたいに慌ててたわけじゃあるまいし。」
「慌ててた?…そんなわけないじゃない。この私が慌ててるなんて。」
自己主張の激しい胸を張りながらそう言う稲荷に鷹也は何度目かのため息をつく。
「膝の埃汚れ、点呼中に聞こえたどすんという音と生徒たちの笑い声、上擦った点呼の声に何度も漢字を間違えて読む。」
「うぐっ…。」
「せめて生徒の前ではカッコつけてくださいよ。富士野先生。」
「うっ!!うっさいわね、私だってちゃんと…。」
職員室前。扉は換気後のため、閉まっている。目を閉じ、会話に集中している稲荷にはそれが見えず…。
「むぎゅっ。」
顔面からその扉と衝突した。
「いったぁ…。何で止めないのよ!?」
「…アンタは俺の生徒じゃないので。大人ならシャキッとしてください。」
鼻を抑えながら抗議する稲荷を半ば無視しつつ、鷹也はめんどくさそうに扉を開ける。奥にある自分の教卓に座るとガサゴソと自身の机の引き出しを開け始めた。
「雲居先生。」
そんな鷹也へ初老の男性が歩み寄る。モノクルをつけたスーツの柔和な笑みの男性。…鷹也は所作をやめ、その男性を見る。
「猪道校長。」
「こちら、覇道虎之助さんです。」
校長である猪道が隣の屈強な男性を見る。筋骨隆々…そんな言葉が服を着て歩いているような白髪の男性。片目のバツ字の傷が印象的であった。
「あぁ。覇道龍夏さんの。」
「それと…対怪生物機動隊『ヘラクレス』の隊長でも。」
「そんなお方が何故、私に。担任に話しかけに来た…わけじゃあないでしょう。」
心なしか、鷹也の声が低くなる。プリントと本をまとめ、机の上に置く。
「…雲居鷹也さん。3年前の人体実験の件で…話を聞きたい。」
その低く腹の底から威圧するような声に鷹也は目を見開いた。その目は机の上に置いてあった…写真立てに映る。そこには高校生くらいの女生徒と犬が写っていた。
「知っての通り、私は怪生物…通称『バイオスター』に対し、警察組織と自衛組織の一部を取り込み、対策委員会を立ち上げた。そのバイオスターが出たのが3年前。…貴方とその写真の彼女が黒服の団体に誘拐されたあの一件と何か関係があると「…今更。」…ん?」
「…今更、蒸し返さないでもらえますか。」
…震える声で鷹也がそう言った。
「話したくないんですよ。…それとそろそろ授業ですので。」
そう言って逃げるように鷹也は職員室を出て行った。
期日、終礼のチャイムが鳴り、鷹也は自身の教室を後に生物室へと戻る。冷蔵庫のコーヒーを飲みながら、その顔は陰に隠れていた。
腑が煮え繰り返っている。心中穏やかじゃない彼の頭の中にはあの日の情景が深く映っている。
埃まみれの倉庫。耳や目を塞がれ、案内された場所は…どこかの研究室。手足の拘束以外が解かれるとそこにあったのは…眉に包まれ薬剤につけられる人間。そこに彼女の姿もあった。
「…。」
その情景を思い浮かべるだけで…全身に悪寒が走る。冷や汗が生え際から落ちてくる。あれは全てが仕組まれた罠だった。
「…雲居先生。」
「っ。」
小さく雑音でも入れば消えてしまいそうな声が鷹也の耳に入る。息を整え、その声の主を見るとそこに居たのは雪のように真っ白な髪をした青眼の女生徒だった。
「…神谷…詩音さん…。」
小動物のような背格好の彼女こそが神谷プライズの社長令嬢…神谷詩音であった。別の意味で頭を抱え、ため息を吐く。
「とっくに終業時間は過ぎているはずですが…どうなさいました?」
「…少しご相談が。」
「なんでしょう。」
入ったばかりの1年生。
学校について知らないことばかりだというのは当然の話であった。
「雲居先生はバイオスターという存在についてご存知でしょうか?」
…その言葉を聞くまでは。
先ほど聞いた化け物の名称。何度もテレビで化け物の姿は見ているものの…その名称は先ほど覇道虎之助から聞いたばかり故に…ここで答えればテレビという言い訳が使えないのは鷹也の頭の中でわかっていた。
「……いいえ。」
その言葉を聞いた途端、生物室の扉がガチャリと開く。と同時、紺色のスーツに身を包んだ男が現れる。その紺色の髪と切長の目は先ほど見た記憶がある。
「お嬢に嘘はつかないでもらおう。」
「貴方は…。」
男は懐から手帳を取り出す。
その手帳には名前の他に聞いたことがある名前が書いてあった。
「身分証明がこれしかなくてな。古巣だが…俺は元ヘラクレス副隊長…
「何を根拠に…。」
「…ヘラクレスの実験場潜入時、雲居という名前があった。」
その言葉を聞いた途端、またしても鷹也の顔が青ざめる。
「あの実験は非人道的であり、報道はされなかったが…秘密裏に我々は今回のバイオスター騒ぎと同様の何かを勘繰っている。雲居鷹也先生。…貴方が受けた仕打ち、ここに吐いてもらおうか。」
「…アンタらは…どうしても、俺の傷を弄りたがるのか?」
「過去の真相が知れる。その道だ。最も、お嬢だってその事件で母親を殺された。」
その瞬間、鷹也の目は神谷詩音へと向けられる。自身と同じ境遇…されど、目の前のこの子はまだ…。
『鷹也、アンタは良い先生なんだから。絶対に生徒を失望させちゃダメよ。』
その時、耳に聞こえてきたのは馴染みのある声だった。若く優しく暖かな声。…硬く拳が握られ、鷹也の目が力強いものとなる。
「…バイオスター。…あの時のアイツらをそう呼ぶならば覚えている。」
その言葉に詩音と霊から笑みが溢れる。だからなんだとため息混じりに頭の後ろを掻く鷹也をよそに詩音は霊の手にしていたアタッシュケースを取り出した。
「だったら先生は適合者のはずです。」
「…適合者?」
こくりと首を縦に振る詩音。
なんのことだか、わからない鷹也は小首を傾げる。その開けられたアタッシュケースには真っ白な潰れた六角形の何かのユニットと鷹の絵が描かれた真っ赤なカードが入っていた。
「アニマドライバー・ネオ。…神谷プライズが生み出した擬似的バイオスター化させるドライバー。」
その言葉を聞いた時、鷹也の目の色が変わる。当たり前だ。…自身の人生を狂わせた怪物に好きでなんでならなくちゃならない。
「お断りだ。」
「…バイオスター化と言ってもお前が考えてるものではない。」
その鷹也の様子を冷静に切る霊。
腕を組み、壁を背に鋭い目つきで鷹也を見る。
「人の理性を持ちながらも、大切なもののために拳を振るう対バイオスター最終兵器。…我々はそれを『仮面ライダー』と呼んでいる。」
「…仮面…ライダー。」
その時だった。
校舎外での爆音と悲鳴。急いで鷹也はカーテンを開ける。締め切られた窓から見えるのは体育館の近く、室外機が燃え上がっている様子とそこに居た女生徒と化け物の姿だった。
「オマエハワタシノ娘ヲ殺シタ。オマエモ死ヌベキダッ!!」
「なんなんだよ…。わけわかんないわよッ!!なんで…私がこんな目に遭わなくちゃなんないのよっ!!」
…血走った目、前傾姿勢のサメの怪物。歯は剥き出しであり、鱗は赤黒い線が付いている。まさにその様相は化け物。
「お嬢。俺はあの子を。」
「うん。」
霊はそう言うと2階の生物室の窓から飛び降りた。
手には包帯の巻かれた鉄棒。それを引き抜き、そのままサメの化け物へ走りながら振り抜く。
「グッ!?」
「…バイオスター。」
胸にチップが埋め込まれたような長方形型の膨らみ。そして、体の節々にある何かを止めるようなネジ。生物と機械を総合した化け物…シャークバイオスターは胸から白煙を上げながらも突如現れた異物をギロリと睨む。
「邪魔ヲスルナァァァァッ!!!!!」
悲痛な叫びを上げながら、シャークバイオスターは拳を振り上げる。
霊は後ろの女生徒を守りながらもその拳を剣の横面で受け止める。
「くっ。」
「グルァァァッ!!」
もう一撃をかましてくるシャークバイオスター。
霊は背後に飛ばされながらも女生徒を逃すことに成功していた。
「…ただの人間の大神さんじゃ勝てません。」
淡々とした声で鷹也に声をかけるのは詩音だった。校舎内を駆け、そのまま現場へと走り込む。
「ワタシノ娘ハアノ女ニ殺サレタッ!!カワイイ娘ダッタ…ナノニ…ナンデ、ナンデナンダァァァァッ!!」
「…仮面ライダーが居なくちゃ彼は止められない。先生なら止められます。」
ターゲットが居なくなり、暴れまくるシャークバイオスター。このままでは他の生徒にも被害が及ぶ。
…そう考えた鷹也の行動は早かった。
「…貸せ。」
そう言って鷹也はアニマドライバー・ネオと真っ赤な長方形型の鷹の描かれたソウルカード『ホークソウルカード』を引ったくるように手に取った。
「どう使うんだ。」
「えっと…腰に押し付けてそれからカードをかざして…。」
「こうか。」
言われた通り、腰にユニットを押し付ける。すると金色のベルト帯が鷹也の腰に巻き付いた。
〈アニマドライバー・ネオッ!!〉
その前面にホークソウルカードを翳す。
〈ホークッ!!スタートアップ…〉
その直後、ベルトから赤色の翼の機械じみた鷹が現れる。鷹也の周りを大きく3回回りながら、翼を周りに散りばめる。
「ッ!?」
「ナンダァ?」
「雲居先生ッ!!カードをスロットに入れてッ!!ハァッ!!天面のボタンを押せッ!!そして、変身と叫ぶんだッ!!」
ニヤリと笑い、叫ぶ霊。
言われた通りに、ホークソウルカードを左側のスロットに入れる。すると鷹は頭上で翼を動かしながら静止。
左手を握り込み、そのまま鷹也は天面のボタンを手の側面で押す。
「変身ッ!!」
〈リンク…オンッ!!〉
鷹は咆哮と共に鷹也の体を大きな翼で包み込む。そのまま凄まじい光を放ちながら、分割線の入る鷹。鎧のように鷹也に纏わりついていく。
〈飛翔ッ!!猛将ッ!!イッツ、マイショーッ!!〉
〈ホークリンクッ!!〉
〈アニマ、ゴーイングオンッ!!〉
暴風と極光は止み、現れたのは真っ白な戦士だった。
「ナンダッ!!貴様ハッ!!」
肩や肘などは翼のようなギザギザとしたアーマーがついており、顔は額に鷹の顔、ギザギザした翼は我が子を守るように抱きしめられ、真っ赤なバイザーと金色の嘴のようなマウスパーツがついており、複眼と胸の中心のリング状のパーツは金色に輝いている。
「…さぁな。何者かもわからねえよ。ただ…ただのしがない一般教員だッ!!」
そう叫ぶと真っ白な戦士はシャークバイオスターへと走っていく。
シャークバイオスターも迎撃の体制を取り、右拳を振り上げるのだが、スピードが足りない。
気がつけば、シャークバイオスターは顎を蹴り上げられていた。
「ぐっ!?」
「…これが『仮面ライダーアニマ』。」
ボソリと呟く霊。
その言葉を聞いてか聞かずか、アニマの攻撃は苛烈を増していく。
シャークバイオスターの胸部にいくつかの打撃、シャークバイオスターはうずくまる。
「…なんでそんなもんに手ェ出した。」
アニマはシャークバイオスターから距離を取ると優しい声でそう声をかけた。
「…貴様ニワカルモノカ…私ハ娘ヲ失ッタ…!!アノ事故デ、私ノ娘ハ…
「…アンタ、海瀬さんか。」
声を絞るように言うシャークバイオスターとトウコという名前にアニマは聞き覚えがあった。神宝高校の水泳部…そのエースだった彼女はムラシマランコという同じ女生徒と共に一位二位を争うほどであった。2人は良きライバルであり、良き親友であった。
しかし、ウミセトウコはある日、登校途中に不安な事故を遂げることとなる。それはいつもムラシマと登校する途中だった。ムラシマを見つけ駆け寄るトウコ。しかし、トウコは気づかなかった。ムラシマは勿論、叫んだ。迫り来る鉄の塊は反応しきれなかった。
「ダカラ…ソノ女ニ復讐スルノダッ!!私ノ娘ニ…早メニ教エテヤラナカッタソノ娘ニッ!!」
指を刺したのは先ほど襲われていた茶髪の女子生徒だった。
「…アンタの気持ちは痛いほどわかるさ。でもな。…あれは事故だったんだ。犯人だって逮捕されたッ!!…ムラシマは悪くないんだよ。」
「黙レッ!!ワカルモノカッ!!邪魔ヲスルナラオマエカラ殺シテヤルッ!!」
けたたましい咆哮を上げながらシャークバイオスターはアニマに向かって走ってくる。
アニマの身体能力の前にもう、シャークバイオスターの攻撃は当たらない。
「…例えアンタが被害者でも…俺の目の前でこの学校の生徒は傷つけさせない。」
「雲居先生ッ!!もう一度、ボタンを押してッ!!」
詩音の声にアニマはベルトのボタンを押す。
〈チャージオンッ!!〉
力をためるような音と共に電気をまとった羽がアニマの左足に集まる。そのまま向かってくるシャークバイオスターの胸部を…。
「…。」
〈ホークッ!!シャイニングブラストッ!!〉
回し蹴りで蹴り抜いた。
「グァァァァァァァァッ!?!?!?!!」
絶叫と共にアニマの背後で爆発するシャークバイオスター。カランっという音と共にシャークソウルカードが地面に転がる。それを…もがきながらも拾おうとするメガネの男。一見、その顔は優しそうにも見えた。
アニマドライバーを腰から取るアニマ。鱗のように羽根が天空へと上がり、変身を解除すると、その男の目の前のシャークソウルカードを取り上げた。
「かっ…返せ…!!そ、それは…。」
「…こんなこと、トウコさんは望んじゃない。…それはアンタが一番わかってるはずだ。」
「綺麗事だッ!!…トウコの気持ちなんて…。」
…大粒の涙が地面に滴り落ちる。
そこだけ、雨でも降ったかのように湿っていた。
「…だったら尚更だ。トウコさんは…戻ってこない。でも、ムラシマが死んだと知ったら。それが父親の所業と知ったら。…浮かばれないよ。だって彼女は最後までアンタとムラシマを…愛していたから。」
駆け寄ってくるムラシマランコ。
その手にはひしゃげたペンダントが握られていた。
「ずっと返そうと思ってました。…あの事件現場に落ちてたんです。宝物だって…ずっと…首にかけてましたから。」
そのペンダントには父親とトウコ、そして、ランコとトウコのツーショット写真が入っていた。…それを見た瞬間に男の悲痛な叫びが響き渡った。
「なんでわかってたんです?先生は。」
詩音がそう聞く。鷹也は微笑みながら、無精髭を左手でなぞる。
「…死んだウミセトウコって生徒は生物が苦手でな。なんとしてでもいい点数を取りたいって言ってたからよく放課後見てたんだよ。その時にペンダントの話もしてくれた。…まぁ、よくある話だな。」
「なるほど。」
「それで。」
2人の会話に割って入るのは厳しい顔の大神霊だった。その顔を見た瞬間、鷹也はため息をつく。
「わぁったよ。…コイツは俺が使ってやる。他ならぬ生徒を守るためだ。」
そう言ってアニマドライバー・ネオを見つめる鷹也。
詩音と霊は顔を見合わせて微笑んでいた。
「…ミッション、オールクリア。対象は白いアニマによって沈黙した模様。」
…神宝高校、屋上。
機械でミックスされたような声で何者かに伝言を入れるのは…黒色に輝くアニマだった。
「…ええ。次回より、執行部を動かします。バイオスター実験は止めません。…マスター。」
そう言うと黒いアニマは銀色のドライバーに手をかける。
黒い羽根が上がり、変身を解除したその顔は…笑っていた。