寄生プレデターはシェイクハンズの夢を見るか 作:紅葉崎もみじ
虚空が、いやに鼓膜を叩いた。
“彼女”が最期に感じたものは、絶望的な静寂だった。
ここには、何もない。
誰もいない。
ありえない。
「───ぁ」
肺に残った、最期の息を吐き出した。
そこに意味はない。
意思もない。
というか、本人にほとんど意識がない。
ただの身体反応だ。
現に、少女の身体はその3割が欠損していた。
心臓など、とうに停止している。
脳細胞が電気信号の発生を止めるのも時間の問題だった。
が、
「───」
声。
いや、声にすらなっていない少女の言葉が無音のまま口から発せられた。
それがどのような意味を成すのか。
仮に聞くことが出来た者がいたとしても、判別は出来なかっただろう。
そもそも、彼女本人にも分からないかもしれない。
死の間際、ろくに思考も働かない今際の際の際。
そんなときに人は何を思うものか。
絶望?
後悔?
怒り?
それとも──、
それは分らない。
しかし、ただ一つ確かなことは彼女の命運はぎりぎりの際。
三途の川に片足どころか、一度川底に叩きつけられる勢いで浸かったような状態でも尽きることはなかった。
幸運にも。
奇跡的にも
奇天烈にも。
尽きなかった。
いや、ともすると不幸だったのかもしれない。なんて。
月並みな表現を用いてしまうほど数奇な運命の果て。
「───」
───虫?
本人に認識できていたのか。
そもそも、視界が残っていたのか定かではない。
少女の瞳が、光の反射を止める刹那。
開きかけの瞳孔がそれを捉えた。
+ + +
その“個体”の特徴を端的に表せば──
慎重、であろう。
人類を襲い、数を間引く。
…という“それら”に命令された存在意義を遂行するため、大抵の個体は脇目もふらず人間に襲い掛かるのだが。
その個体は「まず様子見をする」という行動をとっていた。
特にこれといった理由があるわけではない。
ただ単に、数多居る『同族』に先手を譲っていた結果そうなっただけだ。
ともかく、「見た」。
相手の人間を。
味方の個体を。
その動きを。
その結果を。
そうして学んだ。
味方の動きの無駄を。
相手の対応の隙を。
効率のいい立ち回りを。
それ以降、その個体は独自の進化を遂げるようになった。
味方のサポートに行動を徹した結果であろう。
味方の攻撃を補助し、
味方への攻撃を防ぎ、
味方が動きやすいように立ち回った。
結果、その個体自身の戦闘能力は著しく低下した。
しかし、
味方がどんな個体だろうと。
どのような個性を持っていても。
異様な能力を使用するのだとしても。
その個体はそれらに合わせ、補助ができるようになったのだ。
が、進化はそこまでで留まらなかった。
その個体は慎重であったが、同時に人間で言う効率主義的な思考の持ち主でもあった。
早い話、無駄を極限にまで省きたがる質だったわけだ。
味方の補助を前提とした戦闘スタイルということは、己一人で戦う前提を省くということ。
つまりは自分一人だけで生きる能力は不要だということだ。
そこでその個体は、自分の生命を維持するための重要器官を捨てた。
生命の維持は共闘をする別個体に任せ、そのリソースを戦闘面に回した。
結果、その個体は単独で戦うどころかまともに動けない身体となった。
その体皮は脆く、草木が触れるだけで裂けるほど。
膂力はないに等しく、小動物にすら太刀打ちできないだろう。
そもそも内臓が存在しないため、単独では数十分と生命を維持できない。
が、その新しい身体が真価を発揮するのは別の個体の体内に侵入したときだ。
その個体は、体内で自在にあり方を変え。
神経に、血管に、筋肉に。
果てには脳にまで“手”を伸ばすことができた。
その影響は顕著だ。
固さを誇っている個体は、より硬く。
強さを誇っている個体は、より
特殊な能力を持っていた個体は、その能力の倍増。
あるいは弱点の補強を。
体内に侵入した個体の力を増幅させる。
それが、その個体──
否。
寄生型プレデターの持つ〈
5話まで連続投稿します(25.6/27)