寄生プレデターはシェイクハンズの夢を見るか   作:紅葉崎もみじ

3 / 8
3 お菓子の包み

 自分は何のために生きているのか?

 

 誰しも、思春期特有の愛すべき病を発症している最中(さなか)

 あるいは社会人として働く日々の合間、やりがいと展望を見失った際。

 一度は考えたことがあるのではなかろうか。

 

 人には必ず役目がある。

 人の人生に意味などない。

 なんてどこかで聞いたことがあるというか。

 こすられすぎて元は深いはずの台詞が陳腐化してしまっているほど、聞き馴染んだ言葉があったりするが。

 

 今回はそんな問答の答えに用はない。

 

 重要なのは、その“少女”も年頃の乙女として。

 同じ問答をよく思考していたということだ。

 

 答えは出ない。

 否、答えなどはなから求めていないのか。

 親や教師の建設的な意見よりも、意中の男からの上辺だけの軽い言葉を求めてしまうような困った性質によるものなのか。

 はっきり言ってしまえば、“少女”は答えを出すために思考をしているわけでなく。

 思考をしている自分に酔うタイプだった。

 

 そういう意味で、問答の答えに用はない。

 要もない。

 容など、ある訳もない。

 

 そういう意味で、彼女は非常に俗的な性格をしていると言える。

 

 だから、もしかすると。

 

 彼女が誰かを憂いて涙を流す際。

 涙を流す自分に酔っている、ということになるのかもしれない。

 

 + + +

 

 戦闘は苦手である。

 と、少女は自分を評価していた。

 

 東京地区で暮らしていた際、特に運動下手だとは感じていなかったが。

 ペガサスとなり戦闘訓練を行うと、己の不出来さに辟易する毎日であった。

 

 相手と向かい合った際、攻撃はともかく。防御が壊滅的な状態だった。

 攻撃に対し、対処がもたつき。

 回避が遅れ。

 脚を動かすはずが、手が出てしまう有様であった。

 

 結果、近接戦闘には適正ナシと判断され。

 比較的視力がよかったという理由も加味し(基本ペガサスはP細胞の影響で身体機能が強化されているので、辛うじて良いといったぐらいであったが)、彼女には後方支援としての役割を与えられた。

 

 その後も戦闘面でこれといった活躍をすることはなかったが。

 幸運にも彼女は中等部3年生をリーダーとする有望なペガサスグループに所属することとなる。

 寮の同室相手が勧誘されたついで、という棚ぼた的なものだったのだが。

 

 ともかく、彼女の学園生活は順調と言えた。

 同じグループの友人との交流。

 先輩からの教育。

 個人の戦果は振るわなかったが、それでも味方を助けそれなりに貢献はできるようになってきた。

 

 順調で、都合よく物事が進んでいたためだろう。

 彼女には余裕があった。

 余裕があったために、余計な悩みなどができるのだ。

 

 ──自分は何のために生きているのか?

 

 自分が居ようが居まいが、グループは特に変化がない。

 それは事実であろう。

 少女はそこで自分の評価を過大するほど厚顔ではないし、同時に過剰に卑下するほど卑屈でもなかった。

 だから、いつか決断しなければいけないとちゃんと理解していた。

 

 このままではいけないと、自分を研鑽するのか。

 

 このままではいけないと、グループを抜けるのか。

 

 そんな悩みを。

 無駄ともいえないが、それでもうだうだと考えるには長すぎる悩みを抱え。

 戦闘に身が入らなくなっていた。

 

 だからだろう。

 ある日、彼女は戦闘に参加しなかった。

 ちょっとした用があるとか。

 いつも一緒に戦っていたルームメイトに、そんな適当な言い訳をして。

 

 特にこれといった理由はない。

 ただなんとなく、そんな気分じゃなかっただけだ。

 授業をさぼる中学生と同じだ。

 

 そして友人は帰ってこなかった。

 

 誰かが戦闘に向かい、消息が分からなくなる。

 この学園にいれば、いやというほど体験することになる。

 実際、グループの上級生は冷静だった。

 

 冷静で、冷徹であった。

 その時点で彼女のルームメイトはすでに死亡、もとい『卒業』しているだろうと想定していたし。

 救出に向かったとして、それが徒労に終わるだろうと見込んでもいた。

 

 しかし、彼女たちは捜索に出た。

 

 それは未だにペガサスとしての自覚を持てていない“彼女”の意識を強制するための荒療治のためだった。

 

 “彼女”と他一年生に、建前上は仲間を助けるためと説明したが。

 もちろんそれは方便だ。

 

 味方の死を通して、現実を実感させるために。

 この学園に所属するという意味を。

 ペガサスの逃れられない結末を。

 知識ではなく、経験で理解させるために。

 

 ちょうどいい機会だと。

 上級生たちは割り切って考えていた。

 そう言い訳じみた、内心を抱いていた。

 

 否。

 

 もしかすると、それは本当に言い訳だったのかもしれないし。

 それも方便だったのかもしれない。

 

 本当は彼女たちも、仲間が生きている希望を捨てたくはなかったのかもしれない。

 

 青臭い理想論と、この場所で培ってきた現実論。

 それらを丸め込み、行動を起こすための妥協案だったのかもしれない。

 

 まあ、おもわくがどうあれ。

 結果がどうあれ。

 

 その行動が正しかったのか。

 間違っていたのか。

 

 彼女たちには分からない。

 

 生きた最中も。死んだ後も。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。