寄生プレデターはシェイクハンズの夢を見るか   作:紅葉崎もみじ

5 / 8
5 誘蛾灯の中で眠る虫

(失敗した…)

 

 “その個体”、寄生プレデターは自嘲する。

 絶命した群体プレデター、その死体の中からずるりと這い出し辺りを見渡す。

 

 相対していた“壊滅対象”たちはすべて処理していたが。

 同時に、自分が支配下に置いていた群体プレデターも見事に全滅していた。

 

(上手くいくと思ったんだが…)

 

 否。

 実際上手くいっていた。

 

 一個体の寄生にこだわるのではなく、群体を丸ごと支配下に置き。

 統率した戦法の思考錯誤を行っていた。

 

 自身の<固有性質(スペシャル)>を派生させ、肉体の一部を切り離し。

 別個体に埋め込むことである程度肉体を操れるようになった。

 これにより、戦術も何もなく只々突撃していく同類を押さえつけることが可能となった。

 

 約一月の間、群体への寄生の有用性を“壊滅対象”を用いて試していたのだが。

 …結果はこの通りだった。

 

 上手くはいっていた。

 だが、上手いだけで完璧ではなかった。

 

 群体プレデターは一個体ごとのそもそものポテンシャルが低く、自らの能力で強化を施したとしても頭打ちだった。

 事実、不意打ちは上手くいっても。正面からの攻撃は“壊滅対称”たちには通用しなかった。

 

 最後の一撃も。

 自分が寄生した個体と、身体の一部で操った個体を同時に攻撃する騙し討ちを行った。

 

 自分の能力の都合で、自分がそれぞれの体内に入らなければ強化が出来ず。同時の攻撃が行えなかった。

 間違いなく、それに対象も気づいていたし。だからこその騙し討ちだったのだが…。

 

(‥‥予測されていた)

 

 どうやったのかは分からない。

 ただ、へたり込むだけの弱い個体だと思ってた“壊滅対象”は騙し討ちに気付き。

 自らを盾にする形で、目論見を防いだ。

 

(…学んだ)

 

 群体を利用する方法は有用であるが、結局は一個体ごとの戦力を強化しなければ勝負にもならないということ。

 

 そして、一見弱いと思われる個体にも足を掬われることがあることを。

 

 この経験は、これからの戦いに大いに役立つことだろう…。

 

 まあ、次があれば(・・・・・)の話だが。

 

(‥‥)

 

 寄生プレデターとして、自身の能力を特化させた結果。

 その個体は宿主が居なければ、生命維持することも出来ない。

 

 周りには同族の死骸と、“壊滅対象”の亡骸が転がっているだけだ。

 自身の知覚に、別の同族の気配もない。

 

 つまり、自分に生き残る術はなかった…。

 

(‥‥否)

 

 ある。

 というより、居る。

 

 己が生き残る可能性(寄生できる個体)が。

 

 膂力がほとんどない身体を必死に動かし、『それ』に近づいた。

 

 ほとんど死に体。

 辛うじて死んでいない程度の死に損ない。

 

 そんな存在がそこには居た。

 

 それは、己に命じられた壊滅対象であるが。

 その中には同族の一部が存在している(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 だから、

 

(同族と同じ要領で、寄生が行えるはず…)

 

 もちろんこれは賭けだ。

 成功する確率など、万に一つ…。

 いやそれ以下の天文学的な数字になるだろう。

 

 それでも。

 確実な死か。

 ほとんど死ぬか。

 

 どちらを選ぶかなど、言うまでもない。

 

 己がつけた外傷から、体内へと侵入する。

 

 脊椎を登り、頸椎に辿り着くと『癒着』を開始した。

 

 まずは停止寸前だった脳を刺激し、活性化させる。

 その際、血管の何本かがちぎれ神経が悲鳴を上げる。

 もしかすると脳の機能に多大な影響が出るかもしれないが、そんなことはどうでもいい。

 

 次に心臓へ『腕』を伸ばし、握りつぶすくらい無理矢理に稼働させた。

 血液に自らの細胞を混ぜ、全身に巡らせる。

 

 やがて血液は、腹に空いた「大穴」にたどり着いた。

 

 …ひどい有様である。

 骨は完全に断裂し、内部に詰まっていた臓物はまとめて吹き飛んでいた。

 肉体の上下は片側端の肉片が辛うじてつないでいるだけで、見ようによっては前時代の携帯端末とそれに取り付けられたストラップのようで滑稽ささえ感じてくる。

 

 手始めに血中の細胞を使い、血管を延長。

 上下をつなぎ止血を行う。

 

 次はリンパ、その次は神経と修復を進めていく。

 

 しかし失った重要器官を今すぐに復元するのは不可能だった。

 時間も材料も足りない。

 

(‥‥仕方がない)

 

 寄生プレデターは<固有性質(スペシャル)>を発動し、臓器を模倣。

 機能を肩代わりする。

 

 宿主、引いては己のため延命を進めていく。

 その過程にて、寄生プレデターの肉体は宿主へ複雑に絡みついていく。

 

 深く。

 

 深く。

 

 深く。

 

 

 ──二度とほどけないほどに。

 

 + + +

 

『街森内でのペガサスの消息不明増加に関する報告。

 

 先日、中等部グループが調査に向かい。そのまま消息不明。

 一日後、高等部ペガサスが再調査を行い。

 中等部グループの死体および、プレデターとの戦闘跡を発見。

 

 近くにプレデターの存在は確認されず。

 中等部グループのうち一名が生存していたため保護。

 現在治療中。

 

 回復次第、事情聴取を開始する予定』

 

 ‥‥。

 

「‥‥ふう」

 

 報告書を作成していたアルテミス女学園生徒会長である蝶番(ちょうつがい) 野花(のはな)は、文章がひと段落したところで一度ワープロから視線を外す。

 

 もっとも、彼女が作成しているそれは子供のままごとと表現してもよいほど稚拙な出来であったが。

 事務仕事の経験などある訳もない、中等部3年(・・・・・)。15歳の少女にその出来を問うのは酷というものだろう。

 

 まあ、それでも。

 後々学園の職員である大人たちは、彼女が作成する報告書を一読もせず。

 規定にある保存日数を過ぎればそのまま処分している実情を知った後の投げやりな文章に比べれば、このころはまだ形にはなっていた。

 

 と。

 

「ひあっ」

 

 首筋に冷感を覚えた野花は飛び上がる。

 

「お疲れ」

「まっ、真嘉(まか)せんぱいっ。い、いつの間に…?というか何で?」

「何でって、お前が呼んだんだろ。もう一回調査したら報告に来てくれって」

 

 ほい、と。

 先輩である土峰(つちみね) 真嘉はその手に持った缶ジュースを差し出す。

 どうやら先ほどの冷感の正体はこれのようだ。

 

 一瞬混乱したが、調査を依頼した張本人である真嘉に。調査後に生徒会室に寄るように指示していたことを思い出した。

 そしてどうやら、書類に集中して入室したことに気付いていなかったらしい。

 

 ジュースを受け取りつつ、さっそく情報を訪ねると真嘉はデスクの上に腰を下ろし自分の分の缶ジュースを開けながら話し始める。

 

 前回は生存者がおり、救護のため慌てて帰還することになったため再度詳しい調査を行ったわけだが。

 結論から言うと、プレデターはきちんと掃討されているだろうと真嘉は語る。

 

 プレデターは原則、人間を無差別に攻撃。および殺戮する。

 そこに何の例外も、区別もない。

 

 要するに、プレデターは認識した人間が死亡するまで攻撃を決して止めない。

 どれほど劣勢で、死に体であったとしても。

 

 そんな存在が、生存者を残す訳がない。

 

 おそらく、最後まで戦闘を行っていたペガサスが相打ちの形で討伐したのだろう。

 生存者はそのまま気絶した状態で放置されていたという訳だ。

 

「‥‥なんというか、自分たちのことながら。お腹が開いて内臓が飛び出ている(・・・・・・・・・)状態で死なないなんてペガサスが人間離れしてるって改めて実感します」

「上手いこと肉がえぐれるだけで済んだろうな。内臓が一、二個無くなっても。それだけじゃ死にゃしないだろうが、血止めが間に合わなくて失血死してただろうぜ」

 

 血生臭い推察をしながらも、あっけらかんと缶ジュースを飲み干す真嘉。

 対して野花は顔を青くし、未開封の缶をそっとしまった。

 

 先輩の好意を無下にした気まずさをごまかす為か、野花は卓上のワープロを操作し生存者であるペガサスの情報を表示する。

 

 中等部一年、小高(こたか) ノリヤ。

 特に突出した活躍はないが、目に余る問題を起こしたこともない。

 典型的な一兵卒といったような人物である様だ。

 

 なんというか野花は数年前の自分を思い出し、シンパシーを覚えるほどの平凡具合だ。

 

 だからであろう、問題が解決扱いになったというのに要らぬ関心を持ってしまったのは。

 

「一人だけ生き残ったのはある意味不運とも言えますね、この子。

 今度、事情聴取って名目でメンタルケアを行った方が…」

「あーそれなんだが」

 

 と、ばつが悪いような様子で真嘉が言葉を重ねる。

 

「どうしました?」

「ここに来る前、ついでに医務室に寄ってきたんだが。

 どうもあの一年、だいぶ限界っぽくてさ」

「限界、です?」

「あいつの『活性化率』、もう【80%】超えてんだってさ」

 

 ──っ。

 

 息をのむ。それは…。

 

「多分、戦闘中に魔眼を使いすぎたんだろうが、それにしても数値が上がりすぎてる。

 それほど上昇値が高い魔眼だったのか?」

 

 ワープロを操作し、情報を確認する。

 

「<命持・参(めいじ)>…」

「未来予知、か。納得だ、数秒使うだけで致命的になりかねねえ能力なんだ。

 魔眼の使い勝手も分からねえ一年には‥‥」

 

 それ以上の発言は酷だと、慌てて口をつむぐ。

 

 分不相応の魔眼に振り回され自滅する。

 ペガサスの末路として、そう珍しくはない。

 

「‥‥」

「お前が何かする必要もないだろ」

 

 野花は自分の制服に仕込んだ得物(・・)に意識を向けるが、真嘉に見透かされる。

 

「医務室に行ったとは言ったけど、実は本人とは会えなかったんだよ」

「会えなかった…?」

「そいつ。容体が回復してから、訓練場の外周をひたすら走ってんだってさ。

 

 わけわかんねえこと叫びながら、ずっと」

 

 ‥‥。

 それは。

 

「ま、よくある話だ。気にするこたねえよ」

 

 そう言って、空き缶をゴミ箱へ器用に投げ入れ退出していった。

 

「‥‥」

 

 野花はしばし何かを思案するが、ワープロを操作し報告書に加筆をする。

 

『生存者は精神に異常をきたし、会話が成立するかも怪しい。

 よって事情聴取は困難である』

 

 ‥‥。

 後日、野花は数少ない同級生を通して中等部内に噂を流した。

 

『小高 ノリヤは所属グループの壊滅と活性化率の上昇により、限界である。

 『卒業』、あるいは『ゴルゴン』になるのは時間の問題であるため近づかない方がいい』

 

 ──と。

 

 

 

 こうして、一つのペガサスグループを壊滅させた此度の騒動は終わりを迎えた。

 

 少なくとも学園側は、そう考えていた。




アルテミス女学園生徒会長に報告書の業務と
その上、学園職員のその扱いに関しては独自設定です

今後、一週間に一投稿を目標にしていきます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。