雨の日にだけ出会える、謎だらけでミステリアスなお姉さんの正体について。 作:お姉さんに「キミ」とか呼ばれたいだけの人
「クソったれなゲームの世界の中に転生してしまった……」
俺が転生したゲーム『ドキッと!キミと奏でる
当初は学園恋愛シミュレーションゲームとして銘打って発売されたドキアセ。
スポーツ・勉強・趣味・アルバイトといった選択肢を選ぶと対応するステータスが上がり、ヒロインの理想の彼氏に近づいていく。ゲーム性はシンプルで好感度管理とステータス管理が試される、そんな昔ながらの恋愛ゲームだった。
──しかしゲーム中盤……7月に差し掛かった頃、様子は一変する。
その日たまたま夜間に用事があって出歩いていた主人公は、妖魔と呼ばれるバケモノと遭遇してしまうのだ。
それが運命だったのか。そのイベントを境に主人公の日常は大きく変わり、ゲーム性もまた変わっていく。
今まで恋愛の為に上げていたと思っていたステータスが、スポーツなら攻撃力・防御力に、勉強なら知力・スキルのように敵と戦うための物に置き換わってしまうのだ。
そう、ドキアセは恋愛シミュレーションゲームの皮を被ったRPGだった。
けれど、こんな種明かしは広まってしまえば最初の驚きは薄れてしまうものだ。後発組の反応は冷めたもので、『あぁ、これが噂の』とばかりにゲームを消費物の如く食い尽くそうとする。
しかし、ドキアセがクソゲー認定されるのには、ゲーム性が変わる一発ネタしか無いからという以外にも理由があったのだ。
(……ドキアセがクソゲーたる所以は別なんだよな)
それは、バッドエンドの多さと“雨の日”の理不尽さである。
難易度の高さから、バッドエンドが多くなるのはやりごたえに繋がったとしても、雨の日はプレイヤーを嘲笑うかのような紛う事なきクソイベントだった。
雨の日にはステータス上昇値が半減し、妖魔とのバトルにおいてもステータスにデバフがかかる。選択肢、行動範囲も狭まるし、攻略において鍵となるヒロイン達と会う事も出来ないので好感度も上げられないという仕様。
また、雨が長く続けば【憂鬱】と言われるバッドステータスに陥り、回復するには特定のヒロインとのデートに成功するか他の選択肢を諦めて2、3週を棒に振って病院に通い詰めるしかない。
何よりも、雨の日の発生はランダムなのだ。
だから周回によってはプレイ中に何度も雨の日を踏んでしまい、必要なステータスも上げられないで、バッドエンド一直線なんてのもざらにあった。
(ラスボスと雨の日が重なって大敗を喫した苦い過去……思い出すだけでも嫌になるな……)
これでは、ゲームとしては成り立たない。
恋愛シミュレーションゲームじゃなかった〜なんて一発ネタに釣られた人間は早々に匙を投げて去って行った。
これが、俺がドキアセをクソったれなゲームの世界と称した理由である。いざゲーム内に転生なんかすると嫌な部分ばかりを思い出してしまう。
「主人公が死んだら、この世界絶対詰みだよな……」
独りごちる。
そう、だから変えてやろうと思うのだ。
ちょっとくらい良い事が有ったって構わないではないか。
雨の日は、いつも憂鬱な事ばかりってわけではないのだから。
これから苦難が待ち受けている少年少女達に、微力ながら細やかな支援を。
“雨の日にだけ出会える、謎だらけのミステリアスなお姉さん”として────。
***
驟雨に打たれた刀馬の体は、その濡れ具合に反して冷たく重い。
このままではいけない、と体に鞭を打ってやっとの思いで雨宿りする場所を見つけた。
シャッターの降りたタバコ屋は、今でも営業しているのかどうかは判らなかったけれど、その閑散とした空気感が今の刀馬にとっては心地が良かった。
(スポーツや勉強にでも打ち込めば忘れられるって思ってたけど、やっぱりダメなのだろうか……)
黒雲を見ると、ついナイーブになってしまう。もくもくと膨らむ負の感情が、心までも弱らせていく。
雨はまだ止みそうには無かった。
振り落ちる雨粒の一つひとつに思いを馳せてうじうじとしていたその時、刀馬の視界の端に人影が映る。次第に大きくなってくるそれが、近付いて来ている事を意味していた。暗くてよくは見えないが、女性であることを視認する。
「いやぁ、参ったね。急に降り出して来るものだからさ」
小走りの女は、刀馬と同じ軒下を雨除けに選んだようだった。
知らない人間と雨宿りを共にする。この雨の中、とても独りでは居られなかった刀馬にとっては見ず知らずの相手でも救われたような気がしていた。
「悪いね、少年。感傷にでも浸りたかっただろうに」
「いえ……」
女は、ふふっと笑う。どんな風に笑うのだろうと気になった刀馬は、雨宿りの同志の姿を横目でちらりと窺った。
凛と吊り上がった瞳とすっと通った鼻筋。横顔からでも端正な顔立ちであることが判った。水気を帯びたロングヘアーが、濡羽色の輝きを放っている。
濡れたサマーニットがぴっちりと張り付いては、その男の理想を詰め込んだような体を強調して……
「ははーん、キミは助平なんだね?」
無遠慮に見ていた刀馬の視線が、女の瞳とぶつかった。
「い、いや! そういうわけじゃ──!」
慌てて目を逸らして釈明しても、言い逃れは出来ない程に不躾な行いであったことには変わりは無い。
「構わないさ。キミくらいの年頃の男の子なら私くらいに魅力的な女性に見惚れてしまっても仕方の無い事だよ。いや寧ろ、そっちの方が健全とも言えるだろうね」
「いえ、だから────」
「そのくらいしてもバチは当たらない筈だよ。だって、これからキミは想像を絶するような苦難の道を歩む事になるんだからね……」
「え……?」
雨音が会話を掠り取る。刀馬は女の言葉を最後まで聞き取る事が出来なかった。
「……と、そうだ。キミ、お勉強は好きかい?」
「え、どうでしょう」
女は急な質問を投げ掛けるが、相手に混乱を与えただけだった。初対面の相手にどうしてそんな質問をするのか、刀馬は次第にそのミステリアスな話し相手について興味が湧いてきていた。
「これ、あげるよ。雨に濡れちゃいけないからね」
黒髪の女はそう言って、カバンから本を取り出した。古びた本だった。それはもう本であるのかどうかを疑ってしまうくらいに、持てば朽ちてしまうのではないかとすら思わされる程に。
「本、ですか……?」
「うん。こんなだけど、中の文章はちゃんと読めるくらいの状態ではあるから」
「これ貴重な物とかなんじゃ……」
「まぁ、どんな物でもそんな物だよ。誰かにとっては貴重たり得る。
刀馬は手渡された書冊をまじまじと見る。眼前の彼女は自分に必要な物であると言うが、はっきりと言ってそうは思えなかった。それでも、どうしてか突き返すことが出来ない。よく判りもしない物に釘付けにされてしまっていた。
「……てと。それじゃあ、私はもう行くよ」
「え?」
雨はすっかり弱まっていた。これなら大した問題にはならないだろう。
それは、刀馬にとっても同じ事であった。この程度の雨なら、心が冷たい空気に引っ張られる事は無い。
「じゃあ、頑張ってね。」
それだけ言い残すと、女は走って行ってしまう。
「また会えるかな……?」
風に靡いた黒い長髪が遠のいて行くのをぼうっと見届けながら、独り言を漏らす。
そこまで長い時間を共にしたわけではない。けれどどうしてか、また会いたいと思ってしまう。
──それはまるで、恋みたいに。
名前も知らない女性のエールに励まされた刀馬だったが、彼女と話していた最中は雨の日に必ず抱いてしまう鬱々としたあの気持ちに苛まれていなかったという事に気付いてはいなかったのだった。
作者の中では想像が出来上がっているのに、文章にして伝えるとなると下手くそに膨らみまくって読むに堪えなくなってる作品。これがそうです。タグのヤンデレは登場予定。
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TS転生者ちゃん。雨の日を自らの手で良イベントにして生き残ってやろうと画策しているよ。乳とケツがデカい。