雨の日にだけ出会える、謎だらけでミステリアスなお姉さんの正体について。 作:お姉さんに「キミ」とか呼ばれたいだけの人
──今日も雨。
こんなにも雨続きだと、普通のプレイでは投げ出しているところだろう。
けれど、まだ序盤。ドキアセの本番は主人公が妖魔と遭遇し、日常が一変してからだ。まだ取り返しがつく。
なによりも、この世界には俺──
決意新たに、街に繰り出す。
らんらんるんるんと、赤い愛用傘を揺らせば、付着していた雨粒が滴り落ちた。それはまるで、世界に選別される構図に似ていた。天変地異と変わらない。中には、最初から最後まで滑り落ちずに付着し続けている雨粒もあるのだろうか。いや、きっといない。天から振り落ちて来た新しい雨粒に弾き出されて、きっといつかは皆、地に落ちる。新しいものと一緒になって、二人で落ちていけるのなら、寂しくはならないだろうか。たとえ堕ちようとも、それでも誰かと一緒になら……。
そうして歩くこと数分、見慣れた少年の姿を見つける。
「やぁ、少年。また会ったね」
とぼとぼ帰路に就いていた主人公の顔色は、心此処に在らずといった具合であった。
「あぁ、また会いましたね」
俺を視認した少年は、弱々しく、けれど柔らかく笑う。その笑顔は、少しは打ち解けてくれた証拠なのだろうか。とりあえずは不審者のように映っていないようで何よりだ。
よく解らない物を押し付けて来る、雨の日にだけ出会える、謎だらけのミステリアスなお姉さんムーブは、一見すると普通に不審者でしかないのだから。
「もう知らない仲ってわけじゃあないのだから、もっと嬉しそうにしてくれたって良いんだよ?」
今日を入れてまだ三回しか会ってないけど。
「いえ、会えて良かったとは思ってます。訊きたい事もあったので。それ以上に緊張していて……」
最後の方はモゴモゴと口籠っていて聞き取れない。本当に雨になるとブレーキの掛かる奴だな、と思った。最序盤の恋愛パートみたいに、もっと攻め気で居れば良いものを。
「あっ……と、えっ……と、そうだ。初めて出会った時に貰った書冊についてなんですけど……」
話題を探すように目を四方に動かして、やがて此方に向き直る。口にしたのは当然の疑問だった。
「アレって、なんなんですか……?」
「まだ解らなくても良いよ」
「そういう物なんですかね……?」
「そういう物さ」
俺が渡したのは“魔術”に関する本だから、今現在なんのこっちゃと困惑するのは仕方がない。魔力を知覚してからでないと理解さえ出来ないはずだ。最低でも、あるヒロインと出会わなければ魔術の道は開かれない。
それでも、今のうちから読んでおく事に意味がある。???状態とロック状態とでは意味合いが違うのだから。
「あとは……」
「立ち話も何だから、少し場所を移そうか」
「え?」
「なに、暇なお姉さんが多感な時期の少年の悩みでも聞いてあげようじゃないか」
どうかな?と出方を窺えば、相手は「お願いします」と了承した。
そうして雨の中、雨傘二つ、肩を並べて二人歩き出したのだった。
***
「……ふぅ、何処かの店内でも良かったんだけど賑やかなのはどうにも苦手でね。こんな場所で申し訳ないね」
やって来たのは公園内にある東屋だった。肌寒くはあるが、軽く談話する程度なら申し分は無いだろう。
「いえ、俺も誰も居ない場所の方が気は楽です。特にこんな日だと……」
少年は向かいの長椅子に座ると、雨を恨めしげに見ていた。
「ふ〜ん? 二人っきりの方が都合が良い、と?」
「い、いやっ! そういう意味じゃ無くて!」
主人公を揶揄って弄び。慌てたその顔は、先までの白けた面よりは幾分かマシになった。
「まぁ、そうだよね。こんな
「そういう意味でも無くて!」
これは事実だ。結局のところ、俺はマイナスを小さくしようと努めているに過ぎない。この時間がヒロインの攻略に使えるのなら、それに越した事は無いのだ。
「ふふっ、ごめん。意地悪を言ってしまったね。そもそも、誘ったのは私の方だったわけだし」
「……本当、イヤとかってわけでは無いので」
「わかっているさ。……しかしキミは、揶揄いがいのある男の子なんだね」
ふっ、と軽く笑って言う。
「──好きだよ、そういう子」
「────ッ!?」
「ついつい、もっと話していたくなる。天然の人誑しさん」
ザーッと降り付ける環境音が、そういう演出かのように鳴り響いていた。それでも、言葉はしっかりと伝わっているようだった。
自分の強みに気付いてほしい一心であったが、はてさて結果は如何に。
「揶揄いがいのある女の子、はどうですか?」
「……!」
凛とした少女の声が耳に入り、振り向こうとするが、相手の姿を認める前に視界が覆われてしまった。
「だ〜れだ?」
少女は悪戯っ気を帯びた声音で、くすくすと笑う。
「……叶笑ちゃん」
「あったりぃ〜♪ お姉さんが置き去りにして帰った叶笑ちゃんです♪」
どうして
「本当に酷いですよね! 普通、妖魔との戦闘でボロボロになってる女の子を置いて帰りますか? そもそも──」
「叶笑ちゃん、お静かに……ね?」
「もがっ!?」
恨み節をつらつらと話し出す叶笑。俺はそんな少女の口を手で塞いだ。
恨み辛みは後ほど聞き入れるとして、今はぺちゃくちゃと喋られては困るのだ。
「……いいの? 彼は一般人なわけだけど」
「っ!?」
叶笑は私の背後の存在に目を細めると、自身の口を塞いでいる手を退けて、また話し始める。
「そう! それですよ! 一体全体、誰なんですかこの男!」
叶笑は刀馬をピシッと指差し、そう言った。相手を糾弾するかのようなその手付き。初対面の相手に対しては些か失礼な、訝しげな眼差し。刀馬も気まずそうに頬を掻いていた。
「まぁまぁ、二人は同じ学校みたいだし仲良くするのも悪くは無いんじゃないかな?」
俺は手を打って、その場に流れるどんよりとした空気を変えようとする。
内心では、何が起こっているんだ……と終始焦っていた。
「
「君は、妹とかだったりするのかな?」
「精神的にはそうですね。いえ、どちらかと言えば……」
千家 叶笑って御家が絡まないとこんなキャラなのか、とプレイヤー目線で眺める。
「でも、勘違いしないで下さいね? 男の子は皆ちょっと優しくされたくらいでコロっと好きになっちゃうんですもんね……? お姉さんは皆に優しいんです!」
叶笑はふんっと鼻を鳴らして顔を背けた。彼女からの評価が高いみたいで、俺は少し照れる。
「そもそも貴方、誰なんですか!」
やっとこさ、お互いの自己紹介が始まるようだ。
「……俺は藍沢 刀馬、二年だ」
「……そうですか。私は千家 叶笑、一年です。……なので、貴方は先輩ということになりますね」
相手が年上だと判るや否や、叶笑はすんっと態度を落ち着かせた。
「あぁ、知ってるよ。千家さんは有名だからね」
「……私は先輩の事は知りませんでしたけどね」
刀馬は「たはは……」と困った様子で苦笑いをした。
叶笑が彼を知らなかったのも無理はない。藍沢 刀馬は何処にでも居て何処にも居ないような男の子なのだ。少年としては何の変哲も無い、平凡な人間であるが、限界を知らないその潜在能力こそが彼自身の唯一性である。
なによりも、今の段階では他よりも目立つ存在とはお世辞でも言えないのが事実だった。もっと上げようね、魅力ステータス。
「二人が仲良くなれそうで良かったよ」
今の状況ではまるでそうは思えないけれど、未来を知っている身としては、まぁどうにかなるだろうと考える。
それは主人公次第ではあるものの、原作内でも二人は相性が悪いようではなかった。
「これからは、先輩後輩という関係性として何か助け合える事も有るんじゃないかな?」
藍沢 刀馬に何よりも必要なのは関係性と人脈だ。本来はまるで攻略に不向きな雨の日を使って、ヒロインとの交友が一歩進んだと考えるなら、予想外の展開も悪くはないものである。
「それは無い!」
「それは無いです!」
二人、声を揃えて否定する。
千家 叶笑√においての叶笑は、ある事をきっかけに、それ以降は『先輩すきすき♡』のはずなのだが……その様子はとてもでは無いが、そういう未来には発展しないように思えた。
(……あれぇ〜?)
雨の中の言い合いは、もう少しだけ続いた。
刀馬も叶笑も他人には頼らないタイプの性格です。
感想と高評価いっぱい頂けているので執筆続けられています。この作品、感想書きやすいんですかね……?返信はできていませんが、真っ先にgood押しているのが私なので、どうかこれからもよろしくお願いします。