雨の日にだけ出会える、謎だらけでミステリアスなお姉さんの正体について。   作:お姉さんに「キミ」とか呼ばれたいだけの人

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邂逅

 

 

 

 七月になった。

 

 そう、ゲームが大きく揺れ動く時期だ。

 

 やれる事はやったと思う。師匠キャラのようにステータスを大きく引き伸ばす事は俺には出来ないが、貢ぎマゾみたいに重要アイテムを押し付けて来た。雨の日という限定的ではあったが、最後の方は一度で二、三個を手渡した。

 時にはスポーツを促したり、勉強を見てやる事で必要ステータスの向上も図った。

 

 その甲斐があったかどうかは、これから判る。

 

 そのような奴ではないと解っていても、要らない物として捨てられていなければ良いなと祈るばかりだ。

 

 正直、心配でならない。

 

 だから、あわよくば主人公と妖魔との邂逅も陰から見届けたいと考えて、夜の街を徘徊していたのだが……。

 

「広すぎて判らんね」

 

 ドキアセ内において何処で妖魔と出会ったなどというのは詳細に明記されているわけもなく、ただただ危険な夜道を歩く女になってしまっているわけだ。

 俺には妖魔と戦う力が無いのだから、今の状態はまさに危険な綱渡り。こう言っては何だが、暴漢の方がまだマシかもしれない。

 

「しゃーない、帰るか……」

 

 当ても無いので諦めて踵を返す。わざわざ自身の目で確かめなくとも、後日会う事があれば、その雰囲気で解るだろうと踏む。

 

 その時だった、宵闇に人影を捉えたのは。

 

「……おいおい、勘弁してくれよ」

 

 暴漢の方がマシとは言ったけれど、本当に暴漢と会いたいわけではない。静かな夜だと、速まる鼓動の音がやけに煩くて仕方がなかった。

 

「こんばんは」

 

 幼さを孕んだ声が、静寂を切り裂く。

 向かいからやって来たのは意外にも……いや、この時間には似つかわしく無い年齢の少女だった。

 

 そして俺は、彼女の事を知っていた。

 

 月光みたいに白みを帯びつつも、銀ピカで、夜風に吹かれて揺蕩えば、毛の一本いっぽんが光って見える長い毛髪。

 見る人を虜にして止まない、瑠璃色の双眸が今は俺だけをじっくりと見つめ続ける。愛らしい容姿とは裏腹に、恐怖の空気を漂わせていた。

 

 ────名を、幻夢(げんむ)

 

 人間の姿をしているようであり、しかし人では無い、人ならざるモノ。それでいて妖魔とは似て非なる存在であり、人間にもなれないモノ。

 

 千年以上の間、この土地……風音町に縛り付けられた()()

 

 それが少女の正体。

 

 その容姿を取っても何もかもが、彼女はあまりにも、この世界とはかけ離れた存在だったのだ。

 

「やぁ、こんばんは」

 

 一拍を置いて、挨拶を返す。気さくに、親しい隣人とばったり出会したみたいに。

 そうして通り過ぎてしまえば良い。それが最善であり、それしか無かった。

 

「貴女は……何者なの?」

 

 少女が小さな口を開いて、疑問を投げかける。どうやら相手は俺を帰してくれそうにはない。

 

「何者って?」

「妖魔との戦闘を見た。あの指輪は、只人が持ち得る力を超えていた」

 

 妖魔との戦闘……心当たりがあるとすれば、千家(せんけ) 叶笑(かなえ)に助太刀をした、あの日の事だろう。

 

 そうか、見られていたのか。

 そして、得心する。

 

 千家 叶笑がイレギュラーの上級妖魔に殺された世界線において、誰が彼奴を始末したのか。

 

 彼女だ。幻夢が倒したのだ。

 

 幻夢は過去にある者と契約した事で封印され、風音町に縛り付けられた存在なのだ。故に、この場所から出る事は出来ない。

 だから言ってしまえば、妖魔は彼女のテリトリーを侵す目障りな存在。上級妖魔ともなれば目を瞑る事も出来なかろう。

 

 叶笑が生きている世界では、ただ彼女が出会わなかっただけなのだ。その世界でもきっと、裏では幻夢が葬った事に違いない。

 

 それ程の実力者を前にして、俺は何ができるだろうかと考える。

 

「私が戦ったわけじゃない。それにアレは、あくまでも贋作だ。本物ならもっと凄い」

「……そう。けれど、ワタシが訊いているのは“貴女が何者か”という問い」

 

 直後、幻夢は爆発的な力を発する。何の力も持たない俺ですら身を震わせるには十分なだけの、殺意を。並のものでは無い。だって、彼女はドキアセの中でも指折りの実力者なのだから。さすがに、先程のは全力ではなかっただろう。しかし、それを一身に当てられて、誰が余裕でいられようか。

 

 それでも……。

 

「……何者ねぇ。さぁね、案外キミと変わらないのかもしれない。()()()()()()()()()()……とかね?」

「……ッ!?」

 

 俺の言葉を聞いて、幻夢は目に見えて動揺する。目を見開いては、先までの力の維持すら疎かになり、やがては引っ込めた。

 

 効いて良かったと心の底から安心した。カードは上手く使うのだ。特に切り札は尚の事。

 

「ふふっ、どうしたんだい?」

「……お前……何を知って……ッ!」

 

 今度は怒り。言葉が荒くなり、毛が逆立つ。勝手知ったる眼前の存在が許せない。

 幻夢ほどの有力者であれば、俺の命を奪うのなんてのは赤子の手を捻るよりも造作の無い事だ。

 

 けれど、そうはさせない。

 

 そのためには、俺を生かしておくだけの価値を彼女に示してやれば良い。

 

「──取り引きをしようじゃないか、()()。なに、どちらにとっても悪くない契約になるはずだよ」

 

 そして、密やかなる協定が、蒸し暑い夏の宵闇の中で結ばれたのだった。

 

 

***

 

 

「まさか、醤油が切れてて買いに行くなんてベタな展開が起きるとはな……」

 

 藍沢(あいざわ) 刀馬(とうま)はふっと笑う。

 

 静希が幻夢と密約を交わした同日同夜、主人公(刀馬)もまた運命的な出会いを遂げようとしていた。

 

「ふぅ……」

 

 今どきは醤油くらいならコンビニエンスストアでも買うことが出来るため、それほど長く外出しているわけではなかった。それでも、まだ七月だというのに体を動かすと汗ばんでしまう。これから本格的に夏が到来するのかと思うと、気が気ではない。

 

 けれど、わざわざ外に出たのだから少しくらい夜風に当たりながら散歩でもしよう、と刀馬は考えた。

 

 もちろん暑さは堪えたけれど、それでも夜を独り占めしているかのような静謐感は居心地が良かった。

 虫の音、青臭い草木の香り、吹き抜ける生温い風。

 日常生活では気にも留めないあらゆる夏が、今は個々の輝きを放っているように感じる。

 

 ──しかし、これが良くなかった。真っ直ぐに家に帰るべきだったのだ。

 

 古来より夜が恐怖の対象であることを、我々は忘れるべきではないのだ。

 

「なんだあれ……?」

 

 刀馬が夜道で見つけたのは、小さな影だった。戦慄く黒影。普通ではない雰囲気をむんむんと醸し出していた。

 

「野良犬……ってわけじゃなさそうだな……」

 

 刀馬の……あるいは生物としての本能が警鐘を鳴らす。

 その直後、バッと勢いよく振り向いて、来た道を辿るみたいに走り出した。

 

「ハァ、ハァ……ッ!」

 

 ビニール袋が運命を決める振り子の如く揺れる。幸い、刀馬の靴は走るのに適したスニーカーだった。足の速さにも自信はあった。それは、日頃の“スポーツ”活動が結果的には功を奏したと言える。

 

 それでも……。

 

「うがッ……!!」

 

 影が刀馬の背後から襲い掛かる。勢いの付いた攻撃が、容赦無く少年の体を殴りつけた。

 

「げほッ……」

 

 数メートル吹っ飛ばされた事により、刀馬の体にとてつもないダメージが入る。まるで自動車に突き飛ばされたみたいに、生身の体ではそれだけで致命傷だった。

 

(俺、死ぬのか……?)

 

 自身から流れ落ちる血を目にしたことで、頭の中に死が過る。途端にサーッと血の気が引いて、恐怖感で打ちひしがれてしまう。

 

 しかし、それも一瞬。

 

 血の気が引いた事で逆に冷静になれたのかもしれない。

 刀馬の頭に生きたいという渇望と、ある考えが溢れ出した。

 

「このまま終わって堪るか!」

 

 醤油ボトルを武器に、少年が立ち向かう。絵面としては滑稽でも、一リットルのボトルで殴り付ければ当然痛い。……相手が人間であれば、だが。

 

「おぉぉぉぉぉぉおおッ!!」

 

 威勢よく叫んで勇み、真っ向から対峙する。

 

「────右に避けなさい!」

 

 化け物と刀馬がぶつかり合う寸前、刀馬の背後からやけに通る少女の声がする。

 この声に従っても良いのか。刹那の逡巡の果てに、刀馬は大人しく右に飛んだ。

 

「……良い子ね。……火は畏怖、火は文明、火は神格。赤く照らす炎は温もりを与え、しかし触れれば身を焦がす。孤高の存在であり、孤独。火はいつだって誰にも飼い慣らされない。我が覇道を阻む者よ、焼き尽くされよ……【魔火砲(マジック・フレイム)】ッ!」

 

 突然の発火。マッチよりも、松明よりも大きな炎が影に向かって噴出される。人間が即時に起こせるレベルではない火力だった。

 手品の芸当とも言い難い程のそれが、化け物を燃やし尽くさんと広がる。──それはまるで、“魔術”だった。

 

「うっ……!」

 

 あまりの熱さに刀馬は目を開けているのがやっとになるが、それでも火は化け物だけを一掃しているかのように、他には燃え移らない。

 

 刀馬はその光景をただ見守っている事しか出来なかった。

 

「……まったく、“妖魔”を見過ごすなんて千家は何をしているのかしら」

 

 聞き慣れない単語の中に、最近知り合った少女の名前が混じる。

 

「君はいったい……」

 

 刀馬は、不可思議な力によって自身を救けてくれた少女の姿を見る。

 

 月明かりに照らされ、紅玉の如く輝きを放つツーサイドアップに纏められた赤髪は、それでいて鮮血とも似た色合いをしていた。

 歳は自身とそう変わらないだろうか。けれど、見るからに育ちが良いと解る佇まいが大人の余裕を感じさせる。日本人離れした容貌が、どこか人形染みていた。

 クラスには居ない、外見から特別だと理解させられる。そんな少女だった。

 

「良い? 今日の事は忘れなさい。それが貴方のためでもあるのよ」

 

 そう言い残すと、背中を見せて去って行く。少女は他者を寄せ付けない。火を扱いながら、氷の如き冷たさで突っぱねる。

 

「まっ、待ってくれ……」

 

 刀馬が必死に呼び止めるが、ダメージを負った体は思うようには動いてはくれなかった。

 

「アイツらは、家族の……家族の死に関係があるかも……しれないんだ……」

 

 伸ばした手は虚しく、宙を掻くだけだった。

 

 

***

 

 

(あれは何だったんだ……)

 

 翌日、刀馬は重い体に鞭を打って登校した。常人であれば今ごろ寝た切りになっていただろう。けれど、回復の速さは彼の取り柄の一つだった。

 あの後、何とか家まで辿り着いた刀馬は死んだみたいに眠りに就き、翌日起き上がったのだ。

 それでも、頭の中にあるのは昨晩の件。頬杖をついて窓の外をボーッと眺める。まさに上の空であり、級友たちの楽しげな声や、担任教師が入って来た事すら、気にも留めない。

 

「急ではあるが、今日から皆と一緒に過ごしていくことになる留学生を紹介します」

 

 じゃあ……、と教壇の教師が扉の向こうの人物に入室を促す。

 突然の留学生の登場に、室内の少年少女たちは騒めき始めた。

 

(留学生……?)

 

 刀馬もさすがに気にして、横目でちらりと、渦中の人物を見る。

 

「アメリア・メア・メチルメルトです。皆さん、仲良くしてくださいね」

 

 そこには、昨夜目にした赤髪の少女の姿があったのだ。綺麗な赤髪だった。月明かりと陽光とでは、また印象が違うのだなと思った。

 

 それよりも……。

 

「あっ──!?」

 

 刀馬が探し求めた相手との再会は、意外にも早かった。というよりも、昨日の今日での再会に思わず、他人の視線もお構い無しに声を漏らす。

 

「……」

 

 アメリアはニコニコとした笑い顔を保ちつつも、刀馬に沈黙の拒絶反応を送り続ける。

 

 これが、主人公とメインヒロインの出会い。

 

 

 こうして、藍沢 刀馬の日常は一変したのであった。

 

 

 





 詠唱考えるの難しい……。ちょっとダサいくらいのが好きなんすよね。
 キャラ出しばっかりが続いて申し訳ない。余談ですが、アメメメメって呼ばれてるんだってさ(呼ばれてない)。

 閲覧注意と書いていたが数人の物好きがイラストを見たらしい……これは千家の叶笑ちゃんのイメージ絵だが、例にも漏れず閲覧注意とさせていただく。

【挿絵表示】



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