ウマ娘になった神馬 作:AAAALaLaLaLaie!
ただし角が生えていたり人食い馬だったりという伝説があり、普通の馬ではなかったのでしょう。
ああ、またこの光景だ。
馬という未知の生物である自分が偉大なる王を背に乗せて敵を蹂躙し、征服する夢。
この光景が何処かは分からない、彼が何者かも分からない、それなのに、どうにも輝いて見えた。
「王よ、彼女です」
今の私とは似ても似つかない光景だ。
誰にも手の付けられない暴れ者として、野蛮者として扱われ、縄で捕らえられ、王への貢物とされた私とは。
「大儀であるぞ……存外美しいではないか」
この王は確か、フィリッポス2世とでも言っただろうか。
このマケドニアを強国へと押し上げた王らしいが、そんなものは関係ない。
「ここから出せ!喰い殺すぞ!」
「そうもいかんな、お前は余の物だ」
本当に嫌になるし、吐き気が止まらない。
ああ、今すぐにでも舌を嚙みちぎって……
「父上?どうかしましたか?」
そこまで考えたところで部屋に入って来た少年に目を奪われた。
記憶よりも若い、でも見れば分かる、その姿。
幾度となく夢で見た我が君、征服王イスカンダルの姿であった。
「ああ、アレキサンダー。これは新たなる貢物だ」
そうか、この王は我が君の父親だったのか。
いいや今はそんなことどうでもいい。
「ま、待て!」
縄を強引に引きちぎり、彼の元へ向かう。
衛兵が武器を構え、王が剣を抜こうとするがそれよりも早く私は彼の元へ辿り着く。
「偉大なる者、永遠の我が君、アレキサンドロス3世、またの名をイスカンダルよ」
襲い掛かるでも人質にとるでもなく、膝をついて臣下の礼を取った私に王や衛兵は驚き固まっているようだ。
「我が名はブケファラス、貴方へ永遠の忠誠を誓いましょう」
顔を上げて彼を見る。
その顔に動揺はなく、自信に満ち溢れる。
「どうかこの忠を、受け取ってもらえないでしょうか」
「いいだろう。父上、ブケファラスは僕のものでいいですか?」
「あ、ああ、それでよいぞ」
それからは激動の日々だった。
どうやら私は異界の記憶の影響もあってか全盛期で肉体は止まり続け、常に彼の隣に立って戦った。
王となった彼は
「我が君、明日はポロス王との戦だぞ」
「そうだな!いつもの如く蹂躙してやろう!」
ああ、これでこそ征服王だ。
しかし、明日の戦いは恐らく『ヒュダスペス河畔の戦い』……あの夢で、私が戦死した戦いだ。
「なあ、我が君……いや、イスカンダルよ」
「む?どうした」
全く、妃を持つ身だというのに君は何の躊躇もなく私を側に置く。
そう言う関係ではないものの、周囲の目は気になってしまうな……
「明日、お前はポロス王を討ち取るだろう」
「うむ……まあそうだろうな!」
自信満々に言い切る姿に呆れてしまう、勝負は時の運と学んでいるはずなのだがな……そんなところもイスカンダルらしいか
「もし明日、私が死ぬと言ったら?」
無論、そうならないように立ち回るつもりだ。
あの記憶と同じように死んでたまるものか。
「許さん」
「へぇ?」
「お前は余の最初の臣だ。余の許可なく死ぬことは許さんぞ」
少し声を低くして言うその姿に、私はどうしようもない喜びを感じる。
ああ、私はお前にとってそこまでの存在になっていたのか……
「なに、軽い冗談だ。武運を祈ろう」
そう言って、私は陣中から出る。
次の日の戦いは、危ない目にこそあったが私は生き延びた……記憶様々と言ったところだな。
そこから更に3年が経ち、我が君は熱病に倒れた。
「全く、とんでもない遺言を言い放って……『最強の者が帝国を継承せよ』だって?」
「ふあっはは!お前がその気になれば纏められるだろう?」
調子のいいことを言ってくれる。
「そんな気はない。上に立つ趣味はないし、私の主はお前だけだ」
「では、どうするのだ?」
どうする……か……
「旅でもするさ。どうやらこの体は年を取らないらしいからな」
「そうか……ならば、お前はもう余の臣下ではない」
ピクリ、とつい耳を動かしてしまう……どういうことだ?
「余に縛られず、自由に生きよ」
そう言って、我が君、征服王イスカンダルは息を引き取った。
それが遺言かっての……視界が滲む、嗚咽を垂らすのみで言葉が出ない。
一頻り泣いて落ち着いたあと、私は声を張り上げた。
「崩御!我が君、征服王イスカンダルの崩御だ!」
私の言葉に臣下は慌ただしくなり、その隙に私は街を抜け出した。
我が君の最後の命令だ、誰にも縛られず、自由に生きてやろうじゃないか。
再び流れ始めた涙を拭いながら、私は草原を駆けだした。
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