書く内容がないy
月の光は木々に閉ざされていた。
男が二人と一人の少女を連れて歩いている。
男達は下卑た笑いを浮かべているに対して少女の瞳は森と同じく光が差し込まない。
ぼろきれとも言える、辛うじて服だと言える布を身に纏わせた少女の手首には手枷が嵌めこまれ、ソレに繋がれた鎖の先は一人の男の手へに巻かれていた。
時折足の止まる少女を鎖で引きつつ、男達は歩みを進める。
ガサリと草を別ける音が男達の鼓膜を揺らす。男達は足を止め、耳を澄ます。風の音が葉を揺らし、草を揺らす。
男達は息を吐き出す。愚痴を吐き出す様に一人の男の口が開いた。
「なんで魔女の森なんかを抜けなきゃいけねぇんだ」
男の言葉にもう一人の男は答える。
「しかたねぇさ。コレを売り飛ばすのに買い手が無茶を言ったらしいぜ?」
「はっ、物好きも居たもんだ」
男は二人、少女へと視線を向ける。
貧相な身体。感情も希望も、何処かへ捨てた様な瞳。美しい金色だった髪は煤けてボロボロ。身体の至る所には青い痣。
やはり男達は下卑た笑いを浮かべる。貧相であろうと、痣があろうと、瞳に光も感情も無かろうと、ソレは女の身体であり、欲求を吐き出すには十分なモノだ。
幾人にも侵された心であろうと、男達にすれば関係の無い事だ。それこそ男を喜ばせる機能でしかない。
下卑た笑いを口から漏らしながら、男二人と少女一人は足を進める。
月の光が幹の群れの向こうに見えた。ようやく森を抜けれる、と男達は息を吐き出して更に足を進める。
木々の群れを抜けたソコには一つの家があった。
森の裂け目。木々に嫌われた空間。幼い頃に、御伽噺として聞かされた森の空間が広がっている。
そして男達は、開いた口から言葉を呟く。
「魔女の……家」
男達の額から汗が流れる。瞳は広がった空間にポツンと生えた様な家から離せない。
男達は生唾を飲み込む。流れる噂話は国を潰した魔法使いの話題だ。それなりに大きな国が一晩で廃墟へと変わった。
人智を超えた存在である魔法使い。その住処が目の前にある。
男達は目を見合わせる。
戻るべきか? いいや、戻れば金にならない。
金と命、どちらが大切だ? ソレは命だ。自分の命こそ大切だ。
けれど、もしかすれば、魔女がいないかも知れない。居たとして、俺達が殺されるか? そう言い切れない。
ならば。
男達は互いに頷き、森から嫌われた世界へと足を踏み出す。
踏み出してみれば、なんてことはない。背の高い草や枝の邪魔な森とは違い、歩きやすい世界だ。
男達は口元に歪ませ、笑う。なんと容易い事なのか。魔女はどうやら留守の様だ。酒の席の話がまた一つ増えた。
「珍しい。人間がココに何用だ?」
声が響いた。
それほど大きくない筈の声が男達の動きを完全に止めた。少女だけ反応を遅れ、鎖を鳴らして停止する。
木が擦れ、低い音を鳴らす。扉が開かれる。現れたのは黒い髪の存在だ。
野暮ったいローブで身体の線は見えないがその声から確かに女であると言えた。手には自身の身長よりも少し高い杖を握っている。
男達は理解した。彼女こそが、この森の、魔女の森の主である事を理解した。
「私は何用だ、と聞いているのだが」
「へ、へい。俺達ァ、その……人を売る商売をしてまして」
「……なんだ、奴隷商か。して、その奴隷商が何用だ?」
「そ、その。ココを通らせていただきたく」
「…………」
黒い魔女は息を吐き出す。鋭い瞳が男達を貫く。同時に、その後ろにいる少女へと向いた。
虚ろな瞳をした少女は相変わらず前を向いているのにも関わらず、何処も見てはいなかった。
「私は無意味な事が嫌いだ。それこそただ通りすぎる虫を殺す事ほど無意味な事もないだろう」
「あ、ありがとうございます」
「ん? ……ああ、思い違いをしているのか」
「あ、あぁあっぁ」
男が喉を引き攣らせ声を吐き出した。喉が震え出てきたのは声だけではなく、肉体に流れる赤い液体も声と共に外へと吐き出た。
隣にいた男は目を見開き、血を吐き出す仕事仲間と杖を向けている魔女へと視線を交互にする。
「私の前をタダで通す事も、また嫌いだよ」
「ッ、あ、アァ、」
魔女は草を踏み、膝をついた男へと寄る。男の隣には地面に倒れ、痙攣している仕事仲間。
死ぬ。男はハッキリとその事を理解した。けれども身体が動かない。まるで何かに縛られた様に、腕も、足も、口さえも動かない。
魔女は杖を男の眼前へと向ける。少しでも顔を動かせば杖と接触するだろう近さでありながら、男は一寸も動く事は出来なかった。
「何か、言う事はあるか?」
「、あ、こ、この女を、この女をやるから! い、命だけは」
震えた声で、何度もつっかえながら、男は言葉を出した。震える腕が鎖を鳴らし続け、差し出そうとする少女の手枷が軽く引かれる。引かれた少女は一歩踏み出し、虚ろな瞳でようやく魔女を視界へと入れた。
少女と魔女の視線が合う。魔女は眉間を寄せ、口をひん曲げる。
「コレがお前の命と等価値なのか?」
「あ、あぁ! そうだ!」
「なるほど、では殺してしまおう」
「な、何でだ!! 代価は、」
「コレとお前が等価値だと言ったのはお前だろう? 奴隷を殺すのに理由が必要か?」
「ま、待て、待ってく…………」
魔女はその杖を男の額へと当て、男は言葉を紡いでいる途中でその命を消した。
草の上に倒れる二つの肉を見下した魔女は少女へと視線を向ける。薄汚い少女だ。
男にしたのと同じ様に、魔女は少女へと杖を向ける。
「さて、君は私に何を差し出す?」
「……」
少女は虚ろな瞳で魔女を見た。杖越しに見る魔女は人を殺したというのに何かの感情を宿していることもなく、男に向けていた様に冷たい表情を少女へと向けている。
少女は残っていた些細な思考で考える。
わたしは何を持っているだろう。
わたしは何も持っていない。
わたしは何もない。
「わたし……」
「君が、どうした?」
「わたしを、あげる」
少女は腕を、手枷を、上げた。手枷に繋がれた鎖が持ち上がり音を鳴らす。
魔女はソレを見て、溜め息を吐き出す。少女の顔に向けていた杖を下げ、手枷を軽く叩く。手枷はゴトリと音を立てて地面へと落ちた。
少女はソレを見る事もなく、魔女へと視線を向けている。
「なら、君を貰ってやろう」
「……はい」
何も持たない少女は、何も持たないからこそ、魔女のモノになった。
弟子は目を覚ました。
ボンヤリとした視界の中、いつもと同じ様に師匠である魔女の顔を見る事が出来る。
自分が魔女のモノになってからいつも見る光景だ。時折魔女が早く起きることがあるが、そんなモノは稀だ。
弟子が弟子として過ごす前、単なる少女であった時から続く朝。自分を抱き締めてくれる魔女。
地獄にも思える世界から救ってくれた魔女に感謝をしている弟子。その事を魔女に言えば魔女はクツクツと喉を震わせて「自分の為だ」と言ってしまうのだろう。
弟子はベッドから降りて、少し肌寒い空気へと身を晒す。
魔女を起こさない様に部屋を出ることにも慣れた。扉を静かに閉めて、弟子は白くなった息を吐き出す。
夢を思い出して、そういえば一年経つのか、と思考を巡らせる。
魔女に貰われた当初はずっと見ていた夢だというのに、見なくなった夢。自分が自分として、少女から弟子になった時から見なくなった夢。
夢であり、過去であり、今ではない夢。
少女は三ヶ月ほど魔女に手を尽くされて生きることを弟子は知っている。そして更にそこから六ヶ月で常識と炊事洗濯を覚え、魔女のモノとなった少女は九ヶ月の日々を経てようやく弟子へとなる。
魔女への恩返しの為に、というのは魔女に黙っている事だ。きっと魔法が使えれば魔女とずっと居れるだろうという打算的な部分もある。
過去と現在を思考していた弟子はもう一度白くなった息を吐き出す。
専用に作られた壁に立て掛けた小さな家の中からヴァントが顔を覗かせる。小さく鳴いて、その存在を知らせる。
「おはようございます、ヴァント」
弟子は手を伸ばし、ヴァントはその手を伝って弟子の肩へと乗る。
指で小さな顔を撫でて、弟子は思考を入れ替える。
「さぁて、今日のご飯は何にしましょうかねー」
そうして魔女と弟子の日常はゆっくりと始まる。
>>少女
過去の弟子ちゃん
>>男二人
奴隷商の二人
>>魔女の存在
極悪非道、という訳ではないけれど、怖れられる存在。
どうして怯えるの? と思う人は発想を魔女ではなくて、ドラゴンか何かだと思えばしっくりくると想います。
>>魔女の森縦断
直線距離としては短い森だからこそ、時間短縮の為に決行。尚……
あと、非合法な奴隷だったので街道を使いにくい
>>世界観的な奴隷
奴隷は合法。ただしそれなりに面倒でそれなりに高額な手続きがある。
男達が連れていた少女はその手続きをカットしていた非合法奴隷。
>>依存
弟子ちゃんが魔女を慕う理由。抱き締め続けたり、色々と教えたり、客観的にはちゃんと愛を持って接していた為、弟子ちゃんの心は九割程魔女さんです。
魔法を覚える理由も魔女と同じところに居たいとか、魔女と一緒になりたいとか、そういう理由。