転スラ世界で陰の実力者になりたくて! 作:咲崎咲希(さきざきさき)
天空の支配者カリュブディスとの開戦から数時間。状況は芳しくない。武装国家ドワルゴンからの援軍を加え戦力は十二分と思われたが、決め手にかけ、カリュブディスのもつ超速再生により泥試合へとなってきている。
なにより総力戦となった今、こちらは疲労しているうえ回復薬も尽き掛けている。相手は未だ天空に健在。仕切り直しや撤退も視野に入れなければならない。
焦燥感が身を焦がす中、それは突然現れる。
今の今まで、大賢者の感知を逃れた存在はいなかった。それほどの強者と出会っていなかったというのもあるかもしれないが、大賢者の警告を頼りにしていたところもあり、驚愕する。
夕日が地平線へと沈み、光が山々に遮られ夜が訪れるその瞬間。カリュブディスの鼻先に黒い影が真っ直ぐと影を残し現れる。
「…なんだあいつ」
最初に、困惑。ジュラの大森林へ続く道は封鎖して人払もしている。というかあの巨大なモンスターに近づく物好きなんて普通考慮しないからだ。
手に持つ黒剣をゆっくりと天へ向け、瞬間。暗闇を照らす紫の線が掲げられた剣を中心に張り巡らされる。
それと同時、大賢者が叫ぶ。
《告。計測不能な魔素が対象から検出されました。規模不明の大規模破壊魔法の作動準備を確認。当該範囲から撤退を勧めます》
「んなこと見りゃわかるわ!! なんだあいつ!?」
肌で感じられるほどに濃い魔素の動き。周辺の皆も戸惑いや混乱で避難が進んでいない。
「全員! 範囲外まで退避しろ! ミリム! どうにかできるか!」
咄嗟に通信魔法を繋ぎ全員に呼びかける。魔国の問題としてミリムには遠慮してもらったが緊急事態だ。しかしさすが魔王というべきか、呼びかける前にミリムは飛び出し、被害を抑えるように結界を構築する。
底冷えするような詠唱が聞こえる。応援の
空気が震え、一個人が扱うには多すぎる魔素が渦を巻く。ミリムも珍しく焦っているように見えた。すかさず彼女の後ろに周り、結界維持を大賢者と共に補助する。
カリュブディスも暴れるはずなのに、動いていない。目を凝らして見れば蜘蛛の糸よりも細く紫の光により怪しく照らされた糸が張り巡らされていた。
魔素が限界まで縛り上げられるのを感じ、通信魔法に叫ぶ。
「全員防御体制!」
短く叫ぶのが限界で、縛り上げられた魔素が臨界を迎えた。
目を焼くような閃光が輝く。まるで日の出を思わせる光が大地と天空を照らした。次の瞬間、カリュブディスの姿が溶け消えた。
その日放たれた膨大な魔素の光は、大陸のどこからでも見ることができた。膨大な魔力は天を貫くようで、人々の間で長い間記録されることになる。
その光も徐々に減衰し、光にさらされて焼けたような目も回復し、周辺の様子が見えるようになった。幸い、特別な被害は出ていない。空中で発動されたからか、爆風で木が薙ぎ倒された程度で済んでいる。地上で発動されていたらと思うと、これでも遥かにマシなのだろう。
ハッとして、今回の原因と思われる黒い装いを探す。
ボロボロに砕けヒビの目立つ魔国へ続く道に、そいつは立っていた。手に持っていた黒剣はすでになく、そいつの足元には一人の男が眠っている。それを見つめながら手を顎に当てて何かを考えている様子だが、俺はたまらずに声をかけた。
「お前、誰だ!」
「…ああ。随分と遅かったな」
そいつは振り返る。フードに顔は隠れているが、黒髪の男のようだった。答えにならない返事に足が止まりそうになる。だが近づこうとしたところで、後ろから声がかかった。ペガサスナイツの団長だった。
「…あの黒の装い、あの魔術…間違いありません。やつは——」
「ほう。我も有名になったものだな。…我が名はシャドウ。陰に潜み陰を狩るもの——」
「…遠方の大陸で幅を利かせてるテロ集団…シャドウガーデン、その頭領です。いまやり合うには…」
及び腰の団長さんと、その情報を聞き慄く俺の前に一人の桃色髪の少女が俺を庇うように手を上げて叫んだ。
「…何者だ。魔王ミリムがこの先には進ませないぞ」
「なに、既に用は済ませた」
翻り、背を見せ自分の足元へ横たわる者に目を向ける。
あれは…フォビオ!? 何をするつもりだとミリムが再び声を上げる。答えるつもりはないようで、そのまま彼の上に手を出した。俺も黙っていられず問いかける。
「…お前の目的はなんだ? 今回はどんな用で…」
「これは好ましい流れではない。それだけのことだ」
《告。対象シャドウより測定不能な魔素の起こりを検出。カリュブディスとフォビオの分離が確認されました》
大賢者の通知に驚く。そしてシャドウと名乗った男の手には、光る球状の何かが握られていた。
「くれてやる」
いくらか観察したのち、興味を失ったように放り投げる。受け取らないわけにもいかず、それを慌てて捕まえた。
「…これは…」
《解。小さな結界に封じられたカリュブディスの精神生命体の核》
なっ、以前は勇者が封じ込めたと聞いていたが、あの男あの数秒でこれをやったのか?
驚く俺をよそに、起きてきたのだろうベニマルたちがシャドウを包囲する。その本人は特に気にする様子もなく俺を見ていた。
視線が交差する。ほんの瞬間の出来事だろうに、長い間そうしたようにも思えた。
シャドウはゆっくりと僅かに口角を上げると、足元の陰から黒い何かが湧き立つ。それが高く舞いシャドウを全員から一瞬遮ると、再び姿を見せることはなかった。湧き立った黒いものも地面に溶け、そこには何もなかったかのように消えたのだった。
その後、フォビオが起きて魔王カリオンが登場したり、色々あったのだが、それよりも大きな問題がある。
ドワルゴンから情報を共有してもらい、シャドウガーデンの詳細が判明した。
ミドガル王国近辺を拠点に活動しており、最近は表立った行動が増え、多くの被害を生んでいるらしい。無差別殺人、監禁、放火、強盗など手配者にはもろもろ書いてある。
そんなシャドウガーデンの長が来ていたわけだが…ガゼル王からは新興国の付近でテロ組織が活動しているなど外交上看過できることではなく、しかし大っぴらにする必要もないので二国間での秘密とするように決定された。光については…魔王ミリムの力とすると。
そこまで考えられなかったので流石である。
そして、魔国のみの会議の場で、俺は我儘を通させてもらった。
「シャドウガーデンについてだが、しばらくは静観しようと思う」
ざわりと会議の場が騒がしくなる。皆あの光を見た面々で忌避感があるのだろう。
「なぜですか。あんな力を持つ存在が我々の付近にいるなど…リムル様や国に何かあっては…」
「それだベニマル。今回別に襲われたわけじゃなく、結果だけ見れば敵を代わりに葬ってくれたわけだ。俺としてはむしろ感謝してる。確かに警戒するべき相手だが、今はまだ敵視するべきじゃないと思う」
「しかし国際指名手配犯ですよ?」
シオンの指摘も鋭い。手配書もご丁寧にもらったし、国際協調を考えれば、確かに敵対するべきなのかもしれないが…。
「まだ魔国に害意を持つと判明したわけじゃない。当然警戒をするし、害意を持つなら排除だって考えるが、だからこそ今は静観しよう。でも一応、水面下で情報は集めてくれ」
しかも、直近の予定で獣王国ユーラザニアと互いに使節団を送る話もある。周辺国家の対応に倣うこともできるし、シャドウの言っていた好ましい流れについても調べることができるかもしれない。
「はい! 会議終わり!」
ほれ帰れ帰れ!
ほらほらと急かすと、とりあえず意見に納得してくれたようで使節団の準備に皆取り掛かってくれた。人のいなくなった会議室で、顔を机につけて項垂れる。視界の先には先ほどの手配書があった。
…しかし、シャドウガーデンね。面倒くさくなりそうだなぁ。
シャドウ様、特徴的な技以外には技名ないのよね。上手いこと絶対合わせる案は既にあるんだけど、むずいね。
リムル様どんな感じなんだ…すごく手探り。漫画とかアニメみるとここら辺そんな焦ってる様子ないし。んーわからん!
アトミック発動まで時間あるやんって思うけど、これ結構数瞬で行われてるのよね。撤退も視野に入れていた時間だからアトミックの範囲内にいた人も少なくて誰一人死んでません。
アイアムジオールレンジアトミック
範囲が小さいが周辺全てを消失させるシャドウ様の秘儀。範囲が小さくとも教会の地下施設を壊滅させるほどには巨大な爆発を起こす。
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